235. バンタインの覚悟
バーバラと母上が部屋から去ったのを見届けてから、バンタインは言葉を発した。
「それで、商人を襲ったのは、フロードの長男だけの企みなのですか、それともフロード全体で関わっていることなのですか?」
「我々はフロード全体で関わっていることだと考えている。
第一に襲われた商人たちはフロードの家宰の手紙によって誘い出されている。 それにフロードの紋章を付けた剣を持った者が7名も襲撃に加わっている。
これでフロードが全体で関わっていないとしたら、おかしいだろう」
私はバンタインにそう告げた。
「その証拠ももちろんあるのですね、兄者」
「ああ、しっかりとデイヴィッドとキースリングが確保してきた。
あと、ま、すぐに知れるから教えておくが、バーバラに付けてこられたフロードの手の者が、父上の命令を無視して、ここに来ているラミアのことを、たぶんお前たちの所と砦にだろうが、秘密裏に通報に走った。 予想された事態だったので、確保して今は牢の中だ。
きっとお前と今まで一緒にいたフロード側の人間は、その2人がどこにいるか分からずに探していることだろう。
この事も傍証になるかもな」
「わかりました。 全てもう、調べ尽くされているという事ですね。
ああ、僕は今まで何をやってきたのだろう。 全く真実が見えてなくて、無駄なあがきをしていたという訳ですか」
「バンタイン、最初にも言ったが、済まなかった。 ワシが先にせめて大火がラミアの行いではないという真実をお前に知らせていたら、少しは違っていたのかもしれん」
「父上、父上が私にそれを言えなかった事情も理解しましたから、謝らないでください。
それで私とバーバラ、それにフロードの他の者たちはどうなりますか?」
「バーバラに関しては、可哀想だが、しばらくは監禁だ。
この事態では、自由にさせておく訳にはいかないし、それに自由にさせておいては危険が降りかかる可能性もある。
フロードは生かしておく訳にはいかないし、商人の襲撃に間接的にでも関わった者は相応の罰を与えねばならぬだろう。 今の時点ではそれがどの程度の規模になるかははっきりしない。
問題はフロード家の者たちだ。 家は取り潰しは免れんが、フロードの夫人ともう1人バーバラには弟がいたはずだ。 この2人の処遇が問題となる」
「父上、バーバラの弟はまだ幼い。 この件に関わっているとは思えない」
「確かにそうであろう。 なんとか助けてやりたいものだ」
「それで、僕の処遇はどうなりますか?」
私は父上に代わって言った。
「それが問題なんだ。 お前がこれだけのことを知っても、それでもフロードの側に立つと言うならば、私はお前を拘束しなければならない。 今、この地方を二つに割って争っている暇はないからな。 兄としては弟をそんな目に合わすのは忍びないのだが、これは民を守らねばならない者として、心を鬼にしてもしなければならない」
「兄者、そんな決心はしなくて良いぞ。 今までの話を聞いて、フロードの側に立ったのでは、民を守らねばならない我らにはあり得ないことだろ。
ただ、このフロードの悪事はバーバラは全く知らないことだろう。 それは僕は確信している」
「ああ、もちろん私もそれは全く疑っていないよ」
「それならば良い。 僕は全て父上と兄者の指示に従う。 必要なら監禁でも、牢入りでも都合が良いように扱ってくれ」
「それじゃあ兄貴、このラミアの言う事を聞いてくれ。
セカン、これからの策をバンタイン兄貴に説明してやってくれ」
デイヴィッドがそう言ったので、バンタインは驚いたようだが、そのデイヴィッドの言葉に誰も異を唱えなかったので、素直にそれに従った。
良かった、大丈夫だとは思っていたが、バンタインを拘束しなければならないような事態にはならず、バンタインも協力する事になった。 バーバラは可哀想だったが、肩の荷を下ろした感じがした。
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僕たちは領主様の私的執務室での話を終えると、行った時と同じ秘密の通路を使って離れに戻ってきた。
「バーバラさんといったか、デイヴの下の兄貴の嫁さん。
なんだかちょっと可哀想だったな」
