223. 離れで
「バレているんだから、隠れていても仕方ないだろ。
ゴチャゴチャ考えていないで、こっちに来て一緒にお茶でも飲め」
デイヴがディフィーの言葉を聞いて、そう言った。 隠れている者がいることを全く疑っていない声だ。
扉を開けて一人、壁が動いてもう一人が部屋に入ってきた。
「それでお前らは、どっち側なんだ。 敵か味方か」
入ってきたのは、驚いたことに腰に剣を付けた二人の女性だった。
「もちろん、味方です。 敵なら出てきません」
まあ、そうだよなぁ。 敵なら一目散に逃げるよね。
「で、どういう経緯で隠れて俺たちを見張っていたんだ?」
デイヴが詰問調で問い詰めるので、僕は言った。
「まあ、デイヴ焦るなよ。 ディフィーはお茶に誘ったんだから、味方だというならゆっくりお茶を飲みながらで良いじゃんか」
僕がそういうと、キースが言葉を添えた。
「デイヴ、それによく見てみろ。 二人ともこの館のメイドじゃないか」
「そう言えば、見たことのある顔の気がするな」
「デイヴ、何気に酷い」
「いや、セカン、俺はこの館を出て行くことばかり考えていたから、館の中の人間とか、良く見てなかったんだ。
別に他意はないんだ。 そんな目で俺を見ないでくれ」
デイヴはセカンとディフィーの視線に耐えかねた様で、大慌てで弁明した。
とても緊張した雰囲気だった二人の緊張がそれでちょっと解れて、一人がデイヴの肩を持った。
「はい、デイヴィッド様はただ私たちに関心がなかったというか、心ここにあらずだっただけで、私たちのことを無視してたとか、物の様に扱ったということではありませんので、大丈夫です。
ご心配をいただき、ありがとうございます」
デイヴは詰問しかけた相手に庇われて、ちょっと困ったというか、居心地が悪そうな顔をした。
「とにかくお茶にしましょう。 冷めちゃうわ。
それにこのお茶もちょっと高級そうだけど、私たちが知らないお茶だわ。
淹れ方も、普通に淹れたけど良かったのかしら」
ディフィーはお茶の方を気にした。
本職はメイドだという二人が目を見合わせて、さっきとは違うもう一人が言った。
「はい、大丈夫です。 見させていただいていましたが、とても上手に淹れていらっしゃったと思います」
「そうなの。 それなら良かったわ」
お茶は確かにとても美味しかった。
「それでも一応、どういうことか話してくれ」
お茶を飲んで一息ついてから、もう一度デイヴは隠れていた二人に言った。
「はい、私たちは皆様の、特にラミアのお二人の警護を申しつけられました。
見つからない様に影からずっと警護しろとの命令です」
デイヴとキースが目配せし合った。
「それだけじゃないよな。 それと命令したのは誰だ」
「私たちが命令を受けたのは、領主様です。
あとは、聞こえた話で、何かこれはと思う物があったら教えてくれ、とは言われました」
「ま、領主様にしてみれば、警護というのも本当だろうし、情報収集も本音だろうな。 当然だよ、それは」
なんとなくデイヴが済まなそうな顔をしていたので、僕はそう言った。
「うん、それは分かる」
セカンもそう言ってくれた。
「親父には聞きたいことがあったら、直接聞いてくれ、と伝えてくれ。
別に俺たちに隠す必要があることはない。
なんでも答えてやる。
それから、俺たちに秘密の警護は必要ない」
「君たちも気づかれたことでも分かったでしょ。
はっきり言って、君たち程度の腕では役に立たないというか、何かあったとしたら逆に足手まといになっちゃうよ。
君たちを庇って戦わないとならなくなっちゃうからね。 だから隠れての警護はいらない。
秘密通路の反対側はしっかり閉めといてね。 気になっちゃうから」
キースにもそう言われて、二人は丁寧にお辞儀をして、普通の通路から戻っていった。
すぐ後に、領主であるデイヴの父親と兄のアルフレッドがやってきた。
部屋に入ってすぐに
「ついさっきは、かえってお前たちに変な気を使わせたみたいだな、すまなかった」
と領主である父親が謝ってきた。
「親父、意図は分からんでもないが、ああいうのは無用だ。
護衛としても役に立たないし、聞きたいことは何でも直接に聞いてくれば答えるぞ」
「ま、儂にしても、大丈夫だとは思うが一応安全には気を配っているというのもある。 お前らがさっきの者に気がつかねば良し。 気づけば、それもまたいるかもしれない敵対する者への牽制になる。 とても易々とは近づけないぞというな」
なるほどな、気付かれる可能性も考慮してのことだったんだ。
「ということは、ここにはまだ敵対する者がいるだろうとお考えなのですね」
ディフィーがそう言った。
「まあ、次男の妻がフロードの娘じゃからな、フロードの手の者を完全に締め出すこともできないのじゃよ。 それは知っておろう。
ところで自己紹介がまだじゃったな。 まずはそこからじゃ。
儂がこのデイヴィッドの父じゃ、ま、この地方の領主なんてものをやっているが、普段はこやつの父という感じで接してくれるのが儂としても一番嬉しい」
「私は、兄のアルフレッドだ。 実はこうやってラミアに実際に接するのは初めてだ。 よろしく頼む」
セカンとディフィーも自己紹介した。
「私は、セカンと言います。」
「私は、ディフィーよ。 あと何を言えば良いのかしら。」
「あ、俺からも補足で説明すると、俺とキースが話した策を考えたのはこの二人だ。
アレクと同じグループに属していて、同様にラミアの中では上位の地位にある。
歳は俺たちの1つ下だ」
「おい、デイヴィッド、こういう言い方は何だが、私から見ると、足が尻尾になっている以外、普通の女性に見えるのだが」
デイヴの兄のアルフレッドがそんなことを言った。
「ああ、兄貴、その認識でほぼ間違いないぞ。
まあ、ラミアだから、毒霧吐けたり、夜でもかなり見えたりという違いはあるが、そんなのは些細なことで大したことではないな」
「いや、私が言いたいのはそんなことではない。
護衛を断ったが、このような普通の女性がそれで大丈夫なのか、ということだ」
あ、デイヴの兄はそういう心配をしたのか。
「アルフレッド様、この二人はその様に見えないかもしれませんが、たぶんこの館にいるほとんどの騎士より、強いかと思います。
先ほどのメイド二人などとは比べものになりません」
「そうなのか」
ほう、とデイヴの父親も少し驚いたようだ。
「さて、儂らがここに来たのは、ま、最初の顔合わせなのじゃが、まずは1つ相談に来たのじゃ。
相談というのは、今日の夕食をどうするかということだ。
デイヴィッドに尋ねたところ、主食の穀類を炊いたり焼いたりという加熱をしないで、水に浸しておいただけの物にすれば、あとは人間の食べ物でラミアも全く構わないということだが、それで良いのかな。 その準備はできているのだが」
「はい、それで全く問題はありません。 配慮していただき、ありがとうございます」
セカンが応えた。
「そこで今晩の夕食は何処で取るかな?
