262. 上位の全体会議は続く
その後、子供達のおっぱいの時間を挟んで、会議は続く。
おっぱいを飲んだ子供たちは、それぞれ担当のラミアに抱かれる形になるのだが、みんな1箇所に集められている。
もう生まれて1ヶ月以上、2ヶ月近くになるので、おっぱいを飲んで、袋の中の布を替えてもらっても、即座には寝ない子も多い。
メリーはそういった子にちょっかいをかけている。
メリーはそういった子に話しかけたり、指で撫でたりしているのだが、メリーは何故か子供たちに人気で、明らかに小さな子供たちが喜んでいるのが判る。
そうこうしているうちに、子供たちは静かにまた眠ってしまった。
ミーリア様の報告というか話が続く。
「そしてこれは直接ゴブに対する対策というような話ではないのですが、領主様より先の件についてラミアに対して礼をしたいとのことです。
『フロードの排除は、人間の中の揉め事で本来ラミアやハーピーの力を借りて良いことではなかった。
今回ゴブの襲来が迫っているかもしれないという非常時だったために、大急ぎでフロードの排除をしなければならず、同盟したばかりのラミアとハーピーの力をためらいなく借りてしまった。
人間であれば、その功績に対して褒美という形になるのだが、ラミアとハーピーに対してその言は不敬であろう。
だからお礼という形で、少しでも感謝の意を伝えたい。
ただ残念なことに我々人間は何をしたら、何を進呈したらラミアとハーピーに対する礼になるかが解らない。
そこですまないが、何か我々に望んでくれないだろうか。
我々は出来る限りその望みに沿う様にしよう』
という口上です」
「ああ、確かにフロードの排除は、我らにとっても絶対に必要なことではあったが、本来は人間内のことであったな。
ミーリア、この件に関してハーピーはどの様に答えたのだ。
ハーピーは毎日往復していたのだから、それなりの言葉を返していたのではないか」
「はい、ラーリア様。
ハーピーは、そのなんていうか微妙な言い回しでした」
ラーリア様は、ミーリア様に黙ったまま続きを促す仕草をした。
「エルシム様はこう言われました。
『領主殿の申し出は非常にありがたい。
我々ハーピーは領主殿の言葉の通りに、人間たちの温情に縋りたいと思う。
ただ、我らの望みは今ここで言うことではなく、同盟が正式に調印された後に、条件が整えば歓談の時にでも聴いていただけると嬉しい。
条件が整わなければ、まだ後々のこととなるかもしれないが。
あ、我々はカードを後にまで残したいと思って、こんな風に言っているのではないことだけは付け足しておこう。
我々は本当に領主殿の申し入れをありがたく思っているのだ』と」
「なるほど、確かに微妙な言い回しだな。 何とも捉えどころがないな。
ハーピーが何か少し切実なことを抱えていて、それに対して領主殿の援助を得たいという様な感じはするが、憶測に過ぎんな」
「はい、私もその様な印象を受けました」
すごいな、エルシム様の言葉でそこまでの推察ができるのか、と僕は思った。
「さて、どの様に対処したら良いかな。
この件に関してデイヴ、お前はどう思う。 領主殿の息子であるお前なら、どうするのが良いかの見当もつくんじゃないか」
デイヴは考え込む様な感じで、少し時間を取って答えた。
「ラーリア様、ラミアの里にとって、今人間の領主家から何らかの礼をもらった方が良いのか悪いのかは、私が考えたのでは判断がつきません。
それに、今現在何か礼として受けて助かるものがあるかどうかも、ちょっとおもい浮かびません。
ですから、これは逆に領主家の立場に立って答えさせていただきます。
領主家の立場に立つと、ぜひ何らかの礼を受け取っていただけると助かります。
領主家に従う者たちにしてみれば、ラミアやハーピーが何の礼も受け取らないとすると、『あれ程働いたのに、何も見返りがないのか』ということになってしまいます。
もちろんラミアやハーピーは従う者ではなく、同盟している者ですから立場は全く違うのですが、下の者にしてみれば、それは関係なく、働いたのに何も貰えないと感じてしまうのです。
ですから、そういう声を起こさせないためにも、形だけでも何らかの礼を受けてくれると、領主家としては助かるのです」
うん、デイヴの言っていることは分かる気がする。
領主様に従って戦いに出ても、何の褒美も出ないとしたら、次の戦いには決して出ようとは思わなくなるだろうな。
実際はゴブとの戦いは、自分たちの生死もかけた戦いだから、そんなことを言っていられることではないと思うけど、その切実さを感じて物事に当たっているのは、きっとほんの一握りだろう。
