20. カウンターのラミア
ナーリアの匂いに興奮して、我を忘れた行為に出てしまった僕は、それはもしかしたらラミアの毒と同じような、何か特殊なことではないかと、本気で疑った。 口移しの水の時のような、体に何かしらの影響がないかどうかを、大慌てで自己検証してみたけど、とりあえずは大丈夫なようだ。 いや、今のところはっきりした異常は認識できない、というのが正しいかも知れない。
ナーリアが落ち着き、部屋にいなかった二人への事情説明が終わり、ラミアたちの喧々諤々といって良いのか、明け透けな話し合いがひと段落する頃には、ま、なる様になるさという気分に落ち着いた。 考えても分からないことを、いつまでも考えていても仕方ない。
僕がどう思おうが、どう考えていようが、今回に関してはパッと見影響が大きかったのはナーリアの方で、僕はナーリアの股に顔を迫まれ窒息しかけただけに過ぎない。
ナーリアがあれだけ、凄かった、良かったと力説すれば、他の者もみなそれに倣うのは確実で、今の僕にそれを拒否することはできない。
匂いで興奮してしまったのは確かだと思うけど、それに変な副作用があるかないかが分からない。
きっとナーリア以外のみんなも、同じように僕に試してくるに違いない。 何人か試していれば、何らかの副作用があるのならば、そのうち分かるだろう。
分かったらその時考える。
今日も採取の仕事に向かうために装備を整え部屋を出ようとした時に、ディフィーが急に止めた。
「待って、部屋に入ってきた時に気付いて、言い忘れていたけど、ナーリア、あなた凄く匂うわ」
「そう、私もそれ感じた。 アレクにも匂いが移っている」
セカンがそう続けた。
水差しに残っていた水で小さな布を濡らし、僕は自分で顔を拭いたのだが、ナーリアは股の部分を中心にセカンに念入りに拭かれている。
「アレクはほとんど匂わなくなったな。これなら大丈夫」
顔を近づけてきたサーブが確かめる様に息を吸った後そう言った。
「こっちはダメ。 いくら拭いてもナーリア匂いを撒き散らすのだもの」
セカンが呆れた様に続ける。
「だってまださっきの凄かった余韻が身体に残っていて、勝手に匂い出しちゃうんだもん。」
ナーリアが照れた様に拗ねた様に弁解する。
その匂いは、他のラミアに変に思われるかもしれないと問題視され、結局ナーリアは、ナイフを部屋に忘れていき、カウンターの部屋に入ったところで取りに戻り、その後出入り口の外で合流するという小芝居をすることになった。
今日は僕とナーリアが真ん中に挟まれる様な感じで通路を進んで行った。
カウンターの部屋に入ってすぐに打ち合わせていた小芝居をし、ナーリアは戻っていった。
ナーリアの代わりにサーブがカウンターに行く。
「おはようございます。
今日も簡単な採取に行きます」
「はい、おはよう。 今朝はあんたが代わりなの?
あんたらのリーダー急いで出ていったけど、一体どうしたの?」
「はい、私が代理です。
彼女部屋にナイフ忘れてきちゃって」
「やれやれねぇ。
見た目あんたの方が落ち着いて見えるのだけど、なんであんたがリーダーにならないのかしら?」
「彼女あれでも結構良いところがあるんですよ」
「そうなのね。
急いで出ていったけど、なんかフワフワした感じだったから、あなたが夜、さんざ可愛がったのかな」
「そんなことしません!
今、私たちの部屋には人間もいますし」
カウンターのラミアはアレクの方にちらっと目をやってから言葉を続けた。
「そうだね、あなたたちは役立たずの面倒を見ているのだものね。
でも人間は暖かくて気持ちがいいだろ」
「はい、最初は逃げられない様にと思ってみんなで掴んで寝たのですけど、気持ち良くて。
みんなあっさり、人間に触れたまま寝るのが癖になっちゃったみたいです」
「ま、役立たずではあったって、人間は色々と楽しいはずだよ。
せっかく特権を受けたんだから色々と試してみる良いわ。 自分たちで触れるだけでなくて、触れさせてみたりとか。
そういうのも、とても楽しいわよ、きっと」
「え、いいんでしょうか。 そんなことして」
「そりゃ任されたんだから構わないんじゃない」
「でも、なんでそんなに人間のこと詳しいんですか?」
「そりゃ、私は元ラーリアだからね。 はい、おしゃべりはお終い。
今日も頑張って働きなさい。」
人差し指を唇に当てて、「秘密よ」というポーズをしたカウンターのラミアから道具を受け取り、外に出る。
ナーリアも合流し、少し離れた所まで行って、周りに他のラミアがいなくなってから、サーブはカウンターでの会話を詳しくみんなに話した。
「受け付けの彼女、元ラーリアなんだって」
「えー、うそ。 初めて聞いたわ、そんなこと」
「確かに身体つきはとても成熟していると思ってたけど」
「まさか元ラーリアって、元って何よ。 それじゃ他にも居るの、元っていう人」
「ラーリアを引退して、係の長になっている人はいる」
「何故ラーリアじゃなくなった?
隠しているということは、何かあるのかな」
驚愕の事実で、誰も知らなかったらしい。
こういう時、それぞれの個性が出るな。
話題を提供したというか、話のきっかけはサーブが作ったのだけど、その後の会話はセカンとディフィーが中心で、それにナーリアが口を挟む。 サーブはその会話に加わりたそうなのだけど、テンポが速くて加われない感じだ。
レンスは会話を聞いてない訳じゃなくて、しっかりそのテンポにもついていけてる感じなのだけど、自分では何か言うことなく、少し冷めた感じで黙っている。
それにしてもラミアの社会、まだ何も分からない。 奥深そうなのだけ分かる。




