212. 道を延ばしたり
禁足地奥の町の跡から、領主のいるこの地方で一番大きな町へと向かう道の復旧は、大急ぎで進められることになった。
最初僕たち人間だけで進めなければならない仕事かと思ったのだが、ミーレアが手伝ってくれることになり、それに伴いナーリアたちはもちろんだが、アレア様たちも手伝ってくれることになり、作業は予定よりはどんどん進んだ。
作業が急ピッチで進んだのは、人手が増えたこともあるが、一輪車の威力も大きい。 道の復旧といっても、することの一番多い部分は道の上に被さってしまった土砂を取り除くことである。 つまり土砂の移動が一番大変なのだが、それが一輪車を使うことで、今までと比べると半分の人員で画期的に楽に進められたのだ。
その上、その一輪車の素晴らしさをミーレアの人たちが絶賛して話すものだから、ミーリア様たちが興味を示して、
「そんなにミーレアたちが絶賛する道具なら、私たちも使ってみたいわ」
と、興味本位で工事を手伝いだしたのだ。
一層人手が増えて、工事が進む結果となった。
工事現場に僕たちは毎日馬車や馬で向かう。
馬車で向かうのは、最初は馬の運動を兼ねようという単純なことから始まったのだが、一輪車などの道具を運ぶにも都合が良いからだ。
一輪車は僕とナーリアたちが作っただけでなく、バンジも作ってかなり数が多くなり、この工事を通してとても日常的な物になってしまった。
数が多くなったから、家や厩舎、それに炭焼き場や鍛冶場など日常的に使うところにはそのまま置いておいて、それ以外はその時々の現場に置いておけば良いのだが、一輪車は作るのにある程度手間がかかるから、現場に置きっ放しはなんとなく嫌で、馬車に積めば良いだけだからかもしれないけど、毎日運んでいる。
馬にも負荷をかけて、鍛えることにした方が良いに決まっている。
ナーリアたちは馬に慣れて、いや逆か、馬はナーリアたちラミアに慣れて、ナーリアたちも馬の世話に関わるようになった。
僕も含めてだが、アンに馬の世話を教わっている。
メリーもそこは馬に元から接する事が出来たから、ナーリアたちに一人前ぶって、馬の世話の仕方を教えていたりする。
ナーリアたちもそんなメリーが可愛いからか、喜んでメリーに教わっているのだ。
ちなみにメリーのナーリアたちの呼び方は略されたモノになっている。
ナーリアはナーお姉ちゃん。 サーブはサーお姉ちゃん。 セカンはセンお姉ちゃん。 ディフィーはディーお姉ちゃん。 レンスはレンお姉ちゃんだ。
僕は何故かお兄ちゃんとしか呼ばれない。
そしてイクス様のことはどういう訳か、イクス母様と呼ぶ。 レンスがお母さんと呼ぶのと、僕らがイクス様と呼ぶのが混ざったらしい。
そしてミーレナさんはレナお姉ちゃんなのだが、何故かミーリア様からはお姉ちゃんではなくなり、リアおばちゃんと呼ばれ、ラーリア様はラーリアおばちゃんと略されない。
ラーリア様はおばちゃんと呼ばれるのを普通に受け止めていたのだが、ミーリア様は
「ミーレナがお姉ちゃんなのに、なんで私がおばちゃんなのかしら」
とちょっと不満顔なのだが、そんなこと僕に言われても困る。
子供の判断基準がどこにあるかなんて、僕には分からない。
僕も馬に乗るだけでなく、馬車の御者も出来るようになろうと、アンに教わった。
その時は僕が乗る馬はロープで引く形になる。
ラミアは馬にまたがる事が出来ないし、尻尾が長いのが邪魔して、馬に乗る事が出来ないから、僕が馬車の御者席でアンに教わっていると、誰も乗る人がいなくなってしまうからだ。
馬車の御者をするのは、馬をギュートが求めるレベルで乗りこなすよりはよっぽど簡単で、僕はすぐに出来るようになった。
それを見ていたセカンがまず自分も習いたいと言いだして、馬車の御者を教わった。
セカンの場合は教わるまでもなく、僕がアンに教わっていたのを見ていただけで、アンが何も問題点を見つけられない完璧さで、即座に馬車を操ってみせた。
やはりセカンの器用さは半端無い。
それからレンス、ナーリア、ディフィー、サーブの順で御者が出来るようになっていった。
