253. 強制的に起こされると
ここからは第四章「間の日々」です。
「うわぁー!!」
僕は悲鳴をあげて、目が覚めた。
「メリー、構わないから、ナーリアとセカンとディフィーにも水を掛けて、早く起しちゃいなさい」
まだ訳がわかっていない僕の目に、まだぼんやりとメリーが桶から椀で水を汲み、その水をナーリア、セカン、ディフィーと、次々と首筋に掛けているのが見えた。
「きゃーっ!!」
「んんーっ!!」
「ひぇーっ!!」
三者三様に悲鳴をあげて、三人も僕と同じような調子で目を開けて、辺りを見回している。
僕もだが三人も全く事態が判らなくて、声も出せずにキョロキョロするだけだ。
一段上がった部屋の奥からサーブが出てきた。
「おっ、四人を起こしたのか。 よく起きたなぁ」
「うん、メリーに四人とも水を掛けて起こさせた」
「おいおい、そこまでしなくても良いのに」
「そんなことはないわ。 特にアレクはね。 それでイクス様はどう?」
「今、一番奥に寝かした。 レンスが付いているから大丈夫」
「私は今、一応お湯を沸かしているけど、あと何したら良いのかしら。
誰か呼んで来た方が良いのかしら。 必要なら走って行ってくるけど」
「その必要があるなら夜目が利く、私かレンスが行ってくるよ。
大丈夫、ラミアの出産はそんなに大変なことではないんだ。
卵胎生のラミアはそこは人間とは違う、とイクス様自身が言われていた」
えっ、出産? 僕は急に頭がシャキッとして意識が鮮明になった。
「出産って、イクス様、生まれるのか?」
「おっ、アレク意識が鮮明になったな。
ああ、イクス様によると、子供が卵の殻、殻と言ってもラミアは鳥とは違って、固くはなくて少し厚い膜のようなものだけどな、ま、その殻から出ようとし始めているのを感じるから、もう少しすると生まれるそうだ」
「何、それ、大変じゃない」
「私たちもこんなところで、ヘタっている場合じゃない」
「えーと、私たちは何をすれば良いの?」
「ああ、お前たちも目が覚めたな。
とにかく落ち着け。 今何かしなければならないことはない」
目を完全に覚ましたナーリア、セカン、レンスにサーブがそう言って、落ち着かせようとした。
とりあえず僕は部屋の奥に入って行った。
「あら、アレクくん、無理矢理起こされちゃったのね。
ごめんなさいね。 疲れて倒れるように部屋の入り口で寝ちゃったのに、無理矢理起こすようなことになって」
「えーと、イクス様、産まれそうって本当ですか?」
「うん、もうすぐ産まれるわ。
そんなに心配そうな顔をしなくても大丈夫よ。 私は二度目だし、ラミアのお産は人間とは違ってとても簡単で楽だから。
とは言っても、私も人間のお産は見たことがないから、良く分からなくて、本から得た知識だけどね。
ただまあ、ラミアの子供は人間から比べるとずっと小さくて産まれてしまうから、アレクくんはそれには驚かないでね」
「はい、それは前にもイクス様に言われて、僕たち人間たちも図書館で調べたりして、みんな理解しています」
「そう、それなら良かったわ。
それなら、まだちょっと時間がありそうだから、とりあえずみんな温泉で汗を流して来て。 みんなこっちに戻って来て、体を洗ってもないでしょ。
産まれたばかりの子供に接するのに、それは良くないわ。 レンスも一緒に温泉に行って来なさい」
「お母さん、一人で大丈夫?」
「まだ時間もあるし大丈夫よ。 早くしなさい」
「じゃあ、とにかく体を綺麗にしてくる」
僕とレンスは部屋から追い出された。
「アレク、どうだった?」
ナーリアが心配そうに聞いて来た。
「まだ時間がありそうだからって、汚い体を洗って来なさいと追い出されちゃったよ。
とにかくみんな温泉に入って来なさいって命令された」
「あ、確かにそうね。 私たちフロードとの戦いと、そのための往復で体が汗と埃まみれよ。
これじゃあ産まれてくる子に良い訳ないわ」
「うん、とりあえず早く温泉で体を洗ってこよう」
ナーリアの言葉にセカンがうなづいて、みんなでとにかく体を洗いに温泉に向かうことにした。
「アン、メリー、お母さん見てて」
「分かったわ、レンス。
私は竃の火を落として、そしたら部屋の中にいるわ。
メリー、静かに中に入るのよ。 イクス様に飛びついちゃダメよ」
この非常事態に自分が何か迷惑をかけてはいけない、という感じで、アンの近くでじっとしていたメリーが、レンスの言葉で素早く部屋の中に入ろうとしていたのに対して、アンが注意した。
メリーはその言葉に、急に素早い動きをやめて、そおっと部屋の中に入って行った。
「イクス母様、大丈夫?」
「メリー、イクス母様は大丈夫よ。
ちょっとこっちに来てみて。 メリーにイクス母様のお腹の中の赤ちゃんが動いているところ、触らせてあげるわ」
「うん、イクス母様」
アンも部屋に入っていくのを見届けてから、僕らは温泉へと向かった。
温泉で大急ぎで体を綺麗にしながら、僕はサーブとレンスに今の状況の説明をしてもらった。
僕たちは家にたどり着いたと思ったら、僕とナーリアとセカンとディフィーの四人は、糸が切れたかのように部屋への上り口で気を失ってしまったのだという。
「私とレンスもそれに続いちゃおうかとしたら、イクス様に、
『あなたたちはもう少しだけ我慢して。
私とアンの二人では、四人を部屋に上げられないわ。
それを手伝ってから、意識を失ってちょうだい。』
と言われたんだ。
レンスが『私ももう動けないほどなのに』とイクス様に文句を言っていたのだが、イクス様がアンと一緒にアレクを上にあげようとされたら、急に『あら、産まれるわ』と言って、今の状況さ」
