179. 修行? の日々
僕たち人間の槍の稽古も、本物の槍が出来上がってからは本格化した。
槍の穂先には、あの柔らかい木で作った簡単なカバーを被せ、振り回しても取れない様に紐で槍に結んである。
出来上がった槍を見て、僕は何故練習用の木にあんなに棒の色々な場所に重りをつけて練習させられたのか理解した。
大身槍はその刃のついた本体の部分も大きいのだが、それと同様かそれ以上に茎の長さがある、そしてバランスを取るために石突きも重く作られている。
僕たちの槍は大身槍としては大きい方ではないらしいが、それでも穂長というのか刃の長さが50cm程あり、茎はそれよりちょっと長い。
石突きも同様に茎の様な部分が50cmくらいある。
それらを板で挟んで留めて、丸く削り、その周りを割って節の部分を削った竹を組み合わせて覆う形で接着し、要所に鉄の薄い板を巻きつけて打ち付け、最後に防水のために炭焼きで取れた木酢液を貯めておいた桶の底に沈殿したタールを塗ってある。
長さも刃先から石突きまでで3m50cmくらいとかなり長い。
つまり全体として、重いのだ。
僕たちは、デイヴとキースだけ2人組で、他は3人組でミーリオ様たちと立ち合うのだが、全く敵わない。
剣ではラリオ様とさえ互角に立ち合ったキースも、ラーリン様に勝ったデイヴも槍となると勝手が違うのか、やはり敵わない。
僕は自分では正直言って剣も槍も使える様になっているのか、いくらか強くなっているのか、全く見当もつかなかった。
ただ毎日午前中は訓練を受けたという感じだけだ。
でも自分もだが、友たちも今までとは違った感じに体が引き締まり、筋肉がついて、体が大きくなった。
「人間の男は、そのくらいの歳だとまだ体も成長するし、覚えるのも早いわね。
もうすぐ、ミーリオたちも一対一でないと対処できなくなりそうだし、やっぱり力もあるし、すぐ扱える様になるのね」
イクス様がそう評してくれたけど、実感はない。
サーブは最初からそうなのだが、この訓練を心底楽しんでいる。
特にハルバードを手に入れてからは物凄くご機嫌だ。
サーブが手にしたハルバードは、ゴブとの戦いてボロボロになったラーリア様のハルバードを、ラーリア様がボブに頼んで直してもらったものだ。
かなり激しく痛んでいたから、直すよりも溶かしてしまって新しく作る方が良いのではと思ったのだが、ラーリア様は直すことをボブに頼んだのだった。
そしてそれを自分が使うのではなく、サーブに与えた。
サーブはラーリア様の前で黙々とでも嬉しそうにハルバードを振るっている。
それをまた飽きもせずラーリア様が見ていて、時々一言二言サーブに何か言う。
するとサーブは二、三度振ってみて、何かをラーリア様に訊ね、それにラーリア様がまた一言二言返す。
そんな感じを少し繰り返していたかと思うと、2人とも何も話さず、黙々とサーブがハルバードを振る時間が続く、そんなことを何日も続けている。
レンスはというと、最初はラーリル様が動きから何から実演して見せて、それをレンスが真似をする形だったのだが、それはラーリル様がダイクの卵を身籠ってからは動きが激し過ぎるので出来なくなった。
どうするのかと思ったら、レンスの訓練にアレア様が混ざってきた。
アレア様も確かに隠密性に優れたスピードタイプでレンスと特性が同じなので、自分から訓練に加わってきたのだ。
これにより、ボブは双剣を二組打たねばならなくなったが、双剣は大きさが小さいし、特殊なものではないので、ボブはそんなに苦にはしなかった。
そこからはレンスは毎日アレア様と激しい立会いをしている。
それに対してラーリル様がアドバイスする形になっているのだが、結局イクス様も口を出す様だ。
レンスはイクス様の言うことを最初は素直には聞かなかったのだが、それでは素直に聞くアレア様に対抗できなかったので、素直に聞く様になった様だ。
ただし、2人の立会いは木剣で手首に重り、途中からは腰にも重りを巻いて行う様になった。
スピードが速過ぎるので、真剣では布を巻いたり、木で作ったカバー程度では危ないからだ。
ディフィーは最初はラリト様に手とり足とりという感じで教わっていたのだが、そこにアーロア様が加わった。
アーロア様はディフィーの体が小さいうちは見てるだけだったのだが、脱皮してあまり周りと変わらない体の大きさにディフィーがなったら、急に猛然とやる気を見せて、ディフィーと同じ様に薙刀をラリト様に教わっている。
この薙刀と刀を打つのはボブは苦労した様だ。
ボブは今までこういった特殊な形状のモノは作ったことがなくて、作り方自体は詳しい解説が図書館の本にあったので分かったのだが、かなり試行錯誤したみたいだ。 先に薙刀を作り、それからセカンとミーレナさんの刀を作ったらしいが、その形作りと反りがなかなか思った通りにいかないで苦労したみたいだ。
特に刀は、長さも反りも2人で微妙に違ったものにしないと、本当に上手くは使えないことが分かり、何度も試作を重ねることになった様だ。
アーロア様は今まで普通に剣を使っていたのだから、何も薙刀でなくても使えるだろうと思うのだが、ディフィーに付き合うことにした様だ。
「私、負けるの嫌いなのよね。
ディフィーはまだ脱皮したばかりで、体を上手く使いきれてないから、今現在は私はディフィーなら立ち合っても負けないから。
これがサーブやレンスだと、負ける可能性はあるし、アレアみたいに必死にならないとならなくなるから」
