199. デイヴの正体
「えーと、それじゃあ、最後に俺から、今回洞窟に巣くって商人を襲った奴らに付いて、調べて分かったことをお伝えします」
今までのデイヴに似つかわしくなく、いや、今回の件が始まってから、デイヴは今までとは違った姿を見せている。
「結論から言えば、最初から懸念していた通り、奴らは野盗に偽装した、砦の者たちでした。
その点は残された証拠から明白でした」
「その残された証拠というのは何があったの?」
ミーリア様が訊ねた。
「はい、洞窟に残されていた馬の馬具にはフロード家の紋章が入っていましたし、俺とキースが奴らの武器の中で別に分けていたのにも、その紋章が入っていたのです」
「洞窟の中に残されていた武器にも、二つ程見つけました」
キースも言葉を加えた。
「それだけでなく、商人の馬車の中に残されていた書類を俺とキースで調べてみたところ、重大なことが分かりました。
砦の主人であるフロード家の家宰から商人に向けて、来訪を依頼する文章が出てきました。
しかもその文章には商品の価格についても、通常の2割増しで買い取ると確約してありました。
それらを勘案すると、フロード家が計画的に商人を呼んで、その商人を襲っていたと考えられます」
「悪質だな」
ラーリア様が吐き捨てるように言った。
それはみんなの思いと同じだった。
僕はアンとメリーの父親も、そうやって騙されたのだろうと思った。
アンとメリーの母親が亡くなったことで、それまでとは同じに商売を続けられないと思っていたところに、この話が転がりこんできて、それに乗ってしまったのだろう。
「でも、紋章のついた馬具や、武器が出てきただけでは、その何とか家が直接に関与したと断定するのは問題があるんじゃないの?
例えば盗まれた物である可能性だってあるんじゃない」
ミーリア様は慎重だ。
「いえ、ミーリア様、まずそもそも馬を紋章がついた馬具付きで5頭も盗むなんて、まず不可能ですし、紋章付きの武器とは、主人が自分の信頼する兵に与える物ですから、それが7本も盗まれているなんてあり得ません。
紋章付きの武器を盗まれたりしたら、その盗まれた者は恥じて、とても生きてはいれません。 大騒ぎになります。 あり得ません」
「そういうものなのか。 私がラーリア様にいただいたハルバードを盗られるのと同じような感じなのだな」
「おいおい、サーブ、いくらそのハルバードが特別な物だとはいっても、お前の命と引き換えにする程の物ではないぞ。 そこは間違えるな」
サーブの言葉にラーリア様が慌てて注意をした。
確かにサーブが今言った言葉の勢いには、自分の命よりも、もらったハルバードを優先しそうな危うい勢いがあった気が僕もした。
「つまり、今回の件について、その何とか家というのが、直接に関わっているということが確定なの?
まだ納得できないわ。
家宰にしろ、他の人にしろ、まだ他の者が画策している可能性もあるんじゃない」
僕には何故ミーリア様がそこにそんなに拘って訊ねているのかが疑問だった。
砦の者が関わっていることが判明した時点で、もう誰が主犯であってもラミアにとっては同じことではないかと思ったのだ。
「ま、誰が主犯だろうと、砦の者が関わっていることは同じだし、今までのことも含めてだけど、ラミアを犯人に仕立てて、自分たちの悪事を隠しているということが、俺には我慢できねえ」
ケンがやはり僕と同じ気持ちだったのだろう、そう言葉を発した。
「ケン、それは違うわ。
ミーリア様は、今後のゴブとの戦いを考えて、ハーピーと同盟した時の約束にもあったように、人間との関係を考えているのよ。
その時にあの砦の一番上が交渉の相手になる者かならない者かは、とても重要だわ。
もし、今回や今までの事がそのフロード家が関与してのことなら、交渉の相手にならないことは確実だし、そうではなくて、それより下の者の勝手な行いなら、それを交渉開始のきっかけに使えるわ」
ディフィーが、そうミーリア様の言葉を解説してくれた。 ケンに対しての言葉だから口を出せたのだろうけど、それでもこの中で、ミーリア様の言葉について発言するのはディフィーだからだろう。
ああ、なるほど、そういうことか。
僕もだけど、友たちも、ラミアに罪を擦り付ける行いに対する怒りが先に立って、そこまで頭が回っていなかったようだ。
デイヴも納得した顔をしたが、続けた言葉は、少しも変わらなかったようだ。
「残念と言って良いのかわからないのですが、フロード家が関わっていないということはあり得ません」
デイブはキースに目配せをすると、キースは鞘に入った剣を一振り持ってきた。
「これは、戦いの時に最後にミーリア様が殺した男が投げ寄越した剣なのですが、ちょっと特別な剣なんです。
この剣は昔、領主家が戦功のあったフロード家に褒美として与えた剣なのです。 そしてこの剣は代々フロード家の次期当主がその腰に佩くのが習わしなのです。
つまり、あの下衆な男は、フロード家の次期当主が予定されていた者で、もっと具体的に言えば、現在のフロード家の当主の長男でした」
「それは間違い無いのか?」
ラーリア様が確認した。
「はい、俺は奴を見知っていましたので、確実です」
「俺も見た事があるので、同意します」
キースも言葉を添えた。
「ここでもやはりフロード家か。 確定だな」
ボブがそう言った。
ここでもというのは、暗に大火の責任についてのことも頭にあったのだろう。
僕たちはすぐに分かったが、ナーリアたちはちょっと「え、何?」という顔をしたが、そのまま流された。
