243. 顔合わせ
領主の館に着くと、今回はもう全く人払いはしてなくて、僕たちが使わせてもらっている離れの前の入り口付近にも人はいた。
僕たちが馬車を近くに停めると、すぐにブマーが近づいてきた。
「とりあえず荷物を降ろして中で一休みしてください。
でもそんなにしないですぐに呼びに行くと思いますけど。
ああ、馬車と馬はこちらで片付けたり世話したりしますので、任せてください」
「わかった。 それじゃあブマー、馬と馬車は頼むぞ。
という訳だ、みんな荷物を持って離れに入ってくれ。
あ、人間はもちろん、こないだと同じ宿舎な。 ボブも、今回はそっち、ハーピーの男連中もそっちだ。
ナーリア、ウスベニメとモエギシュウメは勝手がわからないだろうから案内してやってくれ。
男連中の方はエレクな。
キース、アレク、俺たちはこっちの荷物をガンガン運ぼう」
「ああ、了解だ」「わかった」
「ナーリア、案内はナーリアとセカンとディフィーで良いだろう。
私とレンスは、荷物運びを手伝うよ」
サーブがそういうと、ナーリアも了解したようだ。
「それじゃあ、私たちは先に中に入るね。 ウスベニメとモエギシュウメはついて来て」
男連中の方では、
「おい、俺たちは中に入っちゃって良いのか。 荷物運び手伝わなくて良いのか」
ハライトがそう言うと、
「ここでもお前らに飛んで運んでもらうという訳にはいかないからな。
今回は構わず先に中に入っていてくれ」
とエレクが答えている。
サーブとレンスも手伝ってくれたから、荷物運びは三往復するだけで済んで、簡単に終わった。
離れの部屋の中では、セカンとナーリアがもうお茶を淹れて、ディフィーが配っていた。
「私たち何もしていなくて、なんだか申し訳ないわ」
ウスベニメがそんな事を言っている。
「そう思う気持ちは分からなくないけど、ここは基本的に人間用に作られている場所だから、あなたたちが自由に動き回るには無理があるから良いのよ。
ラミアの私たちだって、ちょっと尻尾の場所に困るもの」
うん、確かにそうだよな。
「ウスベニメ、甘えてようよ。 私たちがここで自由に動いたら、羽を引っ掛けて物を壊してしまいそうよ」
「うん、そうだね。 仕方ないね。 でも、本当に鳥型のハーピーって、何ていうか役立たず」
「うん、私も人型に生まれたかった」
「でも、モエギシュウメは夜目が利くじゃん。 私なんて、そういうのも無いよ。 おばあちゃんは人型だったんだから、私も人型でも良かったと思うのになぁ」
僕たちもナーリアたちも、なんとなくハーピーの二人の話をじっと聞いてしまっていた。
モエギシュウメがその状況に気がついたみたいだ。
「えっ、みんな何? 私たちなんかそんな注意を引くような事話してないよ」
セカンが言った。
「私たちラミアは、髪や肌や鱗の色とかはそれぞれ違うし、体の大きさにも個性はあるけど、基本みんなラミアだし、女しかいない種族で違いがない。
ハーピーみたいに、種族の中で形態が違うと、二人みたいな事を考えるんだって、すごく興味深かった」
「それに何だな。 俺はハーピーは飛べることが一番重視されていて、飛べないハーピーはどちらかというと、ダメ扱いされるのかと思っていたんだが、そうじゃないんだな」
「デイヴ、何を言っているの。 ハーピーの社会だと、どちらかというと人型だと喜ぶんだからね。 だって人型の方が空は飛べないけど、できることは全然多いじゃない」
「そうなのか。 大体の人間はデイヴのように思っていると思うな。
当人たちに聞いてみないと分からないものだな」
「アレク、ラミアもハーピーについて同じに考えていると思うわ」
ナーリアがそう言った。
ブマーがすぐに呼びに来て、僕たちは館の玄関前の広場に出て行った。
僕たちはゾロゾロという感じで出て行くと、広場には20人近い数の騎士が集まって整列していた。
僕たちはちょっと慌てて、ブマーが「その辺りに」と指定した位置に整列する。
ほんのちょっとだけ遅れてやって来た、友たちと男のハーピーも慌てて僕らのいる場所に整列した。
