242. 軽い訓練と、移動
「よし、みんな体はもう温まったな。
今日は新たに起きた者たちは最初の訓練の日だからな。 それにこの後、人間たちとナーリアたちは重要な仕事が待っている。 極軽い訓練にしよう。
新たに起きた者たちは二人づつ、ペアになれ」
ペアを組んでいくと新たに起きたのは27人だったので一人あぶれてしまう。
「あ、人数合わせにミーレンも加わってやれ。
そうしたら、ナーリアたち、アレア、ロア、アリファ、相手をしてやれ、2対1でも手加減しろよ。 おっと、サーブとセカンは加わるな。 お前らでは訓練にならん。 本当はアリファも外したいのだが人数が足りなくなるからな。 アリファ、くれぐれも手加減しろよ」
新たに起きたラミアたちは、2対1でなおかつナーリアたちが『手加減しろ』とラーリア様に言われているのを聞いて、ちょっとプライドが傷ついたという顔をした。 特にアレア様たちと仲の良い、アレオ様とロー様は闘志に火がついた様だ。
そんな様子を見て、ミーレアの人たちはちょっとニヤニヤしているが、ミーリアの人たちは哀れみの表情を見せている。
「よし、それでは立ち合い始め」
二人掛かりでかかってくるが、ナーリアたちはどうということもなく、相手出来てしまった。
「こらっ、アレア、レンス、お前たちは動き回るのは禁止だ。 一箇所に止まって打ち合え。 お前らが動いたら、全く訓練にならん」
新たに起きたラミアたちはすぐに必死の形相になって、僕たちに打ち掛かってくるようになったが、一人を除いて問題になっていないようだ。
ナーリアだけがちょっとアタフタしている。
「ミーレン様、そんなに本気にならなくても。 ミーレン様は普段1対1で訓練しているんじゃないですか。 それを、よりにもよってロー様と組んで、本気にならなくても良いんじゃないかと思うのですけど」
「そうよ、今まで全く歯が立たないのだから、こういうチャンスは利用したいじゃない。 それにナーリア、なんだかんだ言いながら、私とローの攻撃を全部受けきっているじゃない」
「嘘。 ナーリアって、こんなに強かったの」
「ロー様、強かったんじゃなくて、ロー様たちが寝ている間に、ラーリア様たち、ミーリア様たちにさんざ特訓させられたんです」
「ナーリア、まだしゃべっている余裕があるのね。
ロー、もっと本気で目一杯でいくよ。 ナーリアに一泡吹かせるわよ」
「はい、ミーレン様」
「ええっ、そんな。 うわっ。 あ、しまった」
なんだか、騒々しいなあと思ったら、喧騒が止んだ。
「ナーリア、手加減しろと言ったろう」
ラーリア様が苦い声で言った。
「すみません。 流石にミーレン様とロー様の二人が本気で一緒に掛かってきたら、余裕がなくて手加減ができませんでした」
ミーレン様とロー様が完全に伸びていた。
「ま、今のは仕方ないんじゃない。 ミーレンがローと二人掛かりならチャンスがあるかと思って、すごい勢いでナーリアに突っ込んで行ったから、半分自爆のようなものだし」
見ていたラーリド様がそう言ってナーリアの肩を持った。
その後、僕たち人間とも立ち会ったが、同様に全く歯が立たず、新たに起きたラミアたちは、がっくりと肩を落として、へたり込んだ。
アレオ様のショックが激しいようだ。
「嘘。 私ってこんなにも弱かったの」
ミーレオ様が慰めに近寄った。
「な、アレオ、私が言った通りだったろ。 絶望を感じるぞと言っておいただろ」
「でも、ミーレオ様、私、ここまで自分が弱いとは思っていなくて」
「うん、気持ちはよく分かる。 だが、ほら、ミーレンとローを見てみろ。 ナーリアが手加減し損なったら、あの状態だ。 つまり我々ミーレアも全くナーリアたちにまだ歯が立っていないんだ。 安心しろ、お前が弱いんじゃない。 人間やナーリアたちが強いんだ」
一番ショックを受けていないのはエーレアたちのようだ。
「眠りに入る前に予想していたけど、ここまで差がついているとは思わなかったよ」
「そうね、起きたら脱皮して体格さえまた違っていたのを見て、また大きく水を開けられたんじゃないかと思ったけど、想像以上だったわ」
