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気がついたらラミアに(なろう改訂版)  作者: 並矢 美樹
間の日々

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275. ハルオンの昔語り4

 5人のラミアが大火後初めて産まれた時、このラミアの里にとっては久々に明るい気分が広がったのじゃ。

 想像してみれば、その時のラミアたちの気持ちが分かると思うが、いや、想像だけではあの時の気持ちに迫りきれないかもしれないな。

 とにかく明るさに満ち溢れた春から初夏にかけての時じゃった。

 だが、そんな明るい気分は長くは持たなかったのじゃ。

 子供が産まれて安心したかのように、大人のラミアが2人亡くなったのじゃ。

 何か特別なことが起こった訳じゃない、いやそうではないか、大火から後のそこまでの時間、その時大火から10年が過ぎていたのじゃが、その10年はそれまでと比べたら全て特別なことじゃった。

 亡くなったラミアは、疲れ切ったというか、苦労しきって、子供が産まれたことに安心した時点で気力の全てを使い切ってしまったのじゃな。

 なんの前触れもなく、燃え尽きるように、1人は朝起きて来ないと思ったら亡くなっていて、もう1人は仕事の途中で「ちょっと疲れたから休む」と側に横たわって休んだと思ったら亡くなっていたという。

 2人ともまだ40を少し超えた歳であったはずなのじゃがな、まるで老衰死のような感じじゃったのじゃ。


 父祖様はそのことは大きな衝撃じゃった。

 その死んだ1人は、最初の冬に起きていて世話をしてくれたラミアじゃったからな。

 父祖様としては母を亡くしたような気分だったのじゃろう。

 やっと食べ物での苦労を脱したと思っていたから、誰かが何らかの理由も、前触れもなく亡くなるなんてことは、父祖様だけでなく、誰も考えていなかったことだろう。

 ラミアの里の明るい雰囲気は、あっという間に霧散してしまった。

 父祖様の暗い顔を見れば、誰も明るい顔にはなれなかった。

 父祖様の気分がラミア全体に影響を及ぼしてしまうということが、とてもはっきりと分かったのがこの時かも知れない。


 小さな子供が少しづつ大きくなって、彼の周りで遊ぶようになって、やっと少しは気持ちが変わったようだった。

 それと共に、彼、父祖様はいっそうラミアが滅びてしまうのではないかとの思いを強くしたみたいだ。

 そして現状は自分がラミアと子供を作る以外の方法がないことも深く自覚した。


 まあ、それには私も関与したと思う。

 大火の後、見かけることのなかったゴブだが、流石に10年も経てばゴブは復活してきて、というより最も繁殖力が高い生物だから、我々ハーピーやラミアは勿論として、人間よりも復活が速かったのじゃろう。

 この頃には、私の目にもチラホラとゴブが目に入り始めたのだ。

 ハーピーが暮らすのは山の頂に近い高い場所だから、まだこの頃はゴブは脅威にならなかったが、私と共に空からゴブの姿を見た父祖様にとっては、非常に大きな脅威に見えたことだろう。

