259. ミーリア様も来て
1人でやってきたミーリア様は、以前と同じように家の入り口で中に声を掛けることもなく、勝手に入ってきた。
ミーリア様が入ってくるより前に、その気配に気づいたらしいディフィーが動いて、ミーリア様を入り口に迎えに出た。
「あら、今日はちゃんと私の気配に気が付いたのね」
「はい、ミーリア様も見えられると聞いていましたから、ちょっとだけ気にしていましたから」
きっとディフィーはちょっとだけではなくて、かなり外のことを気にしていたと思う。
砦からの帰り道で怒られて以来、色々立て込んだので、そのままになっているからな。
ミーリア様もそのことには直接には触れず、ディフィーももちろん、触らぬ神に祟りなし、という感じでそのことには触れない。
アンがミーリア様の分のお茶を持ってくるために、竃へと向かった。
ミーリア様は部屋に入ってくるとすぐにイクス様のもとに向かって、ティッティアを見にいった。
「リアおばちゃん、ティタちゃん、可愛いでしょ」
「うん、可愛いわね。 メリーはちゃんとお姉さん出来てる?」
「うん。 まだ小さすぎて遊べないけど、布を替えたりのお手伝いはちゃんとしてる。
お姉ちゃんたちが抱いている時に泣いたら、イクス母様を呼びに行ったりもするの」
「そう、偉いわね。
早くもうちょっと大きくなって、メリーと遊べるようになるといいわね。 すぐに遊べるようになるわ」
「うん、メリー、とっても楽しみ」
メリーは、ミーリア様に褒められて、とても嬉しそうだ。
「イクス様とアレクの子供はティッタというのですか。
私、まだ子供たちの名前覚えられなくて」
「本当はティッティアというのだけど、もうティッタと呼ぶ人の方が多くなっちゃったわ。
メリーがそう略して呼ぶから、だんだんそれにみんな合わせちゃって」
「そうですね。 メリーは、みんな略して呼んじゃいますから」
イクス様とミーリア様はそう言って笑った。
ミーリア様はティッティアの頭を指で軽く撫でると、今度は僕の方に向かって言った。
「この子は髪の色はアレクの方に似たのね」
生まれて1ヶ月目の脱皮の後、ティッティアにはそれまでなかった髪がほんの少し生えていた。
僕はなんとなくラミアというのは脱皮の時以外成長しないのかと思っていたのだが、ティッティアの髪はその時以来伸びていて、だんだんちゃんと髪の毛という感じになってきた。
僕がそれを見て、なんとなく
「ラミアも髪が伸びたりするんだなぁ」
と感慨深い感じで言ったら、ディフィーに馬鹿にされた。
「何、当たり前のこと言ってるのよ。
私たちだって普通に爪を切ったり、髪を梳かした時には抜け毛があったり、体を洗えば垢が出たりするでしょ。
それに太ったり痩せたり、筋肉がついたりもしてるじゃない。
ま、確かに脱皮して大きく変わることもあるけど、それだってサーブやレンスが怪我した後脱皮した時は、ほとんど変わらなかったじゃない」
確かにそう言われてみれば、みんなが爪を切ったり、髪を整えたり、それに太くなったの細くなったのと言い合っているのも日常的に見ている。
脱皮して劇的に体型が変わったりしたのを見ていたので、どうもそういう日常が印象に残っていないからのようだ。
「そうですね。 僕としては女の子ですから、イクス様の綺麗な金髪に似てくれた方が良かったんじゃないかとも思うのですけど。
ラーリア様とボブの子供はどうなんですか?
すいません。 僕も名前覚えてないんです。
僕ら人間同士だと、うちの子だとか、俺の娘とか、そんな言葉でばかり話しているので」
ミーリア様が答えてくれた。
「シャイナはラーリア様譲りの燃えるような赤髪よ。
あの色をみれば、誰でもラーリア様の娘だと分かると思うわ。
ボブはそれを喜んでいるみたいだけど、まだ自分に似ている部分を見つけられなくて、ちょっと残念そうよ」
ミーリア様は少し微笑ましいという感じでそう言った。
「ほら、まだ髪の色と肌の色くらいしか、人間側の特徴で似ているか分かる部分てないじゃない。
ラーリア様もボブも肌の色は濃い目で似ているから、肌の色はどっちに似ているのか分からないのよ。
私との間の子なら、肌の色もどっちに似たのかすぐに分かるけど、それは次の機会ね。
私もその時が楽しみだわ」
ラーリア様とボブの子供はシャイナと名付けられたのか。
それにミーリア様も次の機会には子供を得ようと思っているのだな。
「それでハーピーたちは、なんでそんなに離れた場所にいるの?
