258. 久々のハーピーたち
慌ただしい昼食の時間が終わった。
ミーレナさんも子を産んだので、そっちに掛かりきりになったから、食事作りは僕たちだけに任されることになってしまっているが、とにかく今は食材がない。
もう前から比べればずっと暖かくなってきて、野の草なんかもたくさん芽生え始めたのだが、それらはラミアの食べてエネルギーとなる物でもないし、好んで食べるというものでもない。
アンは芽生えた野草というか山菜というか、とにかく人間が食べられる草を
「やっと春の恵みの季節がやって来ました」
と言って、メリーを連れて嬉々として採取に行っている。
他のみんなはそれに加わらないのだが、レンスだけはそれについていって、一緒に採取して、アンに食用になる草の見分け方を教わっている。
3人が採って来た野草は、アンが色々な料理を作るので、僕たち人間は大喜びで食べているのだが、ラミアたちにはあまり評判が良くなかった。
ま、食する機会が他と比べたら多くなるナーリアたちは、
「アンが作る草の料理も、最初は美味しくないと思って嫌だったけど、食べ慣れてきたら、なんだか段々と美味しく思えてきたわ」
「何よ、ディフィー、失礼ね。
私が作っている若菜の料理は、人それぞれに好きなのと嫌いなのがあるけど、どれもみんな美味しいのよ。
それが証拠に、ボブたちはみんな喜んで食べているじゃない」
「そうだな。 やっぱりラミアと人間は違うと思ったりもしたのだけど、食べ慣れてくると、意外に食べられるものだな。
不思議となんとなく美味しく感じてきたのは、私も同感だ」
サーブもそんな風に言った。
「ディフィーはさっきアンの料理が美味しくないと思った、という様なことを言ったけど、私はアンのする工夫でこんなに美味しくなるんだと感動した。
私はアンとメリーと一緒にこの草を採ってきているのだけど、その場で試しに採った草をそのまま口にしてみたりするのだけど、多くの物はこんなの食べれないと思う味だった。
それをアンは色々なことをして、ちゃんとした料理にしてしまった。
私はどの料理を食べても、なんだかとっても美味しく感じられる」
レンスがそんな風に言うとイクス様が、
「結局、ラミアは今までこういった物を食べてこなかったから、ただこういった物の味に慣れていないだけなのね。
ここにいる私たちは、3人と毎食一緒だから、やっぱり他のラミアと比べるとアンの料理に接する機会が圧倒的に多いわ。 だから、慣れてきて、こういう物の味が分かってきた、美味しさが分かってきたのよ。
要するに単純に慣れの問題なのね。
他のみんなもすぐに慣れてきて、こういったアンの料理を喜んで食べる様になるんじゃないかしら」
ちょっと考えている顔をしていたセカンが言った。
「アン、私にもこういった草の料理の仕方を教えて。 それから私もレンスみたいに採取にも行くわ。
覚えたい」
そういうことなら私も私もと、みんなで採りに行くことになった。
「こんなに沢山で採りに行くなら、保存する分まで採れるかもね」
アンがそう呟くと、ナーリアが
「アン、この春の草って保存できるの?」
「うん、いくつかの種類は保存食が作れるよ。
私の家では毎年お母さんが作っていたよ」
「それならエーレアたちも含めて採りにいって、その保存食も作りましょう」
ナーリアがそう言ったことで、若菜摘みが大々的に行われることになった。
保存食といえば、冬越し用に作った肉の塩漬けや、干した魚はもうとっくに食べ尽くしてしまった。
最初はこんなに塩漬けの肉や干した魚をどうするんだ、という顔をしていたナーリアたちも、徐々に減ってきてもう無くなるという時になると、「なんでもっと沢山作らなかったのかしら」と言うほどに認識が変わった。
それもあって、保存食が作れるならば若菜摘みを盛大にやろうということになったみたいだ。
何も知らないうちに若菜摘みを一緒にすることになっていたエーレアたちは、
「なんでこんな美味しくもない物を採らされなくちゃいけないのか」
などと不満タラタラで手伝っていたのだが、採取した後もアク抜きやら何やらの処理をされた上で料理として出てきているのを知ると、その苦労が分かったからか、それとも自分たち自身で採ったからか、
「でも、何だか、これはこれで美味しい様な気がしてきた」
とその後は嫌がらずに食べる様になった。
今現在、もう保存食は無くなったから、食材が少なくて、僕とアンが主になって作っている昼食は、米を除けばその若菜を使ったおかずと、あとはエーレアたちが獲ってくるワナで取れるウサギを使ったスープくらいしか作れないのだ。
それでも僕らが居ない時には、起きている当番のラミアは、秋に収穫して貯蔵しておいた栗やドングリなどの木の実くらいしか食べる物がなかったので、大分マシなのだという。 少なくとも米はまだあるからね。
ここのところあまり姿を見なかったハーピーたちが久しぶりにやってきた。 と言っても、ウスベニメとモエギシュウメの女性ハーピー2人だ。
声を掛けようと思っていたら、先にナーリアが声を掛けた。
「あらっ、ウスベニメとモエギシュウメじゃない。
なんだか久しぶりな感じだけど、何してたの?
