200. 馬2
「アレク、お前、馬には乗れるか?」
「ああ、一応乗れるぞ。 だけどほとんど自己流だから、乗れると言っていいのかっていうレベルだぞ」
「ま、馬なんて、結局は馬との相性と慣れだからな。
それでも心配なら少し見てやるぞ」
デイヴが声を掛けてきて、キースが教えると言ってきた。
「ということは、デイヴ、馬で交渉に向かうということか?」
「まさか、ハーピーに頼んで空からという訳にもいかないし、歩いて何度も通うのは、ちょっと大変だからな。
せっかく馬がいるんだ、活用させてもらおうぜ」
「馬に乗ってこの時期走ると寒いけど、それでも寒い中をトボトボ歩いて行くよりは俺は良いと思うぜ」
「ま、それはキースの言う通りだけどな」
そんな話をしてると、デイヴがギュートに声を掛けた。
「ギュート、俺たち3人に馬を使わせてくれ」
「なんで俺にそんなこと言うんだ?」
「いや、どう考えたって、馬の管理はギュートの仕事だろ。
そしたら、責任者にきちんと話を通しとかなくちゃな」
「ま、馬に関してはラミアはまだ何も出来ないからな。
そうするとまあ、やっぱり俺なのかな」
「そういうことさ。 それで使わしてもらって良いか」
「ああ、それじゃあ、乗るなら、洞窟に残されていた5頭からそれぞれ好きなのを選んで、自分で少し馴らせよ。
あの5頭は乗馬用に訓練されているみたいだから、すぐにでも使えると思うけど、きちんと関係構築しといた方が、互いにとって良いからな。
特にアレクは一頭は家の方の厩舎に連れて行って、自分で世話しろよ」
「えっ、今の二頭分の大きさにしか作ってないよ」
「早速拡張工事だな。 良かったじゃないか、まだ屋根も作ってなかったんだし。
ナーリアたちに手伝ってもらえ」
ギュートは簡単に言ってくれるが、僕はちょっと憂鬱になる。 最近寒さが厳しくなってきたので、ナーリアたちはあまり外に出たがらなくなってきているのだ。
もちろん、訓練や様々な用事のために外に出ることは厭わないが、そうでなければ家の中になるべく居たいようなのだ。
まあラミアの場合、どうしたって尻尾の下側は地面に触れているわけで、そこから熱が奪われてしまうのはどうしようもない。 上側は毛皮で覆えるようになったけど、下側は如何ともしがたい。
変温動物のラミアにとって冬が辛い季節なのは、動かしがたい事実なのだ。 恒温動物でも冬眠する種類も多いし、人間にとっても辛い季節なのは一緒だと思うけどさ。
ま、仕方ない頼んでみるか、まあ、手伝ってくれると思うけど。
翌朝、一番最初に馬を奥に取りに行く。
流石に戦いの後だけに、この日は近接戦闘の訓練は休みになったからだ。
僕は厩舎の拡張をしてから馬を奥に受け取りに行けば良いのかと思ったのだが、なるべく先に馬を一緒にして、馬同士を慣らした方が良いとのことで、先に行くことになったのだ。
荷物を運ぶ必要があったので、アンとメリーに一緒してもらって馬車で行く。 途中で集落に立ち寄り、鞍などの馬具を3セット受け取って行く。 デイヴとキースの分もついでだからと頼まれてしまったのだ。
まだ馬がラミアに慣れていないから、馬具を載せたりは全部1人でやらねばならなかった。 アンに手伝わせるのもなんだし、仕方ない。
「アレクさんは馬に乗れるのですか?」
「うん、まあ、一応くらいだけど、乗れるよ」
「私もこの二頭なら乗れるというか、馬の方で乗せてくれるのですけど、他の馬では怖くてダメです」
「うん、僕もそれに毛の生えた程度だよ。 馬は頭が良いから、乗り手を見て選んでくるよね」
「そうなんですか。 私はこの子たちしかよく知らないんで、そういうことはわからないんです」
「お兄ちゃん、馬に乗れるの? そしたらメリーも一緒に乗せて」
