260. ミーリア様の外交
ミーリア様のお試しの飛行は、どうということもなく終わった。
ミーリア様は、セカンやディフィーとは違い高い所を飛行しても平気だった。
「前に低く遊びで飛んでもらったのと、そんなに変わることはないわね。
高く飛ぶと少し寒い気もするけどそれだけだわ。
それよりも、上から見ると地形が詳しく確認出来て、それがとても良いわ。
指揮官は戦闘の前に、戦場の予定地の上を飛んで、地形を上から把握しておくと良いかもしれないわね」
ナーリアが、えっ、私も飛ぶの、という顔をしたが何も言わなかった。
「あのミーリア様、怖くはなかったですか?」
ディフィーがおずおずと聞いた。
「手の届くくらい低いところを飛んでもらうならともかく、木の高さくらいを飛んだら、もうその位置から落ちたらラミアは怪我では済まないわ。
それを考えれば、それより高いところをどれだけ飛ぼうが同じことよ。
怖がったって意味がないじゃない」
「確かにそれはそうだと思うのですけど、理屈では私も分かっているのですけど」
ディフィーがそんなことを言うと、
「とにかく、私にとっては今は空を飛ぶ怖さよりも、速く移動すること、それから地形を確認できることの方が重要なのよ。
私が飛べることが分かればそれで十分だわ」
「本当は、セカンかディフィーのどちらかを連れて行こうかと思ってたのだけど、あなたたちは飛ぶのはダメだから諦めたわ。
ナーリア、サーブ、レンスというのも考えたのだけど、今回の目的にはサーブとレンスは合わないし、ナーリアとサーブは人間の騎士たちの中では大人気になっていて、今行くと騒ぎになるという話なので諦めたわ。
今は面倒なことは少しでも避けたいから。
そういった訳で、あと今までに飛んだことのあるラミアはアレアとロアの2人だけ、アレアは訓練の教官の役があるから、ロアと行く事にしたわ」
ミーリア様は僕たちに何故か領主の館にロア様と行く事にした理由を語ってくれた。
僕たちは大人しく聞いていたのだが、普段はそんな説明はほとんどしないのだけどとちょっと思った。
「そういう訳で、私とロアはたぶん2-3日、領主の館に打ち合わせのために留まる事になるわ。 出来れば2日で済ませたいと思っているのだけど。
で、その間、ラーリア様のお世話をする者がアレアだけになってしまうの。
それですまないけど、ラーリア様のお世話をアレアと一緒にしてくれない」
そうだった、ラーリア様のお世話は、ミーレア様が亡くなり、アーリア様がラミアの里から追放されているから、ミーリア様、アレア様、ロア様の3人でしていたのだった。
ただでさえ数が少ないのに、3人とも忙しくしているのだが、ミーリア様とロア様が抜けてアレア様1人でというのは無理がある。
「はい、わかりました。
私たちはアンもメリーもいて人数が多いですし、ラーリア様のお世話に誰かが行っても何の問題もありません。
それにミーリア様たちが領主の館に行っている間は、ラーリア様とアレア様にウチに来ていていただいても良いですし」
ナーリアがそう答えた。
「その辺は、ナーリアたちとアレアに任せるわ。」
僕はミーリア様は防寒着や網などを里の方に持って行くのかと思ったのだが、それらは置いて行き、翌朝ロア様と一緒にやって来た。
ロア様は
「私が付いて行くんで良いのかしら?
別に護衛が必要という訳でもないでしょうから、私が行く意味あるの?
