187. 大火の原因
起こされたミーリベ様以下のミーリアの下位5名が訓練に加わり、訓練はより一層激しさを増した。
起こされた最初は人間との訓練に戸惑ったみたいだが、その激しさ真剣さに対しての驚きを越えると、ミーリアの名にかけてという感じで、僕たちに向かってきた。
僕たちはミーリア様の数が増えたことにより、休む暇が全くなくなり、訓練が終わった時には、地に座って休まねばではなく、しばらくは地面に伸びているという状況になった。
ミーリア様たちは意地なのだろうか、槍に縋り付いてなんとか立っている。
アリファ様は完全に地に倒れ伏し、それにアレア様とアーロア様が這いずる様に近付き(ラミアは尻尾で移動するのだから、常に這っているのだけど)、盾や防具をはずしていく。 前はケンもそれに加わっていたのだが、今現在のケンにその余裕はない。 まだケンも地に倒れたまま、荒い呼吸をしているだけだ。
アレア様とアーロア様も自分の武器をアリファ様の武器や防具と同じ場に置きっぱなしで、2人でよろよろとアリファ様を引き摺って温泉に向かっている。 2人とも自分の武器を持っては、アリファ様を引き摺って行くこともできないのだ。
3人の武器・防具・盾はセカン・ディフィー・レンスに加えて今ではナーリアとサーブも分担してよろよろと持って行く。
ミーリア様たちと僕たちもしばらくしてなんとか槍を杖にして温泉場に向かうのだ。
「もう何なんですか、この状況は。
起こされたと思ったら、この地獄の様な訓練なんて、寝る前にそんな話は聞いてなかったわよ」
「人間とこんな激しい訓練をさせられるとは思っていなかったわ。
サボりたくても、人間は倒れてもアリファを見ると何度でも起き上がってきて、全く切りがない」
「アリファ、あなた何なの。 不死身なの。 あなたが頑張るお陰で人間たちは誰一人決して倒れないのよ」
「あー、でも温泉は気持ちいい。
私たちが寝ている間にこんな物が出来ているとは思わなかったわ」
「それに、まさか、イクス様とラーリア様たちが自ら作った手料理を私たちがいただけるなんて、考えてみたこともなかったわ」
起こされたミーリア様たちは口々に色々なことを言う。
ま、急にこの状況はびっくりするよね。
確かに僕たちは、倒れてもアリファ様を見て立ち上がる。
アリファ様が立っている限り、僕たちも訓練をサボってはならないという気持ちになるのだ。 アリファ様が倒れている時が訓練が終わりの時間になったということなのだ。 アリファ様が立っている限り僕たちも立ち上がるというのが、いつの間にか僕たち人間の暗黙の誓いだった。
卵をお腹の中に抱えて、激しい動きの出来なくなったイクス様とラーリア様たちは僕たちの食事の準備をしてくれている、流石に最近はミーレナさんもこっちだ。
それに対して申し訳ない気持ちがない訳ではないけど、僕もナーリアたちも、そして友たちも、余裕がないのでありがたくいただいている。
2日おきにハーピーがやってくるのだが、僕たちの消耗の凄まじさに驚き、一度訓練を見学した。
3人は黙り込み、女性2人は青くなって震えていた。
「俺たちは戦いというものを舐めていた。
ここまでの訓練をしなければ、ゴブの脅威には立ち向かえないものなのか」
ハライトの言葉に僕は答えた。
「ま、今はゴブの為にというより、当面は人間との争いに備えてなんだけどな」
「俺たちもエルシム様に、稽古をつけてもらえる様に頼むことにする。
今の俺たちでは、もしもの時、お前たちの足手まといにしかならない気がする」
エレオンがそう真剣な声で呟くと、アライムとハライトも真剣な面持ちで小さく首を縦に振った。
「デイヴが真面目に訓練してるのに、俺たちがしてなかったら、恥ずかしいからな」
アライムが急にふざけてそう行ったが、顔は真剣なままだった。
僕らは1日の残りの時間を図書館で過ごしたり、話をしたり、工作をしたりして過ごしている。
ある日、イクス様が得意な顔をして、尻尾を毛皮で覆ってやって来た。
僕は前からナーリアたちの尻尾を寒風から守ってやる方法がないかと考えていたのだが、思いつかないでいたので、イクス様のその格好を見たときはちょっと衝撃だった。