「うーん、ちょっと待ってね。 馬がお兄ちゃんをちゃんと乗せてくれるかどうか、試してみないと分からないからね。
ちゃんと乗れたら、一緒に乗ろうね」
「うん、分かった」
僕らが奥の厩舎のところに行くと、もう友たちが厩舎の屋根などのまだ出来ていない部分を作る準備をしていた。
ここにはラーリア様たちラミアは来てなかったので、僕はすぐ近くまで馬車をアンに着けてもらった。
「おう、馬具を持ってきてくれたか、ご苦労」
デイヴが声を掛けてきたが、なんだ随分と横柄な態度だな、と思ったら、友たちが吹き出していた。
なんとなく、僕は状況を理解した。
「おいアレク、領主家の三男様だぞ、頭を低くしないとな」
ボブが笑い顔でそう言った。
僕もその言葉に乗ってやって言った。
「はい、三男様、こちらにお持ちしたのでご覧になってください」
また、大爆笑になった。
「ああもういつまでこんなことやらせるんだよ。 もうお終い」
デイヴの方が耐え切れなくなってしまったようだ。
「とにかく馬具を降ろしてくれ、載せる時は俺一人でやらなくっちゃならなくて、大変だったんだぞ」
「ああ、そうか、他に誰も手伝えなかったんだった、忘れてたよ。 悪かったな」
「ま、このくらいのことは大したことじゃないから良いんだけど」
素直に謝られると、それ以上は言えないよ。
「それでアレク、この5頭なんだが、どの馬がいい?」
「俺が先に選んでいいのか」
「そりゃ、お前が一番下手そうだからな」
キースにそう言われると、返す言葉がない。
「ギュート、一番性格が穏やかそうなのを選んでくれ。 俺はそれにするよ」
「そうだな・・・」
ギュートがどの馬にしようかと考え始めたとき、僕の足にまとわりつく様にしていたメリーが声を出した。
「お兄ちゃん、メリー、このお馬がいい」
「おっ、メリーちゃんだったな。 なかなか目利きだな、すごいぞ。
そうだな、確かにこの馬が良いかも知れない。 優しそうだし、馬もメリーちゃんを気に入ったみたいだ」
「おいおい、メリーが乗るんじゃなくて、俺が乗るんだぞ」
「ま、いいじゃないか。 子供に優しい様な馬は、性格が穏やかなんだよ、うん」
ホントかな、ギュートに褒められてメリーは嬉しそうで良い調子だけど、ま、良いか。
その後、僕は一応馬具の馬への付け方などを習った。
馬具が一応騎士用の物なので、僕が知っている庶民の物とは少しだけ違っているので、念のためだ。
「それからアレク、一つ忠告しておくけど、蹄鉄がだいぶ傷んでいるんだ。
もう付け替えないとダメな時期にきているのだけど、替えの蹄鉄は洞窟にはなかったんだ。
ボブと一緒に大急ぎで蹄鉄を作って付け替えようと思っているのだけど、そこはちょっと気をつけてくれ。
俺も急に大忙しだよ。 気が付いていると思うけど、ほら、商人が連れていた馬は二頭もお腹が大きいんだ。
アレクや俺たちの子供が生まれるのが早いか、子馬が生まれるのが早いか、微妙なところだな」
馬もラミアも冬が出産時期なんだなと、同列に考えて良いのかとは感じたが、ついそう思ってしまった。
「ま、とにかく問題は、馬に食べさせる物だな。
ある程度は、糧秣があったけど、ラミアの里にはサイレージがないからなぁ。 次の冬に向けては作るとしても当座をどうするかだな。
草原の方にはいくらか食べれる草があるかどうか確かめないとな。
どっちにしても毎日運動のためにも草原に連れていく必要はあるから、アレクもだけど、他のみんなも馬にちゃんと乗れる様になってもらわないとな。
敷き藁もきっと足りないから、草原で枯れ草を刈ってくるか」
急に馬を13頭も飼育する責任を押し付けられたギュートはブツブツと考えながらの独り言が止まらない。
