196. 居るのだった
その日早めにみんながそれぞれの夜を過ごす場所に戻って行った。
イクス様もラーリア様たちと一緒に戻って行ったので、レンスがホッとした顔をしている。
アンがどうして良いか分からずに不安そうにしている。
「とりあえず何か作ってもう少し食べない?
今日は良く動いたから、何となくまだ食い足りない気がする」
「そうね、ラーリア様たちの前で、いくら気にせずに食べながらで良いと言われても、食べながら話をしていたから、何だか食べたんだかどうだか、私も分からない様な感じだったから」
「そうだったな、ナーリアとアレクはラーリア様たちの方に残されてしまっていたんだったな。 それじゃあ、確かに食べた気がしてないだろう」
僕の言葉にナーリアが賛成して、その言葉にサーブがコメントした。
「それなら私が米を炊く」
「セカン、量を間違えるなよ。 アンとメリーの分もあるから3人分だぞ」
「たまには私も炊いた米も食べたいから、もう少したくさん炊くわ」
「床下温める火ももう点けて良いのよね。 私がそこをやるわ」
ディフィーがそう言って、
「作業場に持っていった、熾火の台に載せた炭火もちゃんと回収しないとダメね。
サーブ手伝って」
ナーリアがそう言い、
「コップとかも片付けないとダメだから、私も作業場の方の片付けを手伝うよ」
レンスもそっちに加わる様だ。
「それじゃあ、僕は干した魚でも取ってきて、それを切ったり焼いたりするか」
僕もそう言うと、アンが言った。
「あの、私も何かしないと、いえ、何かさせてください」
「とりあえずメリーについていてやってくれ。 そろそろ一度目を覚ましてもおかしくないんじゃないか。 その時に近くにいなかったら、とても不安になるだろうから、それじゃあ可哀想だ」
サーブがアンにそう言った。
僕たちがそれぞれの作業をしていると、サーブが懸念していた通り、メリーが目を覚ました。
メリーは目を覚まして、一瞬状況が分からず驚いた様だが、近くにアンが居るので安心したのか、すぐに落ち着き段々とちゃんと目が覚めてきた様だ。
目が完全に覚めると、メリーは興味津々で僕らの周りをあちこちと動き回って、ちょこまかと僕らにちょっかいを掛けてきた。
ま、子供ってそんなもんだよね。
アンはそれに困って、どうにかメリーを静かにさせようとしていたので、
「アン、別に構わないよ。 子供は知らないところに来たらあんなもんだろ。 誰も気にしないから、メリーの好きにさせてやって大丈夫だよ。
手持ち無沙汰で困っているなら、魚が焼けたから、これをテーブルに運んでくれないかな」
テーブルにアンとメリーの席も作り、食事を始めた。
アンはラミアが水に浸しておいただけの米を食べているのに、ちょっと驚いている。
僕は人間とラミアの食生活の違いについて、簡単にアンに説明してあげる。
「でも、私たちラミアは人間の食べ物が嫌いな訳じゃないのよ。 いえ、どちらかと言うと、すごく好きかも知れない。 ただ、ラミアにとっては人間の食べ物のほとんどは美味しいけど、エネルギーにはならないのよね。 米も炊いた米は美味しいけど、エネルギーにはならないのよ」
ディフィーが好意から僕の言葉に付け足して解説しているのだけど、たぶんアンは言っている内容を理解できてないぞ。
メリーは辺りがもう完全に暗くなってきたからか、お腹も一杯になったからか、またウトウトし始めた。
アンに、メリーをまた寝かせる様に言った。
アンとメリーは一段上がった部屋に行った。
僕たちは自分たちだけになったので、話題を変える。
「レンスは今日はどうだったの?」 ナーリアが聞いた。
「緊張した。 ミーリア様の命令が『気付かれない様に』だったから、正直どうしたら良いか分からなくて、アレア様に尋ねて、やり方を教わって実行した」
「どうやったの?」 セカンが聞いた。
「気付かれない様に後ろから忍び寄って、片手で口を塞いで、首を斬った。
初めてのことで緊張して、心臓の音で気付かれないか心配だったけど、何とか上手くいった」
「ディフィーは?」
