214. デイヴの提案
僕たちは、きっと起こるであろうフロードの手の者の砦にの移動を待って、領主の町に行くことになった。
早ければ今日中にもそれは起こるだろうから、そうしたら明日、もし予想が外れても三日後には行く事に決めた。
ま、僕はセカンとディフィーの予想が外れるなんて思っていないから、きっと明日には向かう事になるなと考えていた。
「一つ、俺に提案があるのですが、良いでしょうか」
ちょっと改まった感じでデイヴが声をあげた。
「なんだデイヴ、もちろん何でも話してみろ、構わないぞ」
ラーリア様がそう言うと、デイヴは話し始めた。
「俺たちが行って話をする時、その場には親父だけでなく、きっと上の兄貴も同席すると思う。
親父は今までのいきさつからも俺たちの言うことを全て信じてくれると思うし、親父の取り巻きもそうなると思う。
でも、兄貴は、というより兄貴の取り巻きは、まだ俺たちの言うことを信じないかもしれない」
「えーと、それはどういうことなんだ。 そして何が言いたい」
「こんな話をするのは、俺も嫌なんだけど、俺には全くその気は無いのだけど、兄貴の取り巻きは、この件に乗じて俺が次期領主の座を狙うのでは無いか、また、今回の件は、そのための計略では無いかと疑ってくるんじゃ無いかと思う。
俺は、たぶん奴らの間では死んでいる事になっていたと思うし、奴らは曾祖父さんの証明書なんて話を知る訳がないから、フロードが商隊を襲った話も、ましてやラミアと俺たちが協力してそれを討ったことも、単なるでっち上げと考える可能性が高い。
兄貴は次期当主として、きっと曾祖父さんの書のことなどは知っているだろうから、きっともう親父に話を聞いて俺たちのことを信じてくれていると思うけど、たぶん自分の取り巻きを説得することは出来ていないと思う」
「つまり、フロードと、その取り巻き、ま、それにはデイヴの次兄もとりあえず含まれているのだが、それらだけでなく、長兄の取り巻きも敵に回る可能性があると言いたい訳だな」
「敵とまではならないと思います。 あくまで判断の材料が彼らには無いので、アルフレッド様、デイヴの上の兄を守りたいがため、俺たちの言うことを疑ってかかってくるというところだと思います」
ラーリア様の言葉に、キースがちょっとデイヴの言葉を捕捉した。
「俺は本当に、こういうところが嫌なんだ。
上の兄貴が次期領主になると決まっているのだから、それで良いじゃ無いか。
それを上の兄貴の取り巻きも、下の兄貴の取り巻きも、それぞれ疑心暗鬼になりやがって、自分たちの保身を図るんだか、相手を蹴落とそうとしているんだか、表面だけ良くしてて、裏ではネチネチやりやがって。
だから俺は狩人で暮らしていこうと思って、このラミアの里で幸せに暮らしていたのに、ゴブなんかが来やがるから。
ゴブの大量発生という事になれば、こんな俺でもこのラミアの里のためにも、領民のためにも、できることをしなければならないと思っているだけなのに。
それでも俺をも疑ってくることが、はっきりと想像できるんだ。
全く自分たちが何のために、男爵だの騎士爵だのという特別待遇を受けていると思っているんだ。
こういう時にみんなを守るためのモノであろうに」
デイヴの愚痴めいた独白は長々と続いた。
デイヴが自分のこと、その心中を語ることなんて初めてだと思う。
何だデイヴって本当に貴族じゃん。 僕の想像する貴族じゃんと思った。
「おい、デイヴ。 何、自分語りしているんだよ、今はそういう場では無いだろ。
そんな話じゃなくて、まともな話をしろよ」
キースがデイヴを止めた。
「いや、キース、私はデイヴの今の話が聞けて嬉しかったぞ。
あらためて、デイヴの子供を産めることがとても嬉しいと感じたぞ。
私はきっと大事に、デイヴの様な子になる様に育ててみせるぞ」
「ラリオ様、今のはちょっと我を忘れて、というか、つい頭の中でグチグチ考えていたことがそのまま口から出ちゃったというか。
とにかく、今のは忘れてください」
デイヴはラリオ様の言葉で、今更ながら自分が口走っていたことを自覚した様で、ちょっといつもの調子に戻って、真っ赤になって弁明した。
「いや、絶対に私は生涯忘れないぞ。
生まれた子供が物が分かる様になったら、絶対に語りきかせてやる。
その前に、残念ながらこの場にいなかった、ミーリオとミーレオにまずは教えてやらなくてはいけないな、二人にもぜひ教えてやりたい」
「そんな恥ずかしいことやめて下さい」
