240. またしてものエーレアたちと納豆
朝になり、僕は目が覚めた。
「あ、アレク、おはよう」
「アン、やっぱりダメだった」
レンスがアンを少し馬鹿にするような、揶揄うような調子で言った。
アンは少し怒ったような顔をレンスに向けて、作業(?)に戻った。
レンス以外のみんなも、なんやかんやと批評している。
「まだアンは私たちに比べたら初心者。 ハードルが私たちと一緒はかわいそう」
そんなことをみんなが好き勝手言ってる間も、アンは作業を続けていて、僕は精を放出した。
つまり今朝の順番はアンで、アンもナーリアたちの謎の、僕が目を覚ます前に放出させられるか競争に参加させられていたという訳だ。
「あ、アレク、出たね。 アン、私に頂戴」
「ナーリアは、次が番ですぐなんだから、今もらう必要はない」
「それなら順番が一番遠い私が」
「サーブは昨日の朝飲んだばかりじゃない」
「ここは公平にジャンケンで順番を決めよう」
ごくん、アンの飲み込む音が妙に響いた。
「もう、いつまで待たせるのよ。 待ちきれなくて、苦しくなって飲んじゃたわよ」
「えー、もったいない」
「もったいなくない。 私が番でアレクに出してもらったんだから、私が飲んでももったいなくはない」
「でもアンは人間だから、精を飲んでもあまり栄養にはならないじゃん」
「ラミアほどじゃないけど、少しは栄養になるから、もったいなくないもん。
ずっと待たせるみんなが悪いのよ」
いつの間にか、僕はナーリアに膝枕されて、右手はセカンに、左手はレンスに挟まれ、右膝あたりにディフィーが、左膝あたりにサーブが押し付けている。 そして下半身はまだアンが手で触っている。
なんでこの状態でみんなで議論しているのだろうか、という感じだ。
「あの、僕もしゃべっていい? まだ、起きて『おはよう』とも言ってないんだけど」
「あ、アレク、そうね。 ちょっと議論が白熱しちゃたわ。
ねぇ、みんな、この議論はアレクがいない時にしない。
なんだか、みんながアレクを触ったり挟んだり押し付けたりしながら真剣に話しているのも、ちょっとよく考えると変だわ」
「ああ、確かにナーリアの言う通りだな」
「そう、それにまだメリーが寝ていて時間があるなら、アレクは昨晩は出さずに寝ちゃったから、もう一回きっと出せる」
「お姉ちゃんたち、おはよう。 何集まって話しているの?」
「ほら、大きな声で話しているからメリーが起きちゃったじゃない」
「ディフィーも大きな声出してた」
結局僕たちはそのまま裸のまま温泉に入ることになった。
アーリア、アーレア、アーロア、それにエーレアが急に起こされて、訳も分からないまま、道路の復旧工事にそのままずっと従事させられていたので、僕たちが戻って来たのを良い機会として、今日は休みとなったのだ。
久しぶりに邪魔されずにのんびりできる朝のはずだったのだが、なんとなく前にもあったような光景だが
「あ、ナーリアたち温泉に浸かっている。 私たちも入ろう」
エーレアたちがやって来た。
「あなたたち、こんな朝早くから、何よ。 今日は休みでしょ」
ナーリアがエーレアたちに言う。
「里で起きてるのって、全員私たちより上の人なのよ。 なんだか居辛くって、ここに逃げて来たのよ。
いいでしょ、一応私たち仮だけどナーリアに所属しているのだから」
エレドがそう言った。
「ナーリアに所属って、それって秋までの、それも体力的についていけなかったからで、もう脱皮して体が出来たんだから、関係ないんじゃないの」
ナーリアがそう答えて、セカンが続いた。
「それに立場が自分たちより全員上って、私たち、あなたたちが起きるまでずっとそうだった」
「そうよ。 逃げてここに来るってどういうことよ」
ディフィーもそうエーレルたちを非難した。
「うう、そう言われると返す言葉もない」
エーレファが反論のしようもないとすぐに降参した。
「ま、もう来てしまったものは仕方ないじゃないか。 それにアンが困っているぞ」
サーブがそう言って、取り持った。
「サーブ、ありがとう。 ナーリアたち、本当にすまない。
でも本当に起きてから、訳がわからないまま作業に駆り立てられて、その中で気も使わなくちゃならなくて、大変だったんだ」
エーレアが済まなそうにそう言ったけど、ま、分からなくはないよな。