私はまだ一度も領主の館に行ったことないですし、デイヴの兄やキースの兄、それにカーライルさんにストームさん、キースの幼馴染のブマーさんでしたっけ、その人たちも見たことがある程度のことしかないのよ。
私が何か出来ることや、することなんてある訳ないじゃない。
ミーリア様は1人で行くのが嫌だから私も連れて行くだけで、ほとんど嫌がらせよ」
と、ナーリアたちに愚痴っていたが、すぐにハーピーたちもやって来て、やって来たハーピーにエルシム様も居たので、愚痴る余裕もなく静かになった。
「それではミーリア殿、一緒に人間の領主の館に参ろうか」
「はい、エルシム様、よろしくお願いします。
私とロアはハーピーのみんなに運んでもらわねばなりませんので、こちらこそよろしくお願いしたします」
「一応ハーピーとして話し合いには私とエレオンが参加する事になりますから、人との間はミーリア殿の方が慣れているので、こちらこそよろしくお願いする」
エルシム様が来ているので、僕らもハーピーたちと軽口を叩いている訳にはいかない。
僕はエレオン、アライム、ハライトと軽く話し、ナーリアたちもウスベニメ、モエギシュウメと軽く話というか挨拶をしただけだ。
「とにかく、送り届けて、ここに戻ってくるよ」
アライムがそう言った。
エルシム様はちょっとイクス様と話している。
イクス様が胸にティッティアを抱いていたので、自然と話が子供の事になったようだ。
「ハーピーにも子供がここで3名ばかり増えたのですよ」
「ああそうでした。
我々ラミアが連れて来てしまった卵も無事に生まれましたでしょうか?」
イクス様ははたと思い出されて、心配そうに尋ねた。
「はい、お気になさらないでください。
あの時はすぐに戻されたので、問題なく生まれました。
実はあの時は、もしラミアに連れて行かれなければ、その方が困った事になった可能性もあったのですよ。
これから、その原因になったことも含めて、少しハーピーからラミアに相談させていただきたいこともあります」
「何か少し複雑な問題がお有りのようですね。 でも今は人間との話し合いをよろしくお願いします」
「はい、もちろんです。
それにしても、次のハーピーの子供は出来たら人型の子供が欲しいですね。
若いのが、ラミアだけでなく、人とも気楽に接しているのを見ると、そんなことも期待してしまいます」
「ナーリア、それではラーリア様のことよろしくお願いしますよ」
「はい、そこはご安心ください。
ここにお連れしようと思っています」
「リアおばちゃん、ラーリアおばちゃん、ここに来るの」
「そうよ、メリー。 ラーリアおばちゃんだけでなく、シャイナちゃんも来るから、メリーはティッタちゃんだけでなくシャイナちゃんのお姉ちゃんもしてあげてね」
「うん、わかった。 大丈夫、リアおばちゃん、メリーにお任せ」
「うん、メリーも頼むわね」
メリーはミーリア様にそう言われて頭を撫でられて、ご機嫌だ。
「はあ、仕方ない。 とにかく行ってくるわ。
アレアに伝えといて、戻ったら数回は私が優先よ、って」
ロア様はそんなセリフをディフィーに残して、最後に飛んで行った。
まあ、ミーリア様にしてみれば、僕たちナーリアの次に気楽なのはアレア様とロア様のようだから、飛んだこともあるということで仕方ない人選かなとは思う。
ミーリオ様たちは、飛んだことないしね。
エルシム様とミーリア様たちが領主の館に向かってすぐに、僕とアンは馬車で奥に向かい、ラーリア様とアレア様を家の方に連れて来た。 ボブは鍛治の仕事が溜まっているので、昼間は鍛治場で仕事をしてそれを終えて夕方に来てもらうように話を通しておいた。
「ナーリアたち、それでは数日世話になるぞ。
ここにはさんざ来ているが、お前たちが住むようになってからは泊まるのは初めてだな」
「ラーリア様、この家に泊まったことがあるのですか?」
ナーリアがラーリア様の言葉にそう反応した。
「ああ、レンスが生まれた時は、私がイクス様のお世話をしたのだ。
その時にはここに来て良い人数も少なかったからな、ほとんど私1人でお世話しなければならなかったので、今とは違いちょっと大変だったがな」
前にラーリア様はレンスのことを「小さい時から良く知っている」と言っていたが、生まれた時から知っていた訳か。
「あの頃は、イクス様が今のお前たちより1つ上で、私ときたらお前たちの歳にもならず、まあ特例的に上位にはなっていたのだが、まだ体も小さかったし、とてもお世話出来ていたとは言えない状況だったな。
私よりもレンスの父親であるダルフ様の方が、余程役にたっていたな。
ダルフ様もレンスが生まれて、気が張っていたのだろうか、レンスが生まれてしばらくの間は体調良く過ごされていたからな。
ま、私はそんな2人のせいぜい小間使い程度のモノだったのさ」
「あら、ラーリア、随分と懐かしい話をしているのね」
