250. 対フロード6
「アルフさん、速過ぎます。 もう少しゆっくり。
速過ぎては命からがら逃げてきたという感じになりません。
時々振り返ったりして、みんなを叱咤激励するふりをしながら、追いつかれそうだけど、なんとか距離を保っているという感じに動いてください」
「了解、指揮官。 なんとかそういう演技をしてみるよ」
僕たちはとても真剣な作戦行動中なのだが、おかしくなってニヤニヤしながら砦に向かっている。
「アルフさんだけじゃありません。 他のみんなもよろけたり、足を縺れさせたりといった、這々の態という感じの演技をしてください。
みんなの演技に今回の作戦の成否がかかっているのですよ」
馬車の中ではナーリアのみんなが砦からは姿が見えないし、声も聞こえないのを良いことに、ナーリアの一言ごとにゲラゲラ笑っている。
騎士たちの中には、それが可笑しくて我慢していて、それが原因で足を縺れさせる者が出る始末。
まあいいか、なんとなくリアリティーがある風に見えているかも知れない。
鞍のせいで、砦から見えない位置で馬を走らせているデイヴがサーブとおしゃべりしている。
「なあ、サーブ。 ナーリアが真剣に指揮しているのは分かるのだけど、真剣に何か言うごとに指揮されているみんなは笑っている気がしないか。
いいのか、こんな具合で」
「デイヴ、少なくとも緊張でガチガチになっていて動けないよりはマシだと私は思うぞ」
「それはそうだな、なんていうか、ナーリアの迷指揮だな」
「デイヴ、サーブ、聞こえているわよ。 あとでどうなるか覚えておいて」
このナーリアの言葉で、騎士たちが一斉によろけた。
僕はアルフさんの隣を走っている、反対側はキースだ。 アルフさんが話しかけてきた。
「アレクくん、バンタインもどうやら上手くやっている様だね。
砦の前に陣を布き終えたよ。
砦の方はバンタインの率いる兵を何の躊躇いもなく味方だと思ったみたいだな。 バンタインの兵が陣を敷く時に全く警戒していないみたいな感じだったぞ」
「そうですね。 全ての注意が僕たちと、僕たちの後ろに向いたのではないですか」
「うん、そんな感じだな。 二人の策に完全に引っかかっているな、これは」
「それよりアルフさん、そろそろ砦から、よく見える距離になってきましたよ」
アルフさんは、少し前に出るとこちらを振り返って言った。
「みんな、そろそろ砦からまともに見える距離だ。 さあ、笑ってないで、本番だぞ、気を引き締めろ」
僕たちも、騎士たちも小さな声で「おう」と返事した。
ナーリアが命令した。
「アルフさん、剣を掲げて」
今度のナーリアの口調は厳しく、誰もとても笑える様な調子ではなかった。 僕たち全員に緊張が走った。
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「もう、なんなのあれは。 ナーリアは大丈夫かしら。
前の人間たちは笑いを堪えるんで足を縺れさせたりしているわよ」
今回のミーリア様は私たちを指揮してはいるけど、まだ『氷のミーリア』にはなっていない。 普段の調子のミーリア様だから、私もその言葉に応えることが出来る。 『氷のミーリア』様の時だと、「はい」とか「了解しました」と答えるだけで背中に冷や汗が流れるものなぁ。
「大丈夫じゃないですか。 まだ砦からは良く見えない位置でしょうから。 見える位置になれば、しっかり緊張した姿を見せるんじゃないですか」
「そうなら良いのだけど、なんだかあの調子だと心配になるわ」
「ナーリアはしっかりしているから、もうすぐちゃんとさせますよ」
「まあ、ナーリアの指揮を間近に見たロアがそう言うなら信じるけど」
「ミーリア様、そろそろ砦からしっかり見える範囲に入ります。
あっ、アルフ殿が剣を鞘ごと振り翳し始めました」
「アレア、私にも見えたわ。
みんなここからが本番よ。 合図と共に私たちも展開して弓を放つ陣を作るわよ。 位置は向こうの陣にギリギリ弓が届かない程度の場所よ。
少し大げさに追いつこうとするわよ。 全員全力で走れ!」
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「ミーリア様たちが全力で走り出した。
私たちも思いっきりミーリア様たちから逃げるわよ」
ナーリアの声に騎士たちは小さく答えた。
「了解です」
「キース、お願い」
キースは砦の方に向かって一騎少し先行し、大声を上げた。
「開門!! 開門!!」
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良し、予定通りだ。 こちらも予定通りに動かねばならない。
「門の前を通れる様に開けろ。 砦に入れる様に場所を作れ」
僕は自分が一緒に来た諸公たちがカーライルとストームの細かい指示の下、計画通りに場所を空けて行くのを見て、門の前に立ち大声を上げる。
「門番。 私はバンタインだ。
