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気がついたらラミアに(なろう改訂版)  作者: 並矢 美樹
間の日々

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278. ハルオン様

 ハーピーの望むことの話が終わった後は、本当に同盟締結の祝いの宴となった。

 ラミアたちや若いハーピーたちは酒を飲んだことがないので、物は試しと大騒ぎになった。

 調印式には、それぞれの種族を代表する者、及び同盟締結に多大な貢献をした者だけが参加する感じになっていたから遠慮していた他の者たちも、時間を見計って様子を見に来たアレア様が、宴になったことを伝えると、みんなやって来て同盟締結を祝った。


 領主様はかなりの量の酒を持って来ていたみたいだが、我も我もとラミアは飲んでみたがったので、1人当たりにすれば、ほんの一口二口の量にしかならなかった。

 それでも初めての酒だったので、大きく盛り上がった。


 「アレク、先ほどワシは風呂があるかと聞いたじゃろ」

 酔うほど飲めたはずがないハルオン様がとても上機嫌で、僕に近寄って来て、そんなことを言った。


 「はい、ハルオン様は風呂のありかまで知っているんだと、ちょっと驚きました」


 「うん、ワシはな、昔、彼奴と飲んで2人して酔っ払ってな、何故か2人で風呂を沸かして一緒に入ったことがあるのじゃ。

  そこまでならともかく、2人して風呂の中で寝てしまってな。

  溺れかけて、彼奴を世話していたラミアに助けられたことがあるのじゃよ」


 「分かります。 ハルオン様、分かります。

  私もあまりの気持ち良さに、風呂で寝てしまって怒られたことがあります」

 横で話を聞いていたサーブが、急に同志を見つけたかのように立場の違いも忘れて、勝手に話に加わってきた。


 「そうなのじゃ。

  風呂はそれだけでも気持ちが良いのじゃが、酔っ払って入る風呂はもっと格別なのじゃ。

  ま、寝てしまって溺れかけてはいかんがな」

 ハルオン様は、サーブの言葉にニコニコと応じている。


 「それでワシら2人は風呂で寝ていたのを怒られて、もう無理矢理起こされたのじゃが、彼奴は風呂から何とか出たのじゃが体も拭かずに、またそのまま寝ようとする始末じゃ。

  仕方なく、そのラミアが彼奴の体を拭いてやって、寝床まで連れて行った。

  その間にワシはまた寝てしまってな、またそのラミアに怒られたのじゃ。

  『とにかく、風呂から出て、体の水気を切りなさい。

   ハーピーは羽毛に覆われているから、拭いてあげられはしないわよ』と。

  そこでワシは湯船から出て、その場でハーピーが誰でもする様に、体を震って体についている水を飛ばしたんじゃ。

  そしたら、そのラミアに頭を叩かれた。

  『誰がここで直ぐに水を飛ばせと言いました。 辺り一面、私まで水浸しじゃない』と大怒りじゃ。

  ワシは『ごめんなさい』と謝った様な気がするが、次に意識を取り戻したら、部屋で彼奴の横で寝ておった。

  きっと、そのラミアがそれでもそのまま風呂場で寝てしまったワシを部屋まで運んで寝かしてくれたのじゃろう。

  今日の酒は、その時以来の旨さじゃ」


 イクス様がクスクス笑いながらハルオン様に言った。

 「酒を父祖様と共に飲んでということは、ハルオン様も父祖様ももう大人になっていての話でしょうが、何だか子供が母親に面倒をかけているかの様な感じですね」


 「まあ、その通りじゃな。

  彼奴はそのラミアにとっては本当に子供の様な存在じゃったから、きっとワシも同じ様に扱われていたのじゃろう。

  懐かしい、幸せな思い出じゃ」


 その後もハルオン様は父祖様との思い出を幾つか語ってくれた。

 だがそれらは皆、どこの悪ガキだという様なエピソードばっかりで、ハルオン様はもちろん父祖様のイメージからは考えつかない様なことばかりだった。


 「なんていうか、想像出来ないが爺さんにも若くて、馬鹿やっていた時代もあったんだなぁ。

  こんな話、孫の俺も初めて聞いたよ」