イクス様がラーリア様の話し声に気づいて近づいて来た。
「イクス様、ティッタはどうしました?」
「今はレンスが抱いて、メリーと遊んでいるわ。
サーブもいるから、シャイナはサーブに預けて来なさいな、ゆっくりお茶でも飲みましょう」
ラーリア様が、藁床の部屋の奥に居る3人に子供のシャイナを預けに行った。
ラーリア様の話の腰を折る訳にも行かずに黙っていたアレア様がナーリアに声を掛けた。
「ナーリア、すまない、世話をかける」
「いいえ、アレア様、お一人だけでずっと世話係は大変ですから。
私たちは人数が多いですから。
子供も少し大きくなったので、もう誰が抱いても大丈夫と、セカンとディフィーとアンも抱きますから、全然大丈夫です。
それにメリーがお姉さんぶって、子供の世話はすごく手伝ってくれますから、私たちは大変なことなんて何もないんです。
気になさらずに任せてください」
「ありがとう。 よろしく頼む。
私らは元々ミーリア様とロアと私しかいない上に、ミーリア様はラーリア様たちが動きが取れない分、何かと忙しいので、他のみんなに手伝ってもらってもいるのだが、普段からラーリア様とシャイナを十分にお世話出来ていないんだ。
ラーリア様もここならばリラックスして過ごせると思うし、本当によろしく頼む」
「はい。 私たちで出来る限りのお世話をさせていただきます。
とは言っても、何も特別なことはないので、これで良いのかなとも思うのですけど」
「いや、そのお前たちにとっては普通のことが、私たちにはなかなか出来ないんだ。
とにかく、よろしく頼む」
そう言うと、アレア様は家から出て行かれた。
ミーリア様だけでなく、アレア様とロア様も結構忙しいのかもしれない。
ラーリア様も家に泊まるようになって、イクス様は喜んでいる。
夜の2時間おきの授乳が2人なので4時間の間が出来るので、とても熟睡できるらしい。
「30分おきの授乳が1時間毎になった時も、1時間が2時間になった時も楽になった、嬉しいと思ったけど、それでもやっぱり4時間続けて眠れるのは嬉しいわ。
これで完全に熟睡出来ているって感じよ、疲れが完全に取れるわ」
「お母さん、やっぱり最近歳じゃない」
レンスがそう言ってからかって、いつも通り口喧嘩をしている。
赤ん坊がいても、その辺は変わらないみたいだ。
アレア様も喜んでいるのだけど、ちょっと困ってもいるみたいだ。
朝はメリーがお二人のすぐ近くにいるという都合があるので、アレア様は夜の子供の世話の担当は外された。
それでアレア様は朝のボブの精は1人独占状態なのだが、イクス様が精を受けるのを二日に一度にしているので、ラーリア様もそれに倣ってしまった。
それでアレア様は二日目の朝・晩、そして3日目の朝とボブから精を得られることとなった。
「エネルギーいっぱいで、脱皮しちゃいそう。
それはともかく、この状態をミーリア様は仕方ないと認めてくれそうだけど、ロアには根に持たれそう」
3日目の夕方にはミーリア様とロア様が戻って来たから、ここまでだったのだが、予想通りロア様がそれを聞いて、ミーリア様に直談判した。
「ミーリア様、今回の話し合いの様子では、すぐにもう一度領主の館に行くことになると思うのですが、次回は私ではなく、アレアと行ってください」
「そんなに人が替わったら、領主の館の人も困るわよ。
それに、私は替わりようがないじゃない」
「ミーリア様は立場上仕方ないと思うのですが、私は本当にミーリア様のお供というだけでしたから。
奥方様やアルフさんと普通のおしゃべりをしていただけです。
それなら、私でなくてアレアでも同じことじゃないですか。
それに先方の2人も人が替われば、違う話を聞けると喜ぶかもしれません。
次回はアレアということで」
ロア様の強硬な主張でミーリア様が渋々と折れた。
ラーリア様が笑いながら言った。
「ロアが自分の意見を強硬に主張してミーリアに無理やり認めさせるなんて、なかなか見ることのない場面だな」
「ラーリア様、私だってロアと同じことを言えるなら言いたいんです。
だから仕方ないじゃないですか」
ミーリア様がそう愚痴った。
さて、もう1人大きく影響を受けた者がいた。
アンは僕たちの中では裸で一緒に寝たり、ナーリアたちと一緒に僕にくっついたり、そのた諸々、ナーリアたちと同様にするようになっていた。
でもそれはあくまでもナーリアの仲間内だからということのようで、いまだに他の人間の男に見られたりは勿論だが、他の男の裸を見るのもなるべく避けるようにしていた。
そんな訳でボブがいると、夜や朝に加われないので、ちょっとまあなんて言うか、欲求不満が溜まるらしい。
それ以上に、みんなと同じ生活サイクルから自分だけ外れてしまうのが、嫌のようだ。
それでやはり同じように加わろうかと、逡巡してしまう自分をも、なんだか持て余すらしい。




