198. もう一度の報告とその前
僕とアンが馬車に馬の糧秣を積んで家に戻ると、もうラーリア様たちとミーレナさんは家の方に来ていて、珍しくもミーレナさんがラーリア様たちと一緒に温泉に入っていた。
僕はとりあえずアンと一緒に馬を厩舎に入れて、世話をアンに任せた。 メリーもすぐにやってきてアンを手伝って馬の世話を始めた。
2人は馬の世話に慣れているようだし、馬も2人を信頼しているようだ。
僕が家に戻ると家の中ではナーリアたちが一生懸命に食事の準備をしている。
「今日はミーリア様も来るし、ミーレオ様たちも来るでしょ。
食事の後はきっと話し合いになるから、人間もここで全員食事することになる。
ミーレナさんが、『私がその準備を頑張るわ』と言ってくださったけど、ミーレナさんだって卵を抱えているのだから、無理をさせられないじゃない。
だから大忙しなのよ」
僕はナーリアの指示に従って、その作業の手伝いを始めると、すぐにラーリア様たちが温泉から上がってきて、ミーリア様たちもやって来た。
集落で糧秣を積み込んでいる時に、ミーリア様たちは森への入り口を隠し終えて戻って来られたのだが、馬を怯えさせないように、馬が集落を出発してから自分たちも移動し始められたのだ。
「ナーリア、私たちは汚れているから、一番先に温泉に入らせてもらうわよ」
「はーい、わかりました」
ミーリア様はナーリアにそう声を掛けると、温泉に他のミーリアの方たちと向かって行った。
それから少しして、友たちも現れた。 友たちもミーリア様たち同様、ちゃんと着替えも持ってきているみたいだ。
「ミーリア様たち、俺たちも入って良いですか?」
ボブが一応尋ねると、ミーリア様が
「もちろん、構わないわよ。
でもちょっと残念ね。 私たちはもう上がるところなのよ」
ミーリア様たちはそれぞれのパートナーをちょっと触ったりして、温泉から出てくる。
僕たちもイクス様に言われて温泉に入ることにする。
「ナーリアたちも入ってらっしゃい。
食事の準備は私とミーレナが替わるわ。 それに少しラーリアたちも働かせないと。
どうせラーリアたちは食事は要らないのだから、たまには働いてもらいましょう」
どうやら噴出のせいで、人間は奥でラーリア様たちと過ごしていたから、今回はラーリア様も含めて食事は必要としないようだ。
その時ミーレナさんをちらっと見ると、ニコッと笑ったから、ミーレナさんもどうやら食事を必要としていないようだ。
ちなみにアンとメリーは何というか気圧されてしまったみたいで、後でゆっくり入ると言って、今回は一緒していない。
朝は、裸で僕に抱きついて泣いたから今更と思ったのか、アンとメリーも僕たちと一緒に温泉に浸かったから、どうかなと思ったのだけど、流石にこの人数となると無理みたいだった。
サーブがメリーと一緒に入りたいみたいで、「それじゃあ私も後にしようか」と言ったら、イクス様に
「サーブちゃんは食事の後の話にも加わるのだから、今入ってきなさい」
と言われて、スゴスゴと僕らと一緒している。
僕たちが脱衣場で服を脱いでいる時に、アレア様とアーロア様とアリファ様に案内されるようにしてミーレオ様たちがやってきた。
戸惑った様子で、ミーレオ様たちが入ってくる。 そうだったミーレオ様たちは温泉が初めてだったんだった。
僕たちは温泉の方に入っていった。
「あれっ、アレク、助けた2人は?」
アンとメリーがいないのに気づいたエレクが聞いてきたが、僕が答える前にハキが言った。
「エレク、お前も染まり過ぎ。 人間の女の子がこの場にすぐにヒョイヒョイ入って来れる訳ないだろ。
ハーピーの女の子だって、ラーリア様にからかわれていただろ」
「そうだった、ラミアはそういうの全く気にしないから、つい忘れちゃうよ」
「エレク、気をつけた方が良いぞ。 ウスベニメはそれで随分と長い間影では俺のこと怒っていたみたいだったから」
「何だ、アレクそうだったのか。 俺は全然気づかなかったよ」
「キース、お前だって同罪に決まっているだろ。
俺がその誤解をウスベニメに与えた時に、お前ら2人も一緒に居たんだからな。 それに対して何も言わなかったのだから、もちろんウスベニメにとっては同罪だよ」
