225. 尻尾
呼ばれて離れに行くと、そこには領主様だけでなく、カーライル様、ストーム様もいらっしゃった。
俺はラミアなんて実際に見るのも初めてだから、キースリングに紹介してもらって、ちょっと話してみたいなんて思っていたけど、今はとてもそんな雰囲気ではない。
「お呼びですか、ブマー、参りました」
「ブマー、ここは公式の場ではない、そんなに畏まらなくてもいいぞ。
お前に頼みたいことがあるのだが、とりあえずは楽にして、ここでの話を聞いていろ」
領主様は俺にそう言うと、関心をもう別に向けたので、俺は訳が分からないので、キースリングに近づいて小声で聞いた。
「おい、俺、何で呼ばれたの?」
「セカンとディフィー、あのラミアの二人だけどな、とにかくあの二人が、秘密が守れて、目端の利く者を一人紹介してくれと言い出して、それでお前の名前が出たという訳さ。
何の為かは俺には分からない。
ま、あの二人の言う通りにしていれば、絶対とは言わないけど、まあ大丈夫だ」
うーん、ちっとも訳が分からない。
「それでもう着替えてしまったんですね。
食事の席の服は素敵でしたけど、尻尾が見える今の方が素敵ですよ」
「あら、それはありがとうございます」
ストーム様の言葉にラミアの一人が答えた。
「えーと、ディフィーさんでしたね。 あなたの赤とオレンジのグラデーションの尻尾も綺麗ですけど、そちらのセカンさんの青い尻尾も綺麗ですね。
一人一人そんなに違うんですね」
「ええ、ラミアは尻尾の色や髪の色、肌の色、瞳の色などはかなり多彩なんですよ。
ラミアは全員、人との混血ですから、それもバリエーションが増える理由かもしれません」
「ああ、私もデイヴィッド坊ちゃんから聞きましたよ。 ラミアは半分は人間だからですね」
ストーム様の言葉に俺は衝撃を受けた。 俺の頭の中では今の今まで、人間は人間、ラミアはラミアで全然別のモノだったのだが、そうかラミアはその姿形だけでなく、本当に半分は人間なのか。
「それで、食事の席では尻尾を隠していた理由は何なんですか」
ストーム様の言葉に、アレクという名前だったデイヴィッド様とキースリングの友達だという男がかぶせて尋ねた。
「そうだぞ、それに尻尾を全く動かさない様にしていただろ。
何のためにそんなことしていたんだ」
ディフィーとセカンと呼ばれてラミア二人は、ちょっとニッコリ笑い合うと、話し出した。
「ここから食事の間に行くまでの間も、食事をしている時にも、私たちを盗み見している人が数人いましたね。 それから、それを監視している人もいるみたいでしたけど」
「流石だな、それは状況からそういう判断をしたのだろうか、それとも実際に感知していたのだろうか」
カーライル様がそう質問した。
「状況から有るだろうなと思っていて、ちょっと注意していましたから、実際に感知もしていました」
「そうなのか、やはり流石だな」
「はい、まあ、予想通りでしたので、私たちも少し細工をしました。
それが尻尾を見せない、動かさないということです」
そこにどんな意味があるのだろうか、俺にはさっぱり分からない。
「領主様、カーライル様、ストーム様の策は、私たちが姿を見せることで、この館に居るフロード家の者に、砦に使者を放たせ、それを捕まえるということなのだと思うのですが、違っていますでしょうか」
「ま、その通りだ。 そうして、ここと砦との連絡を完全に出来なくしてしまおうということだ」
カーライル様は当然そういうことだと答えた。
俺たちもその策に沿って、監視したり、罠を張って動きを今待っているのだ。
「その策はあまり良い策とは言えないと私たち二人は思っています」
「それは一体どういうことか説明して欲しい。
領主様より、デイヴィッド様とキースリングが、あなたたち二人を私たちより上だと評価していることは聞いているし、確かにデイヴィッド様をここに戻し、ラミアとの話を進めるために、バンタイン様をここに居ないようにした策を考えたのがあなたたちであるなら、歳は若いとはいえ、私より頭が回ることを認めよう。
しかし、きちんと納得できる説明を受けずに、自らの策を引っ込めることはできない」