「私は、アーロア様にアリファ様の反対側のサポートを命じられた時は、私には出来るとは思えなかったので、すごく狼狽えたんだけど、ほとんど何も言う暇もなく敵が来ちゃって、そしたらアリファ様が『はい、ディフィー』って言って、敵を突き飛ばして私の方に転ばしてくれたから、反射的にその敵を斬っただけで、考える暇も何もなかったわ」
「ディフィーはそう言っているが、私の目から見ても素晴らしい斬撃だったな。
アーロア様が『ディフィーは私と同じ様に出来る』と言っていたが、私は正しい評価なのかも知れないと思ったぞ」
「そんなことはないわ。 それはアーロア様が私を励ましてくれた言葉よ。 私とアーロア様では全然違うわ」
「でも、アーロア様はラーリア様に、『ディフィーは、自信を持てば、私と同等』って言ってたぞ」
「ほら、私の評価と変わらないじゃないか。 ディフィーは自己評価がいつでも低過ぎるんだ。 もっと自信を持って良いと私は思うぞ」
サーブの言葉に僕も口を出した。 ディフィーにはもっと自信を持ってもらいたいなあ。
「セカンはもう何て言って良いのか、言うことないわよね。
またなんか速くなったよね。 私なんてもう良く見えなかったわよ」
ナーリアの言葉にセカンが言う。
「そんなことない、やっぱり焦って、ちゃんとした間合いでは斬れなかった。
今回は役に立てたけど、こんな腕じゃ次はダメかも知れないと、冷や汗が出た」
セカンが、たぶんミーレナさんもだと思うけど、どんな高みを目指しているのか、もう全然想像できない。
「それにしてもセカン、改めて礼を言うよ。 助けてくれて、ありがとう」
「アレク、私ももう一度言う。 最後まで油断したら駄目。 本当に危ない」
「うん、今回は骨身に沁みたよ」
「サーブ、アレクはどうだったの?
私は突入して行くところまでしか見てないのだけど」
「私だって、そんなに見てないさ。 私が追いかけたのは随分後だったろ。
でも、いくらか見た感じとしては、たぶん私では相手できない。
アレクだけじゃないけど、人間はみんな、もう私より強いと思う。
たぶん本気でやったら、ミーリア様たちよりも強いんじゃないか、流石にラーリア様たちに勝てるかというと、ちょっと微妙だけど、それだって可能性がない訳じゃないと私は思った」
「何それ、それって凄いんじゃない」
「ああ、凄いぞ、ディフィー。
技術ではもうミーリア様たちに引けを取らないし、それに加えて、男だからな、力では私たちは叶わない。
それであの長い槍を使って戦われたら、私にはもう無理だよ」
「アレク、ミーリア様もサーブと同じ様なこと言ってたけど、自覚ある?」
「ナーリア、そんな自覚ある訳ないだろ、訓練では僕は毎日ミーリア様たちに叩き伏せられているのだし、今回だって、無我夢中で全然自分が強い自信なんてある訳ないよ」
「でも、お前らみんな無傷で完勝だったじゃないか」
サーブにそう言われて、あ、確かに、と思った。
「でも、それを言うなら、もっと上の人がいる気が僕はする。
アリファ様はどうだったの」
「アリファ様は別格よ。
私たちが何か言えるレベルじゃないわ。
本当に鉄壁よ、全く敵が手も足も出なかったわ。 アリファ様がいる限り、その後ろは絶対に安全な気がする」
ナーリアの言葉にセカン、ディフィー、そしてサーブも賛成した。
「自分で提案した戦い方だけど、とにかくアリファ様は強い、硬い。
戦うとしたら、私には攻略の糸口もつかめない。 私なら逃げる。 唯一重いからスピードがないから、私なら逃げ切れる」
「私も逃げるな。 あのアリファ様に有効打を入れられる想像が全くできないからな」
「私なら、見た瞬間に逃げるわよ、敵だとしたら」
実際にアリファ様が戦う姿を見た4人は、アリファ様は完全に別格扱いにしている。
僕もちょっと驚いたが、レンスも目を丸くして聞いていた。
「でも、今回一番緊張したのはナーリアじゃない。 もの凄い汗かいてたよね」
ディフィーがそう言うと、セカンとサーブも頷いている。 僕もナーリアが攻撃の命令を出す前に、身体中汗びっしょりだったのには気が付いていた。