エレオンたちも見ないけど、あの3人は何をしているの?」
うん、僕が聞きたいことをちゃんと全部言っている。
「別に私たちはラミアの里に来るのは久しぶりじゃないわ。
ちゃんとハーピーとラミアの間の連絡係の役を果たすために、3日に1度程度は来ているわよ。
ただ、ここと奥の共同住宅の方に行かなかっただけで」
「それから付け加えると、人間の町にも、あの砦にも週に1度くらいは誰かしら行っているわ」
ウスベニメとモエギシュウメは、そうナーリアに答えた。
「そうなのか。 それにしては顔を見なかったな。
なんでここに来なかったんだ。 前はいつもここに来ていたのに」
サーブがそう言うと、
「子供が生まれ出してからは、みんなほとんどここにはいなかったじゃない」
うん、確かに次々と子供が生まれたから、その出産でてんやわんやしていたし、その後は食事を一手に引き受けることになったから、家では食事を作っているか、寝ているかのどっちかという感じだったな。
「そのうち、やっと少し落ち着いてきたみたいだけど、赤ん坊に乳をあげるためにラーリア様たちはすぐに胸を出しているし、少し赤ん坊が大きくなって他の人も抱く様になったら、赤ん坊を抱くためにその人たちも1度胸を出してから胸の間に入れて抱くじゃない。
とてもじゃないけど、エレオンたちを近づけられないわ」
なるほど厳しいウスベニメとしては、エレオンたち男性陣をこの家や共同住宅の方には近づけられなかったという訳か。
別に誰も気にしなかったと思うけどね。
「なるほど、それでここと奥には近づけなかった訳ね、理解したわ。
でも3日毎くらいには来ていたということは、ラミアの里の方に行っていたということよね。 そっちはあまり慣れてなかったと思うけど大丈夫だった?」
ディフィーが聞いた。
「まだ起きてないラミアだと、どうなるか分からないけど、今起きているラミアはもうそれまでに何度も会っているから何も問題ないわ」
ウスベニメのここに近づかなかった理由をやれやれという感じで聞いていたモエギシュウメが今度は答えてくれた。
「それもそうか。 みんなもうハーピーは珍しくもないもんな」
「ただね、ラミアの里は基本的に部屋が地下じゃない。
モエギシュウメは全く問題じゃないみたいだけど、私や男連中にとっては地下の部屋に行くと暗くて良く見えないのよ。
だからミーリア様たちと話をするのは外ですることになっちゃうのよ」
「外で話をしていると、まだ風が吹くと私たちはともかくラミアの人たちは寒いみたいで大変そうだったら、アリファ様とハキが見かねて、広場の一角を布で仕切って風が当たらない様にしてくれたわ」
そうか物品係はアリファ様になったから、そういったこともアリファ様の管轄になったのか。 ハキもまだアリファ様を手伝っているのだな。
「それで結局あなたたちは今日は何をしにここに来たの?」
僕たちは家の入り口前のところで話をしていたのだが、途中で中から出てきたセカンがそう言いながら、もう少し言葉を続けた。
「それに話があるなら、中に入ったら。
ウチはラミアの里と違って、部屋の中も暗くないわ」
「うん、話はあるのだけど、できればエレオンたちも呼びたいのだけど、中に入っても大丈夫かしら。
私たちじゃなくて、エレオンたちのことだけど」
「別に気にしなくて大丈夫だけど、ウスベニメが気になるなら、作業場、今は食堂というか、一角は寝床になっているのだけど、そっちで話をしようか。
そっちに入る時には服装はきちんとすることにして」
僕がそう言うと、ウスベニメはうなづいた。
「別に私はそんなに気にすることないと思うのだけどね。
ま、とりあえず、私が飛んで彼らにこっちに来て良いって知らせるわ。
それからミーリア様もすぐにここに来ることになっているわ」
モエギシュウメはそう言うと、空に舞い上がり家の上でちょっと形を描く様に飛ぶとすぐに降りてくると、
「直に三人も来るわ。 アレク、ちょっと待っててあげて」
ハーピーの2人とナーリアたちは、みんなすぐに家の中に入っていった。
