220. 一度戻って
「デイヴィッド、そもそもあなたは何故ラミアと知り合うようなことになったのです」
え、そこから話が始まるの、とんでもなく長くなるぞ、と僕らは思った。
関与しないと決意していたと思われる領主様も、流石にこれは不味いと思われたのか、奥方様に声を掛けた。
「おいお前、ここでそこから話し出したら、時間がかかってしょうがないし、デイヴィッド以外の者には苦痛な時間となるだろう。
そういう話はせめて家族だけの時にゆっくりとすれば良いだろう。
それに今はデイヴィッド1人にかまけている時ではない。 そういう時だからこそ、デイヴィッドもここに顔を見せたのであろう。
お前としては不本意であると思うが、その話は今の事態がとりあえず収まってからに我慢していておくれ」
奥方様は不満な気持ちがありありと見えたが、それでも今その話に多くの時間を使っている場合ではないということも理解していたようで
「デイヴィッド、何も私はラミアとの間に子供を作ったことを怒っている訳ではないのです。
心配をかけたのですから、その間の経緯をしっかりと説明し、たとえ異種族とはいえ、あなたの子を産む人なのですから、私にもしっかりと紹介しなさいということなのです。
今は時間がありませんが、時間ができたら、しっかりと果たしていただきますよ」
デイヴが辟易としているのが分かるが、正論だから文句の言いようもない。
「はい、母上、時期が来ましたら、必ず」
そう答えるしかない。
「とりあえず、お前はもう部屋に戻りなさい。 私はまだ公的な話をしてから戻るから」
領主様は奥方様の意向を、「公的な」という言葉で封殺して、奥方様を扉までエスコートしてこの部屋から送り出した。
戻ってきた領主様は
「デイヴィッドだけではないぞ。 キースリング、お前も覚悟しておけ。
アレクと申したな、そなたは肉親はいるのか」
「はい、叔母の家族がいます」
「それならお前もだ。 同じように覚悟しておけ」
僕ら男3人は揃ってげんなりした顔をした。 アンは笑って良いのか、同情して良いのか、羨ましく思って良いのか、複雑な顔をしていた。
「話題を真剣な話にするぞ。 いや、今の話が真剣な話ではないという訳ではないがな。 とにかく話を喫緊のことに戻すぞ。
昨晩デイヴィッドとキースリングの2人が話した策は、お前たち2人が考えたものでは無いな。 儂の知るお前ら2人には、とてもでは無いが考えられない策じゃからな」
「親父に見栄を張っても仕方ない。 その通りさ、俺たちが考えた策では無い。
先に言っておくが、アンはもちろんだが、アレクでも無いぞ」
「ということは考えたのはラミアだということだな」
「ああ、良くわかったな」
「もし考えたのが、お前の仲間の人間ならば、この2人と同様に連れてきたことだろう。 それが連れてきていないということはラミアの可能性が高いと思ったのじゃ。 ハーピーという可能性もあるとも思ったがな、そこはカマをかけたのだ」
流石に領主様は、僕たちより老獪なところがありそうだ。
「問題は、儂がお前たちが考えたことでは無いと分かるのと同様に、お前たち2人を小さい頃から知る者は、お前たち2人が考えた策では無いと思っているということじゃ。
どんなに優れた策であろうと、誰が考えたか分からない策に従うということは、抵抗感があってなかなかできないことよ。 まあ策の良し悪しのところではなく、心理的な抵抗感から、策に従わない者が出て、失敗するのがオチじゃな」
僕たちは沈黙した。
心理的な抵抗感から策に従わずに失敗するって、ゴブの時のアーリア様が典型かもしれない。 その後、セカンとディフィーの作戦能力は誰もが認めるようになったし、指揮を執るのがミーリア様やナーリアだから、従わない者が出るなんて考えられなかったから、確かにその可能性を忘れていた。
沈黙して言葉の出ない僕たちに、領主様は言葉を続けた。
