215. 領主館に向かう
予想通りに、領主の町に居たフロードの手の者らしい集団が砦に向かったのを、すぐ後にエレオンが報告してきた。
僕らは翌日の夕方に、町に向かう事になった。
今回は夕刻に直接領主の館に向かう事になっている。
アンの事はモエギシュウメが掴んで飛んで行く事になった。
一度ウスベニメと飛んだので、そのままウスベニメが担当するのかと思ったら、モエギシュウメと替わった。
何故なのだろうと思ったのだが、理由がすぐに分かった。
「アン、何かあったら、夜でもいつでも手を振って、そうしたら何時でも私が助けに行って、空に引き上げてあげるから。
私はハーピーだけど夜目がラミアと同じ様に利くから、夜でも飛ぶ事ができる。
だから何時でも助ける事ができるからね。 危ないと思ったら、すぐに合図してね。 即座に行くから」
「夜目が利くハーピーもいると前に聞いたけど、それってモエギシュウメの事だったんだな」
「まあ、私も夜目は利くのだけど、一番見えるのはシロシュウメ様かな。
今、夜は私とシロシュウメ様が交代で監視してるんだよ。
あまり夜目が利くハーピーはいないから」
「そうなのか、すまないなぁ。
もちろんモエギシュウメにもそう思うのだけど、シロシュウメ様にそんな負担をかけていたのは知らなかったよ」
「ま、前回の失態があるからね。 ハーピーも今回は失態は見せられないって気合が入っているのよ」
僕はちょっと言葉に困り別のことを言った。
「そういえば二人とも名前の後ろ側が同じシュウメになっているけど、これって何か関連があるの?」
「うん、シロシュウメ様は、私の伯母さんに当たる。
私の母はシロシュウメ様とは姉妹になるのだけど、歳が離れているから、あまり姉という感じじゃなくて、半分母親みたいな感じになっている。
だから私も、伯母さんなんだけど、半分お祖母さんみたいな感じ。
あ、これ、シロシュウメ様に言ったらダメだよ。 お祖母さんみたいって言ったのがバレたら大目玉を食らっちゃう」
僕たちは笑ってしまったのだが、その場に一緒にいたアンも緊張した表情でいたのだけど、クスリと笑った。
「アン、ちょっとこっち来てみて、防寒具、これで大丈夫か、着て試してみて欲しい」
「はい、セカン、すぐ行く。 ごめんなさい、私が自分で縫えばいいのに、縫ってもらっちゃって」
「今はアンは打ち合わせだとかの方が重要だから良い。
アンも前にも飛んだのだから、アン用の防寒具も作っておくべきだった。
私が気が回ってなかった」
「そんなことないよ。 私がウスベニメと初めて飛んだ時にアレクの防寒着を借りたのだから、すぐに自分で作れば良かったんだよ」
「ええと、口挟んで良いかな。
セカン、ついでにお前とディフィーの分の防寒具も作っておけよ。
なんだか必要になる気がするんだよ」
「アレク、防寒着は作れるけど、私たちラミアは空を飛べないから意味がない」
「いや、それについては考えがある。
空を飛べないって、確かにラミアは人間のようにハーピーに腕を掴んでもらって飛ぶという訳にはいかないけど、方法はある。 腕でぶら下がるのが種族的に無理なら、腕でぶら下がらなければ良いだけさ」
僕たちは合図の白い布が領主館の窓に垂らされた翌日の、夕方近く、まだ明るさが残っているうちに飛んで行った。
今回はハーピーは男3人、女2人の全員が一緒に飛んで来た。
ウスベニメは荷物持ちだ。 今回は領主館に持って行く証拠資料だとか、夜ハーピーたちはこの場に残っている事にしたので、食料などもいくらか持ってきていて、結構荷物の量が多く、ウスベニメが人を運ばずに楽という訳にはいかないようだった。
「アン、いい、私は領主の館が見える高い木の梢に留まって、夜も見ているからね。
何か危険があったら、こっち側に逃げてきて、すぐに合図するのよ。 即座に助けに行くから」
「うん、モエギシュウメ、分かっているよ。
でもそんなに心配しないで、3人も一緒だしそんなに危険な事はないと思うから」
「だってあなたは3人と違って戦えないでしょ。 逃げるしか方法がないんだから、私たちとしても心配なのよ」
「夜目が利かない私が役立たずに思えるわ。
私も助けに行きたいのだけど」
「そうだな、俺たちも本当にもしもという時には、モエギシュウメに声をかけてもらって、暗闇の中でもなんとか助けに行くからな。
そういう時には合図しろよ」
アライムのその言葉にエレオンとハライトも真剣な顔をして頷いている。
「アライム、お前も心配性だな。
大丈夫だ、一応俺の家だからな、そんな事にはならないよ。
それに何かあったとしても、そこまで切羽づまる状況には絶対にならないよ。 なあ、キース」
「ああ、領主様の取り巻きは助けてくれるだろうし、俺の知り合いも結構いる。 何かあっても、そんなに絶体絶命のピンチにはならないよ。
何かあってもアンの1人くらい俺たち3人で絶対に守るから安心していてくれ。 な、アレク」
「ああ、もちろんだ」
キースはアンのことを心配しているモエギシュウメとウスベニメを気遣ったのだろう、僕も相槌を打った。
辺りが暗くなって森の中を抜けるのに支障が出る前に僕たちは出発した。
アンが森を歩くのに慣れなくて遅いペースになるかと思っていたのだが、意外にしっかりと僕たちに付いてきてくれて、早めに森の際まで来てしまった。
僕たちはそこで休憩して、時間調節をして、町に向かい領主の館へと向かった。