気兼ねなく、ここで仲間内だけで取ることも出来るし、我が家の客として我が家族とあと何人かと一緒に食事を取ることも出来る。
ま、儂とアルフレッドがここに来たのは、その招待に来た意味もあるのじゃよ」
ん、ちょっと待てよ、これはもっと色々な意味を含んでいる気がするぞ。
「親父、家族でということは、そこには義姉上も含まれるということだよな」
「家族だから当然だな」
デイヴが義姉上と呼ぶのは、長男のアルフレッドはまだ結婚していないから、次男のバンタインの妻、つまりフロードの娘のことだ。
「あと、何人かというのは、カーライル様とストーム様のことですか?」
キースが尋ねた。
「ああ、そうだ。 あやつらは儂にとっては家族同然だしな」
僕も色々な考えが頭を巡っていたが、デイヴとキースも考えているようだ。
セカンとディフィーももちろん頭の中は凄い勢いで回転していることだろう。
「つまりはなんだ。
ここにセカンとディフィーが来ていることは、一応秘密ということになっているけど、言わば公然の秘密といった感じだが、義姉上の取り巻きは、確証を得てはいない。
そこで、義姉上も含めて夕食を取ることで、そいつらに確証を与えてやる、ということが第一の意義という訳かな」
「ま、そういうことだ。
それに、カーライルや、ストームともなるべく早めに会わせてやりたいし、お前らの母親も早く会ってみたいと大騒ぎなのだ」
デイヴは、うっ、それば嫌だ、と渋い顔をした。
ディフィーが口を開いた。
「これからの動きをフロードに漏らさないために、私たちが来た事実を囮に、その芽を先に潰しておこうということですね」
「あまりに簡単な策だったな。 流石にそなたらはすぐに気がついたな」
「このように簡単な策に、フロードの手のものは引っかかるでしょうか」
「私と、カーライル、ストームの判断は引っかかるなんだ。
そこら辺に頭の回る者はもう一人の弟について、この館からは外に出ている。
そっちの方が重要という判断なのだろう。
ここに残ったのは、弟の嫁の取り巻きだけさ。 単純な策でも踊ってくれるだろう」
「セカン、兄貴はともかく、カーライルやストームもそう判断しているなら、成功する確率は高いと思うぞ」
デイヴが兄のアルフレッドに頭を殴られた。
本当に仲の良い兄弟なんだな。
「それで、策にフロードの手の者が踊ったとして、どの様に対処するつもりなのですか」
ディフィーが続きを促した。
「なに、あの者共のすることといったら、砦にいるフロードに連絡をするくらいのことだろう。
人を配置しておいて、捕まえるだけのことだ」
セカンとディフィーはちょっと目を合わせると考え込んだ様だ。
「とりあえず、夕食はご招待を喜んで受けさせていただきたいと思います」
僕とデイヴとキースは、おっ、その簡単な策にまずはのるのかと思ったけど、セカンとディフィーのことだから、きっとそれだけじゃ終わらない何かを考え始めたのだろうと思った。
デイヴの父親は、ちょっとニヤッとして
「それはそれは、儂らとしては楽しい夕食になりそうだ。
それではアルフレッド、戻って準備をさせようではないか。
準備ができたら使いをこちらに寄越すから少し待っていてくれ」
すぐに立ち去ろうとする二人にセカンが声を掛けた。
「すみません。 夕食の後にももう少しお話ができたらと思うのですが。
できたら、カーライル様とストーム様とも親しく話をしてみたいのです」
「ほほう、あやつらとも話をしてみたいか。
どんな話になるか儂にも興味があるな。
その内容を聞いて、あやつらがどんな顔をするののか見るのが楽しみじゃ。
夕食後も楽しみが待っているとは、ますます夕食が楽しみじゃな。
なあ、アルフレッド」
父親の言葉にどんな含みがあるかと考えていた様なデイヴの兄だが、ちょっとさっきの仕返しをデイヴにした。
「そうですね、父上。 私も楽しみです。
でもまあ、私はそれより先に、母上がこの二人に会って、どんな話をされるのかが楽しみです。
母上は好奇心が旺盛ですからね。 どんな話をこの二人に聞こうとするのか楽しみですよ。 なあ、デイヴィッド」
デイヴの渋面に、その兄は笑いながら去っていった。