ボブがそんな事を言った。 デイヴが言うにはフロードの長男とデイヴの下の兄は仲が悪かったという事だから、バーバラさんが自分の兄のことをどう思っていたかは分からない。 でも実の兄が、盗賊をして、その結果討ち取られたと知れば、ショックを受けるのは当然だろう。
「ま、あんな男でも、実の兄だったらショックを受けるわね。 二重の意味で」
ディフィーがそう言った。
ミーリア様はちょっと苦い顔をしている。 フロードの長男に直接手を下したのが自分だからであろう。
ボブがそのミーリア様の様子に気がついた。
「でも、あの男は死んで当然の男でしたから、仕方のないことですね」
慌てて、そんなことを言ったボブにミーリア様はちょっと微笑んだ。
「でも、とにかくデイヴの下の兄が、完全にこちら側についてくれて良かった。 これでフロードを排除した後の問題が少なくなる」
セカンがそう言ったが僕は
「それはどうかな。 まだバンタインさんが本当に完全な味方になるかどうかは分からないぞ。 一応、注意をしていないとな」
「いや、アレク。 バンタイン様はそういうタイプじゃないよ。 あそこまで言われたのなら、確実にこちら側に立って動いてくれるよ、大丈夫だ」
デイヴが家族の元にとりあえず残ったので、キースがバンタインさんの弁護をした。
「そうだな。 アレク、信じなければ始まらないぞ」
サーブがそんなことを言った。
「でも、アレクの言うように油断しないようにするのは必要だよ。 小さな油断が全体をダメにすることだってあるよ」
ナーリアが僕の側に立ってくれた。
「大丈夫。 信用しない訳ではないけど、こちらの望む動きしか取れない形にするから」
「うん、私もそう思っていた。 望む望まないに関わらず、そうしなければならない状況にしてしまえば良いだけだから」
セカンとディフィーが怖いことを言う。
「セカン、ディフィー、程々にね。 誰でも無理やり追い込まれたと感じたら、反発しようとするわ。 それよりも彼がどんな動きをとっても、その動きが全体に影響しないように作戦を立てるのよ。 分かった?」
「「はい、ミーリア様」」
セカンとディフィーは、ちょっと反省したようだ。 考え方の方向を修正したようだ。
コンコンと普通の部屋の入り口がノックされる音が響いた。
「おっと食事が来たようだ。 とにかく次に備えて食べておこうぜ」
キースがそう言って、扉を開けに行った。
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バンタインさんのお供の者たちは、一度広間に集められた後、領主様の
「これから大事な発表をするから、もっと大勢の前でしなければならない。
お前たちも一緒に聞くように。 他の者と同様に中庭に整列してくれ」
との言葉で中庭に出て行った。
中庭には領主直属の騎士や騎士見習い、つまりカーライルさんとストームさんの配下の人たちや、アルフさんの供回りの人たちが整列していて、その真ん中にバンタインさんのお供たちの整列するための空間が空けてあった。
バンタインさんのお供たちはその空いていた場所に整列した。
領主様がカーライルさんとストームさんを従えて、館の入り口から現れて、その後ろにアルフさんとバンタインさんが続いて出てきた。
領主様が話を始めようとしたら、バンタインさんが領主様に言った。
「父上、この場の発表を私にさせていただけないでしょうか。
僕が自分で発表することによって、一つのケジメにしたいのです」
「分かった。 バンタイン、お前から発表しろ」
「はい、ありがとうございます」
バンタインさんは少し前に進み出ると話し始めた。
「よく聞いてくれ。 このことは僕も今日館に戻ってくるまで全く知らなかったのだが、少し以前に大変な事件が起こっていたことが分かった」
「大変な事件というと、危惧していたゴブに何か動きがあったのですか?」
バンタインさんのお供の中の1人がそう質問した。
「いや、ゴブの方はほんの束の間だが今は落ち着いている。 ゴブ以外の話だ。
実はつい最近、商人が街道で襲われて、ほぼ全滅するという事件が起こった」
「また、いつもの如く、ラミアの仕業ですか」
バンタインさんのお供の中の違う1人がまた声をあげた。