うん、なんとなく状況把握はできた。
「どっちにしろ、上にすぐに報告しないといけないわね。
ラーリア様たちは卵を抱えている状態だから、ミーリア様に報告ね」
「大急ぎで、私が行って来る」
「レンスはダメよ。 イクス様に付いててあげなくちゃ。
セカンは赤ん坊を包む布を用意したりしなくちゃダメだわ。 それに一番器用だから、何かの時に役に立つ。
私が行って来るわ」
「ディフィー、私も一緒に行こう。 ナーリアはリーダーだから、ここで待機だな」
僕たちは温泉で体を温めることもせずに行動に移る。
僕は、あっ、また着替えを持って来るのを忘れた、と一瞬思ったが、誰も着替えなんて持って来ていなかった。
「それじゃあ、私とサーブはミーリア様を呼んでくるわ」
ディフィーとサーブがそのまま駆け出して行った。
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私たちが里にやって来ると、里の前にはもう火など燃えてなくて、以前の通りの里の風景になっていた。
里の入り口は、今日はアーリベ様とアーリク様が門番として起きていた。
二人は私たちの格好を見て驚いたようだ。 しまった忘れてた。
「お前たちその格好はなんだ。 一体どうしたんだ」
「はい、すみません。 ちょっと急いでいたもので。
すみません、大急ぎでミーリア様にお会いしたいのですが」
「お前たち、この時間にか」
サーブがすぐに言った。
「イクス様が産気づいたんです」
「分かった。 急げ」
私たちは大急ぎでミーリア様の部屋を目指し、部屋のドアをノックした。
私がノックすると、すぐに中で目を覚ました音がした。
私は、ミーリア様はいつでもすぐに反応できるように身構えているのかしら、そんなことを考えてしまった。 それほど即座に反応が返って来たのだ。
「誰?」
「ディフィーとサーブです」
「今、ドアを開けるわ。 ちょっと待って」
すぐにドアが開いて、ミーリア様が顔を出して来た。
「どうしたの? 何があったの?」
「はい、イクス様が産気づきました」
ミーリア様は一瞬考える顔をしたかと思うと、部屋から出て来て、部屋を1つ飛ばしてミーリド様の部屋のドアを乱暴に叩いた。
「ミーリド、起きて! 大急ぎよ」
ミーリド様が寝ぼけ眼という感じで出て来た。
「ミーリア、なあに、こんな時間に」
「イクス様が産気づいたそうよ」
「分かったわ。 すぐに支度する」
ミーリア様は私たちの前に戻って来て言った
「ちょっとだけ待って、支度するわ。
あなたたちは焦ってナイフも持たず、服も着ないで来ちゃったのね」
アーリベ様に驚かれた時点で、気が付いていたのだが、改めてミーリア様に指摘されると、自分たちの慌てぶりがちょっと恥ずかしかった。
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「あら、ミーリアを呼びに行ったと聞いたけど、ミーリドも来てくれたの?」
「はい、叩き起こされました。
まあ、不器用なミーリアじゃ役に立ちませんし、私を起こしたのは、リーダーとして正しい判断だと思います」
「ま、確かにそうね。
ミーリアは不器用だから、こういう時は役に立たないものね」
「それを認めるのは嫌なのですが、自分でもそう思ってミーリドを起こして来たのですから、そう私の不器用を言わないでください。
もちろんナーリアたちにはしっかりバレていますから今更なんですが、それでもちょっと」
ミーリア様の抗議にイクス様とミーリド様は笑っていた。
「それでは間に合ったみたいなので、イクス様ちょっと産道口の辺りを上に上げてもらえますか。
下にこれを敷きますので」
ミーリド様は、持ってこられた布をイクス様の下に広げられた。
布は麻布の上に紙が貼られ、それにアスファルトを塗って防水にした物のようだ。
「卵から子供が出る前で良かったです。 これで下を汚しませんし」
ミーリド様の言葉にイクス様も余裕で頷いていた。
子供は結局夜明け前に産まれたのだが、最初から分かっていたのだが、それでも僕はその小ささに驚いた。
ほとんど手の平サイズで、目も開いてないし、手というか腕も小さくて、よく見ないと指が分かれているのなんて判らない感じだ。
顔の作りに対して、口がすごく大きいなぁと思ったのだが、その理由はすぐに分かった。
子供は産まれると、ぬるま湯で洗われるとすぐにイクス様に返されて、イクス様は自分のおっぱいに子供を沿わせた。 すると本能なのだろう、子供はイクス様の乳首に吸い付いた。
子供の大きさから考えるとイクス様の乳首は大きくて、それでも吸い付けるように、口だけは最初から乳首に吸い付ける大きさになっているのだと解った。
「イクス様、子供は元気ですね。 こんな風にすぐにちゃんと乳首に吸い付くなら安心です」
「そうね、元気に産まれて良かったわ」
乳首に吸い付いて、いくらかおっぱいを飲んだのだろうか、子供はすぐに疲れたようで、乳首を離してしまった。
「アレクくん、まだこんなに小さいけど、あなたの子供よ」
そう言ってイクス様は子供を僕に見せてくれた。
僕はまだ、形的にはラミアともなんとも判らない感じの小さな生き物を見つめたのだが、それでも元気に産まれてくれたと思ったら、なんだかとても安心した。
僕はなんだかよく分からないけど、顔がにやけてしまったのを意識した。
次の瞬間また意識がす〜っと暗闇に落ち込んで行ってしまった。




