228. 戻ってきたら3人しか居ない
早めの昼食をとって、僕たちは帰路に着いた。
人間3人だけなら、ハーピーの一回の飛行で用が済むから、日が落ちて暗くなっていさえなければ、もっと遅い時間でも構わないし、その方が人目にもつきにくいのではないかとも思う。
だが今回はセカンとディフィーもいるから、ハーピーに二回飛行を頼まなくてはならない。
「帰るのにも、空を飛ばなくてはならないのね」
ディフィーは朝から暗い顔つきで、同じことを繰り返し言っている。
「ディフィー、帰るには仕方がないんだから諦めよう。
それと飛び始めた最初は、町に近いから悲鳴をあげるのはまずい。
なんとか悲鳴をあげない工夫をしないと」
「うん、セカン分かっている。 アレク、館のメイドにお願いして布を手に入れたわ。 私は声を抑えられる自信がないから、悪いけど飛ぶ前に私に大声が出せない様に猿轡をこの布でして頂戴」
「ええっ、僕がするの? 自分ではできないの? セカンにしてもらうんでも良いと思うけど」
「自分ではこれから飛ぶのかと思ったら、震えて力なんて出なくて、声が漏れない様にしっかりと猿轡なんてできないわよ。 セカンだって私と50歩100歩よ。 しっかりと結べるとは思えないわ」
「アレク、すまないがディフィーの言う通りだ。 私も今からでも布を頼もうかしら?」
「いや、もうその時間ないからな」
僕たちはすぐにブマーが御者を務める来るときにも使ったみすぼらしい馬車に乗り込んで、町から出て森の端を目指す。
ブマーと別れ森の中をハーピーが待っているだろう広場に向かって歩き出す頃には、セカンとディフィーの二人はだんだん話もせずに黙り込む様になってしまった。
広場に着くともちろんハーピーは5人とも待っていた。
「おい、あの二人どうしたんだ。 いつもと違って随分元気がないというか、しおらしいというか」
ハライトがキースにそんなことを聞いた。
「やっぱり空を飛ぶのが怖くて嫌らしいんだ。 俺も最初の頃はそんな感じだったが、あそこまでひどくはなかったな」
「確かにお前も最初の頃は飛ぶのを嫌がったが、あそこまでじゃなかったな。 ま、俺もまた飛んでいる間またずっとあの絶叫かと思うと、ちょっと気が重いぜ」
その言葉を聞いていたらしいディフィーが
「ハライト、今回は大丈夫」
「おっ、我慢できるのか」
「ん、無理そうだから、アレクに猿轡してもらうことになっている」
「ディフィー、猿轡って、そこまでしなくても」
モエギシュウメが話に加わって言った。
「ううん、来る時はこの近くに来るまでに絶叫のし過ぎで、もう声が出なかったのだけど、流石にこれだけ町に近い場所で絶叫はまずいから。 猿轡しとかないと自分では自信がないから」
それを聞いてウスベニメが言った。
「それほど飛ぶのが苦手だったら、少し時間はかかるけど、歩いて帰ったら」
その言葉にセカンが食いついた。
「ウスベニメ、歩いて帰れるの?」
「うん、たぶん大丈夫じゃないかな。
もう結構近くにまで、道が延びてきているから、今から歩けば、工事しているみんなが帰る馬車に一緒に乗れる時間に行き着くんじゃないかしら」
ウスベニメは同意を求める様にエレオンを見た。
「そうだな、たぶんもう二時間も歩けば道の復旧工事の最先端にたどり着くんじゃないかな。 帰りの馬車には十分間に合うんじゃないか」
「私は歩いて帰る。 ディフィーはどうする」
「私ももちろん歩いて帰るわよ」
ま、仕方ないかな。
「それじゃあ、僕たち男は心配をかけるといけないから、空を飛んで帰るよ。
セカンとディフィーは歩いて帰って来ればいいよ。
そうすると荷物はどうするかな。 二度と思ったから、結構荷物があるんだよな」
