227. 起こされた
私たちはミーレオ様たちミーレアに無理矢理という感じで起こされた。
まだ意識が覚めきっていない私が最初に考えたのは、今年の春は寒いなあ、ということだ。
のんびりとそんなことを考えながら、まず自分たちの部屋に戻ってなんて考えていたら、ミーレル様に怒られた。
「何をのんびりしている。 大急ぎで外に出る格好になって、広場に出てこい。 もう一度言うぞ、大急ぎでだ」
ミーレル様に急かされて、私は寝起きの悪いエーレアを突っつきながら、大急ぎで自分たちの部屋に戻り、服を着て、剣を着けて外に出た。
外はまだ春にはなっていなかった。
私たちは上位になったばかりで、冬の間に当番で起きるという経験をしたことはまだないので、冬がどういうものかを本当には知らない。
でも知っていることと考え合わせると、もう一番寒い時期は超えたと思うが、まだ春にはなっていないと思った。 寒い。
寒さに注意が行って、周りを見ていなかったのだが、
「あなたたち、何をぼんやりしているの。
早くこっちに来て、この馬車に乗りなさい」
途端に目が覚めました。 ミーリア様の声だった。
「はい、今すぐ行きます」
と答えはしたのだけど、体は動かなかった。 びっくりして、止まってしまったのだ。
ミーリア様のすぐ脇には大きな幌付きの馬車があり、その向こうには馬車だから当然馬がいるのだが、
「えっ、寝る前に馬なんていなかったわよね」
私は隣にいるエレドに思わず聞いてしまった。
「私も見たことないわよ。 馬なんて、一度隠れて遠くから人間が載っているのを見たことがあるだけよ。 あなたもそうでしょ」
私たちが驚きで動きが止まっているとミーリア様が
「ほら、驚いてないで、早く動きなさい」
「はい、今すぐ」
エーレアがやっと目がまともに覚めたのか、大きな声で答えた。
私たちが馬車に乗り込んでいると、ミーリア様は馬車の前側に移動して御者と話している。
「レンス、エーレアたちを奥に連れて行ったら、すぐに戻って来て。 私たちも寒い中歩いて奥に向かいたくはないわ」
「ラリト様とラーリナ様とラーリン様が一応こっちに来ている事になっていますから、三人を乗せて戻ってきます。
でもミーリア様、後ろは良いですけど、御者は結構寒いんですよ」
「そうね。 でもちゃんと温石は持っているんでしょ」
「それはもちろんですけど」
ミーリア様は笑いながら、
「とにかく頼むわね」
「はい。
エーレアたち、全員乗ったよね。 出るよ」
馬車が走り出した。
御者をミーリア様はレンスと呼んでいたけど、私たちが知っているレンスではない。 なんだかとっても大人っぽいというか、艶っぽい人だ。 確かに黒髪ではあるのだけど。
私はちょっと話しかけてみた。
「ねえ、あなた、レンスなの?」
「うん」
「私の知っているレンスじゃない」
エーレルがそんなことを言った。
「エーレアたちが寝てから、ナーリアはまたみんな脱皮した」
「ええっ、ナーリアは全員また脱皮したの」
「うん、お母さんによると、異例だけど、あり得ることらしい」
「なんでそんな事になっちゃっているの?」
エーレファが驚いた顔をしてレンスに尋ねたが、
「今は説明している暇はない。 もう着いた。」
レンスはそう私たちに言うと、馬車を止めたかと思うと大きな声で私たちではなく、外の人に言った。
「アン、起こされた最後、エーレアたちを連れてきた、よろしく」
「はーい、レンス、今そっちに行く」
聞いたことのない名前、聞いたことのない声が聞こえてきた。
レンスは私たちに振り返って言った。
「着いたから早く降りて」
私たちが馬車を降りると、また驚いた事に人間の女が走ってこっちにやって来た。
「えーと、エーレアさんたちですね。 私はアンといいます。
とりあえず私と一緒に来てください」