「でもま、私たちが寝てる間の努力でナーリアたちがこれだけになれたということは、私たちも頑張れば同様になれるってことだよね」
「まだ、ターリア、ワーリア、ヤーレアたちは起きてないから、今のうちにナーリアたちに教わって特訓を始めれば、少しはアドバンテージが出来るよね」
「それは良い考えね。 せっかく少し早く起きたのだから、その時間を少しでも利用しましょう」
どうやらナーリアたちに差をつけられている事が前提だったようで、そこにはショックを受けず、短期間の間についた差に逆に自分たちもという希望を持ったようだった。 うん、ちょっと意外だ。
僕たちがそんな風に立ち会ったりしている間、除外されたセカンはミーレナさんと一生懸命話していた。 サーブはサーブで、キースやデイヴと話をしていたみたいだが、そこにはラーリオ様も加わって、身振り手振りや、素振りまで交えて話が盛り上がっている。 キースとデイヴも訓練にならないからと、ラーリア様に除外されていたのだ。
きっとセカンとサーブはストームさんに教わったことを話して、それぞれに検討しているのだろう。
「アレク、ちょっとこっちに来て」
セカンに呼ばれて行くと
「ストームさんに教わった、一足一刀の間合いっていうの、ちょっとやってみて」
「僕は教わってないぞ。 ストームさんの動きを見ていたのと、セカンに話を聞いてこんな感じなのかなと思っただけだよ。 ミーレナさんに見せられるものじゃないよ」
「いいから、やってみて」
僕は構えているところから、バンと一歩踏み込んで、剣を振るった。
「こういう感じで、一瞬で踏み込んで剣を振るうのが基本で、これを一足一刀の間合いっていうそうです。
私たちの練習している抜刀術というのは、こういう相手の間合いを見切って、自分の間合いに入った瞬間に相手より先に斬るというものなのですけど、相手もこの間合いを足の動きで様々に変化させてくるということなんです。
それに対して私たちの今までの考え方だと、速度を上げることで相手を上回ろうとしていたのですけど、それだけだとやはり、相手からしてみると私たちの間合いを見切り易くて駄目だと」
ミーレナさんは真剣な表情でうなづいている。
「でも、そのストームさんに指摘されたのですが、私たちラミアはその身体の特質上、人間よりも身体を柔軟に動かせますから、簡単に大きく間合いを変化させることが出来るんじゃないかと。
アレク、私の間合いに入らないギリギリまで剣を構えて近づいてきて」
僕は、セカンの剣が届く少し手前まで、剣を構えて近づいた。 っと、気がつくとセカンの剣先が首のところで止められていた。
「あ、これ、デイヴにやったやつだな」
「うん、そう」
「あ、私にも分かったわ。 まずは身体の柔軟性を生かして、相手に自分の位置を誤認させて、その後に思いっきり身体を伸ばして、剣の届く範囲を伸ばしたのね」
「はい、今のは間合いを普通よりも遠くまで伸ばした感じになりますが、逆に少し身体を引いて剣を振るえば近めの間合いで斬れます。 盗賊もどきが不意にアレクを襲った時、少し反応が遅れて、中に入られ過ぎて斬れないかと焦ったのですけど、こうやって引きながら振るえば良かったんだと、改めて思いました」
「なるほどね。 私たちは自分の間合いは一つのものだと思い込んで技を考えていたけど、それは間違っていたということね」
「はい、それから、一撃目を避けられた時の対処も色々教わったし、ヒントも頂いたのですが、それらには左手の使用法でミーレナさんには無理なのもあるのですが、ミーレナさんなら考え方が解れば十分に対処できてしまうのではないかと」
ここからは二人でまた細かい話になってきて、どうやら僕が呼ばれた役目は終わったようだ。
「私、剣は一番威力があって速度も速い振り方をするのが、一番重要なことだとずっと思っていたんです」
「うん、確かにサーブの剣は理想的な剣の軌道で、威力も速度も素晴らしいと俺は思うぞ」
デイヴがそうサーブを褒めた。
「デイヴにそう褒められるのは嬉しいのだが、ストームさんに言われたのは、いくら綺麗で威力があっても、当たらなければ意味がないぞ、ということでした。