 その時点ではラミアの戦闘力なんて無いに等しかったから、小さな数匹のゴブの集団であっても、ラミアでは対抗出来そうもなかったからな。

 とにかくラミアの数をまず増やさねばならない、その思いばかりを強くしたのだろう。


 それと、またゴブをちらほら見かけることは、当然ながら人間にも影響を与えた。

 私たち程の目を持たなくとも、人間は私たちやラミアより圧倒的に数が多いからな、ゴブが少ないながらもまた現れ出したのには、やはり即座に気がついた。

 そして人間はゴブが少ないうちに、とにかく殲滅する事を重視した。

 ま、放って置いて増えられたら対処できなくなるから、それは賢明なことなのだが、そのためには軍事力がいる。

 今ではもう分かっていることだが、それが大火に関してのラミアの濡れ衣をなかなか晴せなかった理由じゃな。

 フロードは、なんだかんだ言いながらも、私から見てもゴブを狩ることに関しては、なかなかの手腕を発揮していたからな。

 じゃがそれは、当然の事ながらラミアに関わる新たな人間の男がいなくなったということになる。


 この言い方は、男どもなら何の説明もなく理解できると思うが、全ての流れが父祖様に負担を強いる方向だったのじゃ。

 自分が子供を作らねばラミアが滅びるというプレッシャーの中で、ラミアを次々と抱き続けるのは、どうじゃお前たち。


 2年目からは10人のラミアが子を産むようになった。

 1年目の5人の時には左程に感じなかったのじゃが、2年目、3年目となると、またしてもラミアは問題を抱えるようになった。

 何が問題になったかというと、今現在子供たちの世話をしている其方たちなら実感として分かるだろう。

 そう、子供の数に対して、世話をするラミアの数が圧倒的に足りて無いのじゃ。


 3年目となると、すでに世話をするラミアの数と、子供の数が同じという状況になっていた。

 そうなると元からの大人だったラミアはまたしても過労の状態になり、その後も年に1人くらいのペースで亡くなっていった。

 もう完全な悪循環じゃな。


 それだから子供のラミアたちは、本当に幼い時から仕事をすることが課せられてしまった。

 そうしなければラミアは暮らしていけないのだから、仕方がない。

 私は父祖様とラミアたちに言ったのじゃ、1年子供を作るのをやめて、子供が大きくなるのを待った方が良いのでは無いかと。

 だが、彼は、「その1年がもったいない、出来る限り子供を作るべきだ」という意見を曲げなかった。

 そしてラミアたちはその意見に従った。


 今から思えば、もうその頃すでにあやつは、いや父祖様は自分の体調の悪さを自覚していたのかも知れない。

 だから、自分が生きているうちに1人でもラミアを増やさなければ、それには1年も休めない、と。

 父祖様の体調の悪さは、5年目にははっきりと周囲に分かるほどになっておった。

 それでも彼奴は6年目にはやっと卵が作れるかどうかという年齢になった、大火の時に卵で生き延び、大火後すぐに産まれたラミアたちにも子供を作った。

 そして7年目の子供が産まれる前に、まさに精根尽き果てるという感じで、死んでしまいおった。


——————————————————————————————


 ハルオン様の目からは涙が溢れていた。


 「こんな年寄りが昔話で涙を流すのは、恥ずかしいのじゃがな」

 ハルオン様はちょっと照れ臭そうにそう言った。


 「いえ、とんでもありません。

  ハルオン様が父祖様とどれほど深く友情を紡ぎあっていたかが知れて、私たちはなんて言うか、嬉しいような、感謝しきれないような、そんな気持ちになります。

  私は、その父祖様の子供の子供、つまり父祖様の孫に当たりますから、私の知らない祖父の生身の姿を知るのは喜び以外の何物でもありません」

 イクス様がそう言った。


 「人間の起こしてしまった事で、ラミアがどれ程の苦労をしてきたか、それを目の当たりにしてきた方に伺うと、人間の、領主家の者としてどう償って良いのかと、途方もしれない思いがする。

  今はラミアに焦点が当たっての話だが、きっとハーピーにも大きな苦労をかけているのであろう。

  誠に、誠に済まない」


 「ロンダイル殿、そう頭を下げることはない。

  大火に関しては、前にも言ったがハーピーもラミアもあれは事故だと考えている。

  ロンダイル殿が、人間の領主家が謝る必要はない。

  その後のことに関しても、私から見ても、領主家としては仕方のないことであった。

  結果として起こったことは、公的にも残念ではあるし、私個人としては断腸の思いであるのは事実だが、その責を人間に求めるのは間違いであろう。

  ロンダイル殿や代々の領主家が後ろめたく思うことは何も無いのだ」

 ハルオン様がそう答えた。


 僕はちょっと気分を変えたい気がして、ハルオン様に声をかけた。

 「ハルオン様が父祖様の事を思いやって下さっていたことは、良く分かりましたが、普段の父祖様とハルオン様はどの様な感じだったのですか?」


—————————————————————————————-


 なるほど、そうじゃな。

 苦しかったこと、悲しかったことだけを話したのでは、片手落ちじゃな。

 私と父祖様はまだ10代になったばかりで知り合ったのじゃ、お前たちが知り合うよりずっと若くて知りあったのじゃ、当然のことながら馬鹿なことも散々したものじゃ。


 最初、私は他のハーピーの目を盗んでここに来ていたのじゃが、盗んでと思っていたのは自分だけで、大人にはしっかりとバレておった。

 少し以前のハーピーとラミアの関係とは当時は違ったから、ほんの少しの間、私がここに来ると監視されていたようだが、別に危害を加えられることもないだろうと、何も咎められなかったし、すぐに放置されるようになった。