レンスだけは、我関せずで、メリーと泳いだりして遊んでいた。
メリーは良いけど、もうレンスは泳いだりする身体つきではないと思うのだが。
「えーと、アン、まともには紹介してないよね。
この5人はエーレアというグループで、私たちの姉妹のグループなの。 まだ起きてない姉妹のグループがあと3つあるのだけど、それも起きたら紹介するね。
それで、こっちが人間の女性でアンていう名前なのは、あなたたちも知っているわよね。 あなたたちが寝ている間にナーリアに加わったのよ」
「アレクたちとラミアの皆さんに助けられて、ナーリアに加わったアンです。 妹はメリーです。 よろしくお願いします」
「最初、奥の共同住宅て言うんだっけ、あそこで会ったよね。 私がこのグループのリーダーのエーレアよ。 サーブの姉妹なのは分かるかな」
「私はエレオ」「私はエレド、二人してナーリアの姉妹よ。 なんでナーリアの方が綺麗な髪になっているのか訳わからない」
「私はエーレファ、それを言うならセカンだって、何なのよ、あの髪の色と目の色。 同じ姉妹に見えないじゃん」
「私はエーレル。 それを言うなら私が一番よ。 私はこれがディフィーだなんて最初信じられなかったわ。 変わりすぎでしょ。 だいたい何でディフィーが私たちより大きいのよ。 髪の色も、目の色も、肌の色も、尻尾の色も全部変わりすぎで、昔の面影ないじゃない」
「エーレル、人聞きの悪いこと言わないで、髪の色はピンクで前と同じじゃない、体は大きくなったけど」
「ピンクでも前と色艶が違うのよ。 それに一番小さいはずのディフィーが何で私たちより大きいのよ。 それにレンスだって、私と同じくらいだと思っていたのに」
「ディフィー、エーレルさんてとても小柄だよね。 ディフィーって、そのエーレルさんよりも小柄だったの?」
「うん、アンに会う少し前に脱皮したのだけど、それまではもっと小柄で、姉妹たちの中で私が一番小さかったの」
「そうなの? なんか私には全く想像できないな。 レンスもそうだけど、私には小さいというイメージは全然ないから」
「なんかそんな風に言われると嬉しいかも」
「そうかな。 全然普通だよ」
「私は体が小さいことが凄くコンプレックスだったから、普通と言われると凄く嬉しい」
「ところで、アレクを見ても思うのだけど、人間もこんなに姿形が変わるのね」
「エレオ、僕はそんなに変わったか?」
「顔はそんなに変わってないけど、身体つきは別人に見えるわ」
「そうかなぁ、自分ではそんなに変わったとは思わないのだけど。 ちょっと筋肉がついて、絞れたとは思うけど」
「ま、確かにデイヴに比べれば大したことはないわね」
エーレファが会話に加わりそう言うと、
「あれは完全に別人だと思ったな。 新しい人間の男かと、一瞬期待しちゃったよ」
エーレアの言葉に、笑ったのだけど、あ、そうかとも思った。
エーレアたちは上位にはなったが、誰からも精は得てないから、新しい男というのに、ちょっと期待しちゃったんだな。
それにしても、アンは温泉の中とはいえ、裸で普通に初対面ではないけど、エーレアたちと初めてまともに言葉を交わしている。 うん、だんだんアンもラミアの生活習慣に慣れてきているなぁ。
文句を言っていたナーリアたちだが、温泉から出てもエーレアたちとのおしゃべりは止まらなかった。
「とりあえず私が朝ごはんを作る」
セカンがそう言って竃の前に立つと、エーレアが
「すまない、セカン、私たちの分も作ってくれない」と声をかけた。
「あなたたち、朝ごはんもここで食べるつもりで来たの?」
あ、ナーリアが本気で怒り出した。 ミーリア様ほどは怖くはないけど、ナーリアも本気で怒ると、普段はのほほんとしているから、逆にちょっと怖いんだよなぁ。
「もう、そんなにお米、水に浸してないよ。 今日は私たちだけだと思っていたから。
本当に仕方ないわね。 レンス、ディフィー、エーレアたちを連れてウサギの罠仕掛けて来て、どうせ食事が出来るのに時間がかかるわ。 働かざるもの食うべからずよ」
「ナーリア、森に入るなら、罠はディフィーに任せて、私とナーリアはそろそろ花を探してみない? そろそろ花の芽が出始めていてもおかしくない」
「そうなの、そろそろ花が芽を出すの? それなら私もそうしたい。 ディフィー、それでもいい?」