デイヴはより一層赤くなって、ラリオ様に頼んでいる。
「ま、その話は横に置いておいて、デイヴ、話を続けてくれ」
ラーリア様が先を促した。
「はい、すみません。
とにかく、その上の兄貴の取り巻きの疑心暗鬼を取り払わねばいけないと思うのです。
俺たちもそんな目に晒されて動くのは動きづらいですけど、親父たちはともかくとして、上の兄貴は自分の取り巻きがそんなでは動きが取れなくて困ると思うのです。
それではフロードとの事に当たるのに、ダメとは思いませんが、これからに禍根を残す気がするのです。
俺は、今回の件の解決に、俺個人の気持ちなんですけど、上の兄貴にはきちんと一枚噛んで欲しいんです」
「なるほどな、お前の言わんとしていることは理解した。
フロードの排除に成功した時に、お前の上の兄貴が関わっていなかったら、将来、変にお前を担ごうという奴が出てくるかもしれないと考えている訳だな」
「はい、嫌ですけど、そんなことを考える馬鹿がきっと出てきてしまうと思うのです。 俺はそんな事に関わりたく無いですし、そんな事で少しでも混乱したら、この地方に暮らす人々にとっては迷惑なだけですから」
「それで、具体的にはどうしたら良いと考えたんだな。 その案があるからこその今の話なのだろう」
「はい、俺たちが話していることが真実であることを、もっと確実に証明するには今回の襲撃と討伐が本当にあったことを知らさねばなりません。
そのためにアンを親父のところに連れて行って、証言してもらったらと思うのです」
「それは私たちも考えた。 でも諦めた。
デイヴ、考えて。 まだアンは、やっと父親やその仲間の人たちを失った悲しみから立ち上がろうとしているところ。
そのアンに、父親やその仲間が無残に殺された時のことを詳しく思い出させて、他人に語らせようとするの」
「それにアンを連れて行ったら、メリーは一人待っていなければならなくなる。
メリーをそんな可哀想な状況にできる訳無いでしょ」
デイヴの言葉に、セカンとディフィーが即座に反対した。
場を沈黙が支配した。
確かにアンが領主の館に言って証言すれば、他のどんな証拠よりも、その場に居る人を納得させることができるであろう。
僕もそれは考えなかった訳じゃ無いけど、セカンやディフィーの言う通りで、ちょっと出来ない、いや、してはいけない案だと思っていた。
デイヴだってもちろんそれが解っていない訳じゃ無いと思う。
それでも今後のことを考えて、あえて言いだしたのだと思う。
「この事は、我らには決められない。 アン本人に決めてもらうしかない」
ラーリア様がそう言うと、イクス様がそれに続けて言った。
「セカンとディフィーだけじゃなく、これはみんなも考えていたと思うの。
もちろん私たちも考えていたわ。
それで色々考えてみたのだけど、私たちには決められないのよ。
もちろん、デイヴくんが言うような、将来的なこともあるし、セカンやディフィーの言うような問題もあるわ。
でも、それ以外にも考えるべきこともあるのよ。
あえて私はその事がどういうことかは言わない。
でも、これはアンに、いえ、アンとメリーに決めてもらう必要があるのよ」
その言葉とともに、ミーレナさんがこの食堂となっている作業場を出て行った。
ミーレナさんはすぐにアンとメリーを連れて戻ってきた。
「二人ともすまないな。
我々がこっちで話している間、退屈していたんじゃないか」
ラーリア様がそう言うとアンは
「いえ、馬の世話を終えて、温泉にメリーと入って来たりしていましたので、まだ退屈するほどの時間はなかったです」
そういえば僕らの馬はアンとメリーが世話してくれたようだけど、他の馬はどうなったんだろう。 そう僕が思っていたら顔に出ていたのかギュートが
「アレク、心配しなくても大丈夫だぞ。
他の馬はミーリオ様たちが、きっとちゃんと世話してくれたと思うぞ。
馬もラミアにもう慣れたから何の問題もない」
「ミーリオたちは奥に入るのは正式には許されていなかったから、馬の世話を口実にして正式に奥に入る許可をもらったのよ。
流石に今現在のラーリア様たちには馬の世話は出来ないから。
それでは馬がラミアに慣れないでしょ。
ミーリオたちは上手い理由が出来たし、今はミーレオたちが私たちも馬に慣れないのでと、言ってきているところよ」
「領主の町への道の復旧を延長する仕事をするのには、奥を通らねばならないから、今更なことなのだがな」
ミーリア様が付け足して、ラーリア様も一言加えた。 なるほど、そんな事になっているのか、ちっとも知らなかった。