「アン、ラリト様たちは?」
「もう準備が終わって出てくる頃だよ。 ほら出て来た。
レンスはあとはミーリア様たちだけだよね」
「うん、早く行かないと怒られる」
「ふふっ、ミーリア様せっかちだから。 頑張ってね。
はい、すみません。 こっちに来てください」
私たちは訳がわからないまま、人間の女の後を付いていく。
ここはどこだと考えて、たぶん禁足地の奥だろうと、見当をつける。
ラリト様たちとすれ違った時に「頑張りなさい」と声をかけられた。
大きな家の中に入ろうとした時に、もう一台馬車がやって来た。
人間の女が家の入り口に走って向かい、中に向かって大きな声で言った。
「ギュートが戻って来ました」
ギュート? あの御者はギュートなのか。 確かに顔はギュートのような気がするけど、身体つきは全然別人だ。 もう訳が分からない。
近づいて来たギュートが言う。
「アン、そんなに急がせるなよ。 少しは休ませてくれよ」
「ギュート、頑張って。 今は休めないよ。 後でお茶と何か食べ物を差し入れに持っていくわ」
「あ、エーレアたち、おはよう、と言えば良いのかな。 久しぶりだな。 ま、頑張ってくれ」
「おい、お前、ギュートだよな」
エーレアがそんなことを言っている。
「ん、見た通り俺はギュートだぞ」
「そんな、なんとなく顔はギュートに見えるが全然別人じゃないか」
「そうか、俺は全然変わったとは思えないが」
「全く別人に見えるわよ」
エーレファがそう言うと
「俺なんかでそんな風に思うなら、・・・。 今は話している暇はないな、後でな。
ロー様たち、こっちです。 この馬車に乗ってください」
ギュートは、何が何だか訳が分からないという顔をしたロー様たち、アーロアの上4人の方に走って行ってしまった。
私たちが家の中に入ると、家の中は部屋の真ん中に炉があって、そこで火が燃えていて暖かい。 そして窓は、あの紙が貼ってるある窓だから光が入り、中も明るい。
「ちょっとこの辺りに座って待っててくださいね」
アンと呼ばれている人間の女に言われて、みんなでその辺りに座る。
そのアンはというと、部屋に入った途端に呼ばれていた。
「アン、この鍋の味、ちょっとみてくれない」
「はい、ラーリド様、すぐ行きます。 ちょっと待ってください」
アンは奥へと去って行ってしまった。
その奥から、声が聞こえる。
「ミーレナ、このコップを持っていけば良いんだよな」
「はい、大丈夫です。 お願いします」
ラーリク様が盆にコップを乗せて、こちらに運んで来てくれた。
「ほら、エーレアたち。 これでも飲んで、しっかり目を覚まして、少し落ち着け」
「はい、ラーリク様、ありがとうございます」
渡されたのは、温かいハイク茶だった。 確かにスッとした香りと、少し辛めの味が目を覚ます助けになる気がするけど、ラーリク様にお茶を渡されるという行為の方が、もっと目を覚ます効果があった気がする。
「やーねぇ、そんなに畏まらなくても良いわよ。
私たちラーリアはお腹にみんな卵を抱えているから、このくらいの事しか今は出来ないのよ。 だからサービスされていなさい」
そう言って、笑って盆を持って奥に戻って行った。
その後、ラーリド様とさっきのアンが、何か見慣れない物が入ったスープを持って来てくれて、ミーレナさんが水に浸した米を用意してくれて、食事をした。
食事を始めるとすぐにミーリア様が部屋の中に入って来た。
すると奥でそれに気づいたのか声が聞こえた。
「メリー、このお茶をリアおばちゃんに持って行ってあげて」
「はい、イクス母様」
すると人間の小さな女の子がトテトテと奥から出て来て、ミーリア様にコップを持って行った。
「リアおばちゃん、はい、お茶どうぞ」
「はい、メリー、ありがとう」
