270. 同行者
やって来た領主様は、なんだかとても興奮していた、いや感動していたのだろうか。
ラーリア様たちやミーリア様、イクス様、アレア様にロア様、そして友たちと僕たちナーリア、つまりラーリア様たちとイクス様を除けば町に行った全員が、奥の共同住宅前で領主様一行を出迎えた。
そして馬車から降りて来た領主様の様子が、そんな感じに全身を震わせた姿だったのだ。
馬車から降りて来た領主様は、出迎えの中にミーリア様を見つけると、
「ミーリア殿、私は感動した。
アルフレッドたちから話は聞いていたが、きちんとした道がここまで繋がり、それも素晴らしい道への復旧がどんどんと進められている。
それにも驚いたが、その復旧工事をしているラミアの方々が、みな手を止めて、我々に挨拶してくれた。
この感激を、この嬉しさをどんな言葉で言い表せば良いのか分からない。
まだ端についただけに過ぎないが、祖父の時代からの念願にやっと辿り着けたのだ」
ここで他の騎士に自分の馬の手綱を預けて近づいたカーライルさんが、領主様に注意した。
「まずは、集まっている方々を紹介していただいて、ご挨拶をしなければ失礼になります」
「おおっ、そうであった。
つい興奮してしまい、無礼を働いてしまった」
そう言って自分を抑えようとした領主様だが、その顔は涙に濡れている。
良い歳をしたおっさんが泣いている、ましてや領主という立場の人が泣いているのを見るのは、ちょっと異様な感じがしたが、僕はなんとなくその心中を慮れるような気がした。
「最初に言葉をかけていただきましたので、私からこのラミアの里の現在のリーダーであるラーリア様を紹介させていただきます」
ミーリア様がそう言ってラーリア様を領主様に紹介した。
「このラミアの里を代表しているラーリアです。
領主殿とお会いできる日を心待ちしていました」
「この地方の人間の領主をしているロンダイル_ヴェスターです。
先ほどはお見苦しい姿を、見せてしまい恥ずかしい限りです」
「いえいえ、それほどまでに領主家では我らラミアとのことに心を痛めていてくれたのだと、私も共に涙が溢れてしまいました。
しかし、とりあえず、まだロンダイル殿に初めてお会いする者を、紹介させていただいてよろしいでしょうか」
ラーリア様は、イクス様と他のラーリアの方々を紹介していった。
イクス様とラーリア様たちは軽い挨拶にそれぞれとどめている。
「私の方も紹介させていただこう。
まずはこちらが私の妻で、本人のたっての願いで同行して来た。
そしてこっちが私の腹心兼親友のカーライルじゃ」
「最も重要な式に妻の身で同行してくることに躊躇いを覚えましたが、どうしても夫と一緒にここに来たいという気持ちが抑えられなくて、来てしまいました。
よろしくお願いします」
「カーライルと申します。 お見知りおきを」
移動の疲れをとりあえずは癒すということで、領主夫妻は用意しておいた僕らの家の方に行くことになった。
デイヴが馬車で行くかを聞いたら、奥方様がぜひ歩いて行きたいと言って、歩いて僕らの家に行くことになった。
同行するのは、ラーリア様、イクス様、ミーリア様、それにサーブとレンスを除いた僕たちナーリアでアンとメリーも含まれる。
デイヴが言った。
「カーライル。 お前もこっちに来い」
デイヴとキースもこっち組だ。
「領主様、ラーリア様、僕はちょっとサーブとレンスと話をしてから、そちらに行きますので、少し遅れることをお許しください」
「ん、キース、サーブとレンスに用があるのか。
私は構わないが、領主殿はよろしいでしょうか」
「ああ、キースリング、私も構わないぞ」
キースは領主様たちとラーリア様たちに向かってお辞儀した。
「キース、すまないが2人に頼んでおいてくれ」
デイヴが苦い顔で、キースに言葉を掛けているが、奥方様は何故かニコニコしていた。
家に着くと、領主夫妻とカーライルさん、それにラーリア様、イクス様、ミーリア様、そしてデイヴには僕たちが普段食事に使っている少し大きめのテーブルのところに座ってもらい、僕らはお茶の用意をした。
