201. ミーレオ様たちも
草原では、僕は乗馬の練習をさせてもらい、アンとメリーは馬を遊ばせながら、馬が食べられる草がないかを探してもらった。
つまり枯れ草を刈るのはナーリアたちに任せたのだが、ナーリアたちが草を刈っている側に馬は少し近づいては離れ、また少し近づいては離れを繰り返していた。
僕は練習しながら興味深くそれを見ていた。
ナーリアたちもそれに気がついていたが、驚かさないために、その馬たちを見つめたりなどはしない様に気をつけていたみたいだ。
でも徐々に距離が短くなっていくのが嬉しいみたいで、馬のための草刈りを喜んでせっせとしていた。
終わるまでにはかなりの量の草を刈ったのだけど、荷馬車に載せると全て乗せることが出来てしまった。
「私たちが普段使う台車じゃこうはいかないわね。 やっぱり馬がいると便利なのね」
ディフィーがそう言って、荷馬車の便利さを実感していた。
帰りに馬車に馬を繋ぐときレンスのすぐ脇を通ったのだが、馬はそれに怯えることもなく、普通に繋がれていた。
これならすぐにラミアに慣れるかな、と僕は思った。
次の日からは、もういつもの様に近接戦闘訓練が行われた。
野盗もどきとの戦いの時に起こされたミーレオ様以下の4人が、訓練の話を聞き、自分たちから志願して加わってきた。
剣の素振りをして体が温まると、一番最初にミーリオ様はミーレオ様以下の4人と、僕たち人間とナーリアたちとの一対一の立会いをさせた。
「あ、お前たち、手加減しなくていいぞ。 ミーレオたちに実力を見せてやれ」
ミーリオ様も悪い顔をしてそう言ったのだが、ミーリベ様以下の5人が
「さあ、私たちが味わった気持ちを、ミーレオたちにも味あわせてあげて。
たぶん、私たちよりもショック受けると思うけど」
と、もっと悪い顔をして僕らを声援してくれた。
眺めているラーリア様たちは、困った様な顔をして笑っていた。
僕たちは誰もミーレオ様たちに負けなかった。
ミーレオ様たちは、こんな馬鹿な、という感じで何度も僕たちに挑んできたのだが、結局誰も一勝もできずに、力尽きて動けなくなった。
「あの、何故か私まで勝っちゃったんですけど」
ディフィーは自分が勝ったのが信じられないという顔をして、そんなことを言った。
「ディフィー、だからいつも言っているでしょ。 今ではあなたは私と同じくらい強いって」
ミーレファ様がその言葉を聞いて、
「アーロア、それじゃ、お前もディフィーと同じくらい強くなったのか?」
「あ、はい。 まあ、負けるとかっこつかないんで、ディフィーには一度も負けてないですけど」
ミーレファ様がその返答を聞いて崩れ落ちた。
「さあ、もういいでしょ。 ナーリア、早くこっちに来なさい。
いつもの様にやるわよ」
ナーリアがミーリア様に呼ばれ、一瞬心の底からげっそりした様な顔をしたが、すぐに顔を整えて、大急ぎでミーリア様の方に向かっていった。
「ナーリア、見たわよ」
「いえ、ミーリア様、気合を入れなきゃって思っただけなんです」
ナーリアが悲鳴の様な弁解をしていたが、ま、あれは無理だな。
僕らはもう動けないミーレオ様たちに脇に移動してもらって、いつもの訓練をする。
その訓練の激しさを見たミーレオ様たちは、僕たちに立会いで負けたこと以上にショックを受けて、顔色が蒼白になった。
「そろそろ時間だ。 今日はここまでだ」
ラーリア様の終了の言葉に、僕らは意外な気がした。 僕たちは誰も倒れ込んでないし、終了の言葉を聞いても、アリファ様も崩れ落ちなかった。
「アリファが訓練終了時に崩れ落ちないのは初めてじゃないか」
アレア様がそう言ってアリファ様をからかった。
「今日は最初の立会いの時は、私たちは見てるだけだったから、いつもより訓練時間が少ないからよ」
ま、その通りだと思いはするのだけど、それだけでもない気がする。
なんて言うか、アリファ様はその重い防具や盾を、もう全く苦にしてないんだよね。
「アレアたち、それからナーリアたち、人間たち。 今日は先に温泉に入ってちょうだい。 私たちはミーレオたちを引き摺って行くから」
