271. 人間の女性2人
先頭で家に入って来たラリオ様がまず口を開いた。
「改めて自己紹介させていただきます。
先ほどはラーリアの1人としてご挨拶させていただきましたが、今はそういった立場ではなく、個人的な立場であるデイヴの妻の1人としてご挨拶させていただきます。
2度目になりますが、ラリオです。
つい先ごろデイヴの子を産みました」
続いてミーリオ様以下が挨拶したのだが、最後になったロー様が緊張してガチガチだったのが、あまり見ない姿でちょっと驚いた。
「今のローまでがデイヴの妻たちで、私からはキースの妻になります。
私も先ほどラーリアと1人としてご挨拶させていただきましたが、キースの妻の1人でラーリンと申します。
私はキースの子を産みました」
また同様にミーリン様以下が挨拶した。
その最後のアーロン様の挨拶が終わると、ラミアたちに促される様にして、2人の人間の女性が前に出て来た。
その胸には子供が抱かれていた。
「こちらがデイヴの子のフローレンスです」
「そしてこちらがキースの子のラメリーです」
イクス様の膝の上にいたメリーが、そこから飛び降りると、子供の方に近づいて手を出した。
「ローラちゃん、ラメちゃん」
場の雰囲気か、抱いている2人の緊張のためか、ちょっと泣き出しそうな雰囲気のデイヴとキースの子供だが、メリーがちょっと近づいてあやしたら、もう機嫌が良くなった。
「まさかあなたたちが子供を抱いて来るなんて、思ってもいなかったわ」
奥方様が2人に声を掛けた。
デイヴの妻になる女性が答えた。
「ラミアでは、夫の子供は妻全員が協力して育てるのだそうです」
「キースの妻となったのであれば、あなたも私たちと同じ立場ですから、子供の養育にまずは参加してくださいと、子供を抱くことを任されました。
私、嬉しくて」
キースの妻となった女性も言葉を続けた。
「ということは、あなたたちはデイヴィッドとキースリングの妻として、ラミアの方々に認められた、ということですか」
「はい、みなさん、早く私たちが来ないかと、待っていてくださったということです」
デイヴとキースは、何というかもう諦め顔である。
それを見た領主様は言った。
「お前たちはまだ何か言いたいのか。
それとも2人に不満があると言うのか」
「親父、最初から言っているが、俺は別にエリーゼに不満がある訳ではない。
俺も以前にはエリーゼのことを少しそういう対象として考えた時もあった。
しかし、俺は領主家を飛び出した身だから、その俺がエリーゼを妻にして良いのかという問題はあるだろう。
それにそれ以前に、今、この情勢で妻を娶って良いのかということもある」
「私はデイヴとは違いマリアンヌということにも問題があります。
マリアンヌは兄と夫婦になることが決まっていたはず、それを弟の私が横取りする様なことは大問題です」
2人がそう言うと、領主様は
「デイヴィッドが領主家を飛び出したといっても、今ではこうして懸命に領民のため、それも大きく人間だけでなくラミアやハーピーまでも含めて考えて行動している。 何の問題があろうか。
それにエリーゼには、いや、それに加えてエリーゼの両親にも今のデイヴィッドの他の者とは違う状況も説明して了解を取ってある。 そこに問題はない。
それに今の情勢で妻を娶って良いのかと言うが、今の情勢だからこそではないか。
こうしてお前たちの子に会っているのだが、ミーリア殿から聞いたが、ラミアでもこれからのお前たちの死の可能性も考えて、ここで急いで子を成したと聞く。
また、ラミアの本来のあり方では、人間の妻が妊娠したらば、それに合わせてラミアの妻も子を作ったと聞く。
だとしたら、次の冬にはラリオ殿、ラーリン殿以外のお前たちのラミアの妻たちが子を産みたいと希望しているなら、早急に人間の妻を決めて、人間の妻に身籠ってもらわねばならないではないか。
来春に子を成すなら、人間は妊娠期間がラミアに比べればずっと長いから、ゆっくり構える暇はないではないか。
それにそれこそそれは、今後の不測の事態が起こらんとは限らないのだから、なおさらじゃ」
ここまでは領主様は時々キースの方に視線を移したが、ほぼデイヴに向かって話していた。