「俺が何も言わなかったからって、それだけで同罪なのか? それって、ちょっと酷くね。
でも、アレクがそんな誤解されるようなことを何時ウスベニメに言ったんだ? 俺それさえわからないよ」
「デイヴ、そんなだからウスベニメに同罪って思われるのよ」
レンスがそう言って、みんなが笑った。
「でも人間もハーピーも面倒ね。 裸を見せてどうということもないのに」
「ま、それがラミアの価値観だよね」
ディフィーの言葉に、エレクがそう返すと
「エレク、私たちの方がおかしいっていう口ぶりね」
「いや、そんなことはないよ。 郷にいれば郷に従えだし、僕らはもうみんなそれに馴染んじゃったし」
ミーレオ様たちが湯船の方に入ってきた。
ミーレオ様がため息をついて声を出した。
「全く、ほんの少し寝ていただけなのに、ここにはこんな温泉なんて施設ができているし、人間たちもナーリアたちも変わり過ぎだろう、最初誰なのか分からないようだったぞ」
「そんなに変わりましたか?」
ナーリアが合いの手を入れた。
「ああ、お前たちナーリアは変わり過ぎだ。 サーブだけは体が大きくなっただけであまり違いを感じないが、他は別人かと思ったぞ。
それ以上に変わったのはデイヴだ。 私の可愛いデイヴがいないと思って、私は探してしまったぞ。 私の知らない間にこんなに変わり果てるなんて、ラリオ様とミーリオさんはどんな過酷なことをデイヴに強いていたのかと思うと、私は涙が出るぞ」
ミーレオ様の冗談とも本気とも取れる言葉を聞いて、デイヴは真っ赤になりつつも焦って弁明した。
「ミーレオ様、俺は何も過酷なことを強いられたりはしていません。 ただ、他のみんなと同じように戦闘訓練をさせられただけです。 何も特別なことはしてないですから」
「そうなのか、こんなに痩せ細ったのに」
今度は明らかに冗談だとわかったので、みんな大爆笑した。
それでもやはりミーレオ様たちは人間の変化が一番気になるみたいで、それぞれの相手のところに近づいていって、体をペトペトと触って以前との違いを確かめていた。
デイヴはもちろんだが、エレク、ケン、ダイクもどういう顔をして良いか分からない顔をしているが、とりあえずミーレオ様たちの好きにさせているようだ。
アレア様、アーロア様、アリファ様は3人で纏まって話している。
「ああなっちゃう気持ちは分かるよね」
「うん、私が同じ立場でもああなると思う」
「変わっていくのを間近に見ていた私たちだって、ちょっとビックリだった。
脱皮しない人間も、こんなに姿が変わるんだって」
ミーレファ様が聞いてたみたいで、叫んだ。
「そこの3人、あんたたちにも驚いたんだから。
特にアリファがイクス様の代わりに物品係になっていたのはビックリよ」
「はい、それは私自身もいまだにビックリです」
アリファ様がそう答えたので、みんなまた笑った。
食事の後、さて全員で今後の話し合いかとも思ったが、作業場で話し合いをするにしても人数が多すぎる。
食事の時はラーリア様たちなどは作業場の方に入りもしなかったので、僕たちも普段のテーブルの方にいて、何とか入りきることができた。
作業場の収容人数は食事をすることを考えると、ラミアだけだと20名くらい、人間だけだと30人くらいだろうか。 ラミアは尻尾が長い分、場所を人間よりとってしまうのだ。
話し合いとなると、テーブルなどはいらないし、ぎゅうぎゅうに詰めればどうにかなるかとも考えたけど、総勢で50名近い人数はやはり無理がある。
まずミーレオ様たちが、私たちは起きたばかりで何も分からないからと先に集落に戻られた。
次にラリオ様以下のラーリア様たちが、私たちは今は直接には動けないから、基本ミーリアに任せると言って、代表としてラーリア様だけ残って後は奥に戻られた。
「ま、後でラーリアに話を聞いて、思うところがあれば、それは後で伝えても間に合うでしょ」
ラーリド様がそんな風に言って、ちょっとミーリア様たちにウインクして去っていった。
うーん、なんかちょっとプレッシャーをかけられた気分になっちゃうな。
