230. 道の開通
今現在の道の復旧の一番の障害は、工事箇所がラミアの里からはどんどん遠くなっていることだ。 工事にかかるまでにまず第一にその場まで行くのに時間がかかる。 そして早めに終えないと日があるうちに戻れない。
だからほとんど夜明けとともに活動を始める訳で、地味に朝が辛い。
復旧している道は、領主の町まで馬で半日ということになっているが、実際には4時間というところだろう。 それも馬が疲れないペースでなので、急げばもうちょっと短縮できるという感じだ。 それでも今工事している場所までは3時間近くもかかってしまう。
それに馬車は4台しかなく、馬車一台にラミアは5-6人しか乗れない。 つまり作業に行くラミアの大体半分しか馬車に乗ることができない。 仕方がないので、今までに起きていた組と新たに起きた組で一日交代で交互に馬車に乗ることにしようかとミーリア様は考えたみたいだが、さすがに新たに起きた組がミーリア、ミーレアが自分で歩いたり走ったりして、自分らが馬車に乗るのは気兼ねして余計に嫌だと、新たに起きた組が自力で向かうことになった。
しかしその馬車も問題で、馬車は4台なのだが、馬車を曳く馬は2頭がもう臨月に近いので、馬車を曳く役には立たず、かといって1頭で曳かせると荷台にラミア満載では無理があった。 仕方なく、騎馬用の馬2頭を急遽曳き馬にしたが、慣れないからギュートが御者をしてもなかなか大変そうだ。 ま、そりゃそうだろう。
馬車は着いて下ろしたら、即座に引き返して、後続を乗せてくるのだが、正直後続にとってはほとんど役に立っていない。 そりゃ馬車の急ぎで3時間、ラミアの急ぎで4時間なのだから、馬車が即座に引き返してももうほとんどの距離を来てしまっている。 それでも作業の前に少し馬車の中で休めるのは嬉しいみたいだ。
僕とデイヴとキースは、馬の運動の為と馬車の人数を少しでも減らすために騎乗している。 僕だけは練習も兼ねている訳だけど、それは当然のことだ。
ウスベニメとモエギシュウメは何度も往復して、食べ物・飲み物を運んでくれている。 新たに起きた組は最初ハーピーに戸惑っていたが、ナーリアたちが楽しそうに普通に接しているので、意外と簡単に慣れてしまった。 特にエーレアたちは体格が一番最初に会った時のナーリアたちの体格と変わらないから、ハーピーの二人も何となく気楽だったのか、すぐに仲が良くなったみたいだ。 これはアンにも言えていて、同い年のナーリアたちの姉妹だと聞くと互いにすぐに慣れた。
ただ、男性ハーピー3人は監視に当たっていて忙しく、時々顔を見せる時は、ミーリア様と僕とデイヴとキース、それにセカンとディフィーを加えて、監視の報告を大急ぎでして、ラーリア様とイクス様にも報告してからまた監視に戻る、という風にすぐに去ってしまっているので、まだ誰も親しくなれない。
アンとメリーは時々ウスベニメとモエギシュウメに連れられて、空を飛んで行ったり来たりしている。 料理の仕上げを現場でしたりもするのだが、どうもメリーが飛びたいとねだるからのようだ。 アンはさすがに飛ぶのに慣れたみたいだが、メリーも防寒着をセカンに作ってもらって、空をまともに飛ぶようになった。 メリーは最初から全く怖がらない。
ディフィーとセカンがメリーに尋ねた
「メリーはお空を飛ぶの怖くないの?」
「どうして怖いの? ベニお姉ちゃんも、モエお姉ちゃんもメリーをお空の上から落っことす訳ないもん。 だから何も怖くないよ」
「確かに、正論だわ」
「でも、怖いものは、怖いよね」
「ディーお姉ちゃんとセンお姉ちゃんは変。 メリーはハトのお兄ちゃんでも怖くないよ」
「んー、メリーに反論できない」
ウスベニメとモエギシュウメが、そのやり取りを聞いていて、転げまわりそうな調子で笑っていた。
少しだけ有利になったのは春が近くなり、ほんのいくらか暖かくなったことと、少しではあるけど日が伸びてきたことだった。 まだ土が冷たいから、常に焚き火をして温石を次から次へと取り替えていたりするんだけどね。