「アレク、別にこことお前らの家の往復くらい大したことではないから、ここにとりあえず置いておけば、お前らを下ろして直ぐにまた俺たちが取りに来て運んでやるよ」
「なんだか悪いな」
「随分とサービスがいいな」
デイヴがそんなことを言うと、アライムが
「お前らは人間との同盟のために頑張ってくれているんだろ。 俺たちにできることくらい協力はするぜ」
と、真面目な顔して言うものだから、冗談口調だったデイヴも真面目な口調で、
「おう、ありがとうな。 絶対に成功させるからな」と言った。
「それじゃあ、私たちは二人の道案内をするわ。 流石にこの辺りになると道の痕跡が薄れて分かりにくいから」
モエギシュウメがそう言った。
家に戻ると、僕たちを下ろして、直ぐにエレオンたちはもう一度戻って行った。
僕たちはとりあえずまず防寒着を脱ぐのに、家に入ったのだが、家の中にはラーリア様、イクス様、ミーリア様の3人しかいなかった。
そしてなんとミーリア様が竃でお湯を沸かしてお茶を淹れていたみたいだ。
「お帰りなさい。 あなたたちもお茶飲むわね。
ちょっと待ってなさい。 今、淹れてあげるから」
「ミーリア様、僕がやります。 ミーリア様は座っていてください」
「アレクくん、大丈夫よ、もうミーリアだってお茶くらい淹れられるわ」
「それよりも、セカンとディフィーはどうした。 少し遅れて戻るのか?」
イクス様、ラーリア様がそんなことを言う。
「セカンとディフィーは空を飛ぶのが嫌なので、歩いて帰ってくることになりました。 もう道がかなり延びたので、その工事から帰ってくる馬車に乗ってくる予定です。
ハーピーは男3人は残してきた荷物を取りに、即座に引き返して、奴らはすぐに戻ってくると思います。 女性二人はセカンとディフィーの道案内に二人に付いてます」
「そうか、それなら話は温泉でしよう。
ミーリア、お茶は後にしよう。 温泉に入るぞ」
「そうね、それが良いわ。 私も賛成よ」
「温泉で話すのですか。 もっときちっと報告を受けた方が・・・」
「あら、それじゃあミーリアは温泉後にする? 混む前にゆったり入る方が気持ち良いと思ったのだけど」
「そうですね、イクス様。 ゆっくりとお湯に浸かれば、リラックスできて頭も良く回るかもしれませんね。 もちろん賛成です。
アレク、デイヴ、キース、すぐに温泉に入るわよ」
このミーリア様の露骨な手のひら返しは何なのだろう。 何か理由がありそうだ。
「道の復旧を急ぐために、お前たちが町に行った日に、すでに先に上位を全員起こしたのだ。 だから工事が終わると上位が全員、温泉に入りに来る。
ナーリアたちもだからそれに一緒に行っているし、アンとメリーは食事の準備の手伝いと、お腹の大きい馬の観察をしている。
ま、とにかく温泉にみんなが来ると、流石に許容人数を超えているからな。 順番に入ることになるし、その時間も限られるから、ゆっくり入るという訳にはいかないんだよ」
ラーリア様が理由を教えてくれた。
道がすごい勢いで延伸したのはやっぱりそういうことだったな。 確かにみんな作業で汚れるし、まだ寒い中でのことだから、我先にと温泉に入りに来るだろう。
温泉に入りに外に出ると、ちょうどハーピーの男3人が戻って来た。
「エレオン、アライム、ハライト、温泉に浸かりながら話をするぞ。
お前たちも来い」
「あの僕たちもよろしいのでしょうか」
「何だ恥ずかしいのか。 今はうるさいウスベニメはまだ戻っていないから別に構わんだろう」
「はい、僕たちは構いませんが」
「それなら良いであろう。 我々ラミアは人間の男の裸も見慣れているからな。 お前らの羽毛が濡れて裸が見えても一向に気にせん。 気にせずに温泉に入るが良いぞ。 もちろん我らは見られても全く気にしないから、遠慮する必要はないぞ」
