282. 花見の続きと夜桜とヤーレアの懇願
食事に満足した後、それぞれに花を見てのんびり過ごす。
なんかこんなにのんびりした感じで過ごすのは、とても久しぶりな気がする。
2匹のゴブを見つけて、震えながら矢で射殺した時から、何だかずっと忙しく駆け抜けてきた気がする。
僕は普段あまりかまえていないティッタの方に向かった。
ティッタはラーリア様とボブとの間の子のシャイナ、バンジとラーリナ様の間の子のサイプル、そしてバンジとミーレナさんの間の子のゼルカーナと一緒にメリーにかまわれて、地面に広げられた布の上に敷かれた布団の上で機嫌良くしている。
今は風が無いから、少しだけ落ちてくる花びらが美しく舞っているのだけど、陽射しはもう大分強くなっているから、布団の上はポカポカだ。
暖かいからティッタたちは、もっと小さい時から入っていた袋からはだされて、布団の上にそのままいる。
袋の中では取り替えやすい様に布があてられているだけだったのだけど、最近は少し大きくなって、足に見える部分が広げられる様になったので、今ではオムツがはかされていて、何だかお尻の部分だけが膨らんで見えてちょっと可愛い。
正直、僕たちは子育てにほとんど貢献していない。
それは僕たちがみんな初めての子供で、父親として赤ん坊にどう関わって良いのか誰も分かっていなかったからかもしれないが、もう一つにはラミアが子供を産んだ当人だけでなく、とても熱心に子育てにあたるので、何も手を出す隙が無いというのもある。
その上、今までもメリーが全力で子供をかまっていたのだが、それにデイヴとキースのところに来た人間の妻が加わった。
なんていうか、僕たちはみんな子育てのその輪の中に入っていけず、ちょっと疎外感を味わっていたのだ。
「それでもアレクとバンジは自分の家があるから、夜も一緒だろ、うらやましいよ。
最近はケンの奴まで炭焼き小屋を本当に改造して、無理やりあっちに泊まっちゃったりしてるんだぜ」
そんなことをギュートが言っていたけど、何だかラミアたちだけでなく、人間の友たちも家作りを優先して行いたい気持ちが強くなっているみたいだ。
とにかく今は日頃出来ていないティッタとのスキンシップが取れる貴重な時間だ。
僕は布団に近寄り、声をかける
「ティッタ」
ティッタは僕の方を振り向き、イクス様譲りの金色の目で僕を見た。
目が光を弾いてキラキラしている、うん、可愛い。
ティッタは目と髪の色はイクス様に似たらしくて金色だが、肌の色は僕に似たらしくて、イクス様やレンスの様な白い肌ではなく、ちょっと色味がかかっている。
でもなんだかそれが僕の娘だと、とても主張している感じがしちゃうのは親バカなんだろうか。
僕が手を伸ばすと、僕の手を両手で掴んでニコニコしている。
僕はティタを抱き上げた。
イクス様によると、今現在のティッタはもうすぐ生まれて3ヶ月になるけど、大きさ的には人間なら生まれたばかりくらいの感じらしい。
でも体は小さくても、もうなんというか体が少ししっかりしてきていて、抱き上げるのに怖いという感じではなくなっている。
そこはしっかりと3ヶ月育っているということなのだと思う。
僕はティッタを落とさない様に両手でしっかりと持って、自分の頭より上に持ち上げてやったりして遊んだ。
ティッタはキャッキャと喜んでいるので、こっちまで笑顔になる。
「お兄ちゃん!」
メリーにちょっと詰問調で呼ばれてしまった。
僕は不意を突かれた感じで、ちょっと狼狽気味にメリーの方を向いた。
「うん、メリー、何?」
「ティッタちゃんだけじゃなくて、シャイちゃん、ゼルちゃん、サイちゃんも抱っこして高い高いしてあげて。
みんなして欲しくて、ずっと見てるよ」
あ、そうか、ちょっとティッタしか目に入ってなかったけど、確かに1人がされたら羨ましく思っちゃうよな。
僕は満足した感じのティッタを降ろして、順番にみんなに同じことをしてあげた。
そんな僕を見て、イクス様、ラーリア様、ラーリナ様、ミーリア様は笑っていた。
ミーレナさんはアンと一緒にいて、そっちも笑っている。
「うん、なんだな、せめてボブとバンジはここに来させるべきだったかな」
「そうね、アレクだけがあんな楽しいことしたことを知ったら、バンジがとっても悔しがりそうだわ」
ラーリア様の言葉にラーリナ様がそんな風に笑いながら言った。
「今年はこの花がどんな風に咲くのかも分からなかったから、本当にお試しだし、今は危機の真っ最中だから大きくは出来なかったけど、来年はきっと危機も過ぎ去って、もっと大きくみんなで花見が出来るわよ」
「そうですね、イクス様。
絶対そうなる様にしなければ」
イクス様の言葉にミーリア様がそう答えると、あとの2人も真剣に頷いていた。
「メリーがアレクを怒って命令しているわね」
ミーレナさんが楽しそうにアンに話している。
「あの子、今ではもう完全にアレクに懐いちゃていますから、逆に全く遠慮がなくなっちゃってて」
アンが少しだけ困ったなという感じでミーレナさんに答えると、
「良いことだと思うわ。
なんでも言えるということは、何を言っても許されると完全に安心しているってことでしょ。
妹が自分の夫をそれだけ信頼しているって、それはとても嬉しく無い?」
「あ、そうか、確かにそうですね。
私、今までそんな風に考えたことありませんでした。
そうか、そうですよね、アレクは私の夫なんだった」
ミーレナさんはそのアンの言葉に笑いながら言った。
「あら、忘れていたの?
