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気がついたらラミアに(なろう改訂版)  作者: 並矢 美樹
過去をただす

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188. 噴出

 訓練が終わって、温泉で汗を流し、用意してもらった食事をして、やっと人心地がついた時、ラーリア様が全員を集めた。


 慣れというのは恐ろしい。

 訓練が始まった頃と、ミーリア様たちが全員になって訓練を始めた頃は、僕たちは、いや僕たちだけでなく訓練に参加する全員が、訓練が終わってからは何も出来ないような状態だった。

 それが段々に、時間が経てば動けるようになり、その時間が短縮していって、今では食事を終えた頃にはなんとか動けるまでには回復する様になったのだ。

 とはいっても訓練の激しさは前よりももっと激しくなり、今ではもうミーリア様たちも訓練が終わった時には地に倒れ伏してしばらくは動けないのだ。


 僕自身は近接戦闘が強くなったのかどうか全く分からない。

 確かにミーリア様たちとも一対一で立ち会える様になったから、少しは上達したのだろうが、相変わらず叩き伏せられ続けていて、起き上がることが出来ない気分にさせられている。

 そうすると誰かがあっちを見ろと視線を送ってくる。

 その先にはアリファ様がいる、起き上がらない訳にはいかない。


 この訓練で一番変わったのは、みんなの体格だ。

 どう見てももう誰も狩人という線の細さはない、完全に戦士とか騎士とか言われる人の身体つきになってしまっている。

 そんなに変化した身体つきなのに、ナーリアたちとラーリア様たちが作ってくれた防具はきちんとその変化に合わせて調整が出来てしまう。

 主にセカンの工夫なのだろうけど、とても良くできている防具だと思う。


 「人間たちも最近知ったらしいが、奥にある燃える水の泉は、定期的に温泉と同じ様に急に大きく噴き上がる。

  ラーリドの計算によると、そろそろまたその時が来る様だ。

  ラーリドの計算では明後日ということだが、安全を考えて今日今より火の使用を禁じる。

  一応干し肉と燻製肉は大量に作っておいたから、火を使わなくても、それなりの食事はできるはずだ。

  ただ、人間のために命の実を煮る事だけはやめられないので、それのみ例外として、この家の竃でその時間のみ火の使用を許すこととする。

  今までの文献によると、この場所の火の使用が問題を起こしたことはないらしいからな。

  そういうことだから、この噴出が終わるまで、鍛治と炭焼きはもちろんのことだが、奥での火の使用は厳禁となる。

  しばらくは寒い思いをすることになるが耐えてくれ」


 「あのラーリア様、質問しても良いでしょうか?」


 「ん、構わんぞ、ミーリド、なんだ?」


 「はい、燃える水の噴出という事態の終わりはどの様にして知るのでしょうか?

  始まりも同様に私たちに分かるものなのでしょうか?」


 「ああ、お前たちは今まであまり奥に入ったことがなかったから知らないか。

  噴出があると、奥には独特の臭いが立ち込めるからすぐに分かる。

  父祖様の墓所の峰があるから、こちらには臭いはあまり流れて来ないが、峰の向こう側に入ればすぐに分かるのだ。

  という訳で、始まったのも分かるし、終わればそれが薄くなっていくから、それも分かるのだ。 理解できたか」


 「はい、よくわかりました」


 ラーリア様の話の後、セカンとディフィーがラーリド様に捕まっていた。


 「2人とも、この間は図書館は使用禁止だからね。

  今日は一応これから大丈夫だと思うけど、図書館の戸締りを確認に行くので付いていらっしゃい」


 「はい、了解しました」


 ラーリド様はトンネルに向かおうとした。

 ディフィーが声を掛けた。


 「ラーリド様、トンネルを通るには松明が必要ですから、今日はトンネルを使えません」


 ラーリド様は失敗した、という顔をして言った。

 「そうだったわね。 ここからはトンネルを通って行くのに慣れちゃてて、癖でそっちに向かってしまったわ。

  前は当たり前のことだったのだけど、今となると峰を回って行くのはめんどくさいわね」


 セカンがラーリド様に付いて行く間際に僕に声を掛けてきた。

 「アレク、後で話がある。 今、思い付いたというか、気が付いたことがある。

 ちょっと相談にのってほしい」


 セカンの相談にはディフィーも加わってきた。 二人とも真剣な顔をしている。

 「アレクは蝋燭という灯りを前に作ったけど、他に何か暗闇を明るくするための道具って知らない?」


 「蝋燭の他か。

  うーん、松明は誰でも知っているだろうし、そうだな、あとはイノシシの脂があるだろ、あれを石の受け皿に入れて、それに蝋燭の芯のもっと太くしたのを浸けて、そこから先だけが脂の上に出る様に固定して火を点けるんだ。 そうすると結構長い間燃えて、灯りになる。 ただし、煤がたくさん出るし、臭いからなぁ。