「ところで、デイヴとキースは随分とそのフロード家というのに詳しい様だが、その理由を話してはもらえるか。
デイヴとキースの剣の腕前を見ると、特にキースは凄腕だからな、何か事情があるのではないか」
ラーリア様が、もう曖昧にしておけないと考えたのか、デイヴとキースに訊ねた。
「はい。 俺たち狩人学校で一緒だった人間は、暗黙の了解として、互いの過去のことや、その素性に関しては詮索しないことになっていました。
ですから、俺やキースの過去や素性は友たちも知りません。
俺は、実は領主家の三男です」
ラミアたちはそう言われても、あまり何も感じないようだったが、僕を含めた人間は、みんな後ろに仰け反った。
「デイヴ、お前が領主家の三男?」
ケンがもう一度聞き直した。
「ああ、実はそうなんだ」
「おいおい、食いしん坊デイヴが領主家の三男かよ」
「随分と領主家の格が下がったな」
「いや、デイヴが突然変異なんだろ」
「おい、お前ら、好き勝手言いやがって」
デイヴが怒り始めたところで、レンスが聞いた。
「それって何か意味があるの?」
そうか、ラミアはほとんど親という者がいないし、個人の実力主義だ、ま、若干年功序列的なところはあるけれど。
「ん、まあ、なんて言うか。
デイヴの親が人間の町で一番偉い人っていうことなのだけど、人間の町の一番偉い人は、代々の世襲になっているから、デイヴもそれなりの扱いを受けるのさ」
僕は説明を試みるが、たぶんレンスには通じてない。
「それで、デイヴは分かったけど、キースは何?」
エレクが話を元に戻した。
「俺か、俺は元々は一応騎士の家柄の次男で、デイヴの護衛だったんだ。
ところがデイヴがこの調子だろ。 護衛というよりは悪友って感じになっちゃって、気がついたらこうしてここに居たっていう感じ」
「おいおい、いくらなんでも端折り過ぎだろ。 全然わからないぞ」
バンジがキースにそう突っ込んだ。
「まあ、そうなんだが。 それが俺の実感なんだよ。 なんでこうなっているんだろ、さっぱり分かんないや。
でもさ、俺は今の俺が嫌じゃ無いんだぜ。 なんとなく仕方なしにデイヴにくっついていたら、お前らやラミアと知り合って、普通の騎士の家の次男やっているより、絶対に充実している気がするんだ。
それにこんなこと言うの柄じゃ無いんだけど・・・」
そこまで言うとキースは真っ赤になって俯いて、小さな声で
「俺は、お前たちもラミアもとても気に入っているから」
その言葉に僕たち人間はみんな仰け反って慌てた。
ケンも真っ赤になって、慌てて口走った。
「キース、お前、何を言っているんだ。
そりゃ、お前、俺も同じような気持ちだけど、それは口にしないというか、恥ずかしいじゃないか」
ラーリア様、ミーリア様、ナーリアたちから注がれる生暖かい視線にどう反応して良いかわからない。
特にイクス様などはすごくいい笑顔で僕たちの方を見ている。
「えーと、ですから・・・」
その視線に耐えきれなかったデイヴが無理やり話を元に戻した。
「俺は、あの男を以前から知っていたので、見間違いようがなかったのです。
あいつは俺のことが分からないみたいだったですけど」
「ま、今のその体型じゃ分からないよね」
ヤーレンも、きっと別の話題にしたいからだろう、デイヴに軽口を叩いた。
「ヤーレン、言っておくけど、俺だって以前にもここまで筋肉はついていなかったけど、ちゃんと引き締まった体型をしていた時だってあるんだぞ」
「ま、そんな時も確かに僅かだがあったなぁ。
でも、あの下衆野郎が、その引き締まった体型の時のデイヴを見た可能性は低いと思うな」
普段あまりこういう軽口に参加しないキースが参加してきたのは、さっきの照れ臭い雰囲気を打ち消したいが為だろう。
「それで、人間との交渉なのですが、とりあえず俺に任せてくれませんか。
俺も今まで見えていなかったことが色々見えてきたので、ラミアとハーピーの同盟に、絶対に人間も巻き込んでみせます」
デイヴの決意を聞いたラーリア様は、ちょっとイクス様とミーリア様と視線を合わせて、その意見を確認すると
「分かった。 とりあえずの人間との前交渉は任せよう。
ただ、デイヴ1人でそれに当たるのは心許ないから、ハーピーの時と同じように、アレクとキースと3人で当たれ。
デイヴ、これでどうだ?」
「はい、俺からもそれを望もうと思っていたところです。
アレク、キース、頼む」
僕とキースは軽く手を上げて了承した。
「さて、とりあえずの問題だが、砦と洞窟とで馬によるやり取りがあったと聞いた気がするが、それはどうする?」
「そうですね、ハーピーからもそういう報告が上がっていましたが、どうなの?」
今の言葉はアレア様に対するものだ。 アレア様は即座に答えた。
「はい、今までは週に一度か二度、砦から馬での訪問者がありました。」
「それでは、その者を捕らえて、私が殺した者の代わりに証拠にしましょうか」
ここで、セカンが発言した。
「いえ、ミーリア様。 そのまま放っておく方が良いと私は思います。
あの下衆な男は『ラミアがこの時期に活動しているとは思わなかった』と言っていました。
だとするとそのままにして放っておけば、洞窟に何もないのを見ても、何が起こったのか理解できず疑心暗鬼にかられて、動きが取れなくなると思います。
その間にデイヴが人間の一番上と交渉するのが良いのではと思うのです。
私たちはハーピーの監視で、彼らの動きがわかりますから、それによる不利益はないかと思います」
うん、セカン、なかなか悪辣な作戦だね。 確かに捕えるよりもずっと効果がありそうだ。
その意見が採用された。




