23. 報告
人間の捕獲が行われた次の日、私は部屋でもう一人とおしゃべりをしながらのんびりと過ごしていた。
私たちアーレアは捕獲には直接加わりはしなかったが、その前の監視を任されていたので、その仕事を終えたご褒美に、休みがもらえたのだ。
普段はなかなか忙しく、同室の友とも生活の事務的な事柄以外あまり話している暇もない。
だから、たまの休みにおしゃべりに花が咲くのは当然だろう。
アーリア・アーレア・アーロアの役目は主に偵察だけど、個人行動が多いし、偵察中に無駄話は当然禁じられているから、今こそと話すことはたくさんあるのだ。
そんなのんびりとしていた昼前に、突然扉がノックされ、部屋の外から声をかけられた。
「ミーリアよ。 アーレア、休みに悪いけど、ラーリア様の部屋で待っているので、来て欲しい」
私は驚いたが、こういう事はたまにはある、即座に返事をした。
「はい、ミーリア様。 私一人で良いのでしょうか、装備は着けていった方が良いのですか?」
「アーレア、リーダーのあなた一人でいいわ。 装備は要らないそのままで構わない。 私は先に戻っている」
ミーリア様はそれだけ言うと、さっさと扉から離れて行ってしまった様だ。
「何かしらね」 同室の友がちょっと首を傾げて言った。
「さあ、昨日の今日で、何かしらね」
私はくつろいでいて乱れているであろう髪を直しながら答えた。
「ミーリア様、ラーリア様の部屋に先に戻るって言ってたから、ラーリア様と話している途中で呼びに来たのかしら。 とにかく行ってくるわ」
「失礼がない様にね」
「そんなドジっ娘じゃないわよ」
そう言いながら部屋を後にした。
「ああ、アーレア、休んでくつろいでいる時にすまないな」
ラーリア様の部屋の扉をノックすると、すぐに「入れ」と応答があり、ラーリア様とミーリア様が座って話されている場に近づくと、ラーリア様から慰労の声をかけられた。
「いえ、大丈夫です」
ここは余計な事は言わない時だろう。簡潔に答えて立っている。
「アーレア、ラミアの中で一番隠密行動、ここでいう隠密行動とは他のラミアに知られないでという事だけど、その技術に優れているのはあなただと私は考えるのですが違う?
もし、あなたがあなた以上の人を知っているのなら、その者を教えてくれるのでも良いのだけど」
ミーリア様が質問してきた。
私はほんのちょっと考えただけで、すぐに答えた。
「はい、その点は私が一番優れていると思います。 私以上の者を私は知りません」
私の答えを聞いて、ミーリア様はラーリア様の方に向き直って言った、
「やはりこの役目はアーレアが適任ではないでしょうか。」
「アーレア全体からアーレアを抜いても大丈夫かな」
「何かの時にはすぐに通常に復帰という事で良いのではないでしょうか。
常に見張る必要は現実的にはほぼないと思いますから、そうしないで通常に戻ることになるとも思いますし」
「そうだな、常に見張る必要があると考えるのは現実的ではないな。」
ラーリア様とミーリア様は私が来る前にしていた話に結論をつけた様だった。
ラーリア様は改めて私に振り返ると、
「アーレア、新たに特別任務を与える。
詳しく説明するから、お前も座ってくれ。
ああ、今から疑問点やわからない事、何でも気づいた事があれば即座に口に出して構わないぞ。」
そう言って、私を完全に場に加えた。
お二人は私に今回の任務を詳しく説明してくれた。
でもまあ今回の任務は、要するに役立たずの人間を、世話しているミーリアたちに気付かれずに見張れ、ということだった。
正直、お二人が何故こんなことを重要視しているのか分からない。
注意されたのは
1. 気付かれないこと。
2. 人間および世話するナーリアたちのちょっとした変化、ラミアから見て知らないこと、意味のわからない事などの行動を逐一報告する事。
3. 出来れば、人間とナーリアたちとの間の会話も聞く様に努力する事。
4. カウンターの係に協力を仰ぐ事。
大まかにこんな事だった。
「何故カウンターの係に」と尋ねると、
「ああ、彼女は元ラーリア5位だからな。 私より先輩だ。
彼女ならお前には見えない事も見えているかもしれない。」
とラーリア様が教えてくれた。
え、知らなかった。 秘密だそうだ。
「部屋の中に居る時はどうしますか?」と尋ねると、
「まあ部屋の中はいいだろう。
褒美としてナーリアたちに呉れてやったのだから、部屋の中くらい彼女らにあの人間を楽しませてやらんとな。
それを盗み聞きしてもつまらんだろ。」
良かった、つまらなそうだが辛い仕事ではなさそうだ。 夜も仕事するのは辛いから。
翌日からすぐに監視任務が始まった。
ナーリアたちが外に出てくる前に、私は水場で身体を水に浸し、体温を下げる。
外気温より下、影の湿った土の温度近くに体温を下げる。
私の物に隠れる力や、音を立てない動きの巧みさは他の者、つまり他のアーリア・アーレア・アーロアたちとほとんど変わらない。