メリーはアンの下から離れると、とっとっとっとイクス様にもたれ掛かって甘えている。
メリーはまだ母親に甘えたい年齢で、どうやらイクス様がその対象になっているようだ。
イクス様も普通に髪を撫でてやったりして、話に加わりながらも構っている。
ラーリア様が切り出した。
「アン、すまないがこれから辛いかもしれないことを訊ねる。
少し我慢して答えてくれ」
アンは何事かと、真剣な顔をして頷いた。
「今、我々はキースとアレクと、そしてデイヴを中心として、お前たちを襲った砦の者の件で、この地方の人間の領主と話をしている事は知っているな」
「はい、私もこの家に住んでいますから、そういう話も自然と耳に入ってしまって、知っています」
「うん、それは構わないから気にしなくていい。
それで、今問題になっているのが、彼らに私たちが話している事が実際にあった事実なのだと理解してもらう方法だ。
色々と証拠は揃えているので、それで納得してくれる者も多いのだが、それだけではやはり疑いを持ってしまう者もいる。
その疑いを晴らすためには、やはり当事者の証言が一番物を言う。
そんな訳で、アン、お前にその証言をしに、領主の館に行ってもらえないだろうかという話が出ている。
そんなことをお前にさせるのは、お前に辛い思いをさせることも分かっているし、そのためにメリーがお前と離れることで寂しい思いをすることも分かっているので、我々にはその話を進めた方が良いのか、諦めた方が良いのか判断が出来ない。
こんな話をすれば、お前が傷つくのではとも思ったのだが、あえてここはお前に判断を委ねるために、この話をした」
アンはしばらく沈黙し、考えているみたいだったが
「メアリー、ちょっとお姉ちゃんのところに来て」
メリーはビクッとすると、急いでイクス様のもとを離れアンのところに来た。
アンがメリーを、メリーとは呼ばないできちんとメアリーと呼ぶのは、とても大事な時のことであるのをメリーも理解しているのだ。
「お姉ちゃん、なあに?」
「メアリー、お姉ちゃん、アレクのお兄ちゃんとキースのお兄ちゃんと、そしてデイヴのお兄ちゃんの3人と一緒に、ちょっとお仕事に行って来ようと思うのだけど、メアリーはお姉ちゃんと離れて待っていられるかな?」
「お姉ちゃんと離れて待っているって、前の時みたいに?」
メリーの顔がこわばったのが見ていて分かった。
前にアンと少し離れた時には、その後父親を埋葬するという事になったのだ。 もしかするとその時のことを思い出しているのかもしれない。 そう思うとメリーが可哀想で胸が締め付けられる気分だ。
周りを見てみると、ナーリアたちもとても辛そうな顔をしている。
「うん、あの時よりも、ちょっと時間がかかるかもしれない」
「そんなにお姉ちゃんと離れていないといけないの。 なんで?」
メリーの言葉は悲痛な叫びだった。
「メアリー、聞いて。
お兄ちゃんたちは、父さんの仇を討とうとしてくれているんだよ。 まだメアリーには分からないだろうけど、父さんの仇はあそこで襲ってきた人たちだけじゃないんだよ。 本当の一番の仇は別なところにいる。 私は、お姉ちゃんは父さんの仇が討ちたいの。
お願い、メアリー、分かって。 少しの間だから、お姉ちゃんがいなくても我慢して」
メリーがアンの言ったことの意味が分かったとは思わない。 でもメリーはアンのその強い真剣な思いは完全に理解した。
「分かった。 メリー、待ってる。
今度はナーお姉ちゃんたちだけでなくて、イクス母様もレナお姉ちゃんもいるから、メリー、寂しくないよ。 待っていられるよ」
後でデイヴがしみじみと言ってきた。
「俺はあの二人にどれ程辛い思いをさせるのか、本当には分かっていなかった。
セカンとディフィーがすぐに諦める訳だ。 あれ程辛い思いをさせると分かっていたら、俺だって言い出せなかったよ。
メリーの悲痛な叫びは死ぬまで忘れられないと思うよ」
「でもお前が言い出したおかげで、少なくともアンは父親の仇打ちに協力したという救いにはならないかもしれなけど、何かが心に残った。
それを自分で決めて行ったという事は、アンにとっても、そしてその決断を見ていた俺たちにとっても大きな事だったと思うぞ。
イクス様が『あえて言わないけど』と言った時に何かと思ったけど、こういう事だったんだな」
「ああ、そうだな。
お前もなのかもしれないけど、俺にはまだまだたくさん見えてない事がある事に、すごく気付かされたよ」




