236. 同盟成立
中庭での集会の後、僕たち離れに通されていた者は、また秘密の通路を通って領主さんの私的執務室に行った。
でも全員ではない、アンとメリーは別に呼ばれて、奥方様とお茶を飲むことになったからだ。 どうやら奥方様もアルフさんと同じで、子供に女の子がいないから、アンとメリーのことをかまいたいらしいのだ。
デイヴを見ていても、アルフさんを見ていても、やっぱり親子って似ているのだなぁと、僕は妙なところに感心してしまった。
僕たちが秘密通路から執務室に入って行くと、領主様はまず言った。
「今は他に人がいないから、儂の事は単にデイヴの父親という立場にして話をしてくれ。 畏れられるのは肩が凝っていかん。
それにしても、色々と協力をありがとう。 ま、なんとか、最も良い形に収まった様で良かった」
「はい、全くその通りかと思います」
部屋には領主様の他にはカーライルさんとストームさんは当然として、アルフさんとバンタインさんもいた。
デイヴの父親という立場にして接してくれと言われても、話している内容は完全に領主としてのことなのだから、なんだか話しにくいと僕は思ってしまった。
「兄者から話を聞いたのだが、色々と策を考えているのはあなたたちらしい。
先ほども言ったのだけど、僕の今の立場は警戒され、監視されて当然のモノだと思っている。 これからの策を練る中で必要であれば、僕も牢に入れてくれても構わないし、厳しい監視をつけてくれて構わない。 必要だと思う事はなんでも構わずに行ってくれ。
僕はそれで当然だと思っているから。
今一番に考えるべき事は、どうやってゴブに対処するかであって、その前では僕の面子などはなんの価値もない。 何もかまわずに決めてほしい」
ミーリア様に目で促されてセカンが答えた。
「これからの動きの中では、バンタイン様にも大いに活躍してもらわねばなりません。 よろしくお願いします」
「ああ、それから僕の事はタインと呼んでくれ。
兄者はアルフさんと呼ばれデイヴィッドはデイヴと呼ばれているのだと聞いた。 それなら僕もそんな風に気軽に呼ばれたい。
妻は僕のことをバンと呼ぶから、それは照れ臭いから下の方でタインだ。
それから僕も様付けは嫌だ」
「はい、それではタインさんと」
アルフさんが横から口を出した。
「これで兄弟3人揃って、普通に喋れる友が出来たな。 なんだか嬉しいじゃないか。
私たちは様付けなんかで呼ばれる様な場にばかりいるから、変なことに巻き込まれる。 そんな身分なんかに囚われないで、自由にガチャガチャと話し合える様にしていれば、何も問題はないんだ。
私たちが目指しているのは、この地方のみんなが幸せに暮らせることで、そこに違いなどはないのだからな」
「そうだな、兄者、僕もそう思うよ。
自分では今までも民のためにと思って動いていたつもりだが、僕は結局、僕のことを様付けで呼ぶ連中に利用されていたんだということが今回は良く分かった。 これからは何でも兄者やデイヴに、そしてみんなによく相談するよ」
「うん、バンタイン兄貴、何でも相談にのるぞ」
「デイヴィッド、お前は1人で逃げ出していたんじゃないか」
「酷え、俺だって、こうやってもしもの時には戻ってきて一生懸命働いているじゃないか」
「うん、デイヴィッドの事は今回見直したぞ」
アルフさんがそう言って、デイヴの肩を持ってやっていた。
本当に変な柵がなければ仲の良い兄弟なのだな。
「それで今後はあなたたちはどうするのかな。
その時まで数日だから、ここに滞在していていただいても良いのだが」
「私たちはとりあえず報告も兼ねて、一度ラミアの里に戻ろうと思います」
領主様の問いにミーリア様が答えた。
「ミーリア様、その前に」
「ああ、アレク、そうだったわね」
「領主様、ちょっとバルコニーをお借りします」
