251. フロードの結末
僕たちの発見した地下室には、フロードの悪事を裏付けする証拠となる物が沢山発見された。
「うーん、ここまであからさまに証拠が残っているとは思わなかったよ」
エリクの言葉だが、みんなそれに同じに感じていた。
それより何より、この発見した地下室には別の大きな出入り口があり、何があるのか、どこに続いているのかとドキドキしながらその出入り口を部屋の中から開くと、何のことはない、厩舎と倉庫を兼ねた建物の一角にある出入り口だった。
僕たちは思いっきり拍子抜けしてしまった。
「フロードはまるでこの悪事を隠すつもりはなかったみたいね。
なんでこんな状態で今まで悪事がバレなかったのか訳がわからないわ」
ディフィーがそう言ったが、それにもまたみんな同じ意見だった。
僕たちが簡単にその部屋の捜索を終え、ナーリアが「ここに本陣を構える」と言った、門を入った広場に戻ると、すでにもう喧騒は終わり、砦の制圧は終わったみたいだ。
「どう、悪事の証拠もっと見つかった?」
ナーリアが聞いてきたのに対して、ディフィーが言った。
「見つかったどころか証拠だらけよ。 全く隠す気がなかったみたい」
ディフィーの言葉に、その場にいたアリファ様たちも「何それ」という顔をしたのだが、アルフさんとデイヴ、そしてキースは唖然とした顔をした。
次々と人が集まってくる。
ミーリア様たちもやって来た。
「ナーリア、状況は?」
「はい、掃討が終わり砦の制圧を完了しました」
「こちらの被害は?」
「まだ完全な確認は取れていませんが、今のところ被害の報告は来ていません」
ミーリア様の纏う雰囲気が一気に和らいだ。
「そう、良かったわ」
カーライルさんとストームさんに連れられて、二人の身なりの良い男が僕らの前に連れて来られた。
その前に、タインさんもこの場に戻ってきていた。
連れて来られた一人の男が喚いた。
「カーライル、ストーム、いくらお前たちが領主の側近であっても、ワシに対してこの様な振る舞い、決して許さんぞ」
「男爵、あなたに発言は今許されていません。 黙ってください」
ストームさんが左手を剣の鞘に置き、威嚇する感じで言った。
ああ、この男がフロードかと僕たちは思った。
フロードは僕たちの中にタインさんを見つけた。
「バンタイン様、こやつらの行為を止めて、糾弾してください。
それに何故この場にラミアがいるのですか?」
フロードの大声はとても耳障りに響いた。
「義父上、いえ、もう義父上とは呼べないですね。 フロード、少し静かにしろ!!」
タインさんの強い言葉に、フロードは一瞬唖然とした顔をしたかと思うと、流石に沈黙した。
ストームさんは、ちょっとナーリアとミーリア様を見比べると、少しだけイタズラ小僧の様な表情をしたかと思うとナーリアに対して言った。
「指揮官殿、ご命令どおり、フロードとその家宰を捕縛してまいりました」
ナーリアは、「えっ、私?!」と驚いた顔をしてミーリア様を見た。
「ナーリア、このまま現場の指揮官として、この場を仕切りなさい」
「はい、わかりました。
ストームさん、ご苦労様でした。
それでは先にそれぞれの報告を受けます。
カーライルさん、非戦闘員の保護はどうなりました?」
「はい、武装メイド隊、および我が一隊によって、保護対象は無事隔離してあります」
「はい、ご苦労様です。 クラッドさん、状況は?」
「はい、指揮官、我が隊は多少の抵抗は受けましたが、こちら側はごく軽い軽傷1名のみで、敵方は死亡1名、重症2名、軽傷数名で、その他20名程捕縛しました」
「はい、ブマー」
「こっちは軽傷2名、敵方は死亡2名、重症1名、軽傷数名で、こっちも約20名の捕縛です」
「この場所周辺はどうだったのかしら?」
チラチラっと目配せが交わされたが、最終的にアルフさんの合図で、アルフさん直属の一人が答えた。
「はい、指揮官殿、この中広場周辺では味方に被害はなく、30名程を捕縛しています」
「ああ、指揮官殿、さっき言い忘れたが、この二人を捕縛する途中、20名ほど捕縛している」
ストームさんが付け足した。
揃ってこの場に降りてきていたハーピーからエレオンが
「一応報告しておくが、上から指揮官を弓で狙っている者が一人いて、ちょっと焦ったので、捕縛ではなく討ち取ってしまった」
それからアライムが、
「あと、砦から逃げ出した者を周りを囲んでいる兵が全て捕縛したぞ。 総勢20名ほどだ」
ナーリアは自分が矢の標的にされた報告を聞いても、動揺を見せることなく、そこは完全に無視して続けた。
「はい、了解しました。 皆さん、ご苦労様でした。
他には敵がいる可能性はありますか?」
ストームさんがフロードに言った。