僕も道の復旧工事に参加して三日目、昼にセカンがウスベニメに残りの距離を聞いた。
「ウスベニメ、あの広場まであとどれくらい?」
「セカン、あの広場はほんの少しだけど、この道から外れているから、あの広場にはこの道は繋がらないよ。 でも、広場のある大体の位置まで、あとほんの少しという感じ」
「そうなの、私、あの広場に繋がるんだと勘違いしてたよ。 でも歩き始めた時の景色になった気がしたから、そろそろかなと思った」
二人の話を聞いていた僕はセカンに言った。
「セカン、間に合ったな」
「うん、何とか間に合った。 きっとそろそろデイヴの家に合図が出る頃」
昼にそんな話をして午後の作業を始めてすぐにアライムが飛んできた。
「デイヴ、出たぞ。 とうとうお前の実家にサインが出たぞ」
アライムが大急ぎで飛んできた姿を見て、ミーリア様とナーリアたち、そして人間がみんな集まってきた。
「アライム、きちんと報告しなさい」
ミーリア様が指揮官モードになって言ったので、アライムも急に口調が変わった。
「はい、ミーリア様、ついさっき領主の館に合図の布が掲げられました。
書かれていた数字は『2』でした」
「そう、了解したわ。
アライムは、このことをすぐに奥のラーリア様たちとハーピーの里に知らせなさい。 両方ともあなたたちの成果を待っているから。
それが終わったら、戻ってエレオン、ハライトに、今度は戻って来るデイヴの次兄たちにも気をつけて監視を続けるようにと伝えなさい」
「はい、了解しました」
アライムはまた即座に飛び立って行った。
「ナーリア、人間たち、大急ぎで戻ります。
ミーリオ、ここの全体の指揮を引き継ぎます。 今日は少し遅くなっても、明日には全線開通させる為、人間の町から分からないギリギリまで工事を進めなさい。
ウスベニメ、モエギシュウメ、工事の方向とどこまでなら大丈夫かを、ミーリオと相談して。
私たちが馬車を2台使いますが、残りの馬車は・・・」
「はい、ミーリア様、私たちが御者をして戻るので大丈夫です」
ロア様がアリファ様の片手の手首を握って、一緒に手を挙げさせて答えた。
「それではロアとアリファに任せます。
行動開始」
ミーリオ様は残る全員に大声で叱咤し大急ぎで作業を再開させた。
ナーリアたちと人間は馬車に乗り込もうとしている。 御者はセカンとギュートがするようだ。
人間が乗り込む馬車は曳き馬は騎乗用の馬を無理して使っているやつだ。 さすがにロア様とアリファ様には難しいことを押し付けられない。
僕とデイヴとキースは繋いである自分の馬に急いで向かった。
ロア様とアリファ様は地味に有能なんだよな。 アリファ様は片手でできることを増やしたいからと言って、アンとセカンに習って馬車を引く馬の御し方を覚えたのだが、ロア様はそれを聞いたら、アリファが習うなら自分も一緒に習うと言って、おまけのような顔をしていながらしっかりと出来るようになったのだ。
最近はセカンが何かを誰かに教えるのは本当に普通になってしまった。
ミーレナさんにも御者の仕方を教えたみたいだが、セカンとミーレナさんの万能さはもう隔絶しているので、どちらかが何かを出来る様になるというか覚えれば、もう一方も即座にそれを教わって出来るようになってしまうという感じだ。
僕たちは大急ぎで家に戻っている。 もちろん騎乗している僕ら3人はもっと急ごうと思えば急げるのだが、馬車の速度に合わせて馬を走らせている。
移動し始めて、まだ半分の場所にも行き着かないうちに、アライムがもう戻ってきて、移動している僕たちに気がついて降りてきた。
何でも報告をしたら、ハーピーも家の方に来ているらしい、ハルオン様まで来ることはないだろうから、エルシム様が来ているのかなと思った。
家にたどり着いて、僕たちはまず馬を世話する。
