194. 温泉でのおしゃべり
それから後の話は、温泉から出てきたミーリア様たちと入れ代わり、残りの僕らが温泉に入ってからとなった。
その僕らに便乗して、ラーリア様たちやイクス様も温泉に入るようだ。 ミーレナ さんもイクス様に引っ張って来られた。
僕やナーリア、そしてちゃっかりミーリア様たちとともに着替えを取って来ていたアーロア様はすぐに温泉に向かったが、友たちは着替えを持って来ていなかったので、大急ぎで一度奥に向かって行った。
僕とナーリア、そしてミーリア様とアーロア様はまだ防具を付けたままだったので防具を脱いでいるとセカンたちがやって来た。
「アンとメリーは食事をして、部屋で休んでと勧めたら、あっという間に寝てしまった。 あれだけのことがあったのだから、無理もない。
それで手が空いたから、今、使った武器や防具の手入れをし始めたから、持って行ってついでに手入れをしておく」
「えっ、なんか悪いなあ」
「大変だったら、後で自分でやるよ」
「嬉しいわ。 私のもお願いね」
「私もしてもらえるの。 申し訳ない気分」
僕、ナーリア、ミーリア様、アーロア様がそれぞれに答える。
「大丈夫、一度にまとめて手入れした方が面倒がない」
一緒に取りに来ていたアリファ様も言った。
「いつも私が手入れしてもらっているのだから、今日くらいは私が手入れするわ」
「私は武器や防具の手入れはあまり役に立たないからな。 向こうで洗濯物を済ましておくことにするよ」
サーブはそう言って、僕らが脱いだものをまとめて持って行ってしまった。
洗濯場も温泉から溢れたお湯が行く様に改造したから、今では冷たい思いはしないで済む様になっているので、最近はラーリア様たちやミーリア様たちまでも、洗濯物はここでするようになっている。
「それでアレクくん、初の近接戦闘はどうだったの?」
温泉に浸かっているとイクス様にそんなことを聞かれた。
「どうと言われても、前の弓での戦いでもそうでしたが、無我夢中で何か感じている余裕はありませんでした。
ただまあ、ミーリア様たちとの訓練と比べると随分簡単だなとチラッと思ったのは覚えています」
「まあ、毎日毎日さんざ絞られているものね。
もう、ミーリアたちも絞っているどころか、自分たちも青色吐息みたいだけど」
「ま、見てても最後に油断したことを除けば、危なげない戦いで、ミーリアたちは出る幕がなかったです」
ミーリア様もそう評してくれた。
ラーリア様たちも、毎日の訓練を見ているので、そうそう僕たちが敵に引けを取ることはないだろうと思っていたみたいだ。
「それにしても私、アーロア様とアリファ様の強さに驚いてしまいました。
二人で冗談言いながら、敵をあっさり退けてしまうのですから」
「いや、ナーリア、あれはアリファの防御が固いから、敵が攻めあぐねている隙を突いているからで、私がそんなに強い訳ではないよ。
それに私と同じ様にディフィーだって戦ったじゃない」
「いえ、私は見てましたけど、ディフィーはアリファ様が手伝っていましたけど、アーロア様は一人は一対一で倒してましたし、もう一人は確かにアリファ様に攻撃にいった敵の隙をついた感じでしたけど」
「まあ、そうなんだけど。
アリファの奴、『私の敵を横取りした』って、マジ怒りするんだもんな。 アリファだって一番最初に一対一で簡単に倒しているのだから、別に構わないだろうと思ったのに」
「あの後も怒っていたのですか」
「うん、『最初の敵はまだ後が来ているのが分かっていたから、なるべく早くと倒してしまったけど、後のはもう少し攻撃をさせて、この装備での実戦での感じをもっと掴もうと思っていたのに、横からなんてことしてくれるの』って、ずっと怒っているのよ。 本当にもう」
ラーリア様はそれを聞いて笑って言われた。
「ま、それだけ余裕があったということだな」
「アレクはしっかり戦ったし、ディフィーもアリファ様に手伝ってもらったといっても戦っていますし、セカンはアレクが不意打ちされた時、その人間を一瞬で斬りました。 レンスは最初にアレア様とともに弓の敵を任されていましたし。 でも私とサーブは何もしてないんです」
ナーリアが愚痴めいた口調で言った。
「ナーリアはちゃんと指揮したじゃん」
「でも、アーロア様、それ最初だけです。
あとはアーロア様に言われた通りに槍を立てて立ってただけです」
「それを言うなら私が一番何もしていない!」
聞き耳を立てていたらしいサーブが洗濯場から叫んだ。
みんなそれで笑ってしまった。
「ナーリア、それが指揮官の役目よ。 指揮官は自らが戦うことが役目ではないわ」
ミーリア様がナーリアに厳しく指摘した。
「ま、そういうことだ。 そう言っている、ミーリア自体がそこが一番の苦手らしいがな。 もちろん私もだ」
「そうね、ラーリアはミーリア以上にそこが苦手ね」
イクス様にそう言われて、ラーリア様自身は苦笑しているだけだが、僕たちはどんな顔をして良いのかわからない。
「それにしても、アリファはまともに戦えていたのですね。 本当に良かったわ」
ミーレナさんがそう言った。
ナーリアが答えた。