僕だって、ここでそういった戦いを実際に経験しなかったら、そんな風だったと思う。
そんな以前の僕の様な者たちも領主様は動員することを考えなければならないのだ。
「なるほど、そういうことか。
ラミアの里では、そういうことを考えねばならない関係はないから、デイヴの解説を聞かなかったら、領主家が我々に礼をしたいということの、他の人間に対する方の意図については考えもしなかったな。
そういうことなら、何かしらの礼を受け取った方が良いだろう。
ミーリア、お前はどう判断していて、どうすれば良いと考えていたんだ」
ラーリア様はミーリア様にそう質問した。
ラーリア様たちが卵を抱えてから、そして子供を産んでからはほぼ全てのことをだけど、ラミアの里の諸々のことはラーリア様たちに代わりミーリア様たちが実質的な運営を任されていた。
それもあるからか、まずミーリア様の判断と考えを聞こうということだと思うのだけど、僕にはラーリア様がミーリア様を次期ラミアのリーダーとして鍛えようとしている様な気がする。
きっとイクス様がラーリア様にしてきたことでもあるのだろうなあ。
と、思ったのだけど、考えてみたらイクス様がラーリアだった時って、いつくらいまでだったのだろう。
レンスを産む以前に、すごく年若いラーリアだったという話は知っているけど、いつまでラーリアだったのかは知らないことに、今頃になって気がついた。
「私も、領主家の方にその様な裏事情があるとは、今のデイヴの話を聞くまで全く考えていませんでした。
やはり私たちラミアは人間の社会に現在は疎いので、そういうことに頭が回らないのかもしれません」
ミーリア様がラーリア様の問いに答える。
「私がどの様に考えていたのかというと、ハーピーの後に要望を伝えるという返答を聞いて、私たちラミアも後にすると答えるので良いかと考えていました。
というのは、今現在何を望めば良いのかという具体的な事柄が私には浮かんでこなかったからです。
また、同盟はしましたが、この後具体的な動きをどうするかはまだ全く未定ですので、それが少し形を見せてからの方が、都合の良い望みができるのではないかと考えたからです。
正直、これはエルシム様がわざわざ違うと断られた、後にカードを残すということなのですが、具体的な望む事柄が思い浮かばないのなら、それでも仕方ないかなと」
ミーリア様は少し恥ずかし気にそう言って、ちょっと一呼吸置いて続けた。
「でも、デイヴの話を聞くと、それは悪手だと思えました。
ハーピーが『後に』と言ったのは、ハーピー族にとって切実な問題があるからの様な気がしますから、デイヴの話を考えるとラミアまでが望みを後回しにすると、領主家の立場に問題を生んでしまうかもしれません。
ここは私たちラミアは同盟を強固なものとする為にも、領主様に、お礼に何が良いかの望みを伝えた方が良いのではないかと考えます」
ラーリア様は、他のラーリア、最近の里の実務を任されているミーリアたちを見渡して、異論がないのを確認すると言った。
「それでは、さて、何を望めば良いだろうか?
意見のある者は誰かいないか?」
これは難しいと僕は思った。
ラミアに、人間に何を望んだら良いか意見はないかと聞いても、人間の社会を具体的に知らないのだから、意見が出る訳が無い。
「あの、俺が意見を言ってもよろしいでしょうか?」
ギュートがおずおずという感じで声を上げた。
「ギュート、もちろんだ。 何でも言ってみろ」
ラーリア様が続きを促す。
「はい、ありがとうございます。
俺は、領主様に馬を都合してほしいと、願うのが良いと思うのです。
馬を移動に使う有益性に関しては、もうみんな良く分かっていると思います。
でもそれだけじゃなく、馬車ではなく騎馬として使えば、ハーピーに頼むほどではありませんが、情報や命令の伝達にかなり役立ちます。
それにこれは俺1人の考えなのですが、俺たち人間は戦いの時に騎兵となれば、今までのラミアの里にはない兵種ですし、作戦の幅が広がるのではないでしょうか。
それはともかく、今のままでは馬の数が俺は足りないと思うのですが、今、馬を増やすことはなかなか難しいと思います。
最近2頭の仔馬が生まれましたが、今の状態では仔馬を増やしていくのでは間に合いません。
かといって、現状ですと人間も馬を手に入れようと動いていると思うので、なかなか買うことも難しいと思います。
領主様の関係するところから手に入れられれば、とても助かると思うのです。
