273. ハルオンの昔語り2
私もここに馬車が来るのを見て、注意して見ていたので、馬車から傷ついたラミアと友が下されたのを見て、矢も盾もたまらずハーピーの里近くからここに飛んで来てしまったのだ。
ラミアももちろん驚き、、何が起こったのかと馬車で連れてきてくれた者に最初は詰め寄ってしまった。
2名の、自らこの地方の人間の領主の腹心だと名乗る、連れてきてくれた者は、その事態を説明したのじゃが、その説明に対してラミアは怒りに震えていたのだが、それは私も同様じゃった。
2名は真摯に謝罪し、また領主の手紙を持参していた。
ラミアは、どうして自分たちが知らないところで、被害者である自分たちが加害者と認識される様なことになっているのかと、当然のことながら憤慨していたが、連れてきてくれた2名は、
「ラミアの方々がそう憤るのは至極もっともなこと」
と領主に代わり謝罪するばかりで、ラミアとしてもその2人に怒りをぶつけ続けることもできずに困るという塩梅だった。
そして、その2名は周りを見て驚いていたのだ。
「実のところ、私は領主様が大火はラミアの起こしたことではない、と断言する前から、ラミアが起こしたのではないのではないかと思っていた。
私はその当時、ゴブの侵攻に備えて燃える水の採取を大々的に行なっていたことを立場上知っていたので、その様な場でラミアが燃える水を使って大火を起こすことが出来るかどうかに疑問を覚えていたからだ。
それに私はラミアとも親交があったから。
しかし、段々とラミアが大火を起こしたと言う話が広がって、人間の間ではそれが常識になると、自分の考えていたことが間違っていたのではないかと思う様になっていた。
それは領主様が断言しても、胸の中にあった思いだ。
しかし、ここに来て、ラミアが懸命に森の復旧に取り組んでいるのを見て、ああ、やはりラミアの起こしたことではなかったと確信した」
そう言っていたのが、記憶に残っているな。
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カーライルさんがちょっと感動の面持ちで言った。
「それは私の祖父に違いありません。
なるほど、だから私に大火はラミアの起こしたことではないと教えていてくれたのですね」
「そうだな、カーライル、儂もハルオン様の言葉を聞いて、その使者はお前の祖父だったのだろうと思ったぞ」
「ん、そなたはあの時の者の孫であるのか。
確かに私がやっと青年と呼ばれる様な年齢の時に、しっかりとした大人であったのだから、数を数えてみれば、そなたが孫であっても少しもおかしくないな。
私も歳をとったのも当然だとあらためて思うが、それにしてもあの時の者の孫にこの場で会うとは、縁というものを感じる」
「はい、ハルオン様、全くその通りです。
でも私は祖父の生々しい姿が、その場にいらっしゃった方に直に聞くことが出来て、とても感動しています」
カーライルさんがハルオン様になんというか恭しい態度で言った。
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「さて、この時点でラミアには大きな問題点が二つあったのじゃ。
一つは言わなくても分かるだろうから、後で話すこととしよう。
もう一つの方だが、ラミアは推測がつくかもしれないな、今までの私の語っている中に全く話が出ていないからな」
ハルオン様がそういうと、ラーリア様、イクス様、ミーリア様は少し考え込んだみたいだが、すぐにイクス様が言った。
「ハルオン様、もうそろそろその時点で燃える水の噴出があってもおかしくない時期が来ていると思うのですが」
「私も気になりました。
今現在は噴出が終わったばかりですが、当時も当然のことながら、噴出が周期的にあったと思うのですが。
そしてそれはフロードが警告を無視したという話から、当時でも時期を想定出来ていたと思うのですが」
ラーリア様が続いた。
ミーリア様も頷いている。
「その通りじゃ。
もう次の噴出があってもおかしくない時期になっていたのじゃ」
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少し時を戻そう。