「ほら、男爵、指揮官殿の質問だ。 正直に答えて、男爵の品位を汚さぬことだ。
ま、もう遅いがな」
フロードは蒼白な顔で言った。
「聞いていた限り、この砦にもう兵は居らん」
「そうですか。 それではここに砦の制圧の完了を宣言します」
中広場は騎士たちの歓声に包まれた。
カーライルさんに兵が一人近付き、何かをカーライルさんに伝えた。
「指揮官殿、この後はフロードの弾劾に続くと思うのですが、外に居る諸公より、フロードの弾劾は目の前で行ってくれという要求が出ています」
うん、確かにそうだよなぁ。 ここまで来させられて、実際にしたことは逃げ出した者の捕獲だけで、他は見えない内部で行われて何も知らないというのでは、ちょっと収まりがつかないだろう。
カーライルさん、ストームさん、そしてアルフさんとタインさんがナーリアとミーリア様のところに集まり、セカンとディフィーも呼ばれてちょっと相談がされた。
ナーリアが全体に宣言した。
「それではフロードの弾劾は砦の外で行います。 それには外に待機している諸公はもちろん、今回捕縛された者も全員立ち会わせます。
カーライルさんとストームさんの指示に従って、その準備にかかってください」
捕縛した者の移動などに時間を取られている間にエレオンたちがミーリア様の元に来た。
「ミーリア様、そろそろ我々は明るさが足りなくなり、これ以上ここに留まると動きが取れなくなってしまうので、申し訳ありませんが退去させていただきます」
「そうね、仕方ないけど、暗くなってきちゃったものね。 了解よ」
モエギシュウメが異議を唱えた。
「同盟最初の仕事にハーピーが一人も最後までいなかったというのは、ちょっと問題よ」
「仕方ないだろ。 暗くなったら、俺たち飛べなくなるし、身動きできないぞ」
「それなら、私だけ残るわ。 私は夜目が利くから大丈夫だから」
聞いていた僕は、ちょっと口を出した。
「これからのことはきっと、見ていても気持ちの良いものではないぞ、きっと」
「そうよ。 そんなところにモエギシュウメ一人だけ残すなんてできないわ」
ウスベニメが反対した。
「別に私一人じゃないじゃん。 ナーリアたちは全員いるじゃん」
「それでも一人で飛んで帰っこなければならなくなるんだよ」
うーん、困ったな。 確かにハーピーが全くいなくなるというのは、同盟最初の一緒の作戦で、あまりしたくないことではある。
でも、気分の悪くなる様な事を見た後に、一人飛んで帰るというのもなあ。
ミーリア様も迷っているようだ。
僕たちのすぐ横に、軽くバサッという感じで、ハーピーがもう一人降り立った。
ミーリア様が慌てて挨拶する。
「シロシュウメ様、なんでこちらに」
「きっとハーピーの最後まで立ち会える者がいなくなって困っているんじゃないかと思ったのよ。
そういう事態があるかと思って、ちょっと眺めに来てたのだけど、案の定だったから、降りてきたの。
私と、モエギシュウメで立ち会うわ」
「伯母さん、見てたの?」
「こういう公式の場では、伯母さんじゃないでしょ」
ともかく問題がなくなったので、エレオンたちは暗くなりかけた空を帰って行った。
暗くなりかけた砦の門を背にして、中に突入した僕たちそしてミーリアは並んだ。
その僕らから見て左手には捕らえられたフロードの者たちが並ばされ、その僕らと捕虜たちを囲むように諸公たちと兵が並んだ。
その真ん中に、カーライルさんとストームさんによって、フロードとその家宰は連れ出された。
諸公とその兵からはフロードに対する様々な罵倒の言葉が湧き上がり、収拾が取れなくなりそうな喧騒となった。
少しだけミーリア様が並んでいた場所から前に出て、持っていた槍を右手でゆっくりと掲げてゆく。 残照にミーリア様の煌めく銀髪と白銀色の槍が美しい。 その光景に吸い寄せられるように視線が集まった。
その槍を一気に下ろして石付きで地を打ち、左手を横に払った。
ミーリア様から一気に冷気が放出され、一瞬にして静まった空気の中にミーリア様の命令する声が響いた。
「黙りなさい。 静かになさい」
それまでの喧騒は跡形もなく、諸公とその兵も完全な沈黙と化した。
「さあ、ナーリア、進めなさい」
ミーリア様が元の場所に戻り、ナーリアが少し前に出て、諸公とその兵に向かって言った。
「作戦行動はこれまでで全て終わり、作戦は完全な成功となりました。 皆さんの秩序だった行動が生んだ戦果です。 今回の作戦の指揮官として礼を言います。
さて、ここからのフロードに対する弾劾は、指揮官の役目ではなく、領主家の役目ですので、私は引っ込み、こちらの御二人に任せることにします。
最後に、人間、ラミア、ハーピーの同盟後最初の勝利を完全な形で迎えられたことに、心からの喜びと、感謝を」
