197. 厩舎と馬
洞窟に残った4人は、ミーリア様たちが迎えに行った。
隠してある人間の道から森に入る入り口を開き、馬車を森に入れ、その後また隠してくるのだという。
結構手間が掛かりそうで、本来なら僕たちも手伝ってというのが普通だと思うのだけど、僕らは僕らで大急ぎでしなければならないことがある。
ラミアの里には馬を飼うための厩舎がないのだ。
日頃の世話を考えると、今起きている僕たちが主に暮らしている、禁足地の奥と僕らの家の近くに厩舎を大急ぎで作ることになったのだ。
僕らの家にも作ることになったのは、アンとメリーが自分の馬車を引いていた馬を自分たちで世話をするためだ。
それでも厩舎とはいえ、そんなに急にきちんとした建物を建てられるはずがない。
いくらバンジが凄腕の建築家だとしたって、それは不可能な訳で、こういう時はもうしょうがない、いつもの竹である。
奥は友たちとラーリア様たちで、11頭分の大きな厩舎を作り、僕たちは家の裏手のトンネルに向かう道の脇に2頭用の小さな厩舎を作ることになった。
僕らラーリア様たちが働いて大丈夫なのかと思ったのだが、イクス様によると竹を運ぶくらいの動きは別に大丈夫なのだという。
「戦闘訓練する訳じゃないんだから、そんなに心配しなくても大丈夫よ。
ま、アレクくんだけじゃなくて人間ちゃんたちは、みんな心配していたみたいだけど」
イクス様は僕らの家の方を手伝うために来てくれて、心配されたことをちょっとだけ嬉しそうな顔をして、そう言った。
とにかく馬がやってくるまでに、何とかある程度形にしたいので、僕たちは大急ぎで作業を進める。
即席の厩舎だから、とりあえず太い竹を地面に立てて、それを柱として上下二段に竹を括り付け、その二段の竹に縦に二つに割った竹をなるべく隙間なく立てて結んでいって壁にするという形だ。
もう、とりあえず区画が出来れば良いという感じで、馬には可哀想だが、2-3日は我慢してもらうことになる。
だって小さな厩舎といっても、馬2頭が時には横になれる大きさなのだから、結構大きいのだ。
こういうことでは張り切るサーブが、柱にする竹の穴を掘ったりを頑張ってくれたので、何となく区画は出来たし、壁にする竹を結わえたりはアンも手伝ってくれている。
意外に、メリーもちょこまかと、必要な人に縄を届けたり役に立ってくれているし、みんなのちょっとした気分転換になっている。
ま、僕は竹を切ることの専門で、ちょっと危ないから、僕の近くには来ない様にさせているんだけどさ。
昼になって、大急ぎで簡単な昼食を食べていたら、アレア様がやって来た。
「アレク、ギュートから、保護した2人も連れて、大急ぎで一度集落まで来て欲しいとのことだ」
「はい、アレア様ありがとうございます。 ギュートの奴、何の用なんだ」
僕は厩舎作りをみんなに任せて、アンとメリーを連れて集落に向かった。
集落にはもう馬車が着いていて、忙しく積み荷を降ろしている。
ギュートが指示を出している。
「まだ馬が慣れないから、とりあえず俺たちだけで積み荷をそれぞれの馬車ごとに、広場に下ろそう。
降ろした荷物は、ハキとアリファ様の指揮で、申し訳ないけどミーレオ様たちに倉庫にしまってもらう。
荷物を降ろしたら、俺たちはハキを残してもう一度洞窟に向かうぞ。
アレクは2人の馬車を担当してくれ。
それでアレクは2人の馬車を使って、即席の厩舎に藁を運んでくれ。 せめて敷き藁がないと馬が可哀想だからな」
友たちはその言葉に即座にしたがって、2人の馬車以外の3台の馬車からどんどん荷物を降ろしている。
僕もアンに確認させながら、荷物を降ろしていった。 アンとメリーの私物以外はおろすことにしたのだが、2人の私物はほんのちょっとだった。 亡くなった父親の持ち物はどうしたら良いのかと聞かれて、僕はそれも持っていこうと答えた。
3人が馬車の積み荷を降ろしている時、ミーレオ様たちは藁を少し離れは場所に積み上げていた。
ハキとアリファ様は2人で倉庫を見て来て、相談している。
アリファ様が僕たちに近づいて来た。
「2人の馬車の荷物は別にしてきちんと保管しておくから安心してね」
アンがそれに答えた。
「もう私たちの私物は別に分けましたから、他の物と一緒にしていただいて構いません」
「そういう訳にはいかないわ。 ラーリア様からきちんと分けて保管しておくようにと私は言われているのよ」
僕はちょっとアリファ様をからかった。
「アリファ様、もしかしてこの仕事、イクス様に押し付けられました?」
アリファ様は、ちょっと困った顔をしたけど、まあいいやという感じで僕に答えた。
「そうなのよ。 『物品係としての最初の仕事ね。』と言って、あっさり任されちゃったわ。
でも、『アリファは片手だから、こういうものを作っておいたわ。』と言ってこれもくれたのよ」
そう言ってアリファ様は首から下げた少し大きめの板を見せてくれた。
首からの下げ方を変えると、机代わりに使えるようにするためだ。
「仕事を押し付けられたのを迷惑に思う気持ちと、ここまで用意してくれていたことがとても嬉しい気持ちと、本気で私を物品係にする気なんだってびっくりする気持ちと、なんか色々だわ。
でも今1番の問題は、私左手だと最近やっと字が少しまともに書けるようになってきたところなのよ。 まだ細かく記録をつけるのは難しいわ」