ちょっと考えると、良い体格をした男が3人に女が1人のグループなんて目を引きそうな気がしたのだが、夕闇が迫る中、町の人たちはそれぞれの事に忙しいのか、誰も僕らに注意を払わないようだ。
僕たちは簡単に領主の館の裏口にたどり着いた。
「すみません。 お手を煩わせます。
僕たちは領主様に話を聞かせろと呼ばれた狩人なのですが、こちらでお尋ねすれば良いのでしょうか」
キースが裏口の門番にそう声を掛けた。
「ああ、話は聞いている。 門を潜って、中に入ったところで、ちょっと待っていてくれ」
2人1組の門番のもう1人の方が知らせに走ったようだった。
すぐに前に見たことがあるような男がやって来て言った。
「おお、お前たちか。 領主様が待ちわびていたぞ。
とりあえず私の後に付いて来てくれ」
僕はこの男が一瞬キースと目を合わせたのに気が付いた。 たぶんキースの知り合いというか幼馴染の騎士なのだろう。
僕たちはかなりの広さの部屋に通された。
デイヴが文句を言った。
「ブマー、ここは客の控えの間ではないか。 狩人が通されるには高級過ぎるぞ。 部屋を変えろ」
「デイヴィッド様、大丈夫です。 今、この館にはバンタイン様の奥方の付き人以外フロードの息のかかった者はいません。 それらには監視が付いています」
「そうなのか。 それで問題がないなら、良いのだが」
「大丈夫です。 安心してください。
それにしてもデイヴィッド様、お元気そうで何よりです」
「まあな、体は見ての通り元気だし、だいぶ鍛えたぞ」
「その様ですね」
デイヴにブマーと呼ばれた男はちょっと笑った。
「ブマー、お前自己紹介くらいしろよ。」
キースがそう声を掛けた。
「失礼しました。 私はブマーといいます。
身分はまだ騎士見習いで、そこのキースリングとは幼馴染なんですよ。
えーと、ラミアの里で上位の立場を持っているアレクさんでしたね。 前回この町にいらした時に私もお見かけしたので、お顔は覚えていました」
「はい、アレクです。 私もあなたはお見かけしたなと思っていました。
私は単なる普通の平民ですから、アレクと呼んでいただいて結構ですよ。 キースの幼馴染の騎士さんにさん付けされるのは、なんだか変な気分なんで」
「いえ、私の方こそ単なるまだ見習いです。
えーと、それでこちらの女性は」
「この女性は俺から後でゆっくり紹介しよう。 それよりお前いいのか、ここで油を売っていて」
デイヴが話を遮って、ブマーに言った。
「ええ、大丈夫です。
知らせはもうちゃんと上がっていて、そろそろ迎えが来るんじゃないかと思いますよ」
そう言って、キースの方を向いて何か言おうとした時に、ドアをノックされた音が妙に大きく響いた。
頭の片隅で、やっぱり少し緊張して神経が過敏になっているのかなと、一瞬考えた。
ブマーは大急ぎでドアを開けに言った。
入って来た人物を見てデイヴが声をあげた。
「うわっ、なんだ、わざわざストーム、お前が迎えに来る事はないだろう」
「なんなんですか、その驚きようは。 デイヴィッド坊ちゃん、私でもそんな風に驚かれると傷つきますよ」
「何を言ってる。 普通はもっと下の者が『準備が整いました』とか言って迎えに来るだろ。 お前が来る様な仕事じゃないだろ」
「そこは一刻も早く坊ちゃんの顔を見たかったからと分かって欲しかったところですね。
坊ちゃんが変な驚き方をしたから、考えていた口上を忘れちゃったじゃないですか」
そんな冗談口をデイヴと交わしてからストームさんは僕の方に向き直った。
僕もストームさんの事はキースから聞いている。 領主さんの側近で、もう1人のちょっと年上のカーライルさんと共にこの地を支えている存在で、デイヴの教育係だったという事だ。
「アレク君でしたね。 今回もご苦労様です。
後で領主様からも頼まれると思いますが、ラミアとの仲介、これからもよろしくお願いしますよ。
ま、とりあえずはフロードの排除から始めないとなりませんけどね。
キースリングもご苦労。
えーと、それからこちらのお嬢さんは、初めてですね」
「ああ、この女性は後で俺から紹介する」
ストームさんはデイブのその言葉と顔つきから察したらしく
「ああ、なるほど、そういう事ですか。
でも私は初めてお会いするので、とりあえず私の自己紹介はしますね。
私はこの地方の領主の側近をしているストームといいます。
側近と言っても、仕事のほとんどはもう1人の方がしていまして、私は付け足しの様なものなのですけど、以前はこのデイヴィッド坊ちゃんの教育係なんていう酷い仕事をさせられていたんですよ。
どうか気楽にしてくださいね」
「ストーム、お前何なんだその自己紹介は?」
「あれっ、私は嘘は何も言ってないと思うのですが。
それにしても、坊ちゃん、今の体形は良いですね。
そうは思わないかい、ブマー」
「はい、その通りだと思います。
僕も二度見しちゃいました」
「以前に私が苦労してこういう体形にしてあげたのに、すぐにどうしようもない体形に戻ってしまったのですが、今は本当に良いですね。
一体どうしたんですか」
「してあげたって、お前、あの時は地獄の特訓だったじゃないか。
ま、今は自発的にあれ以上の訓練をしているぞ」
「この体形なら、そうでしょうね。
後で時間があったら、久々に私と立ち会ってみましょう。 いやあ、楽しみです」
以前ナーリアがミーリア様に見せてしまった様な、心底嫌だという顔をデイヴがしたのを僕は見逃さなかった。
キースまで横を向いて関わらない様にしているという事は、このストームという人、どれ程の人なのだろうと僕は興味が湧いた。