「はい、それは当然のことだと思います。
あまり良い策ではないと思う理由は二点あります。
まず第一に、使者を捕まえてやり取りを完全に絶ってしまうと、こちらがフロード家に敵対していることを、あちらに完全に意識させてしまいます。
そうすると、こちらに対する警戒が強まり、動きにくくなってしまいます。
次に、敵対関係がはっきりしてしまうと、砦から直接に、今地方の戦力を確認しているバンタイン様、もしくはその取り巻きのフロードの手の者に指令が行き、兵を砦に集める可能性が出てきてしまいます。
この場合は、フロード家が確実に反旗を翻したことになりますが、今は兵を割って争っている時ではありません。
以上の二点により、この策はあまり良い策とは言えないと考えました」
「参った。 確かに言われる通りだが、私たちは時を与えず、一気にフロードを弾劾しようと思っていたのだが、それならば問題がなくはないか」
「フロードがおとなしく従えば、それで済むと思いますが、フロードが素直に従わず、砦に籠って抵抗した場合、いつゴブが現れるか分からない今、即座に砦を取り返す必要があり、籠っているフロードに対して力攻めする必要が出てきてしまいます。
これは兵力と物資の無駄な消耗だと考えます」
「カーライル、確かにこれはデイヴィッド坊ちゃんとキースリングの言うとおりの様だ。 策を練ることに関しては、このお嬢ちゃんたちの方が、私たちよりも上のようだ」
「いや、待て。
それではどの様にすれば良いかの案を示してくれ。
今までのそなたたちの行いが、それに関係していると思うのだが」
「はい、そのまま、使者は砦に行かせましょう。
ただし、一言吹き込んでおきます。
『本当にラミアであったかどうかは不明』と」
「一体どういうことだか、全く分からないのだが」
「私たちは尻尾を直接には全く見せていませんし、動かしてもいません。
つまり、尻尾にただ見せかけているだけの可能性があります。
また、私の髪は青、ディフィーの髪はピンクと人間にはない髪の色です。
ちょっとした疑いを持った目で見れば、明らかに人間には見えない色にして、ラミアだと思わせようとしている風に見えるはずです」
「ああ、そういうことか。 フロードはラミアは冬は活動しないと思っているから、今ラミアが活動しているとしたら、疑いの気持ちが強いはずだからな」
「うん、アレク、そういうこと」
「なるほどなぁ、俺にも分かったよ」
「流石にセカンとディフィーだな」
ラミアに親しい三人には理解ができた様だが、俺はさっぱり分からない。
「デイヴィッド、説明してくれ。 儂にはまだ訳がわからん」
領主様も分かっていない様だ。
「だからな、親父。
フロードが冬に悪さをしてきたのは、冬はラミアが普通は活動していないことを知っているからなのさ。
ま、実際はこの二人みたいに活動できない訳ではないのだが、ラミアは冬に活動するのはちょっと大変だから、普通は冬ごもりしているのさ。
それをフロードはラミアは冬は活動できないと間違って認識しているというわけさ。 それはこの前の戦いの時に確認している。
だから、この館に今ラミアが来たとフロードが聞いたら、それは偽物で、なぜそんなくだらない芝居をするのだろうか、と考えてしまうということなんだ。
つまり、この二人が来たことは、隠すよりも報告してくれた方が、フロードを混乱させることになる訳さ。
セカンとディフィーは、尻尾を隠したり動かさなかったことによって、フロードがそういう判断をしてしまう様に誘導したという訳さ」
領主様、カーライル様、ストーム様は呆気にとられた顔をしていた。
「なんと言えば良いのか。 カーライル、どうじゃ」
「いやもう、とても我らの及ぶところではない、かと」
「ま、なんていうか、フロードの奴が可哀想に思えてきましたね。
この嬢ちゃんたちに勝てる訳がない。 きっとこの嬢ちゃんたちが考えた通りに動くと思いますね」
ラミアの二人はちょっと複雑な顔をしている。
俺は、正直まだ良く分かっていなかったけど、まだ自分が呼ばれた理由をはっきりと聞いていないことを思い出した。