そこからあらためて領主様はキースの方に向き直ると
「キースリング、マリアンヌがお前の兄に嫁ぐことが決まっていたというのは、お前の勘違いだ。
お前の父が急死した後で、母がマリアンヌの家に行ったのは、お前の兄に誰か良い人がいないか紹介してくれと頼みに行っただけで、マリアンヌにお前の兄の嫁になる様に交渉に行った訳ではない。
お前はその時もうデイヴと共に狩人学校に行っていたから、正確な情報が伝わらなくて、そう早とちりしたのかも知れないが、それが真実だ。
それが証拠に、お前たちが生死不明になってからは、マリアンヌにはいくつもの結婚申し込みが正式にあったのだが、マリアンヌはお前の生死がはっきりしていないからと全て断ってきたのだ」
キースはまだ頑なだった。
「領主様、それは本当のことでしょうか。
マリアンヌからも言われましたが、私に気を使わせまいとしての言葉ではないのでしょうか?」
「キースリング、儂の言葉を疑うのか。
マリアンヌにはな、実はかなり有利な縁談がいくつも持ち込まれていたのだ。
それを断り続けているので、クラッドリングはマリアンヌのことを可哀想に思い、『私は、あなたのことを既に義妹と思っている、だから義兄の言葉と聞いてほしい、弟の生存はもう望み薄だろうから、良い縁を求めてほしい』と伝えたと言うぞ。
それに対してマリアンヌは『もしキースリングがこの世にもういなければ、あなたの義妹としてのみ、これからを生きたいと思います』と答えたと言うのは、館の騎士の間では知らない者はなく、そこから領地内の騎士たちに広く伝わったらしいぞ。
ま、それによって、騎士の間ではマリアンヌの人気というか評価はすごいことになっているらしいがな。
つまり、お前の心配する様なことは絶対ない。」
マリアンヌは領主様の言葉に顔を真っ赤にして困っている様だった。
「それでお前たち2人は、結局どうなんだ。
この2人が嫌なのか?」
「いや、親父、そんなことはもちろんない。
エリーゼが妻に加わってくれるなら、俺は嬉しいぞ」
「私もマリアンヌも妻になってくれたら嬉しいです」
こんな話をしている間、もう奥方様はデイヴの子のフローラを抱いてあやしていた。
領主様は奥方様に近づき
「もう抱いているなんてずるいぞ。 私にも抱かしてくれ」
と奥方様からフローラを受け取った。
奥方様はフローラを領主様に預けると、今度はキースの子のラメリーを抱いている。
奥方様は流石にラミアとはいえ赤ん坊を上手く抱いてあやしているのだが、領主様はそうはいかず、メリーが近づいて行って領主様のだくフローラをあやそうとしたのだが、効果が薄くメリーが言った。
「デイヴお兄ちゃんのお父さんは、赤ちゃん抱っこするの下手。
ローラちゃん、泣き出しちゃいそうだから、メリーにかして」
メリーが領主様から奪い取って抱くと、フローラは掌を返す様に上機嫌の声をあげた。
「うーん、メリーの様に上手くは抱けないのう」
そう領主様が渋い顔で言ったので、まわりはみんな笑ってしまった。
「メリーは歳が近いからか、今ここに来ていない赤ん坊たちにも大人気なんですよ。
抱き方が悪いという訳でもないと思いますよ。
男性が抱くとそんなものです」
とイクス様が慰めると
「なんだ、お前らも変わらぬのか」
と領主様は僕らに向かって、嬉しそうに言った。
この言葉に、僕たち3人は苦笑いだったのだが、カーライルさんが爆笑した。
うん、カーライルさんも居たんだった。
ラリオ様たちとラーリオ様たちは、そんなにしないですぐに奥に戻って行った。
奥方様がちょっとそれについて行きたそうにしていたが、ついては行かなかった。
戻る前に人間の2人が、奥方様に
「私たちは夜はこちらに来て過ごした方が良いのでしょうか?」と尋ねた。
「こっちでなくて過ごす場所があるの?」
「はい、みなさんがもっと昔の2人の話を聞かせてくれと言われまして、問題がなければ私たち2人は、ラミアの里の皆さんの部屋に連れて行ってもらえることになりました」
「あら、そうなの、それならそっちに行って良いわ」
と、人間の2人も一緒に行ってしまった。
そうして人数が減ったと思ったら、入り口の扉がノックされて、エレオンが入ってきた。