 エレオンがそんなことを言った。


 「なんか私、父祖様なんて遠い存在に感じていたけど、こうしてハルオン様と馬鹿やって遊んでた話なんて聞くと、何だか私たちと変わらないって、親近感感じちゃったよ」


 「うん、確かに。

  偉い人っていう感じにしか思って無かったから」

 ナーリアたちもそんなことを話している。


 楽しい時間は早く過ぎ、夕闇が迫って来た。

 ハーピーたちはハーピーの里に帰らねばならない時間となってしまった。

 「何だか名残惜しいが、帰る時間となった様だ。

  今日は本当に正式な調印が出来て嬉しかったし、ハーピーの望みも聞いてもらった。

  そして宴は楽しかったのぉ。

  時は戻らん、では、さらばじゃ」


 ハルオン様は足元がふらつき、羽にも力なく、飛び立つことが出来なかった。


 「ハルオン様、弱くなられましたな、あの位の酒に酔われましたか。

  それでは帰りは私がお連れしましょう。

  羽の先の方は畳んでいてください」


 「エルシム、世話をかけるのぉ。

  それでは皆の衆、本当にさらばじゃ」

 ハルオン様はエルシム様に掴まれて、ハーピーの里に戻って行かれた。


 人間だけでなく、ハーピー同士でもああやって時には空を行くんだ、と僕はあまり考えたことがなかったので、その光景を珍しく眺めた。


 翌日、その日は午前中に領主様たちが町に帰る予定だったので、いつもの午前中の戦闘訓練は行われず、大きな催しの後のちょっと気が抜けた感じで、少しのんびりと朝を過ごしていた。

 まあ、僕らは早朝にラミアの里から家に来て、領主様たちと一緒に朝食を食べたりしているのだが。

 帰る前にもう一度という感じで、ラリオ様とミーリオ様がローラを連れて、ラーリン様とミーリン様がラメを連れてやって来ている。

 ラーリア様とミーリア様もシャイナを連れて来ているし、イクス様も当然だがティッタを連れて来ている。

 子供が4人も来ているから、家の中ではメリーが大活躍だ。


 「それで、あなたたちは予定を変更してここに残るというの?」


 「はい、奥方様。

  ラミアのみなさんは、一度戻ってそれぞれの家が出来たら、また来るという予定でも構わないと言ってくれているのですが、私は家作りも皆さんと一緒に手伝って、自分たちの家を作りたいと思ってしまったのです」

 デイヴの妻の1人に加わるエリーゼさんが奥方様にそう言った。


 「とりあえず、私たちはみなさんの部屋に同居させていただいても良いことになりましたから、問題はないかと。

  ただ、着替えなどの荷物をほとんど持たずに今回は来てしまいましたので、騎士の方に、家の方に私の着替えその他を届けてくれるよう伝言をお願いしようと思っています」

 キースの妻の1人に加わるマリアンヌさんも奥方様に伝えている。


 「来る時の馬車では不安で硬くなっていたのに、それで大丈夫なの?」


 「はい、私たちは今はこれからの生活が楽しみでしょうがない気分なんです」


 奥方様は、良かったというか、やれやれというか、どっちの顔をしたら良いか分からないという感じだった。

 「全く、そんなに急ぐことはないんじゃない」


 奥方様がちょっと揶揄うように2人に言うと、マリアンヌさんがちょっと顔を赤らめて言った。

 「だって奥方様、みなさん次の春には子供を得る気満々なんですよ。

  人間は妊娠期間が長いから、みなさんに合わせて一緒に子供を産むには、もうそんなに時間的猶予はないんです。

  子供は授かりものですから、直ぐに出来るとは限らないのですけど、少なくとも努力はしたいじゃないですか」


 その話を聞いていたアンが1人、「あ、そうか。 そうだよね」と自分で納得していた。


 その奥方様を中心にした一角だけ、ちょっと真剣な話になっていたが、家の中の他の場所では取り止めのないお喋りなっていた。

 セカンとナーリアが食事の後のお茶を淹れて、みんなに配っている。


 そんな中、急に大きな羽音が家の中でも聞こえた。

 ハーピーが何かとても大急ぎでやって来たようだ。

 何事かと僕らは思ったのだが、考える間もなく、ノックもせずにアライムが部屋の中に入って来た。

 「大変だ!!