「それで俺は何をすれば良いのかな。 ラミアのお二人さん」
ラミアの二人は俺に頼んで良いものかどうか迷っているみたいだ。
「セカン、ディフィー、こいつは俺の幼馴染なんだ。
言動は軽々しいけど、やることはしっかりやるから信頼してやってくれ」
「そうなの。 キースがそう言うなら頼むわ。
えーとブマーさんだったかしら」
「俺もキースリングと同い年だから、ブマーと呼び捨てでいいよ。
俺も名前を呼ばせてもらって良いかな」
「もちろんキースの幼馴染なら構わないわ。 私はディフィー」
「私はセカン」
「それで、俺は何をすれば良いんだ?」
「この館にいるフロードの息のかかっている奴は分かっているのよね」
「ああ、それは完全に把握している」
「その中で、使いに出そうな奴に、軽く声を掛けて欲しいの。
そして、『あいつら本当にラミアなのかな。 尻尾を見せもしないし、動いてもいなかったよなぁ』と呟いてやって」
「別に本当に使いに出る奴じゃなくても構わない。
偽物の可能性も、少しはあると匂わしてくれれば、それだけでいい」
「分かった。 了解したぜ」
「ああ、ブマー、それと一緒に他の者に、使いに出たものをそのまま行かすように伝えてくれ」
カーライル様から追加の命令が来た。
「はい、それも了解です。
それじゃあ、まさか夜のうちに出て行こうとはしないだろうけど、早めに手を打ちます」
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コンコン、俺はフロードの息が掛かっている騎士見習いの部屋の扉をノックした。
中でガタッと大きな音がした。
バカだなぁ、そんな音をさせたら、何かやましいことをしていると言っているようなものじゃないか。
俺は中に向かって小声で話しかけた。
「おい、何慌てているんだ。 俺だ、ブマーだ。 話がしたい、ちょっと開けろよ。
安心しろ、お前をどうこうしようという話じゃない」
中で扉に近づく音がした。
「何だ要件を言え」
「なんだ扉を開けてもくれないのか」
「要件次第だ。 早く要件を言え」
「お前、砦への使者になったのか」
「何を言っているんだ。 話すことはない」
「まあ待てって。 俺は保険を掛けたいだけなんだ。
もし、お前が行くのだったら、フロード様に俺のことを知って貰おうって思っただけなんだ。 お前にも利があると思うんだが」
中でちょっと逡巡した様な間があって、扉が開いた。
「扉の中に入れ、人目についても困る。
それでどういうことだ」
「お前も見たと思うが、あの二人のラミア、どう思う」
「ああ、俺はただラミアが二人来たと報告するだけさ」
「ま、確かにそうなんだろうけど、俺はあれが本当にラミアかどうかが怪しいと思うんだ」
「どういうことだ」
「だって、ラミアなら尻尾を見せるんじゃないかと思うんだけど、尻尾の部分は布で覆われていただろ。 それに俺が見ていた時には尻尾は全く動いていなかった。
お前はどうだ、見たか」
「確かに、俺も尻尾をまともには見てないし、動いているところも見てないな」
「そうだろ、やっぱりおかしいと思うんだ。 ま、本当のところは俺には分からない。 でも、俺は疑っていたって、フロード様に言って欲しいんだ。
もしラミアじゃなかったら、そしてフロード様が、いや、バンタイン様が実権を握る様になったら、それを伝えた俺はちょっとは覚えめでたくなる可能性があるだろ。 お前も、一緒に乗っていいから、フロード様にそう伝えてくれよ」
「俺一人の手柄にするかもしれないぞ」
「ま、確かにその可能性はあるな。 でも何もしなければ、全く何もないからな。
俺としては、お前の正直さに賭けるしかないのさ」
「ははは、お前こそ正直な奴だな。
分かった。 俺も乗るから、名前は出してやるよ。 約束する」
「おっ、頼むぜ。 恩にきるからよ」
「分かった。 ま、俺が無事に砦に行けることを祈っていてくれ」
「ああ、頑張ってくれ。 頼んだぜ。
じゃ、俺は誰にも見つからない様に消えるよ。 それじゃあな」
仕事は上手くいった。