アン、あなたはナーリアたちと共にアレクの妻の1人になったんでしょ」
「はい、そうなんですけど、なんとなくナーリアたちと同じ立場なんだという意識ばかり強くて、アレクの妻の1人とかアレクが夫という意識が希薄だったんです」
「えっ、なんで?
だってあなたもナーリアたちと同じ様にアレクの精を受けているのでしょ。
ちゃんと順番に入っているって聞いているわよ」
アンはこういうラミアのあけすけな所に、まだちょっと慣れないのか、少しだけ顔を赤くして答えた。
「はい、ちゃんと順番に入っています。
ただ、私はラミアと違って、自分の意志で子供を作ったり作らなかったりは人間ですから出来ないので、アレクの精を口で受けるだけで下では受けて無いんです。
そのせいで、いまだに自覚が足りて無いのかもしれません」
「えっ、アン、それは問題よ。
ナーリアたちは次の春に子供を産む気満々でしょ。 今のままだとアンだけ子供がない状態になっちゃうよ。
ラミアと比べると、人間の妊娠期間はずっと長いでしょ。 ラミアは秋になってから子供を作れば春に産めるけど、人間はそろそろ作らないと私たちが産んだ早春に間に合わなくなるんじゃないの。
デイヴとキースのところに来た人間の妻は、もう大急ぎで妊娠しようとしていると聞くわよ。
ミーレオとミーレンによると、2人に子供が出来る様に今は少し優遇しようかという話が出ているそうよ。 せっかくだからみんな一緒に子供を産みたいからって。
そして、人間の2人はすぐに他の男たちにも妻が来るから、その後から来る妻より先に妊娠しなくちゃって張り切っているという話よ」
「ええっ、そうなんですか。
あの2人とそういう話はしてなくて」
「2人はあなたは当然、そう考えて行動していると思っているわよ。
確認をとるまでもないと思っていたのね」
「そうですよね。
私も来春にみんなと一緒に産んで子育てしたいから、そうですね考えてみれば、時間的な余裕がないですよね。
焦らなくちゃ」
アンは油断した、考えてなかった、焦った、これからどうしようか、と色々な考えが頭の中を駆け巡っていたのだろう、表情がクルクルと色々に変化した。
ミーレナさんはそれを見て、やさしい顔でクスッと笑った。
陽が沈んで暗くなってから、ターリア、ワーリア、ヤーレアが揃って僕たちの家にやって来た。
何事かと思ったら、「ランプを貸して」とワーリアが怒った様に言ってきた。
「ずるいじゃない。
あなたたちとエーレアたちだけで、昼間花を見に行ったんだって。
美味しいモノも食べたことをエーレアたちは白状したわよ」
「全くもう、エーレアたちは何をしているのよ。
ラーリア様からくれぐれも秘密にする様にと言われていたのに」
ワーリアの言葉にディフィーがそうぼやくと、それを聞いたターリルが、
「えっ、ラーリア様も噛んでいる話なの。
それは知らなかったわ」
と言ったので、ディフィーはしまったという顔をした。
「ナーリア、一体誰と一緒に花を見に行ったのよ?」
ターリオの言葉に、ナーリアがもう仕方ないかと諦めの表情で答えた。
「最初は私たちだけのつもりだったのだけど、ほらイクス様はアレクの子供産んでいるし、ラーリア様、ミーリア様も昼間は最近はこの家に入り浸りでしょ。
それでミーレナさんも来ているから、いつもこの家に来ている人と、行こうという話になったのよ。
それでメリーが喜んでしまって、エーレアたちにバレてしまって、ミーレナさんが『私だけ参加するのは』って遠慮したから、それじゃあってラーリナ様も来ることになって、それで花見を始めたら空から見つけたハーピーたちがやって来て。
えーと、それだけよ。
あ、赤ん坊たちも4人いたけどね」
「もう、ずるいんだから。