  ハルオン様が亡くなられた」


 アライムはとりあえず大急ぎで、その情報を伝えに来ただけで、直ぐにハーピーの里に戻っていった。

 詳しい話は後で伝えに来るとのことだ。

 領主様の町への帰還は延期され、それを伝えるために町へと、また砦にいるアルフレッドさんにも、その情報を伝えるために騎士が馬で走って行った。


 「昨日、あれからハーピーの里に戻ると、ハルオン様はあの上機嫌のまま、ご自室で寝まれたのです。

  今朝になって、いつもの時間に起きて来られなかったのですが、昨日の疲れが出たのだろうと思っていたのですが、あまりに遅いので、身の回りのお世話の者が起こしに部屋に入ったところ、寝まれたままの姿勢で、すでに息をしておりませんでした」

 エルシム様が赤い目をしてそう言って、状況を説明してくれた。


 「爺さんは、ハーピーとしてはとても長生きだったからな。

  俺たち家族にしてみれば、もう何時こういうことがあってもおかしくはないと、もう随分前から覚悟はしていたんだ。

  昨日、あれだけ上機嫌でここを去り、そのまま死んだんだ、大往生ってやつさ。

  最後にあんなに上機嫌だったんだ、悲しむことじゃないよ」

 その言葉とは裏腹に、エレオンの目も真っ赤で、そう話しながら涙を流していた。


 「ラミアから見て、父祖様という方が、ラミアの全てを背負って歳若く逝ってしまわれた。

  ハルオン様も同様にその肩にずっとハーピーの全てを背負って、長い人生を親友が亡くなってからも歩んでこられた。

  親友が自らの死も受け入れて必死に残した種族と、自らの種族が血で血を洗う争いをするという、ハルオン様にしてみれば魂が引き裂かれるかのような出来事を越え、やっと自分が幼き頃に過ごした3種族仲良く過ごすという基盤を作り、ハーピーの滅亡を防ぐという希望も灯すことが出来た。