その尻尾を覆った毛皮を、尻尾に固定している方法は種明かししてもらうと、とても簡単な方法だった。
薄く削った小さな竹の板が毛皮の端に縫い付けてあり、その小さな板を尻尾の鱗に挟み込んでいるのだ。 一枚の毛皮の両側にそんな小さな板が何枚か縫い付けてあり、それで固定している訳だ。
「アレクくん、いいでしょこれ。 レンスの父親が考えてくれたのよ」
僕はなんとなく、ちょっとレンスの父親に対抗心みたいなものを感じたけど、もうとっくに死んでしまっている人だからなぁ。
僕はイクス様に教えてもらった方法で、まずはアレア様とアーロア様に同じ様な尻尾をおおう毛皮を作ってあげた。
アレア様とアーロア様は訓練の後、かなり遅くまで洞窟の人間の監視に行っているのだ。 温石は持って行っている様だが、少しでも暖かくしてあげたいと思ったのだ。
セカンとナーリアは僕がアレア様とアーロア様を優先して作ったことに対してはちっとも文句を言わず、毛皮作りを手伝ってくれた。
ミーリア様は冬もやっぱり僕たちの家に入り浸っている。
ラーリア様に代わり、ラミアの集落を守る立場に今いる訳で、本来は集落にいるべきなんだろうけど、集落は火が使えないので寒いのだそうだ。
こっちに来ていることが許されているのは、久しぶりに冷気を噴出させてしまったからだろう。
他のミーリア様たちは、まあ一応夜は戻って来てね、というくらいで大目に見るというか、ミーリア様がいると緊張するから、外で時間を潰して欲しいというか、ま、僕らの家にいて問題はないのだ。
今、ミーリア様はもしもの時の作戦を、ナーリア、セカン、ディフィーと一緒に話し合っている。
隊商を襲うのに適した場所なんて、数が限られているから、それぞれの場所でどう戦うかを考えているのだ。
今回も命題は逃亡者を出さないことだ。
逃亡者を出してしまうと、話がややこしくなってしまう。
ま、その辺の作戦はセカンとディフィーに任せれば、きっと完璧なものが出てくるだろうし、その上でミーリア様とナーリアが指揮をしたら、僕には失敗なんて考えられない。
余程強い敵でもいたら、その時の対処をどうするかくらいが問題になるだけだろうと僕は思う。
そして今回の戦いについては、ラーリア様から全面的にミーリア様に任されていて、ラーリア様たちはノータッチなのだ。
ミーリア様が僕たちの家に来て話をしているのは、そこら辺でミーリア様が慎重になっているからというのもあるかもしれない。
もう1つは、ナーリアに対する指揮官教育の一面もありそうな気もする。
あと僕はセカン、ディフィー、そしてエレクと一緒に図書館の記録を調べていた。
冬に襲われた人間の話が嘘だったので、僕たちがラミアの仕業だと教わっていたことの信憑性が揺らぎ、何がラミアの起こしたことで、何がそうでないのかが、はっきりしなかったからだ。
僕はエレクと一緒に、思い出せる限りラミアの仕業だと言われていた事件を書き出してみた。
そしてそれを友たちに見せて、補足したり訂正したりした。
それとラミアの記録とを付き合わしてみたのだ。
ラミアの記録にはない事件が2/3を占めた。
特に隊商などの金品が関わると思われる事件は、ラミアが起こしたと思われる事件は1つもなかった。
確かにラミアが関わったことが、ラミアの記録からも分かる事件もあったが、その多くはラミアからしてみれば自衛的な事件であった。
それと面白いことに、ラミアに対してあれだけ騎士による鎮圧隊が出ているのに、ラミアの記録には騎士たちとの戦闘の記録が一切ないのだ。
僕は鎮圧に出た騎士たちは一体全体どこで何をしていたのだろうかと考えた。
いくらラミアが人里から離れた森の奥地に本拠地を構えているとはいえ、記録に残る戦闘が全くないというのは、ちょっと常識的に考えて変だと思った。
僕たちがそんなことを調べていた時に、エレクと一緒に来たラーリド様は、僕らが作った人間の町で信じられていたラミアの所業リストの最初を見て、
「これはどういうことなの?」
と疑問を口にした。