ミーレオ様たちは、僕たちと立ち会って体力が尽きたのに加え、負けたショックとその後の訓練を見てのショックで、精神的にも尽きたのだろう、いまだに倒れていたのだった。
家ではイクス様とミーレナさんをアンとメリーが手伝っていた。
温泉に入り、食事をして、いくらか復活したミーレオ様は、ミーリア様に必死の顔をして頼んでいた。
「ミーリア様、ミーレアを全員起こす許可をください。
このままではミーレアは、アレアたちにもナーリアたちにも、そして人間たちにも、何一つ敵わない情けない存在になってしまいます」
「ミーレオ、そんなこと言っても、人間たちの戦闘力はもうミーリアより上なのよ。 頑張ってもたぶん勝てないわよ」
「それでも、ここまでの大きな差は放っておいて良いことではありません」
「でも起きてる人数が増えれば、それだけ食料も必要になるし」
「ミーリア、まあなんとかなるんじゃない。
幸いいつもの年とは違って、米は大量にしっかり収穫して貯蔵したから、ミーレアまでくらいなら、大丈夫よ。
それに個々の戦力が強くなるのは良いことだわ」
「イクス様、ありがとうございます」
こうしてミーレアも全員起こされることとなった。
なんとなく、可哀想にと僕は思ってしまった。
午後一に僕は馬に鞍を乗せ、草原に行き練習していた。 すると少し遅れて、デイヴにキース、そして全く考えていなかったのだが、ギュートとハキも馬に乗って草原に現れた。
デイヴ、キース、ギュートは馬の扱いが明らかに僕より上手だ。
ハキは僕とどっこいどっこいだ。
「アレク、やってるな。
とはいえ、まだまだだな。 アレクとハキはキースとデイヴに馬の扱いを教えてもらえ。
将来的には鞍を全員分作って、全員馬を自在に扱える様にするぞ。
俺はこのままこの辺りを廻って、馬が食えるものが生えているか見てくる」
なんだかギュートは馬のこととなると人が変わるなぁ。
僕はちょっと目が点になっていたのだが、他の3人も同様だ。
「ま、ギュートの言う通り、アレクとハキはもうちょっと馬を自在に操れる様になった方が良いな。
俺が教えるから、デイヴは補佐をしてくれ」
あれっ、キースって元々はデイヴの護衛だって言っていたよね。 それがデイヴに補佐をしろって言っているのだけど良いのかな、とふと思ったりしたのだが、その後、ハキと二人、キースとデイヴにみっちりと絞られた。
午前中に加えて午後もかよ、と思ったが仕方ない。
温泉の後に着替えたのに、またしっかりと汗をかいてしまった。
「アレクもハキも絞られたなぁ」
「ギュート、お前なあ、お前がキースに言ったんだろ。
キースは始めると鬼だぞ、本当に」
ハキがギュートに文句を言っている。 全くだ。
「ま、それだけ、お前らが下手くそだってことだな。
それよりも戻って鞍を下ろしたら、馬の汗をきちんと拭いてやれよ。
それから、穀類の入った方の飼料を馬には食わせてやれよ。
これだけ激しく運動させたらそれが必要だ。
あ、食わせる前に必ずしっかり水を与えろよ」
僕は家に戻るとギュートに言われた通り、鞍を外して、水を与え、体を拭いてやってから飼料を与えた。
それだけ馬の世話をしてから、僕は温泉に行って、また体の汗を流した。
僕が温泉に入っているとサーブが来て
「アレク、なんだまた汗で着ていた物がぐっしゃりじゃないか」
「ああ、キースとデイヴに乗馬をさんざハキと二人絞られたんだ」
「馬に乗るというのは、そんなに難しいことなのか」
「そうだな。 ただ乗るだけなら、それ程でもないと思うのだけど、戦場で乗る様な場合、それこそ意のままに馬に言う事を利かせる必要があるからな、そうなるととても難しくなる」
「そんなものなのか。 ま、とにかく服は洗って干しておくぞ」
「ああ、ありがとう」
僕は早めに出ようと思って、着替えを持ってきてなかったことに気がついた。
しまった、また癖でやっちゃった。 アンとメリーもいるのだからと思っているのだが、つい忘れてしまう。