「戦えていたっていうレベルではなかったです。
なんか後ろから見ていると、鉄壁って感じでした」
「元ラミアの壁の一人であるミーレナとしてはどう?」
イクス様は楽しそうにミーレナさんに言った。
「はい、なんていうか頼もしいですね」
「おいおいはミーレナだけでなく、アリファの上位復帰も考えるか」
「あら、ラーリア、それはダメよ。 アリファには私の代わりに物品係をやってもらうつもりなんだから」
「イクス様、物品係は他の者でも出来るでしょう。 それよりは戦力が欲しい」
「そんなことないわ。 物品係は下位の者と隈なく接することが出来て、それぞれの個性や特徴を把握するには最も良いポジションだわ。
だからこそ、しっかりと物事を見れて、私たちとも話が通って、尚且つ物品係というポジションにいることが不自然でない人材でないとダメなのよ。
その適任と考えたら、私の後任はミーレナかアリファに限られるのよ。 ミーレナは私たちと同じだから、アリファしか残らないわ」
なるほど、確かに物品係は下位のラミアみんなと接する機会があるから、そのそれぞれの個性を知るには一番良いポジションなのかも知れない。
イクス様はこの前のゴブとの戦いの時に、つい自分の立場を隠すことを忘れて、全体の指揮をとってしまわれたから、もう物品係として、普段のリラックスした姿の下位のラミアをなかなか見辛くなってしまったから、誰かと代わる気になってもいたのだろう。
それで白羽の矢が立ったのが、諸事情からアリファ様ということなのか。
ラーリア様も対抗できる別の候補を思い浮かべなかったのか
「この件に関しては結論はもう少し後でも良いので、また今度考えてみることにしましょう。
ところでミーリア、お前から見て、人間たちは戦力としてどうなんだ。 率直な意見を聞かせてくれ」
「そうですね。 率直に言って、ミーリア以上でしょう。
人間の男との戦いとなると、ラーリア様たちはともかくとして、私たちですとどうしても力負けするところがあります。 ま、その力負けするところを技術的に避けて戦うことを普段から訓練しているのですけど、人間たちは当たり前ですが、人間の男に力負けもしません。 技術的なところもほぼ私たちと遜色ないところまで来ていますから、訓練の場ではまだミーリアでも対抗できますけど、実戦でしたらもう私たちミーリアよりも人間の方が強いでしょう。
ただ、その強さが実戦の場で発揮できるかどうかが問題だったのですけど、今回見ていたところ、そこにも問題がないと感じました」
えっ、ミーリア様、僕たちをそんな風に評価して見ていたの。
「そうだな、訓練のあの様子から見たら、そのくらいの強さにはなっていそうだな。
我々ラーリアと比べると実戦経験の違いから、まだまだだが、それでも力技だけならラーリアももう上回るかもしれんからな」
「はい、そんなところかと」
「アーロア、ナーリアたちはどうだ?」
「ナーリアたちですか。
私やアリファ、そしてアレアと同等か、それ以上かと」
「もう少し詳しく話してみろ」
「そうですね、ディフィーは自信さえ持てば、体の小ささがほとんどなくなった今では、私と同等に戦えます。
セカンの何ですかあれ、抜刀術とか言いましたっけ、私は全く勝てる気がしません。
同様にサーブは今回は誰とも戦っていませんけど、ラーリア様御自身が見ていて承知でしょうが、サーブと戦って私が勝てる訳がありません。 あのハルバードをああも軽々と自在に操られたら、側に近づける訳が無い。
レンスに関してはアレアに聞くべきでしょうけど、私の見るところ双剣使いとしては今現在でさえアレアと互角、隠密技術は確実にレンスの方が上ですよね。 アレアは隠密技術とスピードではやっといくらかセカンに今現在は勝っているかな、というところでしょう。 セカンにもそこを逆転されるのは時間の問題だと私は思いますね。
ナーリアはミーリア様が評価した方が確かでしょう」
「ナーリアも、戦力としてでしたら、もうわずかに私に劣る程度まで来ています。
指揮官としては、才能は私よりずっと上ですけど、まだまだですね」
「無、無理です。
槍の扱いは、頑張ってミーリア様に追いつこうと思っていますが、指揮官としては無理です。
私、とてもじゃないですけど、ミーリア様の様に一言で全軍を従えて、意のままに動かせるようになれるなんて想像もできません。 ミーリア様に言われる通りに勉強はしようと思いますけど、ミーリア様より上なんて絶対に無理です」
「ナーリア、だからまだまだだって言っているでしょ」
「いえ、それでも、才能はミーリア様より上だなんて、そんな過大評価されたら誰だって絶対に逃げ出します」
「ま、ナーリアは自分はまだまだなんだと思って、ミーリアに指揮を懸命に教わるように」
ラーリア様がそう言って話を終わらせた。
でもまあ、ナーリアの気持ちは分からなくないよな。
ミーリア様のスイッチが入った時の、あの「氷のミーリア」と称される雰囲気の時の絶対的な威圧感が伴う指揮を見ちゃったら、あんなの絶対に出来る訳がないって誰だって思うから。
友たちが奥から戻ってきて、温泉にやってきた。




