265. 騎士
アルフさんは結局やって来たその日の晩は、奥の共同住宅でミーレナさんの作った食事を食べて、その時にラリオ様とフローラに少しだけ会って、すぐに里のミーリオ様の部屋に案内されて寝たとのことだ。
もうすぐに時間が夜になってしまったので、赤ん坊のフローラは寝かさねばならなかったかららしい。
ミーリオ様の里の部屋で寝ることになったのは、最初ラリオ様が里のラリオ様の部屋が使われていないのだからそこでと提案したのだが、今現在里のラーリア様たちの部屋は使われていないので、周りに誰もいないことになってしまうので、ミーリオ様の部屋にすることにしたらしい。
ミーリオ様の部屋ならば、部屋のドアを開けて通路の反対側のドアはミーレオ様の部屋だ。
最初はデイヴが同じ部屋で寝ようかとしたらしいが、アルフさんが
「デイヴィッド、ラミアの里ではお前のラミアの妻たちに果たさねばならない毎日の勤めがあるのだろう。
もう寝るだけだから、1人でも何も問題ない」
とデイヴに言ったとのことだ。
アルフさんの株がミーリオ様たちの間で随分と上がったらしい。
「それじゃあ、兄貴、何かあったら対面のミーレオ様の部屋に俺たちはいるから、すぐに起こしてくれ」
アレオ様は当番でラリオ様に付いているが、ミーリオ様、ミーレオ様、ロー様の3人もミーレオ様の部屋にデイヴと一緒に夜を過ごしたらしい。
翌日、朝食後、戦闘訓練を始める前に、アルフさんは改めて起きているラミア全員に挨拶をした。
「みなさん、昨日はお騒がせをしてしまって、申し訳なかった。
今回の僕の訪問は、少しは公的な話をラーリア様たちとするためではあるのだけど、主目的は初の姪っ子に会うことというとても私的なことです。
ですから、今回は領主家の長男ではなくて、単なるデイヴィッド、いやデイヴの兄が姪っ子を見に遊びに来たと思って、気軽に接してもらえると嬉しい」
訓練が始まり、今日は風もなかったので、訓練の場に子供たちも連れて来られていた。
一角に毛皮の敷物が敷かれて、そこに当番に当たったラミアが半数の5人と、アンとメリーとともに子供たちもいる。
朝だからか、子供たちもおっぱいを飲んだばかりだが起きていて、メリーを真ん中にして、なんとなく袋から顔と手を出して遊んでいるみたいだ。
というか、メリーが順番にかまっていくと、それに大喜びしているのだ。
アルフさんはアンと話しながら、その光景を眺めたり、訓練を眺めたりしている。
エレオンが訓練をしている場に空から降りて来た。
何かと思ったら、周りにも聞こえる声で、とりあえず降りて来たエレオンに近付こうとしていたミーリア様に報告した。
「ブマーが単騎でこちらに向かっていますが、どうしましょうか?」
ミーリア様はそれを聞くと、まあそうなるよなと思ったみたいで、
「ブマーに、アルフレッド殿もラミアたちもここに居ると教えてあげて。
奥まで来て誰もいないと、戸惑ってしまうと可哀想だから」
「はい、了解しました」
エレオンは僕たちやアルフさんに視線を投げかけて、ちらっと投げかけると飛び去って行こうとした。
アルフさんが声を掛けた。
「エレオン、館に行くなら、僕は2-3日ここで過ごしてから帰ると伝えてくれ」
「ああ、分かった」
エレオンは去って行った。
少ししてブマーがやって来た。
「おお、ブマー、来たな」
キースが声を掛けた。
ブマーはラーリア様たちの方に向かって挨拶した。
「突然に勝手にラミアの里を訪れまして、申し訳ありません。 ブマーです」
ラーリア様が応えてあげている。
「何、事情は分かるし、一向に構わない。
お前もリラックスして、アルフレッド殿とラミアの里を楽しんでいってくれれば良い」
「はい、ありがとうございます」
ギュートが相手をしていたミーリト様にことわって、ブマーが乗ってきた馬を預かって、奥に向かって行った。
ブマーがアルフさんに近づいて行って言った。
「アルフレッド様、1人で誰も連れずに出かけないでください。
私らはアルフレッド様の護衛という役をいただいているのですから、とても困ります」
「いや、このラミアの里に来るのに護衛は要らないだろう。
ここには怪しいものは全く居ないぞ。
人間の町にいるよりも安全ではないか」
「確かにここに居る分にはそうなんですけど、移動途中なんてのもあるじゃないですか」
「移動はハーピーに空を運んでもらったのだから、これも安全そのものだろう」