アンとメリーにも手伝ってもらって、馬の汗を拭いたり、水をあげたり、餌をあげたりして馬を休ませる。
その間にミーリア様は少しラーリア様たちと話をしたみたいだ。
「とりあえず大急ぎで、工事の汚れだけ、みんな落とすわよ」
ミーリア様の一言で僕たちは温泉に向かった。
この日はさすがに温泉を楽しむ余裕はなく、汚れた体を洗い、着替えただけだ。 季節柄まだこれだけでは寒いが仕方ない。
今はもうほぼ食堂となっている作業場に入ると、そこにはイクス様とラーリア様たちが勢揃いしていた。 そしてハーピーも予想通りのエルシム様だけでなく、シロシュウメ様もいらしていた。
「ミーリア、示された数字は2ということだが、つまり明後日にはデイヴの次兄が領主の館に戻るということだが、道の方はどうなった?」
「はい、ラーリア様、ギリギリですが全体の復旧が間に合いました。
今現在ミーリオの指揮の下、カモフラージュの部分を残して、最後の部分の復旧作業を行なっています。 今日これからミーリオが戻れば、間に合ったという確実な報告が届くと思われます」
「そうか、よくやった」
「いえ、今回はミーレアが工事を主導していましたから、お褒めの言葉はミーレアにかけてあげてください」
「分かった。 戻ったら、ミーレアに声をかけよう。
セカン、ディフィー、この状況での作戦を説明せよ」
「はい、ラーリア様」
セカンは全体に向かって話始めた。
「デイヴの次兄が戻って来るまでに道が繋がりましたので、以前より検討していた中では最も有利に事が運べる事態になっています。 ここからは一気呵成に事態を進めます。 ここ数日はとても忙しくなりますが、よろしくお願いします。
まず明日の夕方には、人間とナーリア、ここにはアンとメリーも含まれます。 そしてすみませんがミーリア様にもご足労願って、以上のメンバーは明日の夕方には領主の館に入ることになります」
セカンとディフィーは、作戦案をどんどん語っていった。
道の復旧の作業をしている者たちが戻るまでに、作戦の検討を終えて、戻ってきた時にはすぐに命令を下す必要があるのだ。 時間がない。
「以上、以前に想定したこのケースにおける作戦と変更点はありません。 私たちはこれで問題がないと考えていますが、何かご意見がございますでしょうか」
イクス様も含めラミアからは意見が出なかったが、ハーピーから意見が出た。
エルシム様が意見を述べた。
「今の作戦案だと、ハーピーは監視に当たるだけで他に何もしていない。
ラミアとハーピーと人間の三者による同盟のための作戦なのに、それではハーピーにとって都合が良すぎるのではないだろうか」
セカンが答えた。
「いえ、エルシム様。 今回は、ハーピーには今までずっと監視や移動などで一番の働きをしてもらっています。 ハーピーの多大な貢献がなければ、今の状況を作り出すことも不可能でした。 ハーピーにとって都合が良すぎるなんてことは決してありません」
「いや、今回、ラミアの里に住む人間たちなどは身の危険を顧みずに動いてくれた。 それと比べれば、ハーピーの貢献など微々たるものだ。
そうだ、せめて今回の仮の同盟調印の席に私も立ち会わせてくれないだろうか」
それは考えないことではなかったが、ただでさえ数が少なくなって、種族存続が危ぶまれているハーピーを、安全が確実に確保出来ているとは言えない場に出てもらうことは躊躇われて、組み込まなかったプランである。
「安全が確実に確保出来ている保証はまだないので、考えに入れなかったのですが」
ディフィーが困ったように答えた。
「ああ、それは理解している。 だがそのリスクを負っているのは、ラミアも人間も同じであろう。 数が少ないからとはいえ、我らハーピーだけがそのリスクを負わないでは、我らは堂々と同盟の一員だとは言えない。 故に私も立ち会いたいのだ」
「了解しました。 それではエルシム様にも立ち会っていただくように変更いたします」
これ以外は意見は出なかった。