「それは今日のところはハキに任せれば良いと思いますよ」
「それでもよいのかしら?」
「別に構わないと思いますよ。 ま、イクス様のことですから、段々と書けるように努力しないと怒るとは思いますけど」
「そうね。 ま、とりあえず今日はハキにお願いして、しっかり記録をとってもらうわ」
僕たちは藁をのせる作業を始めた。 かなり何回か往復しなければならない量だ。
束ねた藁をミーレオ様たちが積み上げてくれていた場所から、ミーレオ様たちが離れたのを確認して、馬車を近づけた。
馬がラミアに馴れていないから仕方ないのだが、それがかなり面倒だ。
アンも藁束を積むのを手伝ってくれるのだが、正直僕だけでは仕事が捗らず、ハキが見かねて手伝ってくれた。
「仕方ないけど、なるべく早く馬をラミアに慣らさないと、めんどくさいね」
ハキもやはりそう言ってきた。
僕は馬車に藁を満載して、奥に乗って行った。
アンとメリーも当然一緒に奥に行く訳だが、僕はそこで2人が奥に入っても良い許可をはっきりとはもらっていないことに気がついた。
奥への入り口で待っててもらって、僕が走って行ってということも考えたが、ええい、ままよとそのまま乗り入れた。
奥では共同住宅とバンジの家から少し離れた場所でみんなが作業している。
僕は馬が怯えないギリギリまで、そこに近づけてもらって、馬車を飛び降りて走って行った。
「ラーリア様、すみません。
あの2人なのですが、ここに来ても良い許可を受けていないと思うのですが、都合で一緒に来てしまいました」
「ああ、昨日忘れてしまっていたな。
お前たちと一緒に暮らしているのでは、許可しなければ面倒だろう。 構わないぞ」
「ありがとうございます」
僕は友たちの方に向き直って言った。
「おい、藁束降ろすの手伝ってくれ」
「おう、分かった」
僕も作業に向かおうとするとラーリア様に声を掛けられた。
「アレク、なんであんなに離れたところに止めたんだ?」
「馬がラミアに慣れていないんで、あれ以上近づくと興奮してしまうんです」
「なるほど、そういうものなのか」
僕はラーリア様も馬のことは知らないのだなと思った。
藁を積んで3度目の奥に向かおうかとしていた時、ギュートたちが洞窟から戻ってきた。
「アレク、奥に行くところか。
そしたら、みんなに一度ここに来てくれって言ってくれ。
ミーレオ様たちだけで積み荷を倉庫にしまうのは、ちょっと大変だからな」
「ええ、それじゃあ、載せる時はどうしたんだよ」
「仕方ないから、馬を馬車から外して、離しておいて、それでミーリア様たちに手伝ってもらったんだよ」
「そのミーリア様たちは?」
「人間の道への開けた入り口を、また今隠している。
それが終われば、戻ってくると言っていた」
「結構大掛かりなのか?」
「そうだな。 かなりしっかりとカモフラージュしているみたいだ。
最初、馬車で入ってくる時に、こんなにきちんと繋がっているんだって、ちょっとびっくりしたよ」
「そうか、ちょっと見たかったな。」
そんなことをちょっとおしゃべりして、僕らは奥に行き、伝言を伝えてすぐに戻って来ようとした。
「おい、先に行くな。 俺たちを乗せていけ」
アンは笑っていたし、メリーは人がたくさん乗って楽しそうだったのだけど、馬にとっては災難だったよね。
絶対に行きより帰りの方が重かった。
馬に近づける人数が増えたので、今度の荷物運びは効率よくせっせと進んだ。
「アレク、藁だけどもう自分のところの方に運んで良いぞ。
二頭分だったら、一回で運べると思うけど、もう一回来てくれ、とりあえずの分の馬の糧秣を渡すから」
ギュートにそう言われて、僕たちは家に向かった。
僕はギュートに家の近くに二頭だけ別の厩舎を建てていることを説明していないから、奥から来た誰かが教えてくれたのだろう。
家に戻ると厩舎は屋根を除いて、ほぼ形になっていた。
流石に屋根までは一度にできないし、竹を立てて壁にしただけだから、風も遮りきれない。
明日以降もう少し手を加えないとダメだ。
ナーリアたちにあまり近づかずに馬車を留め、藁束を下ろした。
下ろした藁束は馬車が離れたら厩舎に入れておいてくれと頼む。
「もう一回行って、馬の餌をもらってくる」
僕は馬車の御者席でアンと話した。
メリーは馬車にただ乗っているのに飽きたらしくて、家の方に残ると自分から降りてしまっていた。
アンは、ちょっと心配そうな顔をしていたが、話に付き合ってくれた。
「馬がラミアに慣れてくれないと、なんか本当に面倒だな」
「大丈夫ですよ。 馬は利口だから、すぐに慣れますよ。
今日だって、最初から比べれば随分と近くまで寄れるようになっていますよ」
「そうなの、全然気がつかなかったよ」
「あ、そうそう、アレクさん、ちょっと訊ねても良いですか?」
「うん、何? でも、みんなと同じように呼び捨てで良いからね」
「はい、ありがとうございます。
あの、ここには手押しの一輪車ってありますか?
馬を厩舎で飼うなら、私が世話をするのに、あると凄く助かるのですけど」
僕はなるほどと思った。
確かに手押しの一輪車があると、何かと色々便利だ。 考えついていなかった。
「そう言われてみると、ここにはないなあ。
すぐに作ろう。 とても便利だよね、あれ」
「はい、馬の飲み水を運んだり、厩舎を掃除した後とか、とても役に立つと思うんです」