「確かにそれはそうなんですが、とにかく私は立場的にすごく困りますので、せめて私くらいはお連れください」
「いやお前、それは無理だろう。
空を行くのに、お前を掴んで空を行けるハーピーはいなかったからな。
それに、俺はハキから防寒具を借りたけど、それなしでは寒くて無理だぞ、まだ」
どうやらブマーは今ではアルフさんの護衛という立場になっているようで、今回のことは困ったみたいだ。
「ま、とにかく、お前もここに来たなら、俺と一緒に少しラミアの里を見ていけ。
前に来た時は、砦に向かうために本当に短時間いただけで、里を見せてもらうこともなかったからな、それに俺はここでラミアの訓練を見ていて、自分でも参加してみたくなった。
明日は一緒に参加させてもらおう」
なんだかブマーがアルフさんへの説得を諦めたみたいだ。
訓練が終わり、僕らは最後に温泉に浸かっている。
僕らというのは、アルフさんとブマーも含めた人間の男たちのこと。
ラミアたちは全く気にしないけど、上位全員が次々と順番に訓練の汗を流すために温泉に入るのに、アルフさんとブマーが混ざれる訳もないし、その間放っておく訳にもいかないから、デイヴとキースが2人に付き添おうとしていた。
それを見て、僕も付き合おうとしたらボブが
「それじゃあ、今日は最後に男たちだけで温泉に入るか。
ここで待っていれば、誰か呼びに来てくれるだろう」
と声をあげたので、こういうことになっている。
「アルフレッド様、本気で明日はあの訓練に混ざってみようと言うのですか?
もうなんだか最後は凄まじいことになっていた気がするのですけど」
「まあ確かに、館の騎士の訓練より激しかったな」
「ストーム様に本気でやられたら、あんな感じになっちゃいますけど、ストーム様は僕らに対して、そんなに本気になることはないですから」
「ま、良い経験だ、とにかく明日は混ざってみよう。
デイヴィッド、キースリング、俺たちはどのくらいできそうだと思う」
流石にアルフさんを評するのをキースが躊躇ったみたいで、デイヴが応えた。
「そうだな、2人の技量が俺が知っている以前からそんなに変わらないとしたら、エーレアたちには勝てるんじゃないか。
なあ、キース」
「そうだな、そんなところかな。
ただし、最後まで体力的についていけたら、という条件がつくけど」
「エーレアたちというのは?」
アルフさんが聞いた。
「僕たちをラミアが温泉に入り終えたからと呼びに来てくれた2人のグループですよ」
僕が応えた。 僕らを呼びにはエレオとエレドが呼びに来てくれたのだった。
「えっ、あの一番若い娘たちのこと」
「ブマー、若いって、エーレアたちはナーリアたちの姉妹で、ナーリアたちと同い年だぞ。
それにさっき俺は、体力的についていけたらと条件をつけただろ。
甘く見てると、エーレアたちに叩き伏せられるぞ」
ブマーが、「えっ、どういうこと?」とキースの言葉に疑問という顔をした。
「ナーリアたちはエーレアたちよりも一回多く脱皮しているので、エーレアたちよりも体が大きくなったんですよ。
それから、体力が尽きて疲れ切っていたら、剣の技量なんて関係ないですから」
僕がブマーが顔に浮かべた疑問はどっちだろうと考えた両方を、エレクがブマーに教えてやっていた。
「ということは、お前たち2人の見立てだと、俺とブマーは一番若く見える、えーとエーレアと言ったか、あのグループと互角というところか。
他のグループとならどうなんだ?」
「兄貴、他のグループはみんなエーレアより格上なんだよ」
「キースリング、ちょっと本気で尋ねるのだが、つまり俺とアルフレッド様では、エーレアとやっと互角で、他には歯が立たないということか」
デイヴの言葉を聞いたブマーがキースに確認していた。
「うーん、そうだなぁ。
全く疲れていない状況で戦えば、もしかしたらアーリア、アーレア、アーロアというグループの人たちとも、少しは勝負になるかもしれない。
でも今回の訓練のように、その前に基礎訓練などで体力を削られていたら無理だな。 確実に手も足も出ないと思うぞ」
ブマーは少し騎士としての誇りが傷ついたというような顔をしている。
「で、俺は前に館で訓練した時に、お前たちの強さを思い知らされたのだけど、今日の訓練の最後には、お前らも立ち上がれないほど叩き伏せられていたのだが」
「今日はまだ手加減されていて、以前のようには叩き伏せられていないぞ。