「策は私もとても優れた物だと思う。 これ以上の策は出ないだろう。 ただし、我々の内情を知らないから甘いところや、無理が出るところもありそうではある。
この策を作ったのは、一体どのような者なのだ」
デイヴとキースが僕の顔を見たので、僕がまず答えた。
「はい、僕と一緒に暮らしている2人のラミアです」
「私と同い年で、私も親しく接しています」
「俺たちも親しいよな、キース」
「ああそうだな」
領主様はアンの「私と同い年」という言葉に驚いたみたいだった。
「つまり、お前たちとごく親しい、年若いラミア2人が、お前たちが持ってきた策を作ったというのか」
「親父、今回だけじゃ無いぞ。
俺がここに来るために、前回キースとアレクが会った時に渡した、紙に書いた策も2人が考えた物だぞ」
「あれも、その2人の策なのか。
なんとも驚いた若いラミアだな」
「ああ、ラミアにももっと年長者も、学識のある者も、実績のある者もいるけど、とにかくこと策を練ることに関しては、ラミアの中でこの2人が群を抜いていると認識されているんだ。
もちろん俺もそう思っているし、それだけじゃなくて、俺は俺の知っている人間、悪いけど親父や兄貴たち、それにカーライルやストームを含めても、策を練ることならこの2人の方が上だと思っている」
「カーライルやストームを含めてもか?」
「ああ、確実にそうだと思うよ。 なあ、キース」
「領主様、私はこんなことを言って良い立場ではありませんが、私もデイヴィッド様の意見と同じです。
ラミアの間でも、この2人は天才と呼ばれていますが、私もそうだと思っています」
「なんとも、驚いた者がラミアにはいるのじゃな」
なんだかデイヴは父親にセカンとディフィーが褒められたのに気を良くして、関係のないことまで話し出した。
「驚くのはセカンとディフィーだけではないぞ。 ナーリアは指揮官としてはすごいし、レンスの隠密技術もすごい、サーブの人気はあれは人間の中でも発揮されるものなのだろうか。 なあキース、どう思う?
親父、今話したのはアレクと一緒に住んでいるラミアだけだが、その他にも・・・。」
キースがデイブの脇腹をつついて話を止めた。
「何ベラベラと話しているんだよ。 そういった話をして良いか悪いかは別としても、話が脱線しているぞ」
「お、そうだな、セカンとディフィーが褒められたら、何となくつい嬉しくなって、関係ないことを親父に自慢したくなってしまってた」
自分の友達を親に自慢て、どこの子供だよ、と僕は思ったけど、なんだか嬉しかった。
「ま、とにかく随分と多彩な人材がラミアにいることは分かったぞ。 お前がそうやって誰かを自慢するように話すのは、キースリングがお前の護衛担当になった時以来のことだな。 余程良い者たちなのであろう」
えっ、とキースが驚いた顔をした。
「親父、本人の前で、つまらないことを言うな」
デイヴが領主様に慌てて抗議した。
「とにかく、儂が言いたいのは、何とかしてその者をここに呼べないかということじゃ。
秘密裏にここに来てもらいたい。 安全は儂が出来る限りのことをする」
僕とアンが来た時に降りた森の中の広場に戻ると、当然見ていたであろうハーピーはもう集まっていた。
「アン、大丈夫だった?」
ウスベニメがすぐにアンにそう聞いた。 モエギシュウメは朝まで見張っていて、朝になって交代して、眠っていたのを起きてきたようだった。
「うん、危ないことは何もなかったよ。
領主様と奥方様、デイヴの両親なんだけど、とても良い人で、私とメリーの後見人になってくれて、何なら館に住まないかって誘われちゃったよ」
「えっ、アンとメリー、こっちの町に行くの?」
モエギシュウメが目をシバシバさせながら驚いたように言った。
「行かないよ〜。 もう私の家はあそこだもの。
それにこっちの町に来ちゃったら、あなたたちやナーリアたちになかなか会えなくなっちゃうじゃん。
そんなの私、もう嫌だもの」
「「そうよね〜」」