ラミアたちが大火の後、ほんの少しの余裕が出来たら、すぐに始めたのが植樹だったというのは分かっていると思う。
実際にはそれだけではなく、すぐに穀類の栽培も始めたのじゃがな。
何しろ木ノ実よりは素早く収穫できるからな。
じゃがそれらよりも急ぐ様になされたことがある。
それは燃える水の泉の周りへの植樹じゃ。
大火の後だけに、燃える水が噴出した時にその影響範囲を少しでも狭める事は、何よりも重大な問題だったのじゃ。
次の噴出でまた火災が起きれば、ラミアは確実に滅びるという強烈な危機感があった事じゃろう。
それで今も泉を囲う森が作られた。
いくら最も成長の早い木を植えたとはいっても、1年2年で噴出した燃える水が辺りに散るのを抑える高さのある森になる訳ではないからな。
1日でも早く木を植える必要があった訳だ。
生き残った大人のラミアの数は少なく、彼女らはそれこそ死にものぐるいという感じで、木を植えていったわ。
私は手伝いたいと思ったのじゃが、この鳥型のハーピーでは物の役には立たないし、まだ食糧事情も悪い時だったから、ハーピーの中にラミアを手伝いに来るという意思を作るなんて夢物語じゃった。
それでもラミアは懸命に働き、今見える森の範囲の木を植え切ったのじゃ。
成長の早い木はそこかしこに大火の後、すぐに新たに芽吹き、成長が早いから良く目立ち、ラミアが移植すれば良いだけだったという好条件はあったのだが、その労力がどれ程のものであったかは想像がつこう。
そのラミアの死に物狂いの奮闘に、我らは今もこうして守られているのだ。
そのことを今生きている者は忘れてはならないと、私は思う。
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ハルオン様の重々しい言葉に、その場にいる者は皆沈黙していた。
ハルオン様がちょっと語っていて口が渇いたのか、飲み物に手をつけて、少しだけ緩んだ空気になって、やっと色々な呟きが出る様になった。
「私は燃える水の泉の周りの森は、ラミアが植えたものである事は、図書館に残る記録から知ってはいましたが、その植えた時の状況はまるで知りませんでした。
私たちの先人のまさしく血のにじむ努力と汗の賜物なのですね」
イクス様がそう呟いた。
「ハルオン様が、ご自身がその作業を手伝えないもどかしさが、胸に迫ります」
ウスベニメがそう言った。
うん、ウスベニメは鳥型のハーピーが出来ないことが多いことをいつも嘆いているもんなぁ。
「我々は知らないうちに、今までずっとラミアの先人の血のにじむ業績に守られていたのか。
これは広く知らしめねばならない事柄だな」
領主様がカーライルさんに向かって、そんなことを言っていた。
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少し話が逸れたようじゃ。
とにかく今ほどではないが泉の周りは木に覆われたとはいえ、燃える水が噴出した時には、この辺り一面火の使用が厳禁になるのは今も昔も変わらない。
これはラミアは骨身に沁みて解っていることだろう。
ところがじゃ、その当時、予想された噴出時期に泉の噴出が起こらなかったのじゃ。
今考えれば、大火の時に泉の燃える水がいつも以上に噴出された可能性もあるし、大火によって泉自体も火の海になったので、泉の水の出てくる経路が火に焼かれて少し塞がったのかもしれん。
ま、どちらにしろ原因は分からないが、予想された時期に噴出しなかった。
さあ、困ったのはラミアだ。
噴出する時期だけ火の使用を厳禁すれば良いだけだったのだが、いつ噴出が起こるか、起こった時にどれだけの範囲で火の使用をしなければ大丈夫なのか。
そういった諸々のことが全く分からなくなってしまったのだ。
その一方で絶対にもう一度大火を起こす訳にはいかない。
それでどうなったかというと、分かることだろう、ラミアは火を使うことが厳禁になったのだ。
結局、噴出は予想の2年後に起こった。
その後、一時的にラミアはまた火を使うようになったのだが、次の噴出は予想より逆に2年も早かった。