せめてエーレアたちも参加するなら、同じ姉妹である私たちにも声かけてくれたって良いじゃない」
ワリファがそう文句を言うとセカンが
「ラーリア様が『広がると収拾がつかなくなるから、絶対に秘密だ』と、みんなに厳命していたから、それは出来ない」
と答えるとワーリドが
「ま、確かに、ラーリア様にそう言われたら、誰もどうしようもないな」
と、渋々という感じで言った。
「まあ、今回は私たちだけだったけど、来年はゴブの騒ぎもきっと終わっているから、ラミアの里全体の催しにしたい、って感じのことをラーリア様たちが話していたから、来年は起きているラミア全体でになるんじゃないかな」
ナーリアがターリアたち、ワーリアたち、そしてヤーレアたちを宥める様な感じで、そんな来年の話をした。
「ところで、みんなはどうやって私たちが昼間花見をしたと情報を得たんだい?」
「私もそれが知りたい。
エーレアたちだってラーリア様にきつく言われていたのだから、そんなに易々と秘密にしていることを話す訳がない」
サーブの言葉にレンスも加わった。
ワーリアがそれに答えた。
「エーレアたちみたいに、私たちは毎日朝からここに来れる訳じゃないから、あなたたちが今何をしているのかを把握するためにも、私たちはエーレアについても常に気をつけて言動を見ているのよ。
ここ数日なんとなく怪しいなぁと思っていたら、やっぱり今日の休みにみんなで出かけて行くじゃない。
追って行ったら流石にバレるだろうと思って我慢したけど、帰って来たから気配を消して近くにいたら、油断していたのか、近くに誰もいなくて自分たちだけだと思ったみたいで、『昼に食べたあれ、美味しかった。 また食べたい』なんて話を始めたのよ。
そこで姿を現して、全部喋ってもらったわ。
流石にラーリア様、イクス様、ラーリナ様、ミーリア様、ミーレナさんも参加していたことは、私たちに言わなかったけど」
「えっ、エーレアたち見張られていたの?」
「そうよ、気配を消すのはレンスとセカンの専売特許じゃないわ」
ディフィーの疑問にワリファが誇らしげに答えた。
ま、なんと言うか、彼女たちの姉妹ゆえかの話の調子に僕とアンはついて行けず、なんとなく黙っていた。
ただ、その輪の中に居るには居るのだけど、ヤーレアたちだけが静かなのが、ちょっと気になっていたら、ヤーレアが話しかけてきた。
「アレク、ラーリア様は明日もここに来ているかな?」
「ああ、何も言ってなかったから、たぶんここに来てると思うぞ。
何か他の用事が入っているなら、先に言うから」
「うん、分かった。 ありがとう」
ターリア、ワーリア、ヤーレアはこの家にありったけのランプに、と言っても6台しかないのだけど、火を着けて夜桜を見に出て行った。
かなり時間が経ってからランプを返しに寄って帰って行ったのだが、その時には怒っていた気配は全く影を潜めてしまっていた。
「本当に綺麗だった。
あんなところにあんな風に咲く木があったのね」
「なんて言うか、幻想的と言うのかな」
と夢心地という感じだった。
僕も夜桜も見たいと思った。
その翌日になって、ヤーレアが僕にラーリア様の予定を聞いてきた訳が分かった。
ヤーレンがヤーレアたちも連れて直談判に来たのだ。
「ラーリア様、もう限界です、若い子たちも起こしてください。
もうすぐにでも農作業を進めなければならない時期に来ています。
人手不足なんです」
「ラーリア様、お願いします。
もう私たちだけじゃ手が全然足りないんです。
正直ヤーレンも私たちも使える限りの時間を使って頑張っているのですけど、もう無理なんです。
麦は当然として、早くに採れる豆ももうちょっとなんですけど、ハキとアリファ様に相談したら、なんとかなると思うとのことでした。
お願いします、起こさせてください」




