266. アルフさんの用事は
温泉から上がり、家に入ると、ハキとエレオンが居た。
中に居る子供を見るために急いだのか、一番先に家の中に入ったダイクが最初にハキに気がついた。
「おっ、ハキ、いつ戻ってきたんだ」
「ついさっきだよ。 お前らみんなが温泉で何か話しているのを上から見たよ」
「いや、俺たちみんな騎士になってたと聞いて、びっくりしていたんだ」
「ああ、その話か」
ハキはどうやら騎士の話は知っていたみたいだ。
僕はアライムに声を掛ける。
「アライム、朝から大忙しだな」
「ま、そうだけど、ハキを連れ帰って来るのが、一番の目的だったからな。
さっきブマーが来るのを伝えたのは、ほんのついでだよ。
何しろ、昨日ハキに朝一での移動を強く頼まれていたからな。
ハキには『迎えに来るのが遅い』と文句を言われていたんだ」
ハキはアライムの言葉を聞いていたようだ。
「それはそうだろ。
本当なら昨日のうちに戻る予定だったんだから。
僕がハナに会えないのは仕方ないけど、これだけ間が開いて、ラーリベ様のおっぱいの出が悪くなったら大変じゃないか。
大急ぎで戻って来ようとする気持ちはわかるだろ」
ハキの言葉の勢いに誰も反論できず、
「うん、そうだな」 「確かにおっぱいの出が悪くなったら困るもんな」
とハキの言葉を肯定して頷いた。
「あ、でも、この後は俺たちも話し合いに参加だと、さっきラーリア様に言われたぞ」
ボブがハキにこれからの予定を伝えると、ハキは
「ああ、それもさっき聞いたけど、僕とラーリベ様は免除になった。
僕とラーリベ様は奥に戻って良いことになって、代わりにミーリベ様を参加させるように、とラーリア様が言ってくれた。
ということで、僕はもう行くよ」
いつの間にか、僕らのすぐ脇にはもうラーリベ様と、今日の担当なのだろうアーリベ様がハナを抱いて待っていた。
3人はすぐに立ち去った。
ラーリベ様が嬉しそうなのは当然だけど、アーリベ様がラッキーという感じでとても嬉しそうだ。
ま、みんなアーリベ様の考えていることは分かるから、ちょっと苦笑していたけど。
「それで結局のところ、アルフさんはなんで急にラミアの里に来たのですか?
色々とラミアやハーピーと人間との間で話し合いを持つ必要があるのはわかりますし、ミーリア様だけでなくラーリア様たちとも直接話をしたいというのもあると思うのですけど、それだけなら急に来るということはないですよね」
昼食を食べながらの雑談にエレクがアルフさんにそう聞いた。
アルフさんはアンとおしゃべりをしていた。
今日の昼食はアンが中心となって作ったのだが、ちょっと食材が乏しくて簡素なものになってしまったのを、アルフさんに謝りに行って、そのままおしゃべりをしていたのだ。
アルフさんは、アンとメリーをかまいたいんだよなぁ。
「うん、それがな、母上が馬車で行けるのだから、初孫の顔を見に行きたいと言い出したんだ。
『それにアンとメリーがラミアの里でどんな生活をしているか、見届けてくる義務が、2人の後見となった私にはあるのです』
なんて言い出して、今にもそのまま出て行きそうな剣幕だったんだ」
アルフさんがそう苦い顔をして説明していると、デイヴも落ち込んだ顔をしている。
「とにかく、『俺が一度様子を見てきますから、母上はその後に』と言って、馬で来ようとすれば付いて来そうな勢いだったから、ハキに無理を言ってハーピーに飛んで連れて来てもらうのを譲ってもらったんだ。
流石に空を来るのに付いては来れないからな。
という訳で、俺はデイヴィッドの最大のピンチを救うためにここに来た訳さ。
もちろんせっかく来たからには、人間とラミアの間の懸案事項の話し合いも
しっかりとするつもりだ」
「領主殿の奥方はなかなか活発な方で、どうやら誰もそれを止められんらしいな」
アルフさんの言葉を聞いていたラーリア様が少し笑いながら言った。
「デイヴは青い顔をしているし、キースも、急いでやって来たブマーと言ったか、その2人も渋い顔をしているところを見るとそんなところだろう。
ま、ここに来た経緯はともかく、アルフレッド殿もフローラの顔を見て、アンとメリーと話すだけで帰る気は無いだろう。