あの追われている者たちの先頭の剣を見ろ。 あれは義兄上たちだ。
早く門を開けろ。 ラミアが迫ってくる前に、疲れているだろう義兄上たちを砦の中に収容するのだ。 何をしている急げ。 もう来るぞ」
砦の門が開いた。
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「報告します。 追われているのは、どうやら遠征していた者たちの様です。
先頭の者が振っている剣は若の剣に見えるとのことです」
「男爵様、やはりラミアに追われているのは若様たちの様です」
「分かっておる。 それは予想していたことだ」
「それではいかがいたしますか」
「報告します。 砦の前に陣を敷かれたバンタイン様が、若様たちを砦内に収容するために砦の門を開けろと要求しています」
「男爵様、ここはちょっと危険ですが、門を開けて若様を収容して差し上げないと。 外はバンタイン様が陣を張っているとはいえ、どんな不測の事態が起こらないとも限りません」
「ええい、仕方がない。 そうであるな、門番に門を開けてやる様に伝えよ」
「報告します。 すでに門番はバンタイン様の命令で門を開きました。
ラミアはバンタイン様の陣に対して、ラミアの方も陣を構えました」
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「よし、この辺ね。
全体、展開して弓戦用の陣を作り、弓を構えよ」
ラミアたちは素早く展開して、それぞれの場所で弓を構えた。
「アリファ、アレア、ロア、もうすぐ出番よ。 用意はいい?
ミーレオ、この後ミーリアが砦に突入したら、予定通り、残り全員を引き連れて、ラミアの里に戻れ」
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砦が近づいてきた。 予定通り、門の前だけ陣が退いて、人がいない。 その部分を目指して僕たちは駆けている。
門が開いた。
「門が開いたわ。 このまま一気に砦の中に突入!!」
僕たちはナーリアの命令に無言だが、より一層スピードを速めて門の中に突入した。
「クラッドさん、ブマー、行って!」
「はっ」「行くぞ」
「ディフィー、バンジ、ダイク、エレク、ハキ、あなたたちも行って。
あとの者は、この辺りを掃討して。
ここに本陣を構えて敵の注意を引きつけます」
ナーリアも馬車から外に出て、槍を立てた。 金色の髪と槍が少し明るさが陰ってきた砦の中に一層きらびやかに目立つ。
ストームさんとカーライルさんもやって来た。
「ナーリアちゃん、俺たちも直属を連れてやって来たぜ」
「お二人はフロードの確保に向かってください。 あ、武装メイドの方たちも来ていますか。 いたら、女性たちの確保に同行してもらって欲しいのですが」
「了解した。 任せてくれ給え」
タインさんも来た。
「ナーリアさん、僕たちは?」
「タインさんの部下はこの砦の人と親しい人もいると思います。 抵抗している人にその人たちから降伏を勧めてあげてください。 血を流すことは目的ではないので」
「すぐに取り掛からせる」
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上空から、ウスベニメが一直線にミーリア様の前に降りて来た。
「ミーリア様、門が開き、ナーリアたちが突入しました」
「ウスベニメ、了解よ。 ご苦労様。
さあ、私たちも行くわよ。 アリファ、アレア、ロアを先頭にミーリアも突入する。
ミーレオ、後を任せる」
私たちは先頭で砦に全速で近づいて行った。
砦から矢が降って来た。
「アレア、ロア、私の陰に入って!!」
私とアレアがアリファの後ろに隠れると、アリファが持ち上げた盾に矢が当たり、カンカンと乾いた音を立てた。
「上から狙っているとはいえ、この距離で2本もきちんと矢が届くのは、砦の兵もなかなか鍛錬がされているのだな」
アレアが「今そんなこと言うかよ」と突っ込みたい冷静さで、評した。
私は言った。
「流石にちょっと早く砦に近づき過ぎたんじゃない。 まだ弓兵の掃討終わってないじゃん」
「大丈夫そうよ。 もう次の矢、来ないもの。 私は行くけど、ロアはゆっくりでもいいよ。 ま、すぐ後ろにミーリア様がいるから、きっと怒られるけど」
アリファがそんな憎まれ口を叩いてきた。
「行くに決まってるじゃない。 私とアレアはアリファのスピードに合わせてあげているんだからね」
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アリファ様、ロア様、アレア様もやってきた。
「ナーリア、ミーリア様ももう来るよ」
「えっ、もう来るんですか。 まだ砦の中の掃討終わってないのですけど、ちょっと困っちゃうな。
サーブ、ちょっとミーリア様のところに行って、まだ掃討が終わり切ってないので少しお待ちくださいって言ってきて」
「えっ、私?
