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気がついたらラミアに(なろう改訂版)  作者: 並矢 美樹
過去をただす

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203/206

203. 一輪車と蝋板

 朝、僕らがまだ訓練に向かおうと準備しているうちにキースがやって来た。 それに合わせてハライトもやって来た。


 「本当に一人で大丈夫か? やっぱり俺も行こうか」


 「いや、大丈夫だ。 というより、今お前が一緒に行っても何の役にも立たないし、悪いがかえって足手まといだ」


 「ま、そういうことなら仕方ないのだけど」


 作戦というか悪だくみを一緒に考えたセカンとディフィーも心配そうに声を掛けた。


 「キース、絶対に無理したり、無茶したりしないでね」

 「この策がダメなら、次を考える。 上手くいかなかったら、すぐに戻って来て」


 「ああ、解っている。

  でも、俺の元の知り合いも沢山いる。 心配しなくても大丈夫だから」


 「元からの知り合いが味方とは限らない。 変わっている可能性だって大きい」


 「それももちろん承知しているから、慎重にやるよ。」

 ハライトもちょっと心配そうだ。

 「俺も町の人間に見つからないギリギリで、なるべく近くで見張っているからな。

  何かあったらすぐに合図しろ、即座に空中にお前を連れ去って、助け出してやるからな」


 「大げさだって、十中八九はそんなことはないから」


 「いや、キース、それって一か二はあるかもって話でしょ」

 ディフィーが突っ込んだ。


 「ま、だから絶対という訳にはいかないけど、まずは安全て話だよ。

  それより今日はなるべく見つからないように、木の上ギリギリを飛ぶのだろ。

  俺はそっちの方が不安なんだよ。 頼むぜ、ハライト。 俺を木の梢になんて打つけてくれるなよ」


 「キース、もっと俺を信頼しろよ。 まあ、俺に対する態度が悪ければ、そこらへんは保証しないけどな」


 セカンとディフィーだけでなく、その後ろにいたナーリアたちも心配そうな顔をしているのに気がついたハライトは、そんな冗談を言った。


 「それじゃあ、とりあえず明後日には戻ってくる。

  ハライト、迎えも頼むぜ」


 「ああ、任せろ」


 今回、キースは単独で町に向かうことになった。

 昔の伝手を頼りに、何とか秘密裏に領主とデイヴを会わす手筈を整えるためだ。

 今現在、領主がいる町にこのハーピーの里から行くには、普通だと洞窟の近くを通る道に出て、問題の砦の前を通り、向かうことになる。

 馬に乗っても一日がかりの行程だし、砦の前を通る訳で、砦の検問に引っかかってしまう。 検問はそんなに厳しい訳ではないし、狩人なんてほぼフリーパスの様なものなのだけど、馬に乗った狩人なんてありえないし、馬が使えなくなってしまうと町に行くだけで二日がかりになってしまうし、冬のこの獲物の少ない時期に遠くまで狩に出ているのも不自然だ。

 そんな訳で別の方法で町に向かうことを考えなければならなかった。


 古い地図を図書館で見てみると、奥の町跡から昔は領主のいる町に直接道があったことが分かる。

 森を広範囲に今まで探索していたアレア様たちによると、今でもその跡は明確に残っているので、間違うことはないが、さすがに整備されていないので、移動に時間がかかるだろう、とのことだった。

 今はとにかく季節的に温度が低いので、戦闘訓練は毎日しているとはいえ、ラミアたちは外での作業は辛い。

 昔の道が使える様になれば、ラミアの里から領主の町まで、馬ならば半日ちょっとの行程になる。 仕方がないから、人間だけで昔の道の復旧作業をしようかと思ったのだが、ハーピーが

 「なるべくなら急いでいるのだろ。 それなら俺たちが近くまで連れて行ってやるよ。

  低く飛べば、かなり町に近い森の端まで、気づかれずに連れてってやることが出来ると思うぞ」と。


 道の復旧は復旧として進めることにして、今回はなるべく早く事を進めたいので、ハーピーの好意に甘えることにした。



 僕たちが近接戦闘訓練をしている間、アンとメリーは馬の世話をしている。

 馬の世話は、馬がだいぶナーリアたちラミアに慣れてきて、ナーリアたちが近寄っても警戒して興奮する様なことはなくなったのだが、まだ自由に触れるまでにはなっていないので、今のところは人間の仕事なのだ。

 それに近接戦闘訓練にアンとメリーが参加する訳ではないし、ラーリア様たちの様にそれを見ていることに意味がある訳でもないので、その時間が空くというのもあるから、ちょうど馬の世話をするには都合の良い時間だ。

