233. 夜は雑談だけとはいかない
「それじゃあ、みんな頼むぜ」
「ん、任せて」「任せなさいよ」「簡単な仕事」
「ま、ブマーも連れて行ってくるよ」
食事の後、前と同じ様に僕たちがいる離れに、領主様、アルフさん、それにカーライルさん、ストームさんが来ている。
「デイヴィッド、お前の言葉を信じない訳じゃないが、キースリングとブマーも一緒するとはいえ、危なくはないのか」
「兄貴、大丈夫だ。 あの3人がそこら辺の適当な奴に遅れをとる訳がない。 それも夜だったら尚更だ。 きっとキースもブマーも何もすることなく帰ってくると思うぞ。 あ、気絶したのを牢屋に放り込む仕事はしてくるか」
「アルフレッド殿でしたね。 心配する必要はありません。 あの者らに任せておけば大丈夫です」
デイヴだけでなく、ミーリア様もそう言ったのだが、アルフさんたちはまだちょっと心配そうだった。 僕も説明した。
「ラミアは夜目が利くので、夜は人間より有利です。 それにディフィーは前の時に僕たちを秘密裏に警護してくれようとした人に簡単に気づいた様に、感知能力がずば抜けているんです。 だから相手に気づかれないうちに、相手の居場所を確実に捉えてしまいます。 レンスは完全に気配を絶ってしまうことができる技能の持ち主で、移動しても全く音を立てたりしませんから、きっと相手に気づかれないうちに倒してしまうと思います。 セカンもレンスほどではないですけど、同様に気配を消せるので、まず同じ様に気づかれないうちに倒してしまうと思いますよ。
ま、出てくる人数にもよりますけど、固まっていれば一緒にあっと言う間でしょうし、離れていたら個々に次々と倒していけるので、それはそれでかえって楽勝でしょうし」
「ま、戦闘になる可能性は低いと思うけど、なったとしてもキースとセカンに勝てる腕を持つ者がそうそういるとは思わないしな」
サーブがそう言うと、ストームさんが興味を持った。
「キースリングの腕は、身体つきを見れば大体どの程度上達したかは分かるから想像がつくのだが、あのセカンちゃんは頭が回るだけじゃなく、そんなに剣も使えるのか」
「ああ、ストーム。 キースが言うには、完全にキースと互角だそうだ」
「それじゃあ、心配はいらないな。
セカンちゃんとは、ぜひ後で立ち合ってみたいな」
「ストーム、その教えたがりの癖はやめろ」
「教えたがり? デイヴ、もしかしてストーム殿はデイヴやキースの剣の師匠なのか? キースが全然敵わないと言ってたのは、ストーム殿のことなのか?」
「ああ、サーブ、その通りだ。 ストームが俺やキースの剣の師匠だよ。
ま、俺の場合はそれだけじゃなくて、ストームは俺の養育係だったから、その他諸々仕込まれた」
「いやあ、キースリングはともかく、このデイヴィッド坊ちゃんはどうにも出来の悪い弟子で、ちょっと気をぬくと体型がブクブクと太くなって・・・」
ストームさんの冗談だか本音だか分からない言葉をサーブは全く聞いていないで、勢い込んで言った。
「ストーム殿、後日、セカンだけではなく、私にもぜひ稽古をつけてくれないだろうか?」
ストームさんは、どうなのだろうかという顔でデイヴを見た。
「ああ、サーブも強いぞ。 一番真っ当な剣を使う。 十分お前が教えるレベルだぞ。
サーブ、このストームはな、自分が認めるある程度以上の技量を持たない者には、全く稽古をしてやらないんだ。 わがままなんだ」
「坊ちゃんには最初から手取り足取り教えてあげたじゃないですか」
「それはお前が俺の養育係だったからだろ」
「ま、それは置いといて。 こっちのナーリアちゃんだっけ、君は剣は振らないの?」
「私も剣を使わない訳ではないのですけど、セカンやサーブの様なレベルではないですから」
「ナーリアは別なんだ。 ナーリアは自分で戦うことを重視はしていない。 ナーリアはミーリア様に指揮官としての英才教育をされているんだ」
「ほう、あなたは指揮官なんですね」
アルフさんが興味を示して言った。
「いえ、とんでもないって感じです。 まだ見習いっていうだけです。
ミーリア様に教えていただいているのですけど、ミーリア様に比べたら私なんてとても指揮官なんて言えないです」
「俺から見たら、ナーリアは十分すぎるほどの優れた指揮官だと今でも思うけど、比べる相手がミーリア様じゃあなぁ。 いくらなんでもそれは無理だ」
「デイヴ、褒めてるのよね」
「十分褒めてるよ。 なあ、アレク、ボブ」
「ああ、十分褒めてると思うぞ。 ミーリア様と比べられたら、誰も敵わないと思う」
「ああ、それはデイヴの言うとおり無理だ」
「あなたたち何を言ってるの。 やめなさい、恥ずかしい」
持ち上げられたミーリア様が、恥ずかしがって僕たちの言葉を止めた。
「そうですか。 ミーリア殿はラミアの指揮官なのですか」
カーライル様がなんとなく感慨深そうな感じで言った。
「いえ、私より上位のラーリア様たちは私たちに比べると圧倒的な武勇がありますので、その武勇を活かすために指揮に専念できないのです。 それで私がラミアの指揮を執っているだけなのです」
「ミーリア様、それは謙遜が過ぎるでしょう。 ラーリア様たちも氷のミーリアには逆らえないって言ってますよ」
「デイヴィッド、なんだその『氷のミーリア』っていうのは?」
「デイヴ、私の悪評をここでも広めようとはしない」
「はい、ミーリア様」
デイヴが口を噤んでしまったのだが、アルフさんはなんだかとても興味がありそうだ。