僕はそう言って、ボブと2人でバルコニーに出て、用意してあった布を取り出して、見やすい様にボブと2人で広げて、森の方に向かって振った。
待つほどのこともなく、バルコニーにハーピーが6人降り立った。
「エルシム様、御足労ありがとうございます。
なんだ、お前たち全員で来たのかよ」
ミーリア様も出てきてエルシム様に挨拶している。
「エルシム様、わざわざお越しいただきありがとうございます」
「いやいや、ミーリア殿こそ、ご苦労様です」
領主様たちは、驚いた顔をしてまだ見ているだけだ。
「アレク、紹介をしなさい」
「はい。
領主様、こちらはハーピー族の長老の一人、エルシム様です。
後の5人はラミアとの連絡係りを務めてくれているエレオン、アライム、ハライト、ウスベニメ、モエギシュウメです。
エルシム様、こちらがこの地方の領主様です。 その後ろにカーライル様とストーム様、そしてデイヴの兄のアルフレッドさんとバンタインさんです」
「私はハーピー族のエルシムといいます。
突然訪ねて来てしまい申し訳無い」
「いや、そんな事はお気になさらず。
儂はこの地方の領主をしているロンダイル_ヴェスターといいます。 遠いところをわざわざ来ていただき恐縮です」
それぞれが堅苦しい感じで挨拶をしていると奥の扉が急に開き、メリーが走ってやって来て、ハライトに飛びついた。 ハライトはおっとうという感じでメリーを抱き上げた。
「ハトのお兄ちゃんたちもきたの?」
「ああ、来たぞ。 メリーは元気だな。 何をしてたんだ」
「うん、元気。 デイヴお兄ちゃんのお母さんと遊んでたら、窓からハトのお兄ちゃんたちが来たのが見えたから、急いでこっちに来た」
「メリー、楽しかった?」
「うん、モエお姉ちゃん。 イクス母様が言ってたみたいに、デイヴお兄ちゃんのお母さんはとても優しいの。 だから、すごく楽しかったよ」
「そう、それは良かったね」
モエギシュウメは安心した様だ。 きっとずっと心配して、森からこっちを見張っていたのだろう。
奥の扉から、奥方様とアンもやって来た。
カーライルさんが領主様に小声で何か言った。
「人数が増えて、雑談も良いが、正式な調印は後でするとして、人間とラミアとハーピーの同盟話をきちんとしたい。
ミーリア殿、エルシム殿、少し奥にご足労願いたい。 あと数名一緒してほしい。 アルフレッド、お前も来なさい」
領主様はミーリア様とエルシム様にそう言った。
ミーリア様はナーリアに声を掛け、エルシム様はエレオンに声を掛けた。 そして領主様とミーリア様とエルシム様は揃って僕たちの方を見た。
ミーリア様が言った。
「デイヴ、アレク、キース、あなたたちが今回の同盟の立役者なんだから当然参加しなさい」
「あ、俺まで行っちゃうと、ここに全員が分かる者が一人もいなくなっちゃうんで、俺はここに残って二人に任せます」
キース、逃げたな。
「まず最初に、今問題になっているフロードの先祖が大火を引き起こし、ラミア、ハーピーの両種族に、滅亡をもたらしかなねない程の被害を与えてしまったことに、人間として心より謝罪する。 本当に申し訳なかった」
「領主殿、古い話だ。 それにその状況に至った経緯は我らもラミアも十分把握している。
我らは人間をその件で責めようとは思わぬ。 とても不幸な事故だったのだと考えている」
「私たちラミアもその事についてはハーピーと同様に考えています。
それにその後のこの領主家の苦衷もよく理解していますので、その話はもうよいでしょう」
エルシム様とミーリア様は、領主様とカーライルさん、ストームさん、そしてアルフさんの下げた頭を上げさせた。
続けて領主様は言った。
「もう一つ、昨秋のゴブに関しても、我らが何の対策も取れていない時に、それを殲滅していただいた。 この件も深く感謝する」
「それに関しては我らも同様だ。 他のことがあって忘れていたが、ハーピーもラミアに感謝しなければならない。