今ある森も全て焼いてしまい、結果として地形や生態系さえ壊してしまった大火は人間社会ではラミアの仕業だと考えられていて、それが人間がラミアを目の敵にしたり、毛嫌いする大きな理由となっている。
だが、ラーリド様によると大火を引き起こした犯人は全てしっかりと分かっているし、記録も証拠も残っていて、人間の領主がそれを確認した記録も残っているという。
僕とエレクは人間にとっては常識を覆される、その記録や証拠を見せてもらった。
動かし難い事実がそこにはあった。
僕とエレクはそれを見て、友たちにその事実を話した。
エレクが口を開いた。
「みんな、聞いてくれ。
僕たちはずっと大火はラミアが引き起こしたものだと思っていた。
そしてそれがラミアを人間が毛嫌いする大きな理由にもなっている。
だけど、図書館で記録を探してみたら、それは大きな間違いだったことがわかった。
大火を引き起こしたのは、人間の1人の貴族のせいだった。
そしてそれは、人間の手による記録によって明らかだし、その当時の領主も確認して、未来に真実が伝わらないことを恐れて、領主自らの署名捺印のある記録が残されていた」
「その記録を疑う余地はないのか?」
ボブがエレクに訊ねた。
「疑う余地はないと思う。
複数の人の記録が残っているし、そこに至る経緯も分かっている。
それに領主の署名のある紙には領主家の紋章がしっかりと残っている。
僕でも領主家の紋章くらいは知っている」
友たちはみんな今までの自分の常識が嘘であったことにショックを受けたようだ。
その気持ちは僕にも分かる。
デイヴが言った。
「その貴族というのは?」
「フロードだ。
この地方では領主家の次に地位の高い、あの男爵家だ」
「そして今問題になっている砦の支配者でもある」
キースがそう言った。
「なんだか全て繋がってきたな」
ボブがそう言うと、みんなが頷いた。
デイヴはとても沈痛な面持ちをしている。
僕はここで話をした。
「でも、この話にはもう少し背景があるんだ。
フロード家の方にも、結果的には大火を招いてしまったのだけど、そうしてしまう止むに止まれぬ理由があったんだ」
「もったいぶってないで、アレク、さっさと言え」
ケンに急かされた。
「まず第一に、その時にも今と同じ様に、ゴブの大群がどうやらこの地に迫っていたらしいんだ」
みんなは全然違う方向の話に面食らったようだ。
「それから、ここから山の方を見ると少し左手に背の高い木の林が見えるだろ。
実はあの奥に前に僕はラーリア様に連れて行かれたことがある。
あの林の奥ではアスファルトが取れるのだけど、もっと詳しく言えば、燃える水の湧く泉があるんだ。
フロード家ではその時に、その燃える水をゴブとの戦いに利用しようとしていたらしく、近くにテントを張り、大々的にその水を汲んでいたらしい」
「ゴブの大群が迫ってきていると分かっているなら、何でも利用出来るものを利用しようとするのは理解できるな」
ハキがそう言った。
「ああ、それは理解できる。
だが、そこにもう1つ問題があったんだ。
その燃える水が湧く泉は、数年に一度、温泉の源泉が間を開けて高く噴出するのと同じ現象が起きるんだ。
その時が迫っていて、今のこの廃墟に住んでいた者は、その噴出が終わるまで一旦その場を離れてくれとフロード家に頼んでいたんだ。
でもフロード家は、そんな起こるかどうかわからないことのために作業を中断はできないと突っぱねて、いつもと同じように作業をしていた。
そこに燃える水の噴出が起こり、作業のための人が生活していた場にまで燃える水が降りそそぐことになった。
そして大火が起こった、という訳さ」
みんななんて言って良いかわからないという顔をしている。
「この滅んだ町の人は噴出がいつか分かっていたのだろ。
それを教えたのに、なぜそれに従わなかったんだ」
ダイクが疑問を口にした。
「切羽づまっていて、判断がおかしくなっていたんじゃないか」
ヤーレンがそう答えた。
「ゴブの大群が迫っている時だったら、そうなっても無理はない気がするな」
ギュートがそんなことを言った。