この時、大火が起こらなかったことを、ラミアは望外の幸運だったと考え、より一層火の使用が厳禁になってしまった。
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「はい、その経緯は私たちラミアも図書館の記録で承知しています。
また、その後噴出の記録を正確にきちんと取ることをとても重要視するようになり、少し前から噴出の時期が安定し、大火以前のように予想がしっかり出来る事になりました。
今、こうして火をラミアも使うことにしたのは、その成果です」
ラーリア様がハルオン様にそう言った。
「長くかかったのぉ。
それでも私の生きているうちに、ラミアがまた火を使うのを見れたのは嬉しく思う」
ハルオン様はそういってラミア全体を労ったかのようだ。
「私、火を使うようになったのって、アレクたちが来たからだと思っていたよ」
「いや、それじゃあ、出来過ぎだよ。
もっと前からずっと計画されていたのよ。 ラミアも誰もが火を使うようにするって」
「でも私たちが知らなかっただけで、ラミアでも火を使う方法というか技術はずっと伝わっていたんだよね。
使えないはずだったのに、どうしてイクス様やラーリア様たちは火が使えたのかしら」
ナーリアたちがコソコソとそんな話をしているのをハルオン様は聞いて、イクス様、ラーリア様の方を向いて言った。
「私が種明かしをしても良いかな。
ま、私はたぶんこうだったのだろうという推測だが」
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火が使えないとなると、まあ、ラミアは問題はあるにしても、とりあえず食べることには困らない。
しかし、人間は火が使えないと食べることにも困ることになる。
特に当時はまだ木ノ実の類があまり量が取れなかったからな。
穀物しろ、豆類にしろ、人間も絶対に火がなければ食べれないというわけではないが、得られる栄養は全く違ってくる。
ま、これは人間に限らずハーピーにも言えることで、ラミアのエネルギーの摂り方の方が特殊なのだろう。
それでまあ、ここの元家主、父祖様だけは火が使えないとどうしようもない訳だ。
そこでこの家が、家の中で火を使うならば他に影響を与えなように、色々と強化された訳だ。
ま、そのお陰でこの家は今でも全く使用に問題がない頑丈さを見せている訳だが、壁は石で厚く作り、窓も二重になっており、竃に関してはこれでもかと火の粉が外に出ないように工夫されている。
それは風呂場や、床下を温めるためのところもそうなっている。
屋根も平らな石で作られているが、これは大変だったのだぞ。
石の屋根にすると重いので、それを支える木が太いのが必要となる。
そのための木は私が見つけて来たのだ。
大火の後といっても、少しは燃え残っている部分や、使える部分が残っていた木もあるからな。
見つけるのは、空を飛べるハーピーの独壇場だからな。
これだけしても心配で、大火後の最初の噴出があった時は、臭いに気づいた時から、臭わなくなってかなりしばらく経つまでは火は使えず、不自由な思いをしたのじゃ、ここの家主はな。
だがしかし、その最初の噴出時に火を出さなかったことにより、この家の中では火を使っても大丈夫だろうということになった。
それでも父祖様を世話していたラミアたちは安心できなかったらしく、もし火が出てしまった時のために、図書館に逃げるためのトンネルを掘ったのじゃ。
図書館は大火の時に燃え残ったからな、そこに行けば安心だろうと。
ラミアの里となっている洞窟に逃げれれば、それが一番良いのだろうが、地形からそれは難しいと判断したのであろう。
この家の立地自体が、図書館と尾根を挟んだ位置になっているのは、図書館が燃え残ったのだから、同じ様な位置なら火の危険が少ないのではないかと考えたからじゃからな。
でもまあ、ラミアはここでは火を使っても大丈夫だろうと考えたのだな、もちろん最大の注意の下でじゃが。
きっとそれがラミアの代々の歴史の中で伝わったのじゃろう。
それで、ここに来ることが出来る者のみが火の使い方を覚えるという伝統になってしまったのだろう。