 馬の世話は、飼料を与えたりはどんな物を与えるかを考えたり、ブラッシングしながら体調を確認したりと細かく気を使うこともあるのだが、馬は体が大きいこともあるから、基本体力勝負のところが多い。 特に、飲み水を運んだり、敷き藁を入れ替えたりするのは、力仕事だ。

 それがアンとメリーにはなかなか大変で、アンに一輪車の製作をお願いされている理由だ。

 ちなみに糞尿で汚れた敷き藁は、主にサーブが穴を少し掘り竹で作った枠に集められ、僕たちのトイレの汚物も加えられ、堆肥作りに利用されている。

 僕らの所で作った堆肥だけはヤーレンから、畑に持っていくのではなく、図書館の花壇などに優先的に使って良いと言われたので、ナーリアとレンスも積極的に協力した様だ。


 「バンジ、柔らかい木じゃなくて、硬い木でなるべくなら乾いている木って、どこかにないかな?」


 「ん、何に使うんだ?」


 「アンに馬の世話をするのに使う一輪車の製作を頼まれたんだよ」


 「一輪車か。 確かに一輪車は作ってないな。 あれはあれば便利だな。

  俺が作ろうか、ちょうど今、やっと奥の家の家具だとかが全て終わって、手が空いた所だから」


 「いや、一輪車はナーリアたちに教えながら俺が作るよ。

  それより手が空いたなら、前から作って欲しかった物があるんだけどいいかな」


 「何だよ、言ってみろよ」


 「水車小屋作ってくれないかな。

  今まで、籾摺りするのもかなり大変だったし、今でも精米はかなり重労働というか、ミーレナさんやナーリアたちが時間を取られている。

  水車小屋があれば、それが楽になるし、今はまだダメだけど、春になったら良いこともあるぞ」


 「今、言ったことだけでも俺も水車小屋を作る気になったけど、特にミーレナさんが楽になるなら何よりだしな。 それでも春になったら良いこと、というのが気になるな。 教えろよ」