あの、推測なのですが、フロードが関係していて所属がはっきりしなくなった馬を領主様は自分のところで手に入れて持っているのではないかと思うのです」
僕はとても感心してしまった。
ギュートの言っていることはなるほどと思うことだし、何よりも領主家がフロードに関係して押収した馬を持っているだろうというところは、言われてみれば、その可能性はとても高いと思うのだが、少なくとも僕は全く考えてもみなかった。
友たちも、「ギュート、お前凄いぞ」と口々に褒めたり冷やかしたりしているから、同様に感心したのだろう。
「騎兵、確かに本で読んだことはある」
「もし、ラミアに騎兵がいたら、何ができるかしら」
セカン、ディフィーも興味を示している。
「馬を望むか。 正直私にはそれが良い案なのか悪い案なのかも分からない。
ただ、人間たちはどよめいてギュートを褒めているから、きっと良い案なのであろう。
ミーリア、どうだ。」
「はい、私も判断できないのですが、私も彼らを信じます。
私もちょっと閃いたのだけど、ギュート、ラミアには騎乗はできないかしら。
できれば私も移動がとても早くなり、とっても助かるのだけど」
「流石に体の構造上、ラミアが馬に騎乗するというのは無理があると思うのですけど、1人乗りの軽い馬車を作れば、道を走るなら騎乗とそんなに変わらない速度で移動できると思うのですけど」
「すぐにそれを作ってみて」
「話が少し逸れたようだが、それでは望むのは馬の調達ということで良いな」
ラーリア様がそう言って、本筋に戻した。
「あのラーリア様、俺も良いですか?」
そう言ったボブにラーリア様は無言でうなづいた。
「馬もですけど、鉄も望んではダメでしょうか。
武器の新調が相次いでいますし、バンジからも釘の大量の生産を依頼されていて、鉄が不足しているのです」
キースが反対した。
「ボブ、それはダメだ。
今はどこの鍛冶屋も『武器だ。 防具だ』と大忙しだろう、それはここに限ったことじゃない。
だから、どこでも鉄は不足気味で、それを領主様の権限で取り上げるのは問題がある」
「そうか、確かにそうだな。 ダメか、ちょっと困ったな」
ボブの言葉にレンスが言った。
「困ることはない。 鉄ならある」
みんなレンスは急に何を言い出したのだろうと、びっくりした。
「この辺りの地質に関しては、昔詳しく調査がされていて、鉄鉱石の産出場所も分かっている。
鉄鉱石を取ってきて、鉄を精製すればどうとでもなる」
ナーリアが訊ねた。
「レンス、なんでそんなこと知っているの」
「本で読んだ。 本当かどうか自分で行ってみて確かめたから確実」
レンス、お前、凄いなと僕は思った。
ふとイクス様を見ると、イクス様は涙を流していた。
そしてラーリア様はとても嬉しそうにニコニコしていた。
「いや、ダメだ。 それは出来ねぇ」
ケンがそう言って、レンスの提案を否定した。
「炭が足りねぇ。 鉄の精製まで出来る程、炭を作れないんだ。
眠りに入る前にターリアたちが目一杯頑張って木を伐っておいてくれたけど、作業に入る時期が遅かったせいもあり、そこまでの量の炭を作れないんだ」
ちょっと申し訳なさそうな顔をして、ケンはレンスの提案を否定する理由を言ったが、今まであまり目立って評価されることのなかったターリアたちの貢献も少しアピールしたかった感じだった。
「いや、どうにかなるかもしれないよ。
何もここで鉄の精製をする必要もないんだ。
どこでも鉄は不足しているのだから、鉄鉱石を売って、その時に精製された鉄の何割かはこちらに戻す契約をすれば良いんだ。
そういう契約でも、鉄を買いたい者は今はたくさんいると思う。
僕の家を通して、そういう者を探すよ。 すぐ見つかると思う」
ハキはそう言って鉄不足の問題の解決策を提示した。
ヤーレンがハキに言った。
「ハキ、ついでだから、あの話もしちゃえよ」
「ああ、そうだな。
ラーリア様、アスファルトを人間に売る許可をください。
今、アスファルトは絶対に人間に高く売れます。
それで手に入れた金で、穀物などの物資を買わせてください。
そうすれば、ターリア、ワーリア、ヤーレアも起こすことができます」
「もう色々としなければならない事柄が迫ってきて、どう考えても人出が足りないんです。
彼女たちの力が必要なので、起こしたいんです」
「お前たち、ちょっと待て。 1つ1つ順番に決めていこう。
とりあえず人間の領主に望むのは馬の調達で良いのだな」
ラーリア様が整理するようにそう言った。