家に入って行ったら、バツの悪いことに一番最初にアンと目があってしまった。
「ごめん、着替えを持たずに温泉に入っちゃったんだ」
「えーと、馬はどうしました?」
どうやらアンは僕が裸なのはスルーしてくれた様だ。
「うん、先に世話をしてから温泉に入ったんだ」
服を着たと思ったら、ハーピーたちがやって来た。
「おっ、エレオン、今日は来るのが遅かったな」
「お前らが草原で馬に乗っていたから、それが終わるのを待っていたんだ」
「そうなのか、先にここに来ていてくれても良いのに」
「そんなことしたら、また惨事だ」
ハライトがそんなことを言った。
前に男3人が先に帰った時に、やはり後でかなり責められたらしい。
「ま、その惨事の加害者は今日はどうしたんだ?」
「来ようとしたらお前が裸でウロウロしてたから、少し後で来るとさ」
アライムがしょうがないなあ、という感じで言った。
しまった、ウスベニメにもまた謝らないと。
おっと、アンとメリーが目を丸くしている。
「そうそう、アン、メリー、ちょっとこっち来て。
こいつらがハーピーのエレオンとアライムとハライトだ。
こっちはあの時の人間の姉妹で、アンとメリーだ」
「お兄ちゃんたち、ハーピーなの?」
メリーが珍しそうに、聞いた。
「うん、そうだよ」
子供好きなのかハライトが答えた。
「なんかフワフワ、触ってみてもいい?」
「うん、いいよ。 それじゃあ、ちょっとこっちにおいで、抱っこしてあげよう」
ハライトはそう言って、メリーを抱き上げた。
アンはどうしていいか分からず、僕に目で訴えた。
僕も目と簡単なそぶりで大丈夫だからとアンに伝えた。
「うわぁ、すごいフワフワ、気持ちいい」
「ハライト、モテモテだな」
「当然だ、俺の羽毛の気持ち良さは、素直な子供たちならすぐに分かるのさ」
油断していたところに、ハライトは後ろから頭を叩かれた。
「ウスベニメ、モエギシュウメ、遅かったじゃない」
ディフィーが声を掛けた。
「一緒に来ようとしたのだけど、アレクの裸が見えちゃって、そしたらウスベニメが真っ赤になって一旦Uターンしちゃったの。
ラミアの文化では裸はOKだし、私たちが着く頃にはもう服着ているから、とは言ったんだけどね」
モエギシュウメがしょうがないなぁ、という感じでバラした。
「ちょっ、ちょっと、モエギシュウメ」
「別にいいじゃない。 アレクは見られても気にしてないよ、きっと」
「私が見ちゃったことをわざわざ教えなくてもいい」
ウスベニメは赤くなってあたふたしている。 モエギシュウメの方がそういうところはサバサバしているな。
今がチャンスだ、今のうちに謝っておこう。
「二人ともごめんよ。 今日温泉に入るのが二度目だったから、つい着替えを持って入るのを忘れちゃったんだ。
ハーピーが来る時にそれじゃあいけないよな、ほんとにごめん」
「いえ、ハーピーの視力だから見えちゃっただけですから。
別にわざわざ見せつけようとした訳ではないのですから、気にしなくていいです」
「そういえばデイヴたちもこっちに向かっていたぞ、って来たか」
「おお、アライムたちも来てたか。 話があるんだが、その前に汗まみれなんで、温泉に浸かってくるから待っててくれ」
家の中が騒がしいのに気がついたデイヴが、温泉に入る前に声を掛けて来た。
「それじゃあ、前みたいに温泉に入って話すか、俺もここの温泉も入ってみたい」
「今回はセカンとディフィーにも話に加わって欲しいから、待っててくれ。
まあ、セカンとディフィーは温泉に入ってでも構わないだろうけど、ウスベニメとモエギシュウメがいるからな」
そんなことを話しているうちに、ウスベニメとモエギシュウメはもう中でおしゃべりを始めている。
アンもそれに普通に加わっているみたいだ。
「アライム、お前も温泉に入って来てもいいぞ。 今は女性は誰も入ってないから大丈夫だ」
ラミアの独り言 ep.17 「指揮をするということ」も良かったら。 少し前からこの頃にかけての話です。