待つほどのこともなく、エレオンたちはやって来た。
互いに「おう、ちょっと久しぶり」なんて軽い挨拶を交わしていたら、入り口が開いて、メリーが走って来た。
「ハトのお兄ちゃん」
メリーがハライトに飛びつくと、羽毛で覆われた体をしているハライトとぼふんという感じでメリーを受け止めて、抱き上げた。
「メリーは今日も元気だな」
「うん、メリーはいつも元気。
それよりハトのお兄ちゃん、赤ちゃん可愛いよ。
早く見に行こう」
降ろされてメリーはハライトの翼を引っ張って、家の中に連れて行こうとする。
「メリー、お兄ちゃんたちは今はこっちの部屋に居る約束なんだ。
用意が出来たら、こっちの部屋に来る様に、みんなに言ってきて。
もう、ハトのお兄ちゃんたちも来たよって」
「うん、分かった」
僕の言葉にメリーは素直に家の中に入っていった。
僕たちが元作業場の部屋に入ると、すぐにアンがお茶を持って一番にやって来た。
アンも、もうエレオンたちとも全く普通に話している。
みんなもすぐにやって来た。
今はティッティアはイクス様が胸の間に入れて抱いている。
「ほらあ、赤ちゃん、とても可愛いでしょ」
イクス様の横にくっ付いてきたメリーが、ハーピーの男三人にそう言った。
ハーピーの男三人は、ちらっと見て、ティッティアがイクス様の胸の谷間に挟まれる様にされて抱かれているのに気がつくと、視線を彷徨わせていた。
それに気がついたイクス様が言った。
「別に構わないから、よーく見てあげて。
私の胸なんて、もう前にしっかり観察したでしょ、今更気にする必要もないわ」
あ、イクス様、その言葉は不味い。
その言葉はウスベニメのアンテナに引っかかり、ウスベニメの頭にツノが生えるのが見える様だった。
「あなたたち、一体全体どういうことだかしっかりと説明してくれるのでしょうね」
ウスベニメはジロリという感じでエレオンたちを睨むと、ドスが効いた声を出した。
僕は彼らの為に弁明してあげた。
「前に報告をする時に、諸々の事情から時間が無くて、風呂の中で報告をしなければならないことになってしまったんだ。
エレオンたちが自分から望んだ訳では無くて、時間が無くての命令だったから仕方ないことだったんだ。
許してやってくれ」
「報告ということは、他には誰がいたの?」
エレオンが仕方なしに白状した。
「ラーリア様とミーリア様も一緒だった。
ラーリア様が『我らは全く気にしないから、時間に余裕がないから風呂の中で報告を聞くから、一緒に入れ』と」
ウスベニメの感覚としては許し難いことの様だが、場合が場合だし、ラーリア様の命令だからというのもあるし、なんて言って良いのか困っている様だ。
「エレオンたちが覗いたとか、そういうんじゃないし、誰も問題視してないのだから別にいいじゃん。
問題にしているのはウスベニメだけだよ。
ここはラミアの里なんだから、ハーピーの価値観で物を言うのも違うと思うし、それ以前にその価値観はウスベニメの価値観で、ハーピーの価値観という訳でもないしね」
「えーっ、モエギシュウメは構わないって言うの?」
「うん、別に構わない。
だって私たちだって、まともに口にしないだけで、けっこうアレクや他の人間の裸も見ちゃっているし。
ハーピーの遠くまで見える視力だと、意図してなくても見えちゃうことは良くあることだし。
だから私はどっちかと言うと、ラミアの『裸なんて見ても見られても減るもんじゃ無いし』という考え方の方が親近感が湧くかな。
それにウスベニメみたいに気にすると、見えちゃった時になんだか一方的で申し訳ない気持ちになるのだけど、互いに気にしないことが前提なら、そんな気持ちにもならないしね。
それに私はみんなで温泉を楽しむというのをしてみたいと思うのよね」
モエギシュウメのちょっとあけすけな言葉に驚いた顔をしてウスベニメが黙ってしまったので、その場はなんと無くケリがついた。
「ほら、この人は時々とんでも無く抜けているって、前に言ったでしょ」
レンスが僕にそう言った。