 まあ、イノシシの脂じゃなくて、種を絞った油なら煤もそんなに出ないし、臭いも出ない訳じゃないけど、嫌な臭いじゃない」


 「あのね、アレク。 私とセカンで図書館の中の掃除をしていた時に、こういった形の金属の道具をいくつも見つけたのよ」

 ディフィーは自分で飲んでいたお茶に指を浸すと、その指でテーブルの上に絵を描いた。 ちょっと行儀が悪いが目的は達した。


 「あ、ランプか。

  僕ら庶民には縁のない物だから、とっさに思いつかなかった。 何度か見たことがあるよ。

  でもあれは燃やしているのは松から作った油だったな。 作れないことはないけど、道具作りから始まって、かなり大変だぞ。 密閉できる窯を鉄で作って、そんな風に使えるだけ鉄あるかな、いや、柔らかくても構わないのだから、武器に使えないクズ鉄なら量はあるか。 そうしたらそれをまずは溶かして引き延ばして・・・」


 「アレク、ちょっと止まって、話に戻ってきて」


 頭が松から油を作るにはどうしたら良いかで一杯になっていたのだが、セカンに現実に引き戻された。

 「あ、ごめん、つい考えに夢中になった」


 「うん、それはいい。 でも私の話を聞いて。

  私とディフィーが見つけた道具が、もしランプなら、噴出した燃える水を油の代わりにすれば、もしかすると上手く使えるのではないかと、今日ラーリア様の言葉を聞いていて、ふと思った。

  アレクはどう思う」


 僕はなるほどと思ったのだが、少し考え込んだ。

 「確かにできそうな気がするな。

  だけど、大火を引き起こしたほど、火が付きやすいのだとしたら、安全に使えるのかどうかの実験をしてみないといけないな。

  そうでなかったら、とてもじゃないけど、危なくて使えないよ」


 「そうね、それじゃあ、噴出が終わったら、早速実験してみましょう」


 「ディフィー、随分とやる気だな」


 「当たり前よ。 それが使えたら、トンネルで使うのにとても便利でしょ」


 「ああ、確かにそうだな、松明より全然便利だな」


 「それにたぶん松明より洞窟の中を汚さないと思う」


 「ああ、松明は煙がすごいから、天井とかがすぐに汚くなっちゃうもんな」


 洞窟の中はみんなが綺麗に白く塗ったので、以前から比べるとすっかり少しの光で明るくなった。 両側の扉を開け放していれば、灯りは要らないくらいになる。 でも普段は扉を閉めているので、灯りがないと入れないのだが、松明を持って入るから、すぐに天井付近から汚れてしまうのだ。


 ふと僕は違うことを思いついた。

 「もしかして、ラミアが今まで火を使わなかったのって、この事が影響しているのかな」

 セカンとディフィーが首を傾げたが何も言わなかった。


 燃える水の噴出は、それからきっちり2日後に起こった。

 3日後の訓練の時に、友たちがそれを教えてくれた。


 「たったこれだけだけど、こっち側に来るとほとんど臭わなくなるなぁ」

とハキが言ったので、僕もその臭いに気がついた。 言われるまで僕は鈍いのか気が付いていなかった。


 「やっぱり、この臭いはそうなのね。 なんだか臭いと思っていたわ」

 ナーリアがそう言って納得している。


 友たちと一緒に禁断の地の門近くの広場にやってきたラーリア様が、僕たちやミーリア様たちに説明した。

 「昨日奥に戻ったら、もう臭いが充満していた。 我らがこっち側にいる間に噴出が起こったらしいな」


 ミーリア様たちが、「この臭いが、その噴出による臭いなのね」などと話している。


 「とは言え、訓練することはいつもと変わらん。

  さっさといつも通り訓練を始めよ」


 訓練が終わり食事をしているとイクス様がラーリア様と話している。


 「今はそれじゃあ、臭いが強い真っ盛りね」


 「そうですね。 やっぱり私もあの臭いは好きではないですから、なるべく長くここで過ごしますよ。 そして帰りがけに温泉に入って体を温めて行きます」


 「そうね。 それが良いわ。 私はここに泊まっちゃうけど」


 イクス様はラーリア様が噴出の話をした日は奥に戻ったけど、その次の日からはちゃっかり僕らの家の方に泊まっている。


 「それが良いです。 あの家の真ん中の炉に火が点いていないと、こうも寒いとは思いませんでした。

  イクス様は奥では部屋に1人ですから、あの寒さは堪えるでしょうから」


 「あら、ラーリアは大丈夫なの?」


 「私は、ボブが『この噴出の間は火が使えないのですから』と、私の部屋にこの間はずっと泊まることになりましたから、まあ大丈夫ですし、楽しみでもあるんですよ。 他の人間たちも、みんなそうする様です」