 それを良いことに私はここに入り浸っていた訳だ。


 当然のことながら、私も父祖様を連れて色々と飛び歩いたものじゃ。

 今ハーピーが使っている山の温泉は当時からあったから、良く連れて行ってやったものじゃよ。

 それだけではなく、父祖様はハーピーの里に来るのが好きでな、かなり足繁くハーピーの里に来てもいたのじゃ。

 というのは、当時のハーピーの里には人型のハーピーどころではなく、人間自身も女性を中心に多く住んでいたからだ。

 とは言っても、ハーピーの里に住んでいる人間は大火以前にハーピーを伴侶とした人間な訳で、私たち2人から見れば大人たちで、父祖様もハーピーの里ではハーピーの里に遊びに来る人間の男の子扱いじゃな。


 彼奴がハーピーの里に来たがったのは、料理目当てじゃ。

 ここに出ているちょっとした料理を見ても、今ではラミアの里の方がハーピーの里より多彩な料理が出るようだが、当時は人間や人型のハーピーがたくさん居たこともあり、ハーピーの里では大火以前の町での料理と遜色ない料理が作られていた。

 逆にラミアの里では、元来ラミアはエネルギーの取り方が違うのに加え、火の使用を極端に抑えていたため、料理らしい料理が作られなかったのじゃ。

 ハーピーの里では泉から離れていることもあり、火の使用に制限はなかったから、当時はラミアの里とは比べものにならない多彩な料理が食されていたのだ。

 父祖様がハーピーの里に来たがるのも当然のことであった。


 それに今考えると、父祖様は肉を食いたくて、ハーピーの里に来たかったのかも知れないな。

 ラミアの食生活では基本的には肉は栄養にならないし、火を使わねば調理できないから、ラミアの里ではほとんど食べられていなかった。

 もちろん当時のラミアも毛皮を取るために、今より沢山いたウサギなどを狩ってはいた。

 しかし、その調理となると、ラミアでも人間と暮らしていたのだから、肉を調理するスキルはあっただろうが、他の事柄に追われてクタクタになっている身では、きっと自分のエネルギーにならない肉の調理にまで、手が回らなかったのだろう。


 そんな訳で私たちのよくした遊びの一つはウサギ狩じゃ。

 沢山居たし、今よりも草原が多かったからな、ハーピーがウサギを狩るのは簡単なことじゃった。

 私がウサギを狩り、狩ったウサギを彼奴が焚き火をして焼いて2人で食うのじゃ。

 彼奴もウサギを狩れない訳ではないが、狩は私の方が上手だし、逆に火を焚いて焼いたり、ウサギを捌いたりするのは圧倒的に彼奴の方が上手いからな。

 ま、適材適所じゃ。

 なんじゃろう、今考えれば、下処理もちゃんとしてないし、ただ焼いて塩を振っただけのウサギの肉じゃったのだが、妙に美味かったな。


 それからな、今より人も少なかったからな、2人で海まで飛んでいって遊んだこともあるぞ。

 2人で海に浸かって遊んだのは良いのだが、川の水と違って海の水は塩を含んでいたりするのでベタつきがあってな、体を振るっても今一つ落ちきらんのだ。

 帰りは体が重くてな、彼奴を吊り下げて飛ぶのは大変じゃったわ。


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 ハルオン様はさっきまでとは違い、とても楽しそうに次から次に父祖様との楽しかった思い出を語った。

 僕らは父祖様もだが、ハルオン様が何だかとっても親しみやすく感じるようになった。


 「ハルオン様、お話が弾んでいるところ申し訳ないのですが、そろそろ外が暗くなって来ました。

  私は構わないのですが、そろそろ飛べなくなる者も出てきます。

  今日のところはそろそろお暇いたしませんか、明日に差し支えても問題でしょうから」

 シロシュウメ様がハルオン様の話の腰を、すまなそうな感じで折った。


 「おお、もうそのような時間か。

  つい我を忘れて昔語りをしてしまった。

  飛べなくなるのは大問題じゃ。

  ロンダイル殿たち、ラミアたち、すまないが我らは大急ぎで帰らしていただく。

  明日の調印の場でまた会うことにしよう」

 ハルオン様はそう言って、ハーピーの里へと帰って行かれた。


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