僕らの整列が終わらないうちに、玄関から領主様とカーライルさん、ストームさん、それにアルフさんとタインさんが出て来た。
領主様たちは玄関前の位置で立ち止まったが、アルフさんだけは騎士たちの先頭に並んだ。
「集まった者たちよ。 ここに集まった者が、今回別働隊として明日から動くことになる。
互いに顔も知らずに一緒に動くことは難しいからな。 ここはそろそろ暗くなってきたが、まだ顔や姿形は見えるだろう。 今回はとりあえずの顔合わせだ。
それぞれ、今から適当に軽く歓談の時間を持ってくれ」
領主様はそれだけ言うと引っ込んでしまわれた。 広場にはアルフさんだけが残った。
「ああ、みんな、親父たちもいなくなったし、もう気楽にしていいぞ。
早速だが、ここにいる人間約30人が、今回フロードの偽盗賊の役をすることになる。
で、ここにいるラミアたちの里を通って、反対側に行くと言う訳だ。
ここにいるラミアたちは砦から見える場所では馬車の中に隠れていることになるが、この隊の指揮官はここにいるラミアのナーリアだ。
今は私がこうして話しているが、明日からの行動中は私もナーリアの指揮に従って動く。 お前たちもきちんと従って動くように」
「な、兄貴、兄貴も別働隊に参加するということか」
「ああ、そういうことだ」
「何で、兄貴がこっちに参加するのかな」
デイヴがブチブチ言っている。
「ああ、それから一応俺たちは小隊3つとなっていて、それぞれにリーダーがいるから紹介しておくな」
主にナーリアに対して、アルフさんは二人を呼んだ。
「1隊は俺が隊長となり、もう1隊はブマーが隊長だ。 ブマーも別に紹介の必要はないな。 それからもう一人なんだが」
その人が近づいて来るのを見て、キースが「げっ!」と小さく驚きの声をあげると、急いでその場から離れようとしたのだが、その人に捕まって、襟を掴まれて連行されて来た。
「私、クラッドリングと言いまして、このキースリングは弟です」
「兄貴、自己紹介が終わったなら、もう離せ、もう良いだろう?」
「ダメだ。 離せば、また逃げようとするだろう。 今までもここに来ていながら、家に顔も出さないのだからな」
キースもそう言われるとまともな反論はできない。
「いや、それは俺は仕事中だったから、それを優先していたんだ」
「ああ、今晩はアルフレッド様にお前を家に連れ帰って良いという許しを得ているんだ」
「ナーリア、構わないか?」
ナーリアはセカンとディフィーを見てから言った。
「はい、キースに家族の時間を持たせてあげてください」
「ナーリア、お前、何を言っているんだ」
「キース、家族がいるならたまには顔を見せてあげないとやっぱりいけないと思うの」
「いや、そういうことではなくだな。 グエッ」
クラッドリングさんが掴んでいるキースの襟をちょっと締めたみたいだ。
「キースリング、指揮官の許しもでたぞ、諦めろ。
あ、みなさん、こいつをキースと呼んでいるみたいなので、私のことはクラッドと呼んでください。
我が家では男はみんなリングと語尾につけるのが決まりなんで、それは略して呼ばれるのは普通なんですよ」
「はい、それではクラッドさんと呼ばせていただきます」
クラッドさんは、アルフさんに一礼すると、そのまま、キースを連れて去っていった。 キースは観念して、ちょっと恨みがましい目を僕らに向けていたが、クラッドさんについていった。
もう一人、今度は館の僕たちも入って来た裏口から、男性が二人入って来た。
僕はその二人を見てすぐに分かった。
「ハキ、お迎えだぞ」
ハキも僕に声を掛けられるとすぐに気がついたようだ。
「アルフレッド様、僕の実家に声を掛けておいてくださったのですか」
「ああ、お前の家にはちょっと物資の調達もお願いしたからな。 そのついでだ」
「ありがとうございます」
ハキの父親が近づいて来た。
「アルフレッド様、物資の注文だけでなく、息子のことまで連絡いただき本当にありがとうございました」
「いやいや、礼を言われることではない」
ハキの父親はハキの方を向くと、