「うん、最初は緊張して手とか顔とかに汗をかいていたんだけど、それから色々と自分の命令がダメな想像をしちゃったら、今度は背中からどっから冷や汗がどっと出ちゃって、もう訳がわからない感じで汗かいた」
「ま、初めての指揮みたいなもんだもんね。 仕方ないのかな、私にはよくわからないけど」
「うん、一番最初にゴブを弓て射った時が初めてなのかも知れないけど、あの時は上手くいかなかったら逃げようとしていたから、そんなに感じなかったのだけど、今回は人数も多いし、逃げる訳にはいかない状況だし、直接の近接戦闘をする命令だったし、こんなに指揮するのが大変なことだとは思ってなかったと言うか、実際に自分でしてみたら、本当に想像以上だったと言うか」
ナーリアの声はだんだん小さくなってしまった。
サーブがちょっと気分を変える様に言った。
「今日は疲れたし、もう寝よう。
で、今日は順番は無しにして。 ナーリアに譲ってやろう」
「そうね、今日はそのくらいのご褒美はナーリアにあって良いと思うわ」
ディフィーが賛成し、セカンとレンスも同意した。
「えーと、実は僕もやっぱり緊張したからか、興奮したからか、一回で終わりにできそうにないのだけど」
「それなら、次は1人で戦ったレンスだな」
今夜はサーブが差配している様だ。
「アレク、手や口も総動員して。 私も今夜は我慢できそうにない」
セカンがそう言うと、ディフィーも
「それを言うなら私も」と言った。
「みんな、ずるいぞ。 私は今日は全然役に立っていないから、ちょっと遠慮していたのに。 私だって我慢できないんだ」
ナーリアはもういそいそと一段上の部屋に行こうとしている。
「あ、忘れてた!!」
部屋に上がったナーリアが声をあげた。
「はい。 何か用事があるのですか?」
中からアンの声がした。 そうだった、アンとメリーも居るのだった。
僕たちは気分が盛り上がってきていて、その存在をすっかり忘れてしまっていた。
とは言っても、もう僕たちが止まるのは無理な状態だ。
僕もここから何もしないのは無理だ。
「アン、ラミアが男の精を得ようとするのは知っているよね。
それからラミアは基本裸で生活する種族なんだ。
それで、今日は色々あったから、興奮しちゃっていて、それはラミアに限らず僕もなんだけど、もう止まらないんだ。
ごめん、見なかったこと、聞かなかったことにして」
「アン、ごめんなさい。 ラミアも普段ならこんな場合我慢するんだけど、今日は私たち我慢できないの」
そう言うとナーリアはおもむろに着ていた服を脱ぎ、僕に抱きついてキスしてきた。
そこからは初めてゴブを殺した夜と同じ様に、いやそれ以上にみんな乱れてしまった。 やはり戦いのために緊張が極限まで高まっていたのだろう、その反動なのかもしれない。
しばらくして、やっと騒ぎが収まったと思ったら、まったく予期してなかったのだが、アンが声をかけてきた。
「あの、アレクさん、まだ起きてますか?」
僕は流石に冷静になったらアンが気になって、まだ眠れないでいた。
僕はアンが声を掛けてくる状況が思いつかなかったので、何か突発的なことが起こったのかと思って、上半身を起こしてアンに尋ねた。
「何か、問題が起こったの?」
僕の少し切迫した感じの声にびっくりして、アンが慌てて言った。
「いえ、そんなことはないのですけど・・・」
僕はちょっとホッとして、それなら何だろうと思った。
アンはとても躊躇っていた感じだが、意を決した様に
「あの、私も裸になったら、混ざっても良いですか。
私もみんなと同い年なんです。 私も我慢できないんです」
アンは僕の返答を聞かずに、服を脱いだ、そして僕に抱きついて来た。
僕はその前にセカンとディフィーが目を覚ましていて、アンのために場所を開けているのに気がついていた。
アンは僕に抱きつくと
「私、まだしたことないから、本当にはできないんです。
アレクさんも、流石にもうできないですよね。
でも抱きついていても良いですか」
そう言って、僕の体に回した腕に力を込めて、抱きついていると思ったら、急に声を上げて泣き出した。
僕はアンの髪を撫でてあげることしかできなかった。
ナーリアたちももうみんな気がついていて、静かにその姿を見ていた。