前は訓練後は誰もまともに立っている者がいない状態だったからなぁ」
「お前たちがか」
「いや、ブマー。 俺たちは毎回叩きのめされて地面に完全にダウンしてたよ。
教えてくれていたミーリア様たちまでが、まともに立っていられないところまで、訓練が激しかったんだ。
今はラーリア様たちが子供を産んだ後のリハビリを兼ねているから、そこまで厳しくしていないだけだよ」
「これで、リハビリだから手を抜いているのか、半数以上倒れて起き上がれなかったぞ」
「ああ、起きれなかったのが、アーリア、アーレア、アーロアだ。
この程度だと、ミーレアより上の方たちは、まだ倒れないな、ま、俺たちも含めてだけど」
「お前たちも、ナーリアたちも叩き伏せられていたじゃないか」
「ああ、そうだけど、まだ訓練終了の時でも立ち上がって動けるからな。
そんな状態は倒れたうちには入らないよ。
アリファ様も普通に立っていただろ」
聞いていたアルフさんが声を掛けた。
「アリファ様というのは、全身に重そうな鎧をつけて大きな盾を持ったラミアか?」
「ああ、そのラミアだ。
本気の訓練の時は、そのアリファ様が地に倒れて起き上がれないでいる時が、訓練の終了の合図なんだ。
それまでは意識ある限り、訓練は終わらないんだ。
『不死身』の二つ名を持つアリファ様が倒れている時が、本気の時の訓練の終了の合図だからな、今日なんかはまだまだ軽い訓練だよ」
「それにしても、お前ら、館での訓練ではとても強かったと思ったが、キースをはじめ、みんな手も足も出ないという感じでやられていたな」
「兄貴、それは仕方ないだろ。
今日俺たちが相手にしていたのは、ラーリア様たちだぞ。
ラーリア様たちはまだリハビリ中とは言っても、化け物級の強さだ。
ストームと同じとまでは言わないが、それに匹敵する強さだぞ、みんな」
「デイヴ、お前の言葉を修正する。
ラーリア様とイクス様、それにミーレナさんはストーム様と完全に同程度に強いと俺は思う」
キースがそう言って付け加えると
「それにラーリア様たちは、俺たちとは違って実戦の経験値が高いから、本気の戦いになった時にどれだけ強いかは、俺たちにはとても測り知ることができない。
打ち掛かってみるほど、そういう底深い違いを感じる」
「うん、そうそう。 俺たちとの訓練は遊びという感じだな。
本気の戦いだったら、何をしてくるかもわからないという怖さがあるよ」
「そうそう、ま、俺たちから比べたら、桁違いに強いということは確かだな」
ボブもキースと同様に付け加えると、他のみんなもどんどん付け加えてラーリア様たちの底知れぬ強さを語った。
アルフさんとブマーが、そんな言葉にちょっと気圧されていた。
「そうそう、このブマーなのだが、俺の護衛になったことは、雰囲気でわかったと思うが、もう一つ、見習いではなくなったんだ」
「フロードとの戦いの後で、正式な騎士に任命されました」
ブマーがちょっとかしこまった雰囲気と口調で、みんなにそう挨拶した。
ま、温泉の中で裸で挨拶しても、あまり締まらないのだけど。
それでもみんなに口々にお祝いの言葉を言われると、嬉しそうだ。
「あ、それで、これも決まっていることなのだけど、ここに居る全員、騎士に任命されているから」
アルフさんの言葉にみんな驚いた。 もちろん、僕も。
「ええっ、なんでそんなことになっているのですか。 僕たち単なる狩人見習いですよ」
ケンが一番に叫んだ。
「いや、お前たちみんな、デイヴィッドと共に領主の秘密任務に就いていた、ってことにしただろう。
それだから、それに対しての褒美を出さなければ周りが納得しないし、それにお前ら館の騎士より強いことを見せちゃっただろ。
だから騎士に任命しない訳にはいかないんだよ」
あ、なるほど、確かにそんな馬鹿みたいな設定で説明をしたことがあるような気がする。 全く忘れていた。
「それじゃあ、やっぱりアルフレッド様とお呼びしないとまずいですよね」
と僕が言うと、
「いや、そこは今までとおりアルフさんで頼むよ、公式な場は別として。
アレクだけでなく、みんなもだよ。
みんなを騎士に任命するのは、あくまで建前上仕方がないからで、それでどうこうしようという考えはないんだ。
でもまあ、みんなが家族や知り合いに、騎士という立場になったということを利用して物事を伝えるのは一向に構わない」
僕たちは知らない間に騎士になっていたようだ。