そう言ってナーリアが下がろうとすると、諸公とその兵から
「同盟、万歳!」 「勝利だ!」 「指揮官殿、勝利をありがとう」 「ナーリア指揮官!」
などと色々な声がかかった。
ナーリアが元の場所に戻り、サーブがミーリア様の真似をしてハルバードをあげて下ろし手を横に払うと、何故かまた場が静まった。
アルフさんとタインさんが前に出て、タインさんがフロードに言った。
「フロード、お前が今、何故このようなことになっているか理解しているな。 何か申し開きがあれば申してみよ」
フロードは言った。
「バンタイン様、私は何故、私や砦の者がこのような扱いをされているのか、全く分からないのです。
我がフロード家はこの地方の軍事を忠実に行い、ゴブの脅威などに備えてきました。 私もその通りの人生を歩んできて、この様な扱いを受けるいわれが全く見当もつきません。
それにこの場の指揮官がラミアであったなどとは私には青天の霹靂で、ラミア、ハーピーとの同盟などと、そんなことはあってはならない事柄です。 ラミアは大火を引き起こした犯人ですぞ。 その様な種族と関わってはならないのです」
「フロード、お前はまだそんな事を言うのか。
大火はラミアが引き起こした事ではなく、お前の2代前の当主が引き起こした事で、なおかつその罪をラミアに擦りつけたことは、ここにいる者はみんな知っているぞ。 今更そんなことを言っても、誰もお前に同情しないぞ」
アルフさんがフロードにそう言った。
「何を言う。 大火の犯人はラミアであることは常識であろう。
それにお前は誰だ。 フードを外せ」
「おいおい、お前呼ばわりや、誰だ呼ばわりは酷くないか」
アルフさんはフード付きのマントを脱いだ。
「アルフレッド様・・・」
「ま、さっきの無礼は許してやる。
さっき私が言ったことはきちんとした証拠がしっかりとある事で、嘘ではない。 お前が何を信じようと、それはお前の勝手だが、今では誰も大火をラミアが起こしたとは信じないし、フロードがその罪をラミアに擦りつけてきたということを知っている」
「私は本当にその様に教わって・・・」
「ま、今はそれはどうでも良いんだ。
お前、この剣に見覚えはないか?」
フロードはアルフさんの持っている剣を見て、震え声で言った。
「その剣は、我がフロードの剣」
「そう、我が家から下賜された剣だな。 この剣を私が持っているということはどういう意味だか分かるだろ」
「つまり、我が息子は」
「そう、とっくの昔に討ち取られているという事だ。
問題は何故お前の息子が討ち取られたかだ。 お前にも薄々その理由がわかるんじゃないか」
「息子は、ゴブとラミアの動向調査に出たのであって」
「今更、そんな嘘をついても仕方ないだろう。 お前の息子は盗賊として討ち取られたのだ」
「嘘だ。 そんなことは信じないぞ。 誰がそんなことを言っているのだ」
アルフさんがデイヴを手招きして横に来させて言った。
「この男が証言しているんだ」
「こんな男の証言を信じると言うのか」
「おい、こんな男はないだろう。 俺の顔も良く見てくれよ」
フロードはデイヴの顔をじっくりと見て
「もしかしてデイヴィッド様、死んだはずでは」
「この通りちゃんと生きているよ。 そして商隊を襲っていた者どもを成敗したのは俺たちなんだ。 まさかその中にフロードの次期当主が混ざっているとは思ってはいなかったけどな。 これには俺も驚いたし、情けなくて涙が出たよ」
タインさんが言った。
「フロード、フロードが組織立って隊商を襲っていた証拠は、もう領主家にしっかりと上がっていたんだよ。 僕は領主家とフロード家の仲を取り持とうとしていたんだけど、フロードにはとっくの昔にその価値はなくて、僕は利用されていたんだとつくづく理解したよ。
それから地下室から、これまでの罪の証拠がわんさか出てきたという報告も受けているよ。 もう言い逃れのしようもないよ」
その時、家宰が急に逃げ出そうとした。
「私は何も知らない。 私は関係ない」
そう叫びながら逃げようとしたのだが、どの方向も囲まれている、どちらに行くか迷った挙句、諸公の方に逃げて行った。
「此の期に及んで見苦しい」
諸公の一人が一刀のもとに斬り捨てた。
「ははははは・・」
フロードが乾いた笑い声を上げた。
「フロードに入り、30余年。 ワシ自身まで騙されているとは思っていなかったが、もはやこれまで。
バンタイン様、あの世にお付き合い願おうか!!」
フロードは剣を抜きタインさんに襲い掛かろとした瞬間、いつの間にか首に突きつけられていたレンスの短剣に、自分から刺さりに行く羽目になってしまった。
何が起きたか理解できないと言う顔を一瞬最後にして、フロードは首から血を噴水の様に撒き散らして死んだ。