ちゃんとタイミングを計った様に来たなと一瞬思ったけど、計ったというよりきっと見ていたのだろう。
「失礼します」
「おっ、エレオンか、なんだどうした?」
ラーリア様が声をかけた。
「はい、予定にはないのですが、爺さんが明日の式の前に領主様に挨拶したいと言い出しまして、ご都合がつけばで良いのですが、もし出来るならこれからこちらに来る許可を頂けたらと、お願いに来ました」
「ハルオン様がこちらに来られるのか、ハーピーが入ってくるにはこの人数ではここでは手狭だな。
よし、ナーリアたち、食堂の方に用意をしてくれ。
エレオン、用意が終わったら、ハルオン様にお越しになってもらいたい」
「はい、了解しました」
「領主殿、急にすみませんが、そういうことでよろしいでしょうか?」
「はい、ラーリア殿もちろんです」
僕たちナーリアとデイヴ、キースは食堂の準備のためにそちらに向かう。
アンとセカンがやって来るハルオン様たちに出すためにお茶の用意をしようと竃に向かおうとしたらエレオンが
「アン、セカン、外にウスベニメとモエギシュウメが土産を持ってきているから受け取ってくれ」
と声を掛けた。
アンとセカンが外に出て行き、僕はデイヴとキースが
「会場作りは俺たちとナーリアとディフィーでするから、お前はアンとセカンと何かちょっとつまむ物でも作れよ」
と言われて、1人で竃のところに残った。
そんな僕に興味を持ったのか、奥方様がやって来た。
「アレクだったわね。 あなたは料理をするの?」
「はい、友たちと狩のために森に入っている時は、僕が料理番だったんです。
その後、何故かラミアに人間の料理を教えたりしたので、なんとなく今でもアンやセカンたちと一緒に料理を作る感じになっていて」
「お兄ちゃんはね、料理上手なの」
「まあ、そうなの。」
奥方様が僕に近づいていくのに気がついたメリーも寄って来ていて、僕の言葉をフォローしてくれた。
「ええっ、あの2人って、そうなの」
びっくりして出たのだろう、モエギシュウメの大きな声が中にも聞こえて来た。
「モエギシュウメ、声、大きい。」
ウスベニメが叱った。
「だって、なんか知らない人間の女が2人混ざっているなぁ、と思って見ていたけど、まさかそれぞれデイブとキースの妻の1人だったなんて、びっくりするじゃん」
少し声は小さくなったけど、一度聞こえてしまったら、普通の声に戻しても家の中にいてもなんとなく聞こえてしまう。
「うん、ちょっと驚いたけど、考えてみたらそうなるのは当たり前。
きっと残りのボブたちにもこれからすぐに町から来るんじゃないかしら」
セカンがそんなことを言う。
「アン、それじゃあ人間の女1人じゃ無くなるね。 良かったよ」
「うん、そんな気もするけど、私、今までラミアの里で唯一の人間の女だったけど、ま、メリーも居たけど、ちっとも困ったり不安になったりとかないからなぁ。
ナーリアたちといつも一緒だし、あなたたちも来るし、エーレアたちも来るし、ラーリア様、イクス様、ミーリア様、それにミーレナさんをはじめとする人たちに気を使ってもらっても居たから」
「ま、確かに、それはそうね。
私たちも、ここに来るようになって、あなたやナーリアたちと友達になって、同年代の同性の友人が出来て、世界が広がったもの」
「でもモエギシュウメ、もっと人間の同世代の同性と友達になるのは嬉しくない?
私はちょっと期待しちゃうな。
アンと同じように仲良くなりたい」
「うん、それは言えてる」これはセカンだ。
「私はもちろんだよ。
そりゃやっぱりあなたたちと仲が良くても、人間とラミアやハーピーは違うこともあるからね」
奥方様は僕に言った。
「アンは本当にここのラミアやハーピーたちと仲が良いのね。
今のおしゃべりを聞いていたら、良くわかるわ」
「はい、とっても仲が良いです。
なんか完全に馴染んじゃって、これで良いのかって僕も時に思ったりします。
昔、僕が信じていたラミアを考えると、信じられないので」
そんな感じに僕が苦笑気味に言うと、奥方様はクスッと笑った。
そしてちょっと安心したと言う顔をした。
「もう、あなたたち今はおしゃべりしている暇はないでしょ」
ナーリアの怒り声が聞こえて来た。