温泉にはそんな訳でハーピーの3人も一緒に入った。
ラーリア様、イクス様、ミーリア様は、ラミアだから裸を見せるのは何とも思わないし、僕らももう慣れっこになっているので、何とも思わない。
ハーピーの3人はラミアを見ることもできないし、裸を見られるのが何となく恥ずかしそうだ。
「ほう、確かにウスベニメが言う様に、お湯に入ると羽毛が濡れて、体の線が完全に見えてしまうのだな。 なるほどハーピーというのは空を飛ぶために体を軽くする必要があるからかな、体は随分と華奢なのだな。 筋肉も足を除けば飛ぶことに特化して、他は最小限なのだな」
ラーリア様が興味深げにエレオンたちの体を観察して言った。
エレオンたちの顔が真っ赤になっている。
ちょっと可哀想になったので、助けてやることにした。
「ラーリア様、そんなに熱心に観察されたら、やっぱり恥ずかしいですよ。
僕も経験があるから、分かります。
エレオンもアライムもハライトも顔を真っ赤にしてますから、観察するのはやめてあげてください」
「おお、それは済まなかったな。 ハーピーのなんていうか体の線がまともに出ているのを見るのは初めてだったので、つい好奇心で観察してしまった」
デイヴが助け船のつもりだろうか聞いてきた。
「アレク、経験があるって、どういうことだったんだ。 俺はそんな話は知らないぞ」
「あれ、話したことなかったかな。 まだお前たちが調子が悪かった時の頃のことだけど、初めてイクス様と一緒に水浴びした時に、詳細に観察されたんだよ。 本当に元気で体調に問題がないのかを確かめるために」
僕はその時のことを話してやった。
「アライムたち、お前らはまだ単純に見られてただけだから、まだ良いんだぞ。 俺なんて、その時はイクス様に身体中触られて、筋肉におかしなところはないか、熱を持っているところはないか、なんて調べられもしたんだから。 それもナーリアたちが全員見ている前でだぞ。 恥ずかしいこと、恥ずかしいこと」
ハーピーとデイヴとキースは腹を抱えて笑っている。
ちょっとイクス様が赤い顔をして抗議してきた。
「あの時は、人間の中でアレクくんだけが元気だったから、それが本当かどうか確かめる必要があったのよ。 私だって何もあんな風にさせるためにしてたことではないのよ。 本当に必要があったからしていたことなのよ」
イクス様の抗議がちょっと微妙な言い回しだったからか、男たちがちょっと首を傾げていたのだが、
「アレク、もしかして、イクス様がサーブが怪我した後『知ってた』と言ったのは、もしかしてその時からなの」
「あら、ミーリア、いつになく鋭いわね」
イクス様がそう答えて、デイヴとキースは話が理解できたようだ。
「あ、なるほどそういうことか」
「ま、当然だよな」
アライムとハライトがデイヴとキースに、小声でどういうことかと聞いている。 エレオンも話に加わった。
「仕方ないだろ。 背中にあの胸を押し付けられて、ペトペト触られたら反応しちゃうって」
男5人の視線がイクス様の胸に集まった。
キースが言った。
「それは無理もない。 男として当然の反応だ」
「ま、そういうことがあったおかげで、今イクス様はアレクとの卵を抱えていることになったという訳だ。 ま、結果オーライだな」
ラーリア様がそうまとめてしまわれた。
「話が脱線してしまったが、まずは報告を聞こうか」
「はい、後でセカンとディフィーが来てからも、もう一度二人に補足させながら報告しますが、とりあえずはこんなところです」
デイヴが人間の町に行ってからの話を時間経過に沿って、話し始めた。
今までのちょっとふざけた楽しい感じはなくなり、厳しい緊張感に包まれる雰囲気に一気に変わった。