我々としても領主殿たちの考えを直接に聞けることはありがたい。
さっそく話をさせてもらおうか」
ちょうどラーリド様の代わりに話し合いに参加するミーリド様が到着したからであろうか、ラーリア様がそう言って話し合いが始まった。
参加しているのは、ラーリア様たち、イクス様、ミーリアの上5人、それに僕たち人間とナーリアたちだ。
発言権が有るのか無いのかはっきりしないが、それぞれの子供の今日の担当も子供と共に一隅に固まって一緒にいるので、食堂となっている元作業場はちょっと手狭になっている。
ラーリア様は話し合いを非公開にする気はなく、上位のなるべく多くの者が情報に接するようにして、情報を共有し、意見を持てるようにしたいみたいだ。
「ラミアに対して、人間からというより、領主から礼がしたいという話は、ミーリアから返答させはしたのだが、色々な意味があるようだな。
ラミアはそういった機微に、人間との交流が絶えて久しいので鈍いので、デイヴが説明してくれねば気がつかなかった。
ここではそういった配慮をしなければならない人間はいないので、直裁的な言い方をするが許してもらえるだろうか」
「はい、ラーリア様もちろんです。
人間同士のつまらない軋轢に配慮していただき、ありがとうございます。
また、そのための配慮の一つとして、先ほど温泉の中で伝えたのですが、ラミアの里にいる人間、ま、デイヴィッドは別なのですが、それ以外の者は皆、形だけですが騎士に任命したことを事後報告となってしまって申し訳ないのですが、お伝えします」
そんな言葉から話し合いは始まった。
ラミアたちは僕らが騎士に任命されたと聞き、何かしらの義務などを負うことになり、現状と変わることがあるのかと心配したが、アルフさんの「本当に形だけで、騎士という地位になったこと以外、何も変わることはない」の言葉に安心したようだ。
それからアルフさんは僕たちに対して、僕たちの家族全員と連絡がついたことを教えてくれた。
家族から僕たちへの手紙がもうすぐ届くそうだ。
長々と完全に音信不通になって生死もはっきりしなかった訳で、家族は急な領主からの連絡に驚いたことだろう。
僕も含めてだが、みんなちょっと微妙な顔をしている。
嬉しいのかな。 僕もおばさんに、自分がちゃんと生きていることが伝わったのは、ちょっと嬉しい気がする。
ラミアが領主家に望んだ馬は、ギュートが推察していたとおり、フロードおよびフロードに関連した者から接収した馬がかなりの数になったので、望みのとおりになることになった。
こちらの準備が済み次第、20頭の馬がラミアに送られて来ることになったそうだ。
もう草が生え始めてきたが、まだ馬の餌も必要だろうということで、馬と共に飼料も準備してくれているということだ。
馬の数が増えて、ギュートの仕事が一気に増えることだろう。
そしてバンジの最優先にしなければならない仕事は馬小屋作りとなった訳だ。
ちなみにブマーが乗ってきた馬も、今回ブマーが騎士に任命されるにあたり、領主様から褒美として貰ったモノとのことだ。
それから色々な話がされたのだが、基本ミーリア様が報告していたことの確認だった。
ま、当然だし、そうでなくては困る。
ただ、フロードの影響は地味ではあるが大きいみたいだ。
フロードの悪事に関わっていた者は然程多くなく、ほとんどは単純に上からの命令ということで動いていただけで、意味がわかっていなかった。
ただ、関わっていた者は少数なのだが、それらは関わることで利益を得ようとしていて、この地方それぞれの場所の有力者が多くいた。
フロードはこの地方の軍事力を支配下に入れようとすると共に、経済的な力も手に入れようと画策していたのではないか、というのがカーライルさんの考えだ。
ことが露見した今は、そのようにフロードに与した者は一掃されたのだが、その範囲は最低限に絞られた。
まだこの地方では、それぞれの土地はその土地の有力者が軍事も経済的なことも一手に握っている傾向が強くて、そこを完全に潰すと回らなくなってしまうからだという。