下手をすれば、あの時点でハーピーはこの地から逃げねばならない可能性もあった」
「いえ、ラミアとしては、自らに降りかかった火の粉を払っただけのことですから、感謝してもらうような事ではありません」
「いや、それでもゴブの1/3に満たない数のラミアの戦闘員が決死の覚悟で戦ってくれたからこそ、今こうして先のための同盟を考えることもできている」
「いえ、それを言えば、ここに居るアレクをはじめとした人間たちの協力がなければ、あの戦いは勝ち目がありませんでした。
あの時点で、今回ここに来た人間たちがラミアの里に居たことが、今の事態も含めて幸運だったのでしょう」
領主様とカーライルさん、ストームさん、そしてエルシム様が少し感慨深そうな顔をされた。
「さて、それでは具体的な同盟の話に移ろう。
我ら人間は、見ての通りまだ内部でゴタゴタしている状態だ。 この状態をとにかく大急ぎで克服し、ゴブに備えた体制を作ろうと考えている。 どうかよろしくお願いしたい。
また、今回の件でもラミアのあの二人の智謀には恐れ入った。 ぜひ智慧も貸してほしい」
「ここで先に告白しておかねばならない。 我らハーピーは実は数が減りすぎていて、同盟していても実際のゴブとの戦闘ではほとんど役に立たない。
人間に同盟を持ちかけた側なのだが、役立たずで申し訳ない」
「我らラミアもハーピーほどではないが数が少なく、実際の戦闘となると、先のゴブとの戦闘規模が精一杯なところだと思います。
また、これは人間を鍛えてみてあらためて感じたのですが、戦闘力に関してはラミアは種族の特性として女性体である為、人間の男性と比べると戦闘力も落ちると思います」
「それぞれに、問題が大ありという訳だな」
領主様のその言葉にその場は少し沈黙が支配してしまった。
僕なんかがこの場で言葉を発して良いのかと躊躇ったのだけど、その雰囲気を破るために僕は言った。
「そんなに悲観的でもないと思うのです。
今回のことでもわかりましたが、ハーピーの偵察能力は物凄くて、ハーピーの前に何かを隠しておく事は無理でしょう。 これは軍事的にはとても有利になります。
ラミアは夜も見えますし、その隠密能力は人間とは桁違いです。 それにラミアにはとてもきちんとした組織があり、指揮系統もしっかりしています。 もちろんあの二人の智謀もありますし、こちらのミーリア様とナーリアの指揮能力も桁違いです。
人間はきちんと統制が取れれば、やはりその戦闘力はこの三者の中で随一だと思います。 あと人数が多いので、物を作ったり、何かを集めたり、様々な仕事に対しての動員力がそれこそ桁違いです。
今、僕がとっさに浮かぶだけでも、これだけの色々な有利な特徴があります。 これだけの色々な特徴があれば、あの二人なら、何か作戦を考えるんじゃないでしょうか。 いえ、二人だけに任せるのではなく、僕たちも懸命に考えれば、ゴブの大群に打ち克つ方法が何か見つかるのではないでしょうか。
とにかく今はどんどん行動していくことが重要だと思います。 何もしないうちにゴブの大群が来てしまうのが一番避けねばならない事態ですから」
「確かにアレクの言う通りだな」
「ああ、アレクに賛成だ」
デイヴとエレオンが僕の言葉に同調してくれた。
デイヴがナーリアを見た。
「何よ、デイヴ。 私はもちろんアレクと一緒よ」
ナーリア、「一緒よ」って、ここで使う言葉ではないだろう、と思ったけど、嬉しかった。
「そうね。 今はとにかく動くべき時ね、考えて考えて、出来ることを次から次にやっていくしかないわね」
ミーリア様がそう言って同意してくれた。
「うわあ、なんだか若い者の方が事態を正確に把握していますねぇ」
ストームさんが調子を外した声でそう評した。 わざとだな。
ラミアとハーピーと人間の同盟は成立した。




