261. 上位の全体会議
ミーリア様が戻ってきて、ラーリア様、イクス様と少し話をすると、基本的に上位の者全員参加の会議をすることになった。
基本的にというのは、流石に子供の世話をする者がいなければならないからだ。
全員参加というのは、今後の厳しい状況を考えるともしもの場合、その時々の全体状況を把握している者がいないという事態を防ぐためだ。
つまり、戦いになった場合、戦いの場に向かった者の全滅という状況も、十分に考えられることだから、その時に残った者の中に状況判断が出来るだけの情報を持っている者がいないということを防ぐためだ。
全員集まって話をするとなると、そもそも人数が多くて、それだけ一度に収容できる建物はラミアの里にはないので、外の広場ということになる。
まだ少し肌寒いとはいえ、もうだいぶ春めいてきたので、天気の良い昼間であれば、そんなに寒い思いをしないで話ができると思う。
子供の都合があるので、会議は奥の共同住宅近くで行うことになった。
子供たちは寒くなければ誰かが抱いていても良いし、寒いようなら、仕方ないが共同住宅の中に入っていることになる。
まあ、どうせ子供たちの授乳の時間になってしまった時は会議はできない。
ラーリア様たちがみんな抜けては、会議にならないからね。
会議はその翌日、早々に行われた。
家から、馬車にイクス様とラーリア様、それにミーリア様を乗せて、御者はアンがしていて、メリーはその隣に座っている。 僕たちと、アレア様、ロア様はその回りを歩いて奥まで移動した。
ミーリア様たちも、領主の館から戻った後、そのまま家に居たのだ。
幸運なことに天気は良く、寒さは全く感じなかった。
ミーリア様の話から会議は始まった。
「砦での戦い以来、私たちラミアは赤ん坊が生まれたことで少し慌ただしく過ごしていましたが、人間たちは事後処理に追われていたみたいです。
ハーピーが一番いつも通り平静な時を過ごしたみたいですが、ハーピーにも赤ん坊が3人生まれたとのことです。
さて、現状としてはそんな感じなのですが、ゴブは待ってはくれません、早急に今後のことを考えていかねばなりません。
人間の領主様より、なるべく早急に出来れば人間・ラミア・ハーピーの正式な同盟を発表する式を行いたい、との要望がなされました。
大きな式を行うことにより、この地方の人間にその同盟のことをしっかり知らせると共に、今までの互いの偏見その他を払拭する機会にしたいとのことでした。
その主旨は理解できるし、賛同できるものでもあります。
人間だけに限らず、私たちラミアにしても、人間に対して、またハーピーに対しての色々な偏見、間違った知識があったことは明らかなのですから、その様な機会を持つことは有効なことだと思われます。
しかし現状、その式のために割く時間があれば、ゴブへの対処に割くべきではないだろうかと、残念ですが、大きな式を行うことは却下されました。
でも、同盟はまだ仮調印ですので、一度ラミア・ハーピー・人間の代表がきちんと集まり、正式な調印をしなければなりません。
ですから、まず第一に考えねばならないことは調印式をどうするかです」
その言葉を受けてラーリア様が言った。
「その辺を人間とハーピーはどのように考えているのだ。
何らかの希望というか、打診は出してきたと思うのだが」
「はい。
どちらももちろん早く一番上が集まっての正式な調印をしたいというのは変わりません。
問題はどのくらいの規模でということと、どこでという場所の問題だと。
それで規模なのですが、先程も言ったのですが大規模なことは今は時期ではないということで、本当にトップ数人のみが集まるだけでも良いのでは、ということになりました。
人間は領主様ともう1人程度、ハーピーもハルオン様とシロシュウメ様が出席すれば良いだろうと」
「そうなると、私たちラミアは私とイクス様となるか」
「ラーリア、私はもう引退した身よ。 あなたとラリオかラーリドの役よ」
イクス様がその役は辞退した。
「まあ、私と誰にするかは後でも良いだろう。
それで場所は領主の館で行うことになったのかな」
「それなのですが、順番にお話すると、まずはラミアも人間も行くことが難しいということで、ハーピーの里という線はすぐに消えました。
それで、人間の領主の館にするか、ここにするかという話になったのですが、領主様から、『砦のことで大いに手伝っていただいたし、今までのことをお詫びせねばならないから』と、ここでと提案されました。
ハーピーはその意向をハルオン様が聞いて、エルシム様は毎日夜は戻っておられましたからハルオン様の意向がすぐに私たちに伝わったのですが、
『それならば、最初にラミアとハーピーが調印を交わしたナーリアが使っている家が良い。
あそこの元の家主であり、今のラミアの父祖は人間なのだから、人間にとっても験の良い場所であろう』と。
まあ、具体的な場所はラミアの都合もあるから、その辺はまかせよう、と私に一任されてしまいました」
「場所はそれではハルオン様の意向に沿う方向で考えるとして、時期の方はどうなんだ」
「それもなるべく早く、用意が整ったらすぐに、と要望されています」
「なるほど、開催場所を提供する我々次第ということなのだな」
「はい、早くとの要望はありますが、我々の都合に合わせるとのことです」
僕たちが子供の出産やら、子育てで右往左往していた時、領主様たちは色々なことを進めていたみたいだ。
きっとその間のやり取りもミーリア様が一手に引き受けていたのだろう。
「あ、1つ問題がというか、要望が出ていました」
ロア様が声を上げた。
「ラミアの里で正式な調印を行うということを聞いた奥方様が、『私も絶対に一緒にラミアの里に行く』と言っていました。
きっとデイヴの子供も生まれたということを聞いたからだと思いますが、アルフさんの言うには、『あれはもう誰も止めようがないから、すまないがよろしく頼む』とのことでした」