あなたたちもアレクの子供を見るのは初めてでしょうし、それ以前にラミアの子供を見たこともなかったんじゃない。
近づいて、しっかり見てみるといいわ。
ハーピーからするとどう見えるのか分からないけど、ラミアの子供も可愛いわよ」
ミーリア様の言葉にエレオンが代表して答えた。
「はい、ミーリア様。
私たちから見ても、とっても可愛いです。
それから私も、髪の色はアレク似なんだなと思いました」
「そうよね。
ほら、あなたたちももっと近づいてよく見てあげなさい。
イクス様、構いませんよね」
「うん、ミーリア、私は全く構わないのだけど、あなたが来る前に、ちょっと私がやらかしちゃったのよ」
イクス様が渋い顔をミーリア様にそう言うと、ミーリア様はどういうことか直接イクス様に尋ねるのはちょっと憚ったのか、僕の方を見た。
「いえ、大したことではないのですけど、イクス様が前にこいつらと一緒に温泉に入った時のことを口を滑らしちゃって」
ミーリア様は一瞬考えるような仕草をしたが、ウスベニメを目に留めて納得したような顔をした。
「ああ、そういうこと。
ウスベニメ、大丈夫よ、私たちの方は何も問題ないし、他にもアレクはもちろん、デイヴもキースも一緒だったから気にするほどのことではないわ。
それに恥ずかしがったのはラーリア様に裸をしっかりと観察されたこの三人の方だし、それでアレクとイクス様の過去の話になって、人間たちとこの三人は大爆笑していたから、ウスベニメが気にするような雰囲気は皆無だったしね。
それから後は人間との同盟のためのまともな話し合いだったから言わずもがなだし」
「はい、さっきもみんなから気にし過ぎだと言われたのですが、やっぱり慣れなくて、どうもつい過剰反応してしまうみたいで。
すみません、これからは過剰反応しないように気をつけます」
ウスベニメが、さっきより少し冷静になったようで、みんなに謝った。
なんとなく、ウスベニメだけが周りから浮いた存在になっている様な気がして、僕は声を掛けた。
「ま、ラミアの里は裸に全く抵抗がない風習で、それに僕たち人間も慣れちゃっているのだけど、人間の間でも裸は問題視される訳だから、何もウスベニメが特別ということではないと思うぞ」
僕の言葉にアンが続いた。
「私も慣れちゃったのだけど、それでもやっぱりまだ抵抗感はあるわ。
ラミアの里に住んでいる私でもそうなのだから、ウスベニメが抵抗感を感じるのは当然のことよ。
でもまあ、ここはラミアの里だから、それが普通で郷にいれば郷に従えで、ここに居る時は大目に見た方が良いと思うわ。
それと、今現在のことは少し別だと思う。
赤ん坊を見るのは普通にして良いと思うし、赤ん坊におっぱいをあげたりするのも普通のことなのだから、そこにまで目くじらを立てるのは、私は良くないと思う。
赤ん坊が胸の谷間に挟まれて抱かれているのも、まだ体温を自分では維持できないラミアであるが故の特徴があるからだし、それは気にしないようにしようよ」
「えっ、胸に直接挟むようにして抱いているのって、そんな重大な意味があったの。
あの、イクス様、どうもすみませんでした。
私、そんなこと全く考えもつかなくて、なんとなくイクス様をはじめラミアの方々が子供を抱くのにも胸を見せつけているような気になっちゃて。
ちょっとエレオンたちに八つ当たりをしたのかもしれません。
それに、イクス様をはじめとしたラミアの方々にとっても失礼でした。
本当にごめんなさい」
ウスベニメが謝るとセカンが言った。
「ウスベニメの気持ちは私にも分かる気がする。
私もティッタを抱く順番から外されて、ナーリア、サーブ、レンスが抱いているのを見ると、見せつけられてる気分になる」
「私はもっとそういう気分になるわよ。
アン、一緒に努力しましょう」