「構わないわ。 ウサギの罠はエーレアたちも作れるから」
「サーブとセカンとアンはどうする?」
「私はそれじゃあ馬の世話をメリーと先にするわ」
「私はそれを手伝うよ」
「僕は、セカンの横で竃を使って、ちょっと実験でいいかな?」
「えっ、新しい食べ物?」
「上手くいけばね。 でもそもそも大した材料が今はないだろ。 期待されても出てこないよ」
「それでも、ま、いいわ。 頑張ってみて。
それじゃ、お腹空いたけど、とにかく先に動こう」
それで僕が何をしたのかというと、豆を煮たのだ。 豆は馬に与えるために前にキースと二人で買ってきた残りの豆だ。 煮た豆を馬に与えるのは、やはり柔らかくなっていることもあって、馬にとってもお腹に優しく、栄養もあるのだとギュートは言っていた。 僕もまあ、そんなものなのだろうと思ってはいたのだけどね。 おばさんの家には馬もいることはいたから。
それで昨日はお産を終えた馬に与えるために、豆を煮たのだけど、今日は僕たちのところの3頭の為だ。 煮た豆を与え、使った煮汁も少し塩を入れて馬に与えると、これも馬は喜んで飲む。 この煮汁もとても良いのだとギュートは教えてくれたが、それは僕は知らなかった。
馬に煮た豆を与えるだけでなく、僕は豆を少し違うことにも使った。 弁当を作る時に使ったように藁束を作り、それをさっと熱湯を通し、その藁束の間に煮えた豆を詰めて、竃の手で触って少し暖かい程度の場所においておいた。 時々竃を触ってみて、温度を確かめて、ちょうど良いくらいの場所に移動していった。 そんな作業を気がついた時に一日中僕は繰り返していると、夜になると豆の表面がなんとなく白くなった。
「やった。 上手くいったぞ」と僕が喜んでいたら、後ろからアンが覗き込んだ。
「何をしているのかと思ったら、納豆作ってたのね」
「馬のために豆を煮たから、ついでに作れると思ってさ」
遅くなった夕食に僕はみんなにも納豆を出してあげる。
このみんなには、昼過ぎから来ていたラーリア様、イクス様、ミーリア様は含まれるのだが、エーレアたちは含まれない。 何故なら、エーレアたちはラーリア様たちが来た途端に、余計に気が休まらないと、逃げてしまったからだ。
「納豆、嫌い」メリーがそう言って嫌がった。
まあ、子供はそんなものだよね。
「アレク、もしかしてわざと豆をカビさせたの」ナーリアが鼻をしかめながら聞いてきた。
「ま、そんな感じなんだけど、これは食べられるんだ。 ちょっと臭いが独特だから、最初慣れないと思うけど、慣れるとやみつきになる美味しさがあるんだ」
僕は器に入れて混ぜて、塩で味をつけてという食べ方をみんなに教える。
「これにあの香りのある草を細かく切って入れるともっと美味しいんだけど、今はないから仕方ない」
僕とアンは普通に食べ始めるが、他は恐る恐るという感じで、食べてみている。
「あらっ、口の中に入れて見ると、臭みは気にならないで、独特の風味があって、ちょっと美味しいわ」
イクス様がそう言った。
「おかしい。 この豆は煮てあるから、エネルギーをほとんど感じないはずなのに、何故かとてもエネルギーを感じる」
セカンがそういうとディフィーが
「本当だ。 なんだか不思議。 それに別に平気で普通に食べれるわ」
「うん、普通に食べれる」レンス。
「そうだな、最初の一口だけ抵抗を感じるが、食べてみればちょっと美味しいし、不思議とエネルギーも感じるな」ラーリア様。
意外に慎重なサーブが、「本当だ。 私にも食べられるぞ」
顔をしかめてにらめっこしていたナーリアが意を決してほんの一口を口に入れた。
「本当だ。 口に入れると臭さが気にならない」
僕は炊いたご飯をよそった自分の椀をナーリアに差し出して、
「ナーリア、この炊いたご飯にそれを少し乗せて一緒に食べてみろ。 美味いぞ」
ナーリアは僕の椀を受け取ると、半信半疑という感じで、納豆を乗せて食べてみる。
「何これ、美味しいーっ」
ナーリアは続けて二口三口と食べている。
「私もやってみたい」
ナーリアはセカンに椀を奪い取られた。
次々と僕の椀は回されて、戻ってきた時には空だった。
で、最後までミーリア様は食べれなかった。
「納豆、嫌い」
うん、メリーと同レベルだね。