「俺もお茶を出すのを手伝うよ」
デイヴがテーブルに着きたくなくて、そんなことを言ったが、ナーリアに
「そんなに人手は要らないわ。 デイヴは両親が来ているのだから、一緒してあげるべきよ」
とあっさり断られてしまった。
僕はそれにちょっとニヤッとしてしまったのだが、それが悪かったのかセカンに
「アレクもデイヴと先に席に着いて良いわ。
デイヴ1人、上の人ばかりの中じゃ、ちょっと可哀想だから」
「セカン、ありがとう。
アレクの奴、ナーリアの言葉を聞いた時、ニヤッてしやがったんだぜ。
さ、アレク、行こうじゃないか」
デイヴは僕を道連れに出来るとなって、急に機嫌よくなった。
「いや、俺はお前とは違うから、最初から座っている様な事は・・・」
僕がそう言い訳しようとしていると、ディフィーが
「ええい、本当にめんどくさいわね。
2人とも邪魔だから早く向こう行って。
アン、このハイク茶でいいの?」
「うん、それ。 メリー、そこのお盆取って」
「アン、私は何すればいい?」
「ナーリアはする事ないなら、ナーリアも一緒に向こうに行っていいわよ」
「それは嫌よ」
デイヴと僕は仕方なく、テーブルの方に行った。
「本当にあなたもアンも、館に来てくれたラミアたちと仲が良いのね」
テーブルに近づくと奥方様がデイヴにそう言った。
さっきのおしゃべりは途中から、ついいつもの声の大きさになっていたから、当然だがテーブルの方にいた者にも筒抜けだった。
「ん、なんだ母上、疑っていたのか。
前にも言ったであろう、俺もキースもナーリアたちとは仲が良いって」
「ま、なんだな、館に来てもらった時の様子でも、仲が良いのだなと思ったが、ここに来て普段の様子が垣間見えると、余計に本当に仲が良いのだなと、親としては嬉しく思うぞ」
「親父まで何を言っている」
デイヴはちょっと恥ずかしげだった。
「ナーリアたちは、ご子息たちと歳が変わらないので、皆気楽な友人関係を作っている様に、私には普段から見えます。
アンも含めての話ですが」
ラーリア様がそういうと奥方様が言った。
「この子はキースリング以外に友人と言える様な者を持たなかったので、親としてちょっと心配していました。
それは領主の息子という立場のせいだったかも知れませんが、先ほどの様になんの屈託もなく素の自分で、軽口を叩きながら会話しているなんて、ほとんど見たことのない光景なのです。
このラミアの里にいて、息子は幸せだったのだとつくづく思いました。
そして、全く連絡も寄越さなかったことを、とても納得しました。
それがゴブの来襲という事態に、自分から人間とラミアとハーピーの同盟のために動いたと知り、母として息子のことを今、本当に誇りに思いました」
デイヴは最初奥方が何を言い出すんだと、焦って止めようとする雰囲気だったのだが、最後の言葉を聞くとちょっと涙目になってしまった。
メリーがお茶をお盆に載せてトテトテとやって来た。
「メリー、そのお茶はちゃんと一番最初に、デイヴお兄ちゃんのお父さんとお母さんにお配りするのよ」
「はい、イクス母様」
メリーは領主様と奥方様の前にお茶を置くと、イクス様の膝の上に収まった。
その行為を奥方様がちょっと注目して見ていたのに気がついたメリーは、ちょっと言い訳した。
「今は、ティッタちゃんは奥のお家でいないから、メリーがイクス母様のお膝の上に乗っても良いの」
残りの人にはアンとナーリアがお茶を運んで来て、メリーにはセカンが別の飲み物を持って来た。
メリーのは玄米を煎って、それに水を入れて煮出した汁を冷ました物だ。
「メリー、ティッタちゃんていうのは誰なの?」
奥方様がメリーに聞いた。
「イクス母様の赤ちゃん。 まだちっちゃいけど可愛いの。
他にもまだたくさん赤ちゃんいるよ」
「そういえば、ラーリア殿も赤ん坊を産んだばかりと聞いた。
こちらにイクス殿もだが、赤ん坊から離れてこちらに居ても良いのだろうか」