私が隠密行動で一番の理由は、どういう訳か体質的に温度変化に強い事だ。
ラミアは変温動物だから温度変化、特に低温に弱く、温度が低くなると行動能力に大きな影響が出る。 私はその耐性が高いという訳だ。
そして最低限の動きで筋肉の発熱を抑えれば、一度身体を冷やせばかなりの時間低体温を保つことができる。
ラミアは普通の視覚だけでなく、熱感知というか赤外線も少し見えているのだが、隠れている場の温度とほぼ同じに体温が保たれていれば、周りと同化してしまい見えなくなるのだ。
これによって私は本気で隠れれば、まず他のラミアに見つかる事はない。
ナーリアたちは初っ端からやらかしてくれた。
一番近くの採取場所かと見当していたら、随分と遠くに移動してくれた。 まあそれは良い。 周りに他の者がいなくなれば、私は隠れるのが楽になる。
一人を人間の監視にして採取作業をするかと思ったら、人間を真ん中にはしているが勝手に作業させている。
と思えば、その人間の提案で面白い作業方法を始め、随分と効率化させた。
調子に乗って怪我をするバカもいる。
面白いことにも気がついた。 人間はナーリアたち一人一人に違った名を付け、それぞれに呼びかけている。 また、ナーリアたちも人間を人間とは呼ばず別の名で呼びかけている。
昼には部屋から持参したらしい食料を食べている。 何か仔細がありそうだが、それはわからない。
人間は草も摘んで食べている。 食べずにしまっている草もある。
水浴びの時は、ナーリアたちの警戒心のなさに驚いた。 誰もそばで監視せず、一番武器に近い位置に人間がいても気にもしないとは。 それでも武器を取ろうともしない人間も面白い。 そして人間だけ服を着せるのは何故か、目立たなくする為か。
つまらない仕事かと思っていたが、この監視はかなり面白かった。
カウンターの元ラーリア様にちょっと話すと、彼女も採取の収穫量と速さに驚いていて、今日の詳しい報告をすぐにラーリア様たちにしろ、と言われた。
思いがけず、初日からラーリア様たちに報告することになった。
報告すると、ナーリアたちの様子に笑ったりもしていたが、とても真剣に報告を聞き、私の同室の者に、耳の良い者を2〜3人探し出す様に命じるように、と言われた。 どうやら監視を増やすことを考えた様だ。
二日目も同様に始まり、今日はゆっくりと採取している。
話していた内容から、昨日取って携えていった草は薬草だったことが分かる。 これは特筆すべきことだ。 揉んで出た汁をつけると傷が早く治るらしく、バカをして怪我した者がその治療を受けたらしい。 その様な行為を人間がした事も報告に値する。
ナーリアたちは休み時間に、他の有益な草の知識なども教わっている。 残念ながら私には全てを聞き取る事は出来ない。 確かに耳の良い者が必要かもしれない。
この日、人間は自分が食べるための物をかなり収穫した。 私たちラミアが好まなかったり、食べない物も多い。 これも報告すべき事か。
カウンターに寄ったら、「あの子たちに、人間と遊ぶ様にと唆しといたよ。 明日が楽しみだねぇ。」と言っていた。 なんだか楽しんでいるみたい。
今日も報告する。
三日目
大いにやらかしてくれた。
唆されたとはいえ、ああも華麗に踊らされるものなのか。 5人とも凄い匂いを撒き散らかしていた。 あれでは誰でも、人間を使って昨晩さんざ楽しんだ、と分かってしまう。
まあ、本人たちは一人が脱皮したことに驚いて、身体を拭いて出てくるのを忘れた様だが、あそこまで匂えば例え拭いていても分かったのではないかと思う。
私自身も精を出せない人間なんて、と思っていたのだが、それは間違いだった。
精を出さなくても人間は、ラミアにとって、とっても嬉しい存在だった訳だ。
カウンターの元ラーリア様はそれが分かっていて、ナーリアたちを唆して、ナーリアたちだけでなく他のラミアの事も含めて遊んでいたのだろう。
正直私にもナーリアたちを羨ましく思う心がある。 ナーリアたちと同じ立場の子たちなら尚更だろう。
そう、一人が脱皮した事で、私は「やはりな」と納得した。
ラミアは脱皮して急に成長し、1段階強くなる様に思われているが、それが間違いなことを私は知っている。 脱皮する時にはエネルギーが満ちてもう強くなっているのだ。 その限界が来た時、脱皮するだけなのだ。
ナーリアたちの今の姿で人間を捕まえる事は、普通期待できないと私は思う。 それが出来たという事は、もう次の段階にナーリアたちは来ていたのだ。 本人たちは驚いていたが、きっと彼女たちは次々と脱皮するのではないだろうか。
今日も報告する。
結局毎日報告するのだろうか。 意外に面白いが、思っていたより忙しい。
「ラミアの独り言」第1話『かくれんぼ』が、この話の裏話になります。
良かったら、そちらもお読みください。