ミーレナさんも、私も先に戻りますと奥に一緒に戻られた。
ナーリアが、「それでは私たちもこっちに居ますので・・・」と言い出したら、ミーリア様に
「ナーリアたちは当然全員参加よ。 逃げられる訳ないでしょ」
と釘を刺された。 ま、そりゃそうだよね。
アレア様、アーロア様、アリファ様も、集落に戻ろうとしたところを捕まっている。
「さて、詳しく話をまずは聞こうか」
ラーリア様の言葉に、友たちが誰から話そうかと目配せをした。
「それじゃあ、報告だけでほとんど済むと思う俺から」
ギュートが自分から最初に話始めた。
「馬なのですが、商人が使っていた馬が8頭、洞窟内の5頭の計13頭が手に入りました。 それと共に馬車の中と洞窟から、かなりの量の馬のための糧秣が見つかりました。 でもそれだけではこの冬の間を乗り切るのは無理な量です。 ラミアの里では馬の飼料を作ることをしてこなかったので、少し問題なのですが、毎日馬を草原の方に連れていって、いくらか残っている草の芽なんかを食べさせて、それに見つかった糧秣を足せば、馬の食事はどうにか足りると思います。
厩舎はまだ応急で、屋根も出来てないですけど、あと2-3日は掛かるかな、って感じです。
まずは馬をラミアに慣らさないと、それが第一目標です」
「その辺はギュートが一番詳しいのか。 任せるから、必要なことを進めてくれ」
「はい、了解です」
ギュートがラーリア様にそう言われて、報告を終えると次にハキが報告を始めた。
「商人の馬車にあった積み荷なのですが、特別に珍しい物というものはありませんでした。 普通の交易品でしたが、ちょっと高級に分類される物が多いようでした。
ちょっと目に付いたのはかなり大量の紙を積んでいた、馬車が一台あったことでしょうか。 紙は使う場所は決まっていますし、僕たちも人間の町でも作ってはいますので、態々何で積んで来たのかな、と」
ラーリア様とイクス様は顔を曇らせた。
「もしかすると、その紙はここに売りに来るための物だったかもしれないな。
今回襲われた商人の中に、ラミアの里に来てくれていた商人も含まれていたのかもしれない」
僕を含めて人間たち、いやナーリアたちも意外な言葉を聞いたという顔をした。
「ん、以前にも言わなかったか。 ラミアとて、全く他の者との交渉がなかった訳ではないぞ。
ラミアの里の者みんなが起きている時には混乱を生むかもしれないから、冬場のこのくらいの時期に商人が訪れていたんだ。
我らは主に紙や、金属の道具などを、獣の皮や、麻の布や糸と交換していたんだ」
「なるほど、ですから隠されてはいるけど、ラミアの里に向かう道がちゃんと整備されているんですね。
それに、その入り口を開いたり、また隠したりのミーリア様たちの手際が良かったのも慣れた作業だったからだったんですね」
ハキが納得したという顔をして言った。
「それでは今回もしかすると殺された商人に、ここに来ている商人がいたのですね。
私は商人との取引には直接関わっていませんでしたので、殺された商人たちの顔を見ても全く気が付きませんでした」
ミーリア様が申し訳なさそうに言った。
「まあ、商人とは主にラーリドが関わっていたからな。 ミーリアが顔をよく覚えていなかったのは仕方ない。
他には?」
「はい。 その荷物なのですが、内容のリストを作り、集落の倉庫に収納しました。 ラーリア様に命じられた通り、ここに保護されている2人の馬車の物は分かるように分けて保管しています」
「アリファ、物品係としての仕事、ちゃんとこなせたわね」
「いえ、イクス様、左手だけでも出来るようにと、首から吊るす板を作っていただいていたのですけど、まだ左手で書くことが遅くて、用を済ますのに間に合わなくて、結局ハキにリスト作りは手伝ってもらって、書いてもらってしまいました」
「あら、別にそれは構わないわ。 ハキにあなたの助手になってもらっただけでしょ。 何でも1人でする必要は全くないわ」
「はい。 でももう少し自分でもテキパキ出来るように、左手で字を書く練習をしようと思います」
アリファ様はきっと字を書くことも猛練習して、すぐに克服するのだろうな、と僕は思った。




