284. 起きたラミアへの説明
食料の問題に目処がついたといっても、一気に眠りについているラミアを起こすという訳にはいかない。
眠りに入った時と、今のラミアの里の現状は、大きく変化していて、それを起きた者にしっかりと認識させないと、問題が生じる恐れが多分にあったからだ。
まあそれはミーリアの下位以降の上位ラミアや、ナーリアの姉妹たちにも言えた訳で、後になって起こされるに従って、驚くことが多くなってきた訳だ。
正直なところ、その変化に一番戸惑っていたのは今のところミーレア以降の上位が起こされた時だったのだが、その時には諸々切羽詰まっていて、その辺を考慮している余裕がなかった。
起きて即座に道路工事と戦闘訓練を科された彼女たちは、疑問や驚きはたくさんあったけど、容赦無く指示される命令と、それを指示するミーリアたちの真剣さに、疑問を口にする隙が見出せず、口に出せる雰囲気でもなく、ただ闇雲に最初は従っていたのだ。
ナーリアの姉妹たちのグループの時は、彼女たちは最初から大きな変化があるだろうことを予想していたみたいだった。
それでも変化の中心に自分たちの姉妹であるナーリアたちがいて、最も大きな変化である、ハーピーや人間の女の存在も、年齢が近かったこともあり意外にスムーズに受け入れてしまっていた。
「ナーリアやエーレアの姉妹だからなのかしら、それともまだ若いからなのかしら」
ミーリア様が妙に年寄りぶって疑問に思うほどに、変化の受け入れがすんなりといって、僕たちはあまり意識していなかったのだが、ラーリア様、イクス様、ミーリア様は随分と胸をなで下ろしたらしい。
「とはいえ、今回まず眠りから起こす、それぞれの係のラミアについては、そんな楽観はしないで、きちんと順を追って、現状をまず説明しなければならない。
それぞれの係りのラミアは若者という訳ではないからな、急な大きな変化には戸惑ってしまうだろう」
ラーリア様はそう言って、慎重な姿勢を強調した。
係りのラミアが起こされた時、今ではもうその縛りの存在さえ僕たちは忘れそうになっていた、ラミアの里と禁足地を分ける決まりが復活した。
係りのラミアへの説明が終わるまで、アンたち人間の女はラミアの里の方へ行くことは禁止され、ハーピーも飛来を止められた。
それと馬をラミアの里を通らせる訳にもいかなかったので、ほんの2-3日だが馬の運動にも困った。
起こされたその日はまだ完全に覚醒していないだろうと、彼女たちはゆっくりして良いことになっていた。
係のラミアは普段の年よりも早くに起こされたことに、少し戸惑いを覚えた様だが、年長なだけあり、ゴブとのことが影響しているのだろうと、すぐに少し緊張をはらんだ感じで、しっかりと動かなければという雰囲気になり、自室や作業場の整理や準備に当たり出した。
その翌日には、ほぼ総勢で50名ほどの彼女たちは、里の前の広場に集められて、ラーリア様、ミーリア様から眠りについてからの出来事のあらましを聞かされ、現状の説明を受け、それからアン、メリー、エリーゼ、マリアンヌの新たな人間、そしてハーピーと対面した。
彼女たちは人間の女が居ることには驚いた様だが、すんなりと受け止めた。
ハーピーに関しては複雑な顔を少し見せたが、眠る前の出来事から、こういった事態は予想していたみたいだ。
彼女たちが眠り入る時には、公式にはなっていなかったが、もうハーピーとの同盟は為されていて、そのことを彼女たちは年長であるということは、ラーリア様たちの姉妹たちなどもいるということで、すでに知っていたようだ。
そんな訳で、実は一番驚いたのは馬がラミアの里に存在していて、ナーリアたちやミーレアたちをはじめとするラミアが、人間と同様に馬を世話したり使ったりする姿だったりする。
その二日後、若い子たちも起こされた。
若い子たちは起こされて、しばらくして食事をしたりしたら、すぐに冬ごもり前の調子を取り戻して、少し寒い陽気の中遊んだりするようになった。
そこで次の日には現状の説明となる訳だが、それを僕たちナーリアと、ナーリアの姉妹たちですることになった。
「若い子たちに、現状の難しい話をしても仕方ないし、あの子たちはナーリアたちに懐いているから、ラーリアやミーリアがわざわざ出て行って緊張させることもないわ。