ディフィーのその言葉にみんな笑って、一気にその場が和んだ。
まあ、ハーピーの女性は人型は別らしいけど、種族的に胸は薄いからなぁ。
とはいえ、エレオンたちも近づいてティッタを見れることになった。
「実は俺、もっと赤ん坊をちゃんと眺めたかったんだ」
子供が好きなハライトはそんなことを言った。
「えーと、それで今日はハーピーたちに加えて、ミーリア様もこちらに一緒に来られたのは、どのような理由なのですか」
ティッティアがおっぱいの時間になったので、イクス様とそれにくっ付いてメリー、それから今日が順番に当たるサーブが、部屋から出て行ったのを機に、僕はミーリア様に今日ここに来た目的を尋ねた。
「そうね本題に入らないといけないわね。
今日ここに来た一番の目的は、私が空をまともに飛んでみることよ。
少し暖かくなってきたけど、飛ぶには寒いから防寒着を貸してちょうだい。
それから私が飛ぶための、あの網も貸してちょうだい」
セカンが答えた、
「防寒着は上衣は私たちはみんな持っているのですが、尻尾の方は私とディフィーの分しか作ってないのですけど、
えーと、どこにあるかしら」
珍しくセカンが物の場所を把握していなかった。
「私が持ってる。 セカンがもういらないと言ったから、私が預かっている」
レンスがそう言った。
「それじゃあ、私はレンスから上下とも借りれば良いわね。
もう一人分はどうしようかしら、ディフィーのだと、ちょっと小さいだろうから」
「アンは前に僕の服を使っていましたから、少し大きくても良いなら僕のを貸しますけど。 尻尾の方はディフィーのが問題なく使えるでしょうから」
「私は人間だから、下はズボンでないと困るからアレクのを借りただけよ。
ラミアだったら、他の人のを借りた方が良いと思うわ。
やっぱりアレクのだと、ブカブカだから」
アンが僕のという案に反対した。
ナーリアがミーリア様に聞いた。
「もう1人というのは誰ですか。」
「一応、もう1人はロアの予定よ」
「ああ、ロア様ですか。 そういえば、ロア様はレンスと同じ様に飛ぶことを怖がってなかったような気がします。
ロア様だったら、私の上衣がちょうどいいかな、サーブのだと大きすぎるし、セカンだとちょっと胸の辺りが苦しいかもしれない」
確かにその通りかもしれないけど、ちょっとセカンがぐっと詰まった感じがしたので、僕は少し慌てて、話を逸らした。
「それで、ミーリア様とロア様は空を飛んで何をするのですか」
「私は素早く領主の館と行き来がしたいのよ。
馬車だと、道が開通したといっても、行きも帰りもほぼ1日かかってしまうでしょ。
今はもっと素早く行き来して、打ち合わせを進めたいのよ」
そうだった、僕たちは子供が生まれたことで、そっちに完全に気をとられていて、ゴブの脅威のことをちょっと忘れていた。
うん、まあ、それに僕の場合は、僕ができることは果たし終えたと思っていたこともあるな。
単なるまだ見習いの狩人が何やっているのだろう、とはいつも感じていたことだしね。
もうここからはもっと上の人の出番で、僕の出る幕ではないだろうと思う。
「ラーリア様たちもあなたたちも、ここ1ヶ月少しは子供のことで手一杯で、他のことは無理だったから、砦での戦いから後は私が人間とハーピーと連絡を取っていたのだけど、そろそろもう少し真剣に色々考えないといけない時が来たのよ。
というか、人間の方のフロードによるゴタゴタがやっとだいたい片がついてきたということね。
だから、とりあえず一度領主館に行って、今後のことの打ち合わせをしたいのよ。
まずは一度行ってみて、それでそろそろ少し動けるようになってきたラーリア様たちも含めて打ち合わせをしなければならないわ。
ゴブは待ってくれないから、なるべく大急ぎよ。 その為よ」