 「いや、アンがパン種を持っていたんだよ。

  ほら、ゴブの騒ぎで、パン種を作ることができなくて、フワフワのパンを焼くことができなかったじゃんか。

  アンが持っていたから、春になって小麦が取れれば、フワフワのパンが焼けるという訳さ。

  今は小麦がほとんどないから、パン種を絶やさない様にするだけしかできないけどな」


 「そうか、水車小屋で粉も挽こうという訳か、それは良いな。

  よし、俺は次に水車小屋を建てるぞ」


 「おう、頼むぜ。

  それで、そんな乾いた木はあるかな」


 「うーん、そこまで乾いているかは分からないけど、前に邪魔になるからターリアたちと切り倒しておいた木があるぞ」


 僕はその場所を教わった。


 「アレク、ちょっといいか?」

 バンジと話しているところにダイクが割り込んできた。


 「ダイク、ちょうど良かったよ。 今、バンジに水車小屋を作ってもらう話をしていたんだ。 水車小屋の中に置く、石臼とかをお前にお願いしたいと思っていたんだ」


 「おっ、水車小屋か、それは良いな。 バンジ、俺も手伝うぞ」


 「ああ、頼むぜ」


 ちょっと水車小屋の中をどうするかで話が盛り上がってしまった。

 挽き臼と、突き臼をそれぞれ石の物と木の物を作ることになった。

 僕がそんなに一度に動かせる様な水車が作れるのかと心配したら


 「一度にそんなに使わないだろ。 使う物を動かして、使わない物は動かさないで、水車の動く力を一つかせいぜい二つくらいしか使わない様に工夫するんだよ」

 バンジがちょっと説明してくれた。


 「それで、ダイクの用は何だったんだ?」


 「おっと、そうだった。 アレク、大鳥の革って、まだ予備があるかな?」


 「いや、大鳥の革は全部使っちゃって、予備はないな。 何に使うんだ?」


 「アーリル様とアーリア様、防具がないだろ。

  この間、戦闘には出てこなかったけど、すぐ近くまでは来ていたと聞いて、俺とボブはちょっと心配になっちゃって」


 そうだった、頭から抜けていたけど、アーリア様とアーリル様はこの前の戦闘の時、心配してすぐ近くまで来ていたというのをロア様とアレア様から聞いていたのを忘れていた。

 確かに剣は持っているけど、防具の類は何も持っていなかったはずだ。


 「そうだな。 防具がないのは心配だな。

  よし、アンとメリーの布団も欲しいから、もう一匹大鳥を獲りに行くことにしよう」


 でもその日はその後は、馬を一頭引いて、サーブと一緒に木を森に取りに行った。

 間に僕が立てば、サーブが一緒でも馬も大丈夫なくらい、もう慣れてきているのだ。

 まずは木の枝をとりあえず払う。 こういう作業はやっぱり力のあるサーブが一番頼りになるのだ。

 二人で斧でどんどん枝を払っていくとそんなに時間もかからずに、まだ皮は剥いてないけど丸太になった。

 その丸太に蔓で作ったロープをかけて、馬でそのロープを引いた。


 「あ、なるほど、このために馬を連れて来たのか。 これは楽だな」


 おいおいサーブ、今まで何のために馬を連れて来ていたのか理解していなかったのかよ。

 僕は取って来た丸太をまずは斧や楔を使って割って板を作っていった。

 板を作った所で、一輪車の持ち手や台になる部分は、形の分かっているアンの監督の下に、みんなに作ってもらい、僕は板を切って車輪を作ることにした。

 板の木目を、車輪になった時になるべく中心から外に向かうことになる様に、板を大まかに三角形に切り、次に糸の先に炭をくくりつけて円を描いて、その形に切っていった。

 四枚の板を組み合わせて動かない様に固定して、真ん中に棒を固定すれば車輪の出来上がりだ。

 一輪車の車輪は小さな物だから、この程度の細工で十分だろう。


 「アレク、単なる輪っかだろ。 そんな面倒なことをしないで、丸太を横に切って、それで形を整えれば、それで済むんじゃないか。 何でそんな面倒なことをしたんだ?」


 「それだと使っているとすぐに形が歪んだり、狂いが出て、うまく動かなくなっちゃうんだよ。

  普段使っている荷車の車輪だって、こうやって作ってあっただろ。」


 納得がいかないのか、サーブはわざわざ荷車の車輪を見に行ってきた。

 「本当だ、荷車は四等分ではなくて八等分になっていたが、板を組み合わせて車輪が作ってあったぞ。

  でもあれは車輪がこれよりも大きいからではないのか」


 「確かに八等分になっているのは、これより大きいからっていうのもあるかもしれないけど、基本は丈夫で狂いがない様にするためさ」


 「そうなのか」


 サーブはどうも納得していない様だったが、後に一輪車の便利さが分かって、もっと一輪車を作ることになった。

 その時に一台だけ、サーブのために車輪を丸太で作って実験してやったらば、すぐに車輪が歪になり、上手く使えなくなって、やっとサーブも理解した。


 「確かに、丸太で作った車輪は全然ダメだった。

  これなら少し手間だけど、最初からアレクの様に作った方がずっと面倒がない」


 それから僕はもう一つある物を作った。

 板に浅く溝というより池、つまり凹みを掘って、そこに蝋を流し入れて平らに均した。

 それから鹿の角を削って手に持つのに都合が良い小さな棒状にして一方は尖らし、反対側は丸く削った。

 たったそれだけの物だ。

 何に使うかというと簡単なメモだ。

 蝋を尖った先で引っ掻けば傷になり字を書いたり、絵を描いたりができるのだ。 反対側の丸い所で擦ればある程度消すこともできる。

 もっとちゃんと消す時には温めた鍋底でも当てれば、真っさらな状態に戻る便利物だ。

 これは前にディフィーがランプの絵をお茶で机に描いた時に、ふと作ろうと思い立ったのだった。

 ラミアは簡易の筆記具としては、石板と蝋石を使ったり、木の板に書いたりしているが、石板は重いし、木の板はなかなかメモなどのちょっとしたことには使いにくいのだ。


 この蝋板はイクス様がとても喜び、その量産を頼まれたのだが、問題があった。

 蝋がないのだ。

 ゴブ戦の前に蜜蝋を大量に作ったのだが、それは傷薬、血止め薬、リップクリーム、肌荒れ用のクリームなどにほとんど消費されてしまっていたのだった。


 「アレクくん、蝋はもっとどうにかならないの」


 「まあ、蜜蝋でなくて木蝋ならば作れないこともないですけど」


 「それってどうやって作るの? 作るの難しいの?」


 「いえ、作ること自体はそう難しくないのですけど、材料の採取が。

  材料は(はぜ)の実なんですよ」


 「櫨の実って、あの今の季節に木になっている、鳥がよく食べている実よね」


 「まあ、そうなんですが。 あの木は下手に触るとかぶれるし、なかなか採るのが大変なんですよ」


 「あら、ラミアは鱗の部分はかぶれないわ。 手は皮の手袋で保護すれば大丈夫でしょ。 何も問題ないわ」


 「ナーリアちゃんたち、櫨の実の採取を頑張ってやってね。

  ミーレアたちもせっかく起きているのだから手伝わせましょう」


 レンスが嫌な顔をしてイクス様に皮肉を言った。

 「お母さん、率先して仕事してよね」


 「ええ、私も先頭でこれはやりたいのだけど、お腹に卵がいるから、木には登れないのよね。 レンス、私の代わりに率先して進めて」

 レンスは藪蛇だった。


ラミアの独り言 ep.18 「図書館通い」 も良かったら。

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