道の復旧は、それでも掘り出すだけではダメなところもある。
表面の石が森が焼けた時の影響だろうか、傷んでボロボロになっていて交換しなければならないところがあったり、大火の後、木の無い時期に雨が一気に流れたのだろうか、道が切れている部分もあった。
そんな部分はダイクが中心になって、山から石を切り出してきたりして、道を直したり繋げたりした。
小川を跨がねばならない部分には、とりあえずとして、バンジが木の橋を架けた。
僕たちは毎日戦闘訓練が終わると、どうせ作業でまた汗をかくのだからと温泉には入らず、軽く食事だけして、工事現場へと向かった。
ミーレオ様たちは、それこそ馬車にやっとのことで乗り込む感じだったが、僕たちはそこまでのことはなく、さっさと馬車に乗り込んだり馬に乗ったりして作業場所に向かう。
作業場所ではその工事の役には立たないアンとメリーは焚き火係で、石を焼いては取り替えに来る人に渡している。
工事の進みが早いのは、少しは暖かくなってきたこともあるけど、暖かい温石がこうして常にラミアに渡されていることもあるのかもしれない。
当初僕は馬が通れるだけの細い道をきちんと繋ぐだけで考えていたのだが、結局まだ寒い中ではあるのに、ラミアも大勢が手伝う形となり、馬車が通る事ができる幅で道の復旧をすることになった。
道の復旧を始めてみて驚いたのだが、この禁足地奥の町の跡から領主の町に向かう道はとても広く、整備の行き届いた道だったようだ。
道幅は掘り出してみてわかったのだが、馬車2台が楽にすれ違える広さで、その路面を覆う石は表面に見えている石の大きさより、埋まっている部分の方が大きい。
石の専門家であるダイクによると、それ以上にその表面の石の下がきちんと分厚い基礎工事がしてあるのが凄いのだという。
そして木の根などが道に入り込んできて、道をダメにしてしまわないように、道の両側に地面の下に石の防御壁が作られているのだという。
それだけのことをしてあるから、使われなくなって放置されて何十年も経っているのに、ほとんどの箇所が表面を土や草、そして精々小さな灌木が生えているだけで済んでいて、それらを退かすだけですぐに使える状態になるのだという。
結局のところ30名近くの人数で作業をすることになったのだが、その元の道を完全に復旧しようとしたら、ラミアの土掘り能力を持ってしても、一人当たりにしたら20mも進む事が出来ない。
つまり全体としては一日あたり600mも進まないのだ。
禁足地奥から領主の町までの距離は、図書館の本によると馬で半日という事だけど、別に馬だからといってそんなに早い訳では無い。
馬を早く走らせるのなんて、戦いのためか、何か急ぎの伝令だとか、普通では無い場合だけの話だ。
馬で半日というのと、人の足で半日というのは、それだからほとんど距離に差はない。
正確には分からないがきっと20kmを少し超えるかどうかという程度だろう。
それにしても一日に600mしか進まないのでは1ヶ月経っても使えることにならないので、今の事態の役に立たない。 そこでとりあえず、馬車が通れるギリギリの幅で、なるべく作業が少なくて済むように、とりあえずなるべく修理は避けて、道を伸ばしていくことにした。
きちんとした復旧は、暖かくなってラミアがみんな起きてから、もっと人手を集めてすることにしたのだ。
そんな風にして距離を稼いだので、一日の延びる距離は1.5kmになった。
それでも道が役に立つまでに2週間かかるのだが、もうそれ以上は無理だ。
ハーピーたちは男三人は町と砦の監視に当たり、女性二人は食べ物などを運んでくれたりをしている。
「こういう時、鳥型のハーピーって役に立たないなぁ、って思うんです。
土を掘る作業も出来ないし、火を扱うことも出来ない」
「でもこうして、出来立ての食べ物を運んでくれたりしてるじゃないか」
「これしか出来ないからです。
せめて人型に近いハーピーがいれば、みんなの手伝いがもっと出来るのでしょうけど、今のハーピーの里には人型が絶えちゃっているんです。
ですから、里の維持さえ難しくなってきてるくらいなんです」