と、ディフィーの相手になることにした理由を言った。
ディフィーはちょっと悔しく思った様で、薙刀の練習に熱が入った。
僕はアーロア様はわざとディフィーを挑発したのだと思う。
セカンとミーレナさんは、サーブが見つけた本に書いてあることを忠実になぞっていったみたいだ。
書いてある練習方法を基礎から二人でやってみて、互いの感想や批評をしあい、その技術を自分たちのものとしていった様だ。
途中からミーレナさんは激しい動きができなくなったはずなのだが、この技能の基本的なところは、尻尾を動かす必要なく習得できるみたいで、さすがに応用的な動きは避けているみたいだが、その辺はセカンの動きを見るだけでミーレナさんにはかなりの参考になり問題がないみたいだ。
ただ正直この2人が取り組んでいることは僕にはよく分からない。
武器を鞘に入れた状態から、2人とも目にも止まらぬ速さで抜く。
そして抜いたと思った次の瞬間にはもう、鞘に納めようとしている。
どうやらそのスピードを極限まで速めようとしているみたいだが、確かにそれは凄いのだが、セカンに言わせると、まだそれだけではダメなのだという。
自分の剣先が一瞬のうちにどこまで届くのかを把握することが難しい、だとか言うのだが、よく分からない。
でも、とにかく強い。
木刀でデイヴと立ち合ったら、デイヴがあっという間に負けた。
えっ、と思った次の瞬間には、デイヴは斬られる形で寸止めされていた。
それを見ていたキースが次に立ち会ったけど、セカンに近づいていったかと思ったら、「うわっ!」という声と共に大げさに後ろに跳んだ。
「デイヴの負けを見ていたから、避けれたけど、凄いな、こんなの初見で避けれる訳が無い。
間合いが全く掴めなくて、手も足も出ないよ」
「そんなことない。 やっぱりまだまだダメ。
キースなら、二撃目、三撃目になれば、もっと余裕で避けれる。
そうしたら私の負け。
デイヴだって、初めてだから動けなかっただけ。
次は負ける」
僕らは凄いと思ったのだが、セカン自身やミーレナさんの評価は意外に低かった。
まだまだこんなものではない、ということなのだろうか。
可哀想なのはナーリアだ。
毎日嫌という程ミーリア様にしぼられている。
兎に角マンツーマンの指導で辛い上に、ここではミーリア様の真面目さがナーリアにとっては裏目に出て、とても厳しい指導になっている。
だけど見ている分にはとても美しい。
ナーリアの槍は、ラーリア様が言っていた様に特別な物に仕上げられた。
とにかく僕たちの物とは違い、派手に美しいのだ。
長さは僕らの槍より短く2m50cmを超えるかどうかという程度。
穂先も短くて20cm程度に過ぎない。
しかし、柄の部分がとても派手に美しいのだ。
構造的には僕たちの槍と同じなのだが、ナーリアに合わせて僕らのモノより少し細く、穂先や石突きの茎も短いので、全体的に軽い。
でもその柄の表面はまず白く塗り、その上に透明な樹脂を塗り、乾き切らないうちに黄色い粉をはたいた。
そしてそれが完全に定着したら、その上に雲母の粉を混ぜた透明な樹脂を塗った。
そして穂先に近い部分には銀の飾り金具と飾り房を取り付けるための金具もついている。
ナーリアは最初その槍を見た時に、自分の物とすることを辞退した。
「こんな煌びやかな豪華な槍は、私にはとても使えません。
誰かこの槍に相応しい方が持つべきだと思います」
「ナーリア、この槍はお前に必要だから作った物だ。
他の誰でもない、お前専用の槍なのだ。
戦場で指揮官はなるべく多くの味方にその健在を常に知らす必要がある。
そのための1つの道具が、この槍だ。
ミーリアの槍と同様に、この槍を持っていれば、戦場のかなり遠くからでもお前の存在はたちどころに知れる。
そのための派手さ、豪華さなのだ。
ただし逆に敵からも一番に狙われる存在にもなる。
指揮官とは、それを覚悟しながら、味方を動かし鼓舞しなければならない。
そしてそのための自分の身を守ることを第一に考えた槍使いを覚える必要があるのだ」
ラーリア様の言葉にナーリアは渋々槍を受け取ったが、それを聞いていた者たちは、これから後、ナーリアが全軍の指揮をする時が来ることを考えて、そのための英才教育をしようとラーリア様とミーリア様が考えていることが、よく分かった。
でも本人のナーリアは、槍の豪華さのみに気がいっていて、指揮官としての英才教育をされることには、全く注意が向いていない。
ミーリア様がする槍の動きをナーリアが真似して練習しているのだが、本人は真剣ですごく大変そうなのだが、2人の煌びやかな槍が日に光る光景は本当に綺麗だ。
ミーリア様の白い槍は銀色に輝き、ナーリアの黄色い槍は金色に輝いて見える。
髪の色もそれに呼応しているから、2人が槍を振るっている姿は、美しい舞を踊っている様に見えるはずなのだが、残念ながらまだまだナーリアの動きがぎこちないから、そこまではにはならない。
それでも僕や、友たちは、だんだんと動きがまともになって、綺麗になっていくのを見るのが楽しみになっていた。
ま、ナーリアの顔を見ると必死の形相なので、なんというかちょっと興ざめなんだけどね。
それから付け加えると、僕たちは弓も少し改造した。
脱皮して体が大きくなった分、少し弓を大きく強力にした。
レンスだけは、速射に特化しているので、形はそのままで強力にした。