 「あら、それじゃあミーリアたちとかの集落で夜を過ごす組は、ここ数日はちょっと災難ね」


 イクス様とラーリア様は笑っているが、それを聞いているミーリア様たちなどは、まあ仕方ないかという顔をしている。

 一番ゲンナリした顔をしているのはレンスだ。 噴出のせいだから文句を言えないのだけど、夜も泊まられると、イクス様との親子ゲンカがずっと続くのだ。

 誰もどちらの味方もしないのは当然として、誰もそれを止めないのだ。

 ま、僕もだけど、見てると2人とも喧嘩しているとはいえ、楽しそうなのだから止める必要もないと感じるんだよ。


 そんな和やかな雰囲気でまだ食事をしていた時に、アライムが一人で大急ぎという感じで作業場に予期せず入ってきた。

 ちなみに最近は昼に食事をする人数が増えて、作業場に敷き皮が敷かれたままで、テーブルも置きっぱなしになっていて、ほぼ食堂状態なのだ。


 「洞窟の人間に動きがあった。

  どうやら明日にでも隊商を襲うつもりではないかと思う」


 「やはりか。 それで人数は何人になっているの。 私たちが見ていたのでは30人ほどだったけど」

 アレア様がアライムに訊いた。


 「人数は変わっていない。 正確には32人だ」


 「狙われる隊商は、今どこにいるの?」

 今度はディフィーが口を挟んだ。


 「まだ隊商は襲われるかもしれない場所からは離れている。 だが今日中にはかなり近づいてくるだろうし、もうそれに監視が付いている。

  今晩はまだ大丈夫だろうが、明日は危ないんじゃないかな。 そんな感じだ。

  今、エレオンとハライトは監視を続けている。

  また大きな動きがあれば知らせに来る」

 アライムはそれだけ言うと、また大急ぎという感じで去っていった。


 「さて、洞窟の人間どもをどうするか、どうやら大詰めの様だな」


 ラーリア様がそう言うと、ミーリア様が

 「どうやらその様ですが、今回はラーリア様たちはゆっくりしていてください。

  我らミーリア以下で対処しますので」


 行動計画は既に十分に練られている。

 ただ、ちょっと時期が悪かった。


 「洞窟の人間たちをアレアとアーロアに監視してもらう訳にはいかないわね」


 「いえ、私たちはそのつもりですが」

 ミーリア様の言葉にアーロア様がそう応えた。


 「今は火を使う事が出来ないわ。 あなたたちには温石を持って行ってもらって、それを時々新しい物に取り替える様にする事で、対応してもらう計画だったのだけど、それは無理ね」


 「ミーリア様、アーロアはともかく私は温度変化に強い体質なので、私だけでも監視に向かうことにすれば良いかと」


 「アレア、あなたの体質は分かっているけど、この季節の温度では無理だわ。

  寒さで体の動きが悪くては監視していても、何かあった時に伝えに走ることも出来ないわ。

  諦めて、監視はハーピーに任せましょう。 どう、セカン、ディフィー」


 「はい、私もその方が良いと思います。」 セカンが答えた。


 「夜は隊商も動かないでしょうから、明日が勝負となると思うけど、一応ミーリアはここで待機。 今日はここに泊まるわよ。

  人間は夜は奥に行って眠って良いわ。 でもすぐに出られる様に準備はしておいて。

  アレアとアーロアは一度集落に行って、ミーレアの上だけ起こして、一応明日の集落の警備を頼んで来て。

  アリファ、あなたはどうする。 一応、上位を引退しているから、今回参加する義務はないけど」


 「はい、出来たら一緒に参加させてください」


 「それなら、あなたも今日はここに泊まって」


 ミーリア様の命令で全員が動き出した。

 それぞれにまず訓練に使っていた武器防具などの手入れを始めている。


 ラーリア様たちが手持ち無沙汰な感じでウロウロしているのを、ミーレナさんが窘めた。

 「駄目ですよ、ラーリア様たち。 私たちは卵を守るのが第一の使命です。

  それに、みんな何があっても負けませんよ。 あれだけの訓練をしているのですから。 私たちは安心して高みの見物をしましょう」


 ラーリア様たちは苦笑いをしていた。


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