「コラッ、お前は今まで何をしていた、まったく連絡もよこさず、どこかで野垂れ死にでもしたのかと思っていたぞ」
アルフさんが助け舟を出した。
「いやいやミラント殿、そなたの息子も含めこの者共は、今ここにラミアやハーピーがいることを見ればわかるだろうが、極秘の重要任務に我が弟のデイヴィッドと共に就いていたのだ。
姿を消して連絡もないというのは、そのせいだから、そこは責めないであげていただけると有難い」
「はい、アルフレッド様がそう言われるなら、それを責めるのはやめましょう。 それで今晩は家に連れて帰っても良いとのことなのですが、本当によろしいのでしょうか」
アルフさんはナーリアの顔を見て確認して言った。
「はい、今晩一晩だけなのが申し訳ないが、今晩は積もる話でもしてください」
そうしてハキも、父親たちと一緒にこの場を去ろうとすると、ディフィーが急いでやってきて、紙を渡した。
「ハキ、これ物資の調達したいリストなの。 もう伝えてある分がほとんどなのだけど、少し付け足した物があるから、もし出来たらお願いできるかしら。 明日の朝までで時間がないけど」
ハキはちらっと紙を眺めると、
「ああ、ディフィー、大丈夫だ。 任せろ」と言って去って行った。
去りながら、父親ではないもう一人としゃべっている声が聞こえた。
「ハキ、お前、本当にラミアと普通に話せるんだな」
「兄貴、ラミアは別に怖い存在じゃないぞ。 巷で言われていることは嘘ばっかりだから忘れろ。 やってみれば誰だってラミアとは普通にしゃべれるよ。 もちろん兄貴だって大丈夫だ」
「この間の訓練の時なんだが、あんたあのキースリングをタジタジにしていたな。
ラミアってやっばり強いんだな」
「いや、それは違うぞ。
私は普段、それまではキースと立ち会って全く相手にされていなかったんだ。 でもあの時はストームさんが私の剣の欠点をしっかりと指摘して、どうしたら良いかのヒントを教えてくれたんだ。 その指摘と教えを意識してキースと立ち会ったら、私の剣が少しそれまでとは違ったものになったから、キースは戸惑ったのだろう。 決して私が強い訳ではないと思うぞ」
「そうなのか。 それでストーム様の教えってなんだったんだよ」
「ああ、それはな。 結局当たらなければ、どんなに綺麗で威力があっても仕方ないってことだったんだ」
「そんなの当たり前じゃないか」
「今から思えばそうなんだが、私はそれが分かってなかったんだな」
サーブは一人の騎士と話し出すと、だんだんそこに騎士が集まっていって、サーブの話を聞いていた。 そして時おり爆笑が混ざるようになった。
「いや、でも、お前。 そこは先に剣をちゃんと振れることが前提だろう」
「あ、馬鹿にしたな。 俺だって剣は振れるぜ」
「お前のへっぴり腰の剣は、振れるに入らないぜ」
「何を!!」
「おいおい、そんなことで喧嘩しないでくれ、それだったら剣を振って見せてくれ」
「良し、分かった。 お前らも、見ておけ」
一人の騎士が売り言葉に買い言葉で剣を振った。
周りからチャチャが入った。
「やっぱり、へっぴり腰じゃないか」
「そんなことはない。 なあ、あんた、そう思うだろ」
サーブは答えた。
「うーん、すまない。 ちょっとそうかなと私も思ってしまった」
剣を振った騎士は、ちょっと落ち込んだ顔をした。
「いや、でもな。 私はラミアで足がないから実演してはやれないのだが、剣を振り下ろす時にな、ちょっと膝を曲げて重心を落とすようにすると良いと思うぞ」
落ち込んだ顔をした騎士は、サーブの顔を立ててやるという調子で、サーブに言われたことを注意して剣を振った。
「こんな感じか。 あれっ、さっきよりまともに振れたかな、俺」
「おい、全然さっきより、良いぞ。 あんた、教えるの上手いな。
俺もちょっと見て、悪いところがあったら直してくれ」
「ま、私に分かることなら、少しは指摘することくらいは出来るが」
サーブの周りはどんどん人だかりが増えていった。
うーん、なんなんだろう。 やはりここでもサーブは人気者になりそうだ。