領主様のちょっと赤ん坊を心配しての言葉にイクス様が答えた。
「はい、その点は大丈夫です。
元々ラミアは、子供は全体で育てるものという意識が強くて、産んだ当人だけでなく、多くの者が子育てに参加します。
ま、確かにそれでも乳を飲ませることが出来るのは、子を産んだ者だけですが、それでも左右に抱えれば半分の人数で済みますから。
今は私たち2人以外は子供と一緒ですので、何の心配もいりません」
それにラーリア様も付け加えた。
「もうそろそろ、道の復旧に出ていた者共も戻って来て、申し訳ないのだが少し外が騒がしくなってしまいます。
温泉施設がこの家に隣接して設置してあるために、戻った者が体を清めに利用する為です。
温泉はその後、きれいに清掃するので、後で領主殿にも楽しんでいただければと思うのだが、実は先に工事に出ていた者共に温泉を使わせてもらうのには理由があります。
道の復旧工事に出ていた者の中にも、デイヴとキースの妻と言って良い者が数人ずつ居り、体を清めた後で、まとまって領主殿ご夫妻に挨拶に来る手筈になっているのです。
その時にはデイヴとキースの子も同道してくることになっているので、子供たちとも会ってやっていただければ幸いです。
ただ、ラミアの子供は生まれて半年経つと、成長が人間の子供に追い付いて、それからはほとんど変わらないらしいのだが、今はまだ人間の子供と比べるとかなり見た目が小さいので、そこに驚かない様にお願いしたい」
そこから話が温泉の話に移り、ラミアの里に温泉が出来たのも、今回のハーピーとの同盟がきっかけだったことなんかが話された。
その温泉を引いて来て設置するにも、ラミアだけでは出来ず、人間とハーピーの力を必要としたと、ミーリア様が説明したりもした。
そんな話をしていると、キースもやって来た。
「キース、ご苦労さん」
デイヴが声を掛けて、ディフィーがキースの分のお茶を持って来てあげている。
「音と気配でお分かりでしょうが、復旧工事に出ていた者も戻って来て、今温泉に入っています。
もう少しすると、ま、何と言うか、僕の口からは言いにくいのですけど、ラリオ様たちとラーリン様たちが揃ってやって来ます」
「おおっ、デイヴィッドとキースリングの嫁たちと子供が、挨拶に来てくれるのだな」
「はい。 まあ、そういう事です」
領主様の言葉に、キースが何というかドギマギしている。
「ところで、これは最初に言わねばならない事だったのだが、ラミアの皆さんには今回のフロード排除の件もだが、それ以上に入り込んできたゴブを殲滅していただいたことに礼を言わねばならなかった。
遅れてしまい、申し訳なかった」
「いえ、それはもうとっくにミーリアを通して、聞いておりますし、礼としての馬も受け取っています」
「それも、こちらの都合を優先してくれたことを、私は理解しているので、逆に礼を言わねばならない事柄じゃ」
そこから、少し話が現実的なゴブの認識と対処の話に傾いてしまった。
ハーピーが今はいないから、具体的な対処をどうするかには踏み込まなかったが、かなり色々と現状などの話をしていた時、入り口がノックされ、ラリオ様とラーリン様を先頭にして、まとまった人数が入って来た。
何故か人間の女性が2人混ざっている。
どうやら領主様たちの小間使いとして一緒して来た女性の様だが、何でこの集団に混ざっているのだろう、と思った瞬間に思いついて、デイヴの顔を見た。
「うん、そうなんだ。
2人は俺とキースの人間の嫁になるという女性なんだ。
まだ用意も出来てないと断ろうとしたんだが、『とにかくとりあえず一緒に行く』と付いて来ちゃったんだ。
母上がそれを後押しするから、押し切られちゃって」
なるほど、それでキースがサーブとレンスに話があるから、ということだったのか。
デイヴの言葉を聞いたナーリアたちとアンは、領主様たちやラーリア様たちの前であることを忘れて、すごい勢いで互いにおしゃべりを始めた。