私の剣は、理想を追い求めるあまり、その剣の軌道もタイミングも一つの調子なので、読み易くて避けやすいと」
「ああ、なるほど確かにサーブの剣は一本調子だったから、今までは避けるのに苦労はしなかったな。 師匠にそんなことを言われていたのか」
「ああ、キース。 そうしてタイミングをちょっと遅らせて振ったり、早めて振ったりという技術を教わったんだ。
そうすると威力は全然落ちてしまうのだけど、何も一撃で敵を倒さねばならない訳ではない、軽い手傷でも相手に与えれば、それからはずっと有利に戦える、それが実戦だと教わった」
「それであの後、サーブの剣が避けるのが急に大変になったのか。 びっくりしてアタフタして、その理由もちっとも察することができなかったよ。 実戦だったら、あの時サーブに斬られていたな」
「なんだ、サーブ、そんなに強くなったのか。 キースが斬られていたと言うなら、もう私より強くなったんじゃないか」
「いえ、ラリオ様、とんでもないです。 あの時、キースは今までの一本調子の私だと油断していたので、アタフタしただけだと思います。
本当はまだまだ開きがあると思います。」
「いや、サーブ、今のお前は少なくとも俺とは十分互角だと思うよ」
「なんだ、キースが互角というということは、サーブは俺より強いってことか」
「ああ、明らかにデイヴ、お前よりサーブの方が強くなっているぞ」
「ほんとかよ。 セカンにも一瞬でまた負けるし。 ちょっとショックだぜ」
「サーブとセカンは、師匠のアドバイスで、なんて言うか一段高みに登った感じがするな。
デイヴは、俺もだけど、ここのところ一生懸命にやっているつもりだけど、壁にぶつかって登れていない感じだな」
「ああ、それにストームの奴、サーブとセカンに珍しくも嬉々として教えていたよな」
「ああ、師匠も楽しそうだった」
「そうか、私もいつかデイヴとキースの剣の師匠に見てもらいたいものだ。 違った世界が見えてくるかもしれないな」
「ラリオ様は今現在で、十分に強いと俺は思いますけど」
デイヴがそう言った。
その後訓練は、僕たち人間とナーリアたちは、この前の領主の館で騎士や騎士見習いの人と一緒に訓練した時の経験を踏まえて、自然と一緒に反省と対処を考える形になってしまい、新たに起きた組はミーリア、ミーレアにしごかれるということになってしまった。
僕たちは、それからは実際に剣や槍を振るというよりも、互いに話して考えるという感じになって、どうということもなかったし、ミーリア、ミーレアも今までよりずっと楽な時間になったようだが、新たに起きた組はすぐに立ち上がれないような状態になってしまっていた。
温泉で身体を綺麗にし、昼ご飯を食べるとすぐに僕たちはまた領主の館に向かった。
今回はミーリア様は行かないし、アンとメリーも行かない。 そしてちょっとこれは予定外だったのだが、ギュートも行かないことになった。 もう一頭のお腹の大きい馬が、どうやら同じように産気づきそうな感じだからだ。 その代わりにと言うのもちょっと違うかもしれないが、今回はハーピーの5人が一緒に行くことになっている。
今回僕たちは戻ってくる時に荷物を運ぶ都合があるので、馬車を動かせる目一杯の3台で行く、その代わり今回は騎乗用の馬は連れて行かない。 これは失敗だったと思ったのだが、騎乗できる5人を除くと他の友たちは御者が出来ず、ナーリアたちが馬車の中に隠れていると、御者がいなくて馬車を動かせなくなってしまうのだ。 ギュートは人間はみんな馬に乗れるようにすると言っていたが、それより先に御者が出来るように練習するべきだった。
ハーピーたちは自分で飛んで行かずに馬車の旅をするというのが珍しいので、ちょっと喜んでいた。
「歩く訳ではないから、こういうゆっくりとした移動も、なんと言うか、趣があると言うのか、なかなか新鮮で楽しいな」
アライムはそんなちょっと柄にもないようなことを言っているが、女性陣は馬車の中でおしゃべり爆発中だ。
僕たちは夕方、まだ暗くなり始めに領主の館に着いた。
もうあまり人目に付くことを問題にしていない。