「いや、残念ながら、今回の犯人はラミアではなく、人間だった」
「なんと盗賊ですか。 なるほどそれで我らは皆このように集められて、話を聞かされているのですね。 つまりこれから盗賊退治に行かねばならない訳ですね」
最初に質問した男がそう話を引き取った。
「いや、すでに盗賊は退治されている。 我らが盗賊退治に行く必要はない」
バンタインさんは睨みつけるような感じで、自分のお供を見た。
「さて、退治された盗賊だが、どういう訳かフロードの紋が入った剣を7本も持っていて、フロードの紋が入った鞍を置いた馬が5頭もいたそうだ。 その上、殺された商人の荷物を調べたところ、フロード家の家宰から市価の2割増しで商品を引き取るという契約書が出てきた。 さて、これはどういうことを意味するかな」
言葉を発していた2人は青くなって震えだした。
「もっと言うと、その盗賊の首領はどういう訳か我が領主家から過去にフロードに下賜された例の剣を持っていたのだが、それは一体どういうことだ」
「何かの間違いでは、それにその盗賊を誰が退治したというのですか」
最後の足掻きという感じでバンタインさんのお供の1人が言った。
「盗賊を退治した者たちよ、姿を見せてやってくれ」
領主様の言葉に、僕たちは離れの入り口から出て行って、領主様たちの脇に並び、友たちは後ろ側の騎士の宿舎の入り口から出てきて後ろ側に並んだ。
「この者たちは何者ですか? それにどうしてここにラミアがいるのですか?」
デイヴが前に進み出て、バンタインさんの隣に立って言った。
「『何者だ』というのはたいした挨拶だな。 俺の顔は見たことがあるだろうに」
お供の男はデイヴの顔をシゲシゲと眺めると、
「もしかして、デイヴィッド様ですか。 死んだはずでは」
「おいおい、この通りちゃんと生きているよ。 そして盗賊を打ち取ったのは、俺と俺の仲間たちと、それに協力してくれたラミアたちだよ」
男は悔しそうに言った。
「バーバラ様に付いていた者どもは何をしていたのだ」
「ああ、そいつらなら、既に昨晩から牢に入っているそうだ。 ラミアを見て、お前らと砦に連絡に走ろうとして捕まったらしいな。
それから、バーバラも既に自分から望んで幽閉されている」
バンタインさんはちょっと溜め息をつくと言った。
「カーライル、ストーム、まずはこの2人を牢に連れて行ってくれ。 今の言動から確実にフロードの悪事を知っていたと思われるからな」
カーライルさんの簡単な手による指示で、2人はまず武器を奪われ、縄で縛られて連れて行かれた。 流石にこの状況で抵抗はしなかった。
「さて、残った者たちよ。 お前たちはフロードの悪事を知っていたのか。
知っていたなら、潔く申し出て罪に服せ、そうすれば僕が責任を持って、罪を一等減じてもらえるように交渉をする。 ただし、実際にどうなるかは保証できない。 お前たちがどのような罪を犯しているかも分からないからな」
「バンタイン様に申し上げます。
私たちは、今の様な事は全く知りませんでした、初耳です。
私たちはただ命令に従っていただけで、なおかつ罪になる様なことをした覚えはありません」
残りのお供は皆その言葉に頷いた。
「これからフロードは厳しく取り調べられる。 その時に何か関わっていることが判明したら、今申し出なかったことにより罰はより苛烈になるが、そこは分かっているだろうな」
「はい、それはもちろんそうだろうと思います」
「よし、それならば、これから僕は自分からフロードを糾弾する先鋒となる。 その僕に命懸けで従え。 ただし、もちろん茨の道だ。 当然のことだが僕自身も含めて厳しい監視の目の中に過ごさなければならないし、ひとたび争いとなれば真っ先に死地に飛び込まねばならない。 それでも良ければ僕に従え、それが嫌なら牢に入れ。 牢に入る方が楽な道かも知れないぞ。 先に言っておくが途中で逃げだせるかも知れないなんて甘い考えは持つなよ。 逃げれば躊躇いなく問答無用で斬る。 おかしな行動をしても、当然斬る」
バンタインさんのお供たちは真っ青な顔をしてバンタインさんに誓っていた。
「我らバンタイン様に命を懸けて従いまする。 決して裏切ったりはいたしません」