それに若い子たちは、私たちが考える以上に柔軟にこの現状をなんでもないことのように受け止めてしまうんじゃないかしら」
イクス様のこの言葉で僕たちナーリアが中心になって行うことになったのだが、若い子たちが眠りに入る前の数日、気軽に話しかけられたりしていたミーリア様はなんだか残念そうだった。
若い子たちはヤーレアによって広場に集められていた。
僕たちはアンとメリーを除き、広場に若い子たちが集まったのを確認してから、そこに進んで行った。
僕たちが近づくと若い子たちにざわめきが広がったが、それを気にすることなくサーブが若い子たちに声をかけた。
「みんな、もうしっかりと目が覚めたか?」
若い子たちはガヤガヤとしていて、サーブが期待したような揃った返事が返ってこなかった。
若い子たちは僕たちの方を見て、色々と話しているようだ。
若い子の1人が、回りを代表するような感じで言った。
「あの、サーブさんだよね?」
サーブはちょっと面食らったような顔をして言った。
「眠っていて、私の顔を忘れてしまったのか、もちろん私はサーブだぞ」
急にパァっと若い子たちの雰囲気が明るくなった。
「やっぱりサーブさんだよ」
「なんか大きくなっているから、違うのかと思って心配しちゃったよ」
そうだった、ナーリアたちは若い子たちが眠りについてから脱皮して容姿が変化しているのを忘れていた。
「ああ、そうだった。
みんなは私たちが誰だか分からなかったのか。
みんなが眠りについてから、私たちナーリアはみんな一回脱皮して体が大きくなったりしたんだ。
それを私は忘れていた」
若い子たちはその言葉にワイワイガヤガヤととても騒がしい。
「だとすると、あの人は金髪だからナーリアさんだよね」
「あっちは少し色が違っているけど、青い髪だからセカンさん」
「レンスさんは分かる、黒髪だから。
でも、レンスさん小さくなくなって、すごく大人っぽい」
脱皮して姿が変化したという話題になったら、ディフィーが何故かナーリアたちの後ろに隠れてしまっていた。
「あれっ、ディフィーさんがいない」
若い子たちがそう言ったので、セカンとレンスがディフィーの腕を持って、若い子たちから見える位置に引っ張り出した。
どっと若い子たちがどよめいた。
「えっ、嘘、あれがディフィーさん」
「確かに髪はピンクだけど、色違うし、なんかそれ以外面影がない」
「体もちっとも小さくないし、尻尾がすごく綺麗な色に変わっている」
若い子たちは大騒ぎだ。
ディフィーは大騒ぎの対象になって、恥ずかしくて顔を真っ赤にしていた。
「ま、姿は少し変わったかもしれないが、私たちであることには変わりはない。
若い子たち、これからもまたよろしく頼むぞ」
「はーい」
サーブの言葉に、今度はもう前と同じに若い子たちは揃って返事を返している。
サーブに替わって次にナーリアが話をする。
「みんなが眠っている間に、私たちには何人もの知り合いが出来ました。
その中の何人かをこれから紹介しますから、みんなも仲良くしてあげてください。
まずは新たにラミアの里に住むことになった人間たちです。
人間といっても、アレクたちみたいな男の人じゃないよ、女の人だよ」
待機していた、アン、メリー、エリーゼ、マリアンヌが、レンスの迎えで若い子たちの前に立った。
「こっちからアン、その妹のメリー、そして、エリーゼ、マリアンヌよ。
アンとメリーは私たちと一緒のグループに入って、エリーゼは私たちとアレクが一緒なのと同様にデイヴと一緒で、マリアンヌはキースと一緒よ」
若い子たちは人間の女は珍しいので興味を引いたみたいだが、それ以上に自分たちより小さいメリーに興味が集中したみたいだ。
「ええとね、見て分かると思うけど、アンとエリーゼとマリアンヌは私たちと歳が変わらないけど、メリーは小さいから、みんなも優しく接してあげるのよ」
「お姉ちゃんたち、こんにちは。 メリーです」
メリーが何も言われずに自分から若い子たちに挨拶すると、若い子たちはまた大騒ぎになった。
アンたちも自己紹介しようかと迷ったみたいだが、騒ぎが激しくてする隙がなかった。