  やっと、やっと、ハルオン様は親友のところに向かうことが出来るという気持ちになったのでしょう」

 そのエルシム様の言葉を聞くと、領主様が涙を溢れさせた。


 「ラーリア殿、イクス殿、大変厚かましいお願いがあるのだが、聞いていただけないだろうか」

 エルシム様は姿勢を正すと、ラーリア様、イクス様の方に正対してそう言った。

 とても真剣な雰囲気だったので、僕たちは息を飲んだ。


 「エルシム殿、どのようなことでしょうか?」

 ラーリア様が一呼吸置いて、エルシム様に訊ねた。


 「ラミアが、父祖様のことをとても神聖視していることは良く分かっている。

  だから、とても厚かましいお願いだと思うのだが、ハルオン様を親友だった父祖様の隣に葬ってやりたいのだ。

  ラミアにとって神聖な場所にハルオン様を葬って欲しいだなんて、とても厚かましいお願いであることは重々承知している。

  でも、我らハーピーはその場所以上にハルオン様を葬るのに適した場所があるとは思えないのだ。

  長い間重荷を背負い、ハーピーを支えてきてくださったハルオン様を、せめて親友の隣で永遠の眠りについていただきたいというのが、ハーピーのたっての願いなのだ」


 ラーリア様は少し沈黙して考えた後、エルシム様に答えた。

 「エルシム殿、申し訳ないが1日の時間をもらいたい。

  私個人としては今この場で、ぜひそうしていただきたいと言いたいのだが、ラミアの多くは、父祖様とハルオン様のとても深い友情を知らない。

  その知らない者は、父祖様の隣に急にハルオン様が葬られれば、反発しないまでも不快に思うかもしれない。

  ここにいる者が責任を持って他のラミアに、ハルオン様と父祖様の関係を説明しよう。

  その時間を頂きたい。

  そうした後、ラミア全員の意思として、ハルオン様に父祖様の隣で眠って頂くようにしたいと思う」


 「了解した。

  ラーリア殿、ありがとう、ぜひそのように事を進めていただきたい」


 直ぐに起きているラミア全てが集められ、今回の事態が説明された。

 多くのラミアにとって父祖様は、もうほとんど伝説上の人物になっていて、その生前を共に過ごした人がいたことが驚きだった。

 僕たちは知る限りの父祖様とハルオン様の関わりを、そういった情報を知らないみんなに説明した。

 僕たちは知らなかったが、図書館の記録には、父祖様が確かにハルオン様ととても親しかったことを記載する記録が残されていることを、ラーリド様が皆に教えてくれた。

 全員一致で、ハルオン様のお墓を父祖様の隣に作ることになった。


 ハルオン様の墓石はエレオンが、父祖様とちょうど同じくらいの岩を上空から探し出し、僕たち人間が取りに行って、父祖様の墓所まで担ぎ上げた。

 峰の下の部分までは馬車で運んだし、もうこういう力仕事は人間の男の僕らが分担した方が流石に速い。

 ラミアは尻尾の力は強いが、手や腕の力は普通だからね。


 ハルオン様の葬儀には、砦からアルフレッドさんもブマーを伴としてやって来た。

 ハーピーたちはハーピーの里から全員が飛んでやって来た。

 ハルオン様は網に乗せられ、その網を6人のハーピーが紐を掴んで、やって来た。

 その6人とあと数名のハーピーが地上に舞い降りて、その他のハーピーは空をゆっくりと丸く旋回している。

 ハルオン様を寝かせる穴は、ラーリア様、イクス様、ミーリア様、そしてナーリアたちといった、ハルオン様に実際にお会いしたことのあるラミアが父祖様の墓石の隣に掘った。

 ハルオン様を穴の中に寝かせると、ハーピーたちは脇に山にしてあった土を一人一人掴みハルオン様の穴を埋めていく、地上に降りた者が終わると、上空を飛んでいた者が次々と順番に降りて同様に土をかけて飛び立って元の位置に戻っていった。

 ハーピーが終わった後、面識のあったラミアや人間が同様のことを行い、最後は僕たちが完全に埋めて、その上に墓石を据えた。

 それが終わると、地上に降りていたハーピも飛んで上空の輪に加わり、ハーピーたちはその輪を大きくしたり戻したり、高度を上げたり下げたり、そして輪の列を波立たせたりという動きを見せて、最後は大きな輪になり、1人2人と徐々にハーピーの里へと戻っていった。


 ハーピーがほとんど戻って行き、最後にエルシム様とシロシュウメ様、そしていつものメンバーが舞い降りて来て、ラーリア様をはじめとしたラミアに感謝の言葉を言った。


 シロシュウメ様がちょっと冗談口調で言った。

 「今頃ハルオン様は、父祖様と仲良く遊んでいることでしょう。

  私は父祖様が生きている最後の頃には生まれていたのですが、流石に知っている訳ではないので、向こうに行ってお二人が子供のように遊んでいるのを見るのが楽しみです。

  この中では私が一番最初に普通なら向こうに行くでしょうから」


 「伯母さん、何言っているのよ。

  ハルオン様から比べたら、伯母さんはまだ全然若いじゃない」

 モエギシュウメがシロシュウメ様の言葉に文句をつけた。


 「何言ってるの。

  私はあなたの母親よりずっと年上で、もうハーピーの平均寿命は超えたわよ。

  ハルオン様が特別長生きだったんで、私はもう普通なら長くないわ」


 「全く、こういう時だけ年寄りぶるんだから。

  普段は年寄り扱いすると怒るのに」


 シロシュウメ様はモエギシュウメのその言葉を無視すると、真剣な顔をしてラーリア様に言った。

 「自分では言いにくいのか、何も言わなかったようですが、今後ハーピーの代表はハルオン様に代わり、エルシムが務めます」


 そう言うと最後にシロシュウメ様とモエギシュウメが去っていった。


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