うん、すでに女性3人のおしゃべりが爆発し始めた。
「で、アレク、どうなったんだ」
エレオンが聞いて来た。
「うん、大体は上手くいっているんだけど、セカンとディフィーをこっちに連れて来なければならなくなった」
「あの2人をか。 やはり策を考えた者が行かないとダメか?」
「うん、デイヴとキースは知られているから、あの策を考えられたはずはないと領主さんを始めとして、親しい人には見透かされて、策を練った本人を呼んで来ないとダメとなった」
「何だ、お前が説明すれば、誤魔化せたんじゃないか?」
「どうかな。 ま、そもそも策を披露した時、俺はその場にはいなかったんだ。
ほら、アンを1人にはできないから」
「ああ、なるほど、そういうことか。 そりゃ策を考えた本人がいるとしたら、その本人が披露しないのは不自然だもんな」
「で、アライムとハライトも聞いてくれ、こういう方法ならラミアも飛べないかと思うんだが。
ま、結局移動をハーピーに頼むことになるのだけど」
僕が説明すると、ハライトが軽い感じでそれに答えてくれた。
「そんなことは別に全然構わないさ。 それにその方法ならラミアも一緒に飛べそうだな」
家に戻ると、アンは抱きついてきたメリーを何も言わずただ強く抱きしめた。
メリーがそれに満足し、安心した調子で、またイクス様の方に戻っていくと、ナーリアたちとアンの間で、さっきハーピーと繰り広げられた騒ぎが、少し規模を大きくして同じように繰り返された。
その騒ぎが一通り終わるまでの間、僕は領主の館であったことを、ラーリア様、イクス様、ミーリア様に報告した。
「なるほど、まあ今の所は予定通りというところだな。
セカンとディフィーが呼ばれるであろうことも、まあ、予測していなかった訳でもない」
「そうなんですか。 僕は相談をするのに都合が良いように、とりあえず町に近いところまで2人に来てもらいたいと思ってはいたんです。 実際に見てみないと、デイヴやキースの言うことだけでは分からない部分もあるから、細かい部分は現地での情報を2人に教えて考えないといけない、という風には思っていたんです。
でも、ラミアに偏見を持っている人間の中に入り込むということは、僕は全く想定していなかったんです」
「そうだな。 ラミアが人間の中に入っていくのは、凄く危険が伴うな。
その辺りはどうなっているんだ。」
「領主様は自分に出来る限り最大限のことをする、と言ってくださいました。
それでデイヴとキースの2人は、この館の中に居るのなら、そんなに危険はないだろうって、何だか呑気に構えて、とても楽観的なんです」
「そうか、事情を良く知っているはずの2人がそうなら、危険に関しては大丈夫なのだろう。
まあ、アンを送り出すのとは違い、あの2人は十分自分を守れるだけの武技はあるからな。 その点では、アンよりも安心していられる」
「アンは人間ですけど、2人はラミアです。 そっちの方が危険度は高いと思うのですけど」
「まあ、お前が心配するのは分かるが、ラミアだと分かっていて招待されるのだ、それなりのことは考えるだろう。
領主自らが招いている者に、正面から襲っては来やしないだろう。 あるとすれば秘密裏にということになる訳だが、あのセカンに不意に挑んで勝てると思うか、ディフィーにそもそも不意打ちが出来ると思うか。
あの2人にそんなことが出来る奴がいたなら、私でも殺されてしまうだろうよ」
確かに、セカンの抜刀術はもう何時刀を抜いて切ったのか分からないようなレベルになっているし、ディフィーの察知能力を掻い潜る人間なんて想像できない。
「ま、本人たち次第だが、2人はきっと行くと言うだろうな」
そこは疑いないな。
「問題は、どうやって領主の町まで行くかだな。 まだ道は通っていないから、時間がかかるな。 でも半分までは通ったから、以前と比べれば随分楽に行けるのか」
「そこは考えがあります」
僕はラーリア様たちに請け負った。