「みんな、まだ静かにして、人間はまだこれから増えるし、ここを訪ねてくる人はもっとずっと沢山いるから、みんなも驚かないようにしてね。
それからもっと知り合いを紹介するからね」
ナーリアが空に向かって手を振ると、打ち合わせ通りハーピーたちが舞い降りて来た。
ハーピーたちに若い子たちがどんな反応を示すか心配だったのだけど、空から降りてきたことにびっくりしたみたいだが、それ以外はあまり特別な反応は示さなかった。
ナーリアがそれぞれの名前を紹介したりしたのだが、若い子たちの反応は淡白でちょっと拍子抜けした。
ここでちょっと休憩にして、雑談タイムとした。
その時間を利用して僕とアンはすることがある。
「それじゃあ、ちょっと頼むよ」
「ああ、お安い御用だ」
僕はエレオンに、同様にアンはウスベニメによって空を運ばれていく。
若い子たちの大歓声の中、僕とアンは馬車を持ってくるために広場を離れたのだ。
僕とアンとそれからもう1人、ヤーレンが馬車でラミアの里の前の広場に向かった。
馬車で広場に入って行くと、また歓声があがった。
なんだかハーピーたちとメリーが若い子たちに囲まれていろいろ話し掛けられていたみたいだが、馬車が入って行くと関心が移ったようだが、馬が怖いのか近寄ってはこなかった。
「はい、少しこっちを注目して」
今度はレンスが説明する。
「今見ているみたいに、今ではラミアの里にも何頭もの馬が居る。
こんなふうに馬車や荷車を曳いたり、アレクたち人間が乗ったりしているけど、怖くないから驚かないように。
逆にみんなも馬を驚かさないように気をつけて。
みんなも驚いたら、あたふたしちゃうように、馬もびっくりしたら暴れてしまうかもしれないから、そうならないように気をつけて。
驚かしたりしなければ、馬はとっても優しい」
若い子たちは真剣な顔をしてレンスの言葉を聞いていた。
「今日はこれから、みんなはこの馬車に乗って、禁足地の中に行く。
その前にもう一つ発表がある」
いつの間にか近くに来ていたアリファ様を少し前に押し出してレンスは言った。
「みんなが普段一番お世話になる物品係が今度替わって、これからはアリファ様がすることになった」
「今まで物品係をしていたイクス様は、赤ちゃんの世話があるので、私と替わりました。
私はアリファです。
今までは私はアーリアの一員として活動していたので、みんなとあまり一緒になることがなかったのだけど、これからは仲良くしてください。
見て分かる通り、私は右手が使えません。
だからイクス様のしていたように物品係ができるかどうか分かりません。
いえ、出来ないことも沢山あると思います。
そんな時は私に出来てないことを教えてくれたり、手伝ってりしてくださいね。
よろしくお願いします」
「はーい」
若い子たちもアリファ様がゴブとの戦いで怪我をして右手が使えなくなったことは知っている。
少し神妙な感じでアリファ様の言葉に答えていた。
「これから馬車で禁足地に向かうけど、その前にみんなアリファ様に付いて行って、体を拭く布を貰ってきて。
そうしたら馬車に乗って禁足地に向かうよ」
若い子たちはワクワクと恐る恐るという感じが混ざった調子で、馬車に乗り込んだ。
馬車の御者は僕とヤーレンは替わって、レンスとセカンが御者をした。
もう一台はそのままアンだ。
ま、今日はお楽しみということで、これから温泉だ。
若い子は30人だが、まだ体が小さいから、全員一緒に入れるだろう。
大騒ぎにきっとなることだろう。
馬車に乗らなかった僕たちは、馬車の後を歩いて追おうとしたのだが、ヤーレンが言った。
「おい、俺の出番はどうなっちゃったんだよ」
「私たちも若い子を広場に連れ出しただけよ、まだ」
ヤーレアもそう言った。
「あ、しまった。
ヤーレンが明日から若い子にしてもらう仕事の説明をするんだった。
私もレンスもすっかり忘れて、若い子を温泉に向かわせてしまった」
「おい、サーブ、俺やヤーレアたちはそれじゃあなんでここに来ていたんだよ。
意味ないし、明日説明の時間を取らねばならなくなっちゃったじゃんか」
「ヤーレン、ヤーレアたち、すまない。 失敗してしまった」
サーブが真剣に謝った。