ミーリア様はその人間の女の子の頭を親しげに撫でている。 その女の子も嬉しげに撫でられている。
イクス母様に、リアおばちゃん、もう何がなんだか訳が分からない。
するとラーリア様が出て来て私たちに近づいて来た。 途中で
「メリー、ラーリアおばちゃんにもお茶を持って来てくれると嬉しいな」
と人間の女の子に声をかけた。
「わかったぁ。 ちょっと待っててね」
また、トテトテと女の子が奥に向かって走って行った。
「エーレアたち」
ラーリア様が私たちに声をかけてきた。
私たちは訳が分からないけど、とにかく居ずまいを正してラーリア様の言葉を聞く態勢をとった。
「ああ、さっきラーリクも言ってたようだが、そんなにしゃちほこばらなくても良いぞ。 今のラーリアは戦力にはならんしな。
それにその、鳩が豆鉄砲をくらったような顔になるのも分からんではないが、いや、この例えはハライトが嫌がるな」
ここまで話した時に先ほどの女の子がお茶を持って来た。
「ラーリアおばちゃん、はい、お茶。
ハトのお兄ちゃんがどうかしたの?」
「ああ、メリー、ありがとう。
ラーリアおばちゃんは、ちょっと今ハトのお兄ちゃんを思い出しただけなんだ。 ラーリアおばちゃんは、このお姉ちゃんたちとちょっとお話があるから、メリーはイクス母様のところにでも行っていなさい」
「うん、分かった」
人間の女の子は、ラーリア様にも頭を撫でられると、嬉しそうな顔のまま奥へと戻って行った。
「お前たちのその顔も分かるが、説明は後だ。 今日はこれから道の復旧工事をしてもらう。
ラーリアとイクス様、それにミーレナを除いた全員、つまり卵を抱えていない上位全員がこの工事に従事する。 お前たちを急に起こしたのは、この工事を急いで進めなければならないからだ。 それほどこの工事は重要な事だから、お前たちも懸命に頑張ってくれ。
具体的なことは、現場の上位やナーリアたち、人間たちの指示にしたがってくれ」
私たちは食事を終え、急いで外に出た。
食事をしなかったのか、先に食事は終えていたのか、ミーリア様たちはお茶を飲んだだけで先に出発している。
外には二台馬車があり話している。
「レンス、どうする」
「私はまだもう一回里に行って、アリファ様とハキとそれに食料を載せて来なければならない」
「それじゃあ、エーレアたちは俺が乗せて行けば良いな。 それで戻ってくる必要あるか」
「ううん、大丈夫だと思う。 ヤーレン、ギュートにも、もうこっちに来なくて良いって伝えて」
「分かった。 じゃ、また後でな。
おーい、エーレアたち、こっちの馬車に乗ってくれ」
「えーと、ヤーレンだよね」
この後も、ナーリアや人間たちの姿の変化に驚いたり、ディフィーの声らしい凄まじい悲鳴に何事かと思ったり、そしてどうしてナーリアたちやアレア様、ロア様(?)たちはそれを聞いて大笑いしているの。
工事の作業はもう体を動かせないというところまで、ハードにやらされたのに、私たち、というより寝ていた上位はみんな青色吐息なのに、私たち以上に働いているミーリア様たち、アレア様、ロア様、ミリファ様、そしてナーリアたちと人間たちは平然としているの。 ミーレオ様たちはちょっと苦しそうだ。
ただ、温泉は気持ちが良かった。
できればもっと長く入っていたかったのだけど、人数が多いからゆっくりできないことが残念だった。
この温泉も、私たちが寝ている間に作ったのだ。
帰り道ミーレオ様が言った。
「お前たち、今日のことくらいで驚いていたら身が持たないぞ。
絶望的な思いをするのは、まだこれからだからな」
この言葉を聞いていた、ミーレアの人たちは暗い顔をするし、ミーリアの人たちはなんというか複雑な顔をしてニヤッと笑った。
とりあえず疲れ切っていて、もうダメだ。
考えるのは明日以降にして、すぐに寝よう。