デイヴが大変なことになったと、青い顔をしている。
「ああ、なるほど。
話によると、領主の奥方様にしてみると、デイヴの子のフローラは初孫になる訳だからな。
我々ラミアにとっては、自分の子供を見ることもなかなか機会がなく、ましてや孫を見るなんてことは今では考えられないことのように思えるが、以前にはそれも普通のことだったという。
孫に会いたい、見てみたいという気持ちは、今の我々にはその様な姿を見たこともないので、上手く想像もできないが、大事にしてあげるべきことなのだと思う。
それも考慮に入れて式を考えることにしよう」
ラーリア様はそんな風に、好意的に考えるように指示した。
イクス様がちょっと考える様な、複雑な顔をしていた。
「それで、具体的にゴブへの対処に関しては、どの様な話がされているのだ」
ラーリア様が厳しい声で言った。
あたりの空気が張り詰めた。
「はい、それなのですが、まず第一にハーピーによる警戒監視をこの地方全体、どこでも構わずハーピーの自主性に任せて行ってもらうことになりました。
まあゴブのこの地方に侵入してくる経路は決まっているので、そちらを重点的に監視していただいて、その結果を速やかに私たちラミアと人間に伝えてもらうことになりました」
「そうだな、ハーピーが監視し、その結果をすぐに伝えてもらえるならば、ゴブが接近して来た時はすぐに分かることだろう。
ハーピーの監視の目は、逃れることは出来ないからな」
「だとすると、私たちの森の巡回業務はどうなりますでしょうか?」
ラーリア様の言葉を聞いて、アレオ様が尋ねた。
「そのことについては、ちょっと後で一括して私から提案があります。
それまで少し待ちなさい」
ミーリア様が、そう答えた。
ミーリア様の報告は続く
「ハービーにはとりあえず、監視を担ってもらうことになり、人間は今現在、軍の再編を行っています。
今まで良い悪いは別として、フロードが担っていた部分ですので、その悪影響も残っていて、まだそこが終わっていない状況の様です。
ただまあ決まっていることとしては、砦にはアルフレッド殿が入る様です」
僕はちょっと意外だった。
アルフさんは領主の館の方に残り、領主様と共に全体を動かし、もしもの時の最前線になる可能性のある砦には、タインさんが入るのかと思っていた。
タインさんが入るのはフロードとの繋がりがあったから、やはり無理なのかな。
「それから、領主様は、これはラミアには全く想像外というか、ラミアでは出てこない発想なのですが、王国への救援要請の使者を送るということです。
『この地方だけでなく、町が1つ滅んだ隣の地を治める者も危機感は同じで、いやより強く持っているだろう。
同様に近い位置を領地とする者は皆、危機意識を持っているだろうし、もし持っていなければ持つ様に働きかけねばならない。
そうして多くの領主が危機意識を持てば、王国としても動かざるを得なくなるのではないかと思う。』
とのことです。
自分たちだけでなく、他の地の軍事力も使ってゴブに対処するとの考えの様です。
そしてその為の使者としてバンタイン殿が夫婦で遣わされることになった様です」
僕はなるほどと感心した。
そうだ何もこの地方だけで対処する必要はない。
ここはまだ分隊規模が来ただけだが、隣の地はもっと被害が大きく出ているはずで、共闘を呼びかけていけば悪い返事はないだろう。
王国としてもゴブの勝手気ままな蹂躙をそのままにしては置けないだろう。
セカンとディフィーを見てみると、「ああ、そういう方法もあったのか」と目から鱗という顔をしている。
いくらセカンとディフィーが天才的策士だとしても、狭いラミアの地で生きて来て、他の世界を知らないのだから、これは仕方ないと思う。
「なるほど、確かにこの地方だけで考える必要はないな。
ラミアはつい自分たちを基準にして、この狭い中でどうしたら良いかと考えるが、人間は他の土地にもたくさん存在する。
そういった者との共闘は確かに考えるべきではあったな」
「はい、私も領主様から言われるまで、全くその様な考えは頭になくて、言われてみて初めてそんな対処の仕方もあることに気がつきました。
ハルオン様は人間も同盟に巻き込まなければ、と条件を最初からつけていましたが、このことも頭にあったのかもしれません」
「それで私たちラミアなのですが、引き続き森の中の道の整備を急いでほしいと頼まれました。
領主の館方向と、砦方向の道が整備されて、楽に行き来ができる様にしてほしいとのことです。
またフロードは大きな失敗を犯しましたが、燃える水をゴブとの戦いに使うことはやはり考慮に値すると、領主様たちもエルシム様たちも考えている様です。
私も大火の原因となり、ラミアの苦難を直接もたらしたことですから、慎重になるのですが、ゴブとの戦いの時の有効な1つの方法ではあるのではと考えます。
また、昔ここで町が栄える基となったアスファルトについてなのですが、やはり人間の方では手に入れたいということで、ハキの実家を窓口として、正当な取引をさせていただけないかと申し込まれました」
「そうだな、今、人間との情報のやり取りはハーピーの仲立ちに任せる形になっているが、道がきちんと整備されれば、直接のやり取りも増えるだろう。
それに物資が人間との間でやり取りが活発化すれば、双方に利益があるだろう。
それに、もしもの時の兵の移動には必須でもある。
どう思う?」
ラーリア様の最後の言葉は他のラーリア様たちへの問いだ。
「そうね。
領主の館の騎士20人もが、道を通ってこの里を通って砦に行ったのだから、もう道を隠しておく意味もないわ。
道を整備して完全に開いた物にすることに、私は賛成よ」
ラーリド様がそう言って、代表して賛成した。
エーレアたちは、
「私たち、道のカモフラージュの方法を覚えようとしていたのに」
と、ちょっと残念そうな顔をした。