とりあえずそれらの有力者の家は潰し、頭になる代官を置く形にしているということだが、代官にする人材というのも、そんなにすぐに何人も確保できる訳ではないので、なかなか手が足りず、立て直しに時間を食っているのだ。
アルフさんは、その後も数日ラミアの里に滞在した。
「兄貴、もうフローラにも会ったし、すぐに戻った方が良いんじゃないか」
「俺だって、少しは羽根を伸ばす時があっても良いだろう」
「兄貴はここではお客様で役に立たないというより、周りの迷惑だ。
それにすぐにでも砦の方に行かないといけないんじゃないか」
「大丈夫だ。 そっちはもうクラッドリングが行っているから、安心して任せておける」
夜はブマーに別の部屋を用意しようかとしたら、
「ブマーは僕の護衛に任命されているから、一緒の部屋で良いですよ。
ここでは護衛は必要ないのに来たのですから、一応護衛らしいことをさせたくもありますしね」
アルフさんがそう言って、同じ部屋にいることにさせたのだが、それを聞いてキースが大笑いしていた。
「ブマーも、まさかアルフレッド様と同じ部屋で寝なければならなくなるとは思ってなかったんじゃないかな」
アルフさんとブマーは戦闘訓練にも参加した。
喜んだのはエーレアたちである。
アルフさんとブマーは、エーレアたちにも訓練の最後の実戦形式の立ち合いで勝つことが出来なかった。
「私たち今まで誰にも勝てなくて、ちょっと自信を失っていたのだけど、これでも少しは強くなっているんだわ」
「それにしても人間の男はみんな強いのだと思っていたのだけど、ちょっと意外。
私たちでも勝てる人間の男もいるのね」
なんか散々な言われようなのだが、初めて上位ラミアのハードな訓練に参加して、立ち会いの時にはもうヨレヨレだったのだから、アルフさんとブマーがエーレアたちに勝てなかったのは無理もないと思う。
「エーレアたち、疲れてない状態で立ち合ったらお前たちより、アルフさんやブマーの方が強いってキースが言っていたぞ」
「そうなの。
でも疲れてないで戦闘するなんて、現実としてはあまり考えられないわ」
「うん、ま、そう言われるとそうなんだけど」
僕とエーレファのこのやり取りはブマーには効いたようだ。
「前にここまで館から走った時にも、自分の体力のなさを感じたのだけど、今回は本当に骨身に沁みて、体力を付けねばいけないと思ったよ。
体力負けして、同世代のラミアにも剣の技量以前の問題で敵わないんじゃ話にならない」
ところで、アルフさんはともかくとして、訓練の後でブマーのエーレアたちの評価がガタ落ちだった。
今現在起きているラミアの中で、エーレアたちだけは精を得る人間の男がいない。
それだから、ラーリア様から
「ラミアの里に客として来ているのだから、精を得ようなどとは考えないように」
と釘を刺されていたのであるが、エーレアたちはブマーをちょっと狙っていたようだった。
ところが訓練に参加して、自分たちがブマーに勝ってしまったら、その狙っているという雰囲気が全くなくなってしまった。
「いや、それはやっぱり精を得るなら、自分より強い男の精を得たいじゃない。
私たちにとっては、男はみんな私たちより強いものだという気持ちがあったから。
事実として私たちはアレクたちには全く勝てる気がしないわ。
それはミーレア以下みんなそうなんだから、そこは別に悲観している訳ではないのだけど。
でも私たち以外はみんな私たちよりずっと強い男の精を得ているのに、私たちだけ自分より弱い者の精を得るんじゃ、ちょっと嫌じゃない」
うん、まあ、言わんとすることは理解できない訳じゃない。
今の状態だとブマーを評価する基準がそこしかないからね。
ま、ちょっとブマーには聞かせられない話だな、雰囲気が変わったのはブマーも感じているみたいだけど。
その後、アルフさんは鍛冶場を見たり、炭焼き場を見たり、畑を見たりと、ラミアと僕たちの普段の生活の一端を見て回ったりした後、またエレオンを頼んで館に飛んで戻って行った。
ブマーはというと、何故か馬の手綱を持って、走って館に戻って行った。
戻る前に戦闘訓練での再戦を、しつこくエーレアたちと約束していたから、負けた後エーレアたちの雰囲気が変わったのが、一番こたえたのかもしれない。