ウスベニメは、この道の復旧は人間との同盟に必要なことだと理解しているから、その力に自分たちがなれないことを、とても気にしていた。
「誰もが同じである必要はないだろ。
現に今もエレオンたちは僕たち人間やラミアが出来ない監視をしてくれている。
だから、何もそんな風に思うことはないよ」
「そうなのかもしれないけど、皆さんが一生懸命作業されているのに、私とモエギシュウメは食べ物を運ぶことしか出来ないなんて、なんだか申し訳なくて」
「そんなことないって」
僕たちは、道を延ばすことを優先して、戦闘訓練を早めに切り上げて、そのまま作業に入っている。
だから、昼食は作業をしている場で、家でミーレナさんが中心になって作ってくれた物を、ウスベニメとモエギシュウメが運んでくれて食べているのだ。
ある時、昼食を運ぶ時間でもないのに、ウスベニメが飛んで来た。
「アン、アン。 ちょっと来て、大急ぎで家の方に来て欲しいって」
「わかりました。 それじゃあ急いで向かいます」
「いえ、飛んで来てってことで、アレクの防寒着借りてきたから、これ着て」
「えっ、まさか、私に飛んで戻れという話ですか?」
「そういうこと。 私でもあなたなら一緒に飛べるわ。 だから、早くそれ着て」
「えっえっえっ」
なんだか否応無しにアンは僕の防寒着を着せられた。
「それじゃあ、両腕を横に開いて」
ウスベニメは軽く羽ばたくとアンの腕を足で掴んだ。
「じゃあ行くよ」
「きゃあ〜っ・・・・」
アンの悲鳴は、あっという間に遠ざかって行った。
「お姉ちゃん、良いなぁ。 メリーもお空飛んでみたい」
近くに居たレンスがメリーに答えていた。
「うん、メリー。 私も飛んでみたい」
「レンお姉ちゃんも、飛んでみたい?」
「うん、飛んでみたいな。 でもお姉ちゃんはラミアだから、アンみたいに腕を持ってもらって飛ぶことは出来ないんだよ。
メリーは人間だから、アンみたいにして飛ぶ事ができるね」
「そっか、それじゃあ今度、ベニお姉ちゃんか、モエお姉ちゃんに頼んでみようかな。 あ、ハトお兄ちゃんの方が良いかもしれない」
「良いなぁ、メリーはすぐに空を飛べそうだね。
でも空を飛ぶのは寒いっていうから、まず最初にセカンにメリー用の防寒具を作ってもらうように頼まないとダメかも」
「分かった。 メリー、センお姉ちゃんに頼んでみる。 レンお姉ちゃん、ありがとう」
メリーはセカン目指して駆けて行った。
「私たちラミアも、どうにかしてハーピーに飛んでもらう方法ないかしら」
レンスは飛ぶことを諦めていないようだ。
しばらくしてアンは戻ってきた。
僕もアンがどんな調子か気になっていたのだけど、同じ様にデイヴとキースも近寄って来た。
「アン、一体何だったんだ」
「そんなに大したことではなかったわ。
料理をするのに、香草を間違って、というか香草に似た草と間違って、変な匂いになってしまって、びっくりしただけみたい。
良くやる失敗だから、すぐに分かったわ」
「ま、大したことでないなら良いけど」
「で、空の旅はどうだった」
デイヴがちょっとワクワクした感じでアンに聞いた。
「怖かったわ。 木や家を空の上から見る事があるなんて思ってもいなかったから」
「そうだよな。 怖いよなぁ」
キースがそう言うとウスベニメが言った。
「でもアンはキースとは違って、初めて飛んでも降りた時に腰が抜けて動けないなんてことはなかったわ」
「こらっ、ウスベニメ、黙れ。 そんなことアンに暴露するな」
キースが慌ててウスベニメを黙らせようと、大きな声を出して近づいて行った。
ウスベニメは笑いながらアンの後ろに隠れた。
「何だ、アンは大丈夫だったのか。 残念だ」
デイヴががっかりした声を出した。
またウスベニメが笑った。
「ほら、私は初めてと言っても、あなたたちが飛ぶのを見ていたから、何となく想像できてた部分があったからだよ。
全く初めてで、見たこともなかったのとは、やっぱり違うよ」
アンが僕たちを慰めようと思ったのか、そう言った。
うーん、なんて返事して良いかわからない。