私は今回もまだ何もしてないぞ」
「サーブ以外も、誰も何もしてないわよ。
騎士の人たちが動いているけど、あまり大きな音も聞こえないから、きっと大した抵抗は受けてないと思うわ。
サーブがハルバートを持って歩けば、目立つから一番わかりやすいのよ。 ほら、行ってきて」
サーブは渋々という感じでミーリア様を探しに、門の方に戻っていった。
「私たちがナーリアを守るから、みんなはここから離れても良いわよ」
アリファ様がそう言ってくれたので、僕はレンスとセカンの方を見て、
「ディフィーたちの手伝いに行こうか。 まだ戻ってこないということは、まだ見つけてないんじゃないか」
「たぶんそうだと思う。 私たちも行こう」
セカンがそう賛成してくれて、レンスも頷いた。
僕たちはディフィーたちがいると思われる、前に見た砦の内部の地図を思い出して怪しいと思った場所に行ってみた。
行ってみた場所では、エレクとハキが書類を片っ端から目を通していて、ダイクとバンジが壁や床を手で叩いて、音を聞いていたりした。 ディフィーは難しい顔をしてそれらの作業を見ていた。
「どうした、見つかったか?」
僕の問いにエレクが答えた。
「怪しそうな書類はあるのだけど、よく見ると、一応きちんとした書類なんだ。 ハキと二人で調べているけど、そんなのばっかり。 ここはダミーだな」
「どこかに隠し金庫とかあるんじゃないかと思ったのだけど、見つからないんだよ」
ダイクもそう言った。
僕は考えたのだが、隠し金庫という規模では収まらないのではないかと思っていた。でも怪しい場所ってここ以外どこにあるだろう。
僕は部屋の中を見回して、ダイクとバンジに尋ねた。
「壁とか床も調べたんだよな。 その大きな本棚はまさか動かないよな」
「ああ、一番最初に怪しいと思って調べたけど、全く動かない」
「そこの踏み台の裏なんて、馬鹿な話はないよな」
「ちゃんと移動して調べたに決まっているだろ」
「そうだよな。 あれっ、ここ、高い位置に棚なんてないぞ。 その踏み台なんのためにここにあるんだ」
「その本棚の上の方のためじゃないか」
「上の方、扉があるけど、なんか入っていたのか」
「いや、何もなかったよ」
「なんか怪しいな」
その言葉を聞いていたセカンがディフィーに言った。
「ディフィー、あそこ見てみて。 なんとなく壁を触っている跡がない?」
「本当だ。 あそこだけ、他と違って壁を触った跡がたくさんある」
「ダイク、その辺りを調べてくれ」
ダイクがその踏み台に登って届く位置を調べようとしたら、ちょうど触れた跡がある壁に手をつく羽目になった。
「あった。 この石が動く。 奥にレバーがあるぞ。 動かしてみる」
「今、この辺で音がした」バンジがそう言うと、レンスも「私も聞こえた」と言った。
音がしたのは大きな本棚の辺りだ。
動かなかった本棚が動き、下に行く階段が出てきた。
うん、なんていうか、よくある話だ。