僕が少し解説してあげた。
「ミーリア様は普段は今の様にとても親しみやすい方なのですが、一度指揮官モードに入ると、がらっと人柄が変わり、誰も逆らえない、逆らうことは許さないといった感じの、絶対的な指揮官の姿に変わるんです」
「兄貴、とにかく怖いんだよ。 もう本当に辺り一面が凍りつくっていう感じの厳格な雰囲気が漂うんだ。 ミーリア様の命令に誰1人逆らったりなんてできる訳がない。 その状態のミーリア様のことを『氷のミーリア』と言って、ラミアだけでなく、俺たちも、ハーピーも恐れているんだ」
馬鹿、デイヴ、そこまで言うか。
「デイヴ!! あら、でもちょっと待って。 ハーピーもって、ハーピーも私のことを『氷のミーリア』って恐れているの」
「ほら、ミーリア様一度エレオンを怒鳴りつけたじゃないですか。 あれ以来、ハーピーの間にも『氷のミーリア』は知れ渡ってますよ」
「ミーリア様が指揮官モードの時はハーピーの奴らも、ミーリア様の前に出ると緊張して背中の羽毛が立つからなぁ」
ナーリアとサーブがそんなことを言った。
しかし、ハーピーの奴ら緊張で背中の羽毛が立つのかよ、知らなかった。 今までそういう時あいつらの背中を見る位置にいなかったからなぁ。
いつの間にかメリーを寝かしつけに行っていたアンが部屋に戻って来ていて、手で口を隠して笑っていた。
「とにかく、ラミアが多士済々なのは良く分かったぞ」
領主様がそう言った。
セカン、ディフィー、レンスが戻ってきた。
「3人ともご苦労様、どうだった」
デイヴが代表して3人を労った。
「ん、簡単な仕事」
レンスがその一言で終わらせた。 流石にそれだけではダメかと思ったのか、ディフィーが付け足した。
「どうと言うこともない仕事だったけど、レンスとセカンが簡単に2人眠らせて捕まえたわ」
「鈍い人間だったから、私もレンスもただ近付いて、毒霧吐いただけ。 あとはキースとブマーに任せた」
しばらくして、キースとブマーも戻ってきた。
キースは、どうと言うこともないと言う態度だったが、ブマーは興奮していた。
「全くラミアってこんなに凄いんですか。
僕には全く分からないうちに、『2人出てきたわ』と言って、あそことあそこと指差したかと思ったら、2人がいつの間にか消えて、あれっと思ったら、もう出てきた2人が昏倒しているんですから、何が何だか私には全くわかりませんでした」
「ま、どうということもない仕事でした。
ブマーが言うには、バーバラ様のお付きの、お偉いさん2人とのことです。
とりあえず意識がないまま、牢に入れておきました」
キースはあっさりした報告だ。
「2人と言うことは砦とバンタイン兄貴のところと両方に、本当にラミアがここに来ていることを伝えに行こうとしたということだな」
「なんであの2人が直々に伝えに行こうとしたんだ?」
「兄貴、俺はキースと同じようにあの2人というのが良く分からないのだが、前の時には、セカンとディフィーが本物のラミアかどうか分からないような偽装をして、そのように報告するようにさせただろ。 だから今回は下の者が行ったのでは、前回と同じに受け取られると考えて、自分たち自身で連絡をすることにしたんじゃないか。 前回のセカンとディフィーのちょっとした工作が、思った以上に効果をあげたんじゃないか」
「なんであれ、今回の件は館内の者に対して、秘密厳守が言い渡されていて、外出も禁止されていた。 それをその2人は破ったのだから、言い訳は出来ない、ここでバンダイン様の奥方の側から剥がすことが出来たのもとても大きな成果だと、私は思う。 やはり、セカン殿とディフィー殿の智謀は我等の及ぶところではないと、改めて認識した」
「いえ、私たちはここまでのことを予想してはいません。 今回の件はたまたま思っていた以上の成果が出たにすぎません。 カーライル様の言葉は過大評価です」
セカンは謙遜ではなく、事実を言ったのだと思うけど、領主様、アルフさん、カーライルさん、ストームさんの、セカンとディフィーの立案能力の評価はより上昇したのは間違いないみたいだ。
「あの2人が牢の中にいれば、この館の中でフロードに繋がる者を指揮する者はいないだろう。
だからバンタイン様が戻って来た時も、フロード派の御付きは動きが混乱するんじゃないかな」
ストーム様がそう言った。
「そうだな、バンタインが戻って来て、フロード派の者がまだ混乱しているうちに、バンタインと儂らが一度腹を割って、語り合う時間を作ろう」
「親父、俺とデイヴィッドはもう腹を括っている。 語ってみてバンタインがこちらの側に立つなら良し。 ダメなら残念だが拘束する。
そこまで考えているからな」
「もちろん分かっている。 今はもう、時間がない。 それでやむを得ない」
領主様は苦渋の顔をしていたが、意を決したように、それまでとは違った調子で言葉を発した。
「ブマー、捕えた2人は誰とも接することが無いように、もう一度牢番に念をおしておけ。
カーライル、バンタインが館に入るのと同時に領内の騎士、有力者など、領軍の中核になる者全てに、使者を放て。 領軍内で中隊長以上になる者は全て3日後の正午に集合させろ。 兵を率いて来る必要はないが、正当な理由がない限り、不来の者には然るべき処遇がもたらされると、周知させろ。
ストーム、バンタイン配下のフロード派の者を全員拘束する準備をしておけ。
バンタインは明日の昼前には戻って来るだろう、あまり時間はないから準備を急げ」