なんの用意もしてなかったのだから、色々大変なのはしょうがない。
僕はとりあえず馬には乗らず、手綱を引いて帰ってきた。
鞍の上にはメリーが座っている。
落ちると危ないと思って止めようとしたのだが、「絶対に乗ってく」とわがままを言ったのだ。
アンが仕方ないという感じで、「落ちて、泣いても、お姉ちゃんは知らないからね」と渋々許すので、そういうことになった。
馬は本当に優しい気性の様で、メリーが鞍に乗ると、落とさない様に暴れることもなく静かに僕に合わせて歩いてくれた。
馬一頭の手綱を持って歩き、その後ろを二頭立ての荷馬車がついてくる。
今までのラミアの里にはなかった光景なので、なんだか変な気分だ。
家まで戻って、さて、馬をどこに繋ごうかと考えていたら、ナーリアに手で指示された。
家の裏手の厩舎のある位置から少し離れたところに、馬をつなぐための杭が打ってあった。
早速そこに行き、まずは新しい馬を繋いで、メリーを地面に下ろす。
それから、もう二頭を馬車から外し、杭に繋いでから、新しい馬の鞍も外してあげた。
アンとメリーが苦労して、桶に水を運んできた。 僕は早く一輪車を作ろうと思った。
厩舎の拡張工事は大分進んでいる。
僕は馬をアンとメリーに任せて、厩舎の工事に加わりに行く。 アンとメリーは馬のブラッシングをしようと考えているみたいだ。
「杭、打っといてくれたんだな。 ありがとう」
「ああ、ディフィーがその必要に気がついたんだ、礼ならディフィーに言ってくれ」
サーブにそう言われたが、きっと杭を打ったのはサーブなのだろう。 僕はディフィーにも礼を言った。
「アレク、同じ大きさの部屋になる様に拡張したけど、これで良い?
壁も竹を結わえ付けただけだから、隙間風が入っちゃうけど、馬は大丈夫かしら」
セカンがそう言って聞いてきた。
「馬は寒さには強いから、とりあえず大丈夫だろうけど、後で土を練って塗りつけて隙間を塞ぐことにしよう。 それよりも今は屋根だな。
あと、敷き藁にする藁が足りないってギュートが言っていたから、後で草原に行って枯れ草を刈ってこないといけない。
枯れ草や、飼料を貯めておく場所も必要だな」
「馬を飼うのって、大変なのね。 セカン、今度、図書館で馬に関しての本を探して読んでみよう」
僕とセカンの話にディフィーも加わってきた。
「そうね。 私たちは馬のことを何も知らな過ぎる」
「ほら、そこ、しゃべってないで、屋根作っちゃうよ」
ナーリアに怒られた。
午後からは草原に行った。
枯れ草を刈ってくる必要があるので、寒いけどナーリアたちにも付き合ってもらう。
ナーリアたちは尻尾にも毛皮を着けて、温石も持って、完全防備だ。
アンがたぶん大丈夫と言うので、ナーリアたちは荷馬車に乗った。
「馬は利口だから、自分たちが入る場所をみんなが一生懸命に作るのを見てたから、きっともう大丈夫かなって」
アンはそう言っていたが、本当に馬は落ち着いていて大丈夫だった。
「自分で歩いたり、走ったりしないで移動するのって、なんだか変な感じ」
「でも、この馬車は幌もあるから、風が当たらなくて快適だな」
レンスとサーブがそんなことを言っている。
「ねえ、アン、私も慣れたら、前でそうやって馬を操ることできるかな」
「そんなに難しくないから、すぐに覚えられると思うよ。
でも、もっと馬に慣れて、馬もみんなに慣れてからね」
「そっか、まだ遠いのね」
僕はそれどころではない、とりあえず馬に跨ってみたのだけど、ぎこちないことこの上ない。
その上、メリーが一緒に乗ると言って、膝の中にいる。
落馬でもしようものなら大ごとだ。 冬で寒いというのに大汗をかいてしまった。
本当に大人しくて優しい馬で良かった。




