175. 日々の課題
ハーピーとの会談が終わると、僕たちはラーリア様から新たな日々の課題を与えられてしまった。
「お前たち、お前たちというのは、ナーリアたちと人間たちだ。
この冬の間、毎日それぞれ武器の扱いをしっかりと練習してもらう。
特に人間たち、お前たちの武器の取り扱いは、獣相手に特化していて、戦場では役に立たん。
この冬にしっかりと、戦場で役に立ったり、自分の身を守れる様に鍛えてもらうぞ、覚悟しておけ」
確かに僕たち人間は、獣を相手に戦うことは教わったし、練習もした。
だけど、ゴブと戦ったり、自分の身を守ったりということは、全く考えたことがなかった。
狩人がゴブと関わるとしたら、せいぜい見つけた時に矢で射つ程度だろうし、普通はゴブの方で逃げていく。
ゴブの数が増えたら、それは狩人の出番ではなく、騎士団の仕事だ。
ゴブと近接戦闘するなんてことは、全く想定されていない。
ナーリアたちは、一応剣も習ってはいるが、正直サーブを除けば、近接戦闘でゴブに立ち向かえはしないだろう。
普段から、サーブは剣も練習しているが、それ以外にナーリアたちが剣を振るっている姿を見たことがない。
ラーリア様に近接戦闘の練習を課せられると、サーブは嬉しそうな顔をしたが、ナーリアとディフィーは明らかに嫌そうな顔をした。
セカンは何か考えている顔をしているし、レンスは何か決意した顔をしている。
「人間たち、お前たちは剣の練習をまずしてもらう。
それともう1つ、特別な理由がない限り、大身槍の練習をしてもらう。
大身槍は力がないと使えないからな、人間の男なら使えるだろう」
ラーリア様は挑発するかの様に、ちょっと笑顔を見せて僕たち人間に言った。
そしてナーリアたちの方に向かうと、
「さて、お前たちは剣の他に何を練習するか?」
「私はラーリア様の様にハルバードを使いたいのですが」
サーブがラーリア様にそう言った。
「サーブはやはりハルバードか」
ラーリア様はちょっと感慨深そうに言うと、
「よし、それではサーブには私がハルバードの使い方を教えよう」
サーブは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに凄く嬉しそうな顔になり、
「ありがとうございます。 私などがラーリア様直々に教えていただいてよろしいのでしょうか」
「サーブ、そんなに期待してくれているところ申し訳ないが、お前は1つ大きなことを忘れている。
私はこれから子を産むから、そんなに手取り足取り教えてやれる訳ではない。
お前の練習を見てやる程度だ」
「いえ、それでも私には過ぎたることです」
サーブは顔だけでなく身体中から喜びが溢れ出ている感じだ。
「それでは私はナーリアに槍を教えます」
ラーリア様とサーブのやり取りを見ていたミーリア様がそう言った。
「ミーリア、お前が教えるということは・・・」
「はい、ラーリア様、ナーリアにはみっちりと指揮官の槍使いを教えます」
ナーリアは自分のことが話されているのに、訳がわからないという顔をしている。
「ナーリア、お前も先の戦ではミーリアの槍を見ただろ」
「はい、とても美しい槍で、白銀に輝き、白い房が揺れて、とても目立っていました」
「そうだ、指揮官の1つの役目として、味方の全てに、我ここにありと自分の健在を知らしめることがあるのだ。
指揮官が本陣で、どっかりと構えて指揮するところを見せてこそ、全軍は安心して戦闘ができるのだ。
先の戦では、お前の献策した太鼓と鉦の指揮法が功を奏し、あまりミーリアが槍を振るう機会がなかったが、時には指揮官の振るう槍の合図を見て、全軍は動くのだ。
指揮官の槍は己自身を守るだけでなく、そういったことでも使われるから、特に目立つ様に作られてもいる。
ナーリア、お前にも周りの者が一目それを見ただけで、お前の健在がわかる派手な槍を、近いうちにボブたちに作らせよう。
まずはミーリアに己を守るための槍使いから習って、それから指揮するための槍使いを習え」
ナーリアは何かとんでもないことを言われている気がしたのだが、反論できる訳もなく、ミーリアに頭を下げていた。
「ミーリア様、よろしくお願いします」
「ナーリア、私はラーリア様たちとは違い、この冬は子を産む訳ではないから、厳しくいくわよ。 覚悟してついてきなさい」
ナーリアはミーリア様のその言葉に明らかに怯えている。 ちょっと可哀想だ。
「ミーリアがナーリアに槍を教えるなら、私たちは人間に槍を教えよう。
私たちの槍使いはミーリアとは違い、己を守ることよりも敵を殲滅するための槍使いだ。
大身槍を使うとなれば、そちらの方が本領発揮とも言えるだろうからな」
ミーリオ様が何だか嬉しそうに、僕たち人間を眺め回していると、
「4人で11人を相手にしての稽古ですか。 1人が受け持つのが3人以下ですね。
随分と中身の濃いものになりそうです。 楽しみです」
ミーリド様たちも悪い笑顔だ。
自分の事となってナーリア気持ちがすごく分かった。
「あの、ミーリオ様、お手柔らかにお願いします」
デイヴがミーリオ様に即座に頼んだが、笑って黙殺された。
「私はやっぱり双剣使いになる」
レンスがそう言うと、イクス様が
「あら、私は教えないわよ。
何で私と同じことをしようとするの?」
とレンスに言う。
「真似した訳じゃない。
私の特徴はスピードだから、それを一番生かすのはどんな武器が良いかを考えただけ。
そう考えると悔しいけど、双剣使いが一番合っている。 仕方ない」
「仕方ないで、双剣使いになってほしくないわ」
イクス様が母親モードになってしまった。
「まあまあ、イクス様。 レンスには私が双剣の使い方を教えますわ。
確かにレンスのスピードを考えたら、双剣が一番合っているとも思いますし」
同じ双剣使いのラーリル様がイクス様にそう言った。
「はい、ラーリル様、よろしくお願いします」
レンスが即座にそう言うと、イクス様は余計に腹が立った様だ。
「私は絶対教えないからね」
イクス様もレンスとのことになると、いつもの冷静さは全くなく、不機嫌さを全く隠さない。
レンスはレンスで、それを余計に挑発する様な態度をしている。
ラーリル様が間に入って困りきっている。
単なる親子ゲンカというじゃれ合いなんだから、ほおっておけばいいのに。
セカンは考えこんでいたが、やっと決心がついた様だ。
「私は何をしようか迷ったのですが、私はある程度器用さに自信がありますし、スピードにもレンス程ではないですけど自信があります。
それで前にサーブが見つけた様々な武芸の解説書に載っていた、居合術とか抜刀術とか言われる武芸を練習したいと思います。
戦場用の武芸というよりは、どちらかというと護衛とか護身用の武芸の気がしますが、そういう役目の者も必要になることがあると思うのです」
聞きなれない武芸の話だったので、ラーリア様たちも首を傾げている。
「セカン、その武芸は1人で習得できるのか?」
ラーリア様がちょっと心配そうな顔をしてセカンに尋ねた。
「確実にできるとは言えないのですが、サーブが見つけた本にはその習得方法や、技のコツなどが詳しく載っていましたから、それを参考にしながら練習していけば何とかなるんじゃないかと思います。
ただ、剣ではなく、刀という独特の武器ですので、それをボブに作ってもらわなければなりませんが」
このセカンの話に、少し脇の外れたところにいたミーレナさんが興味を示した。
「セカン、その武芸は私にも習得可能かしら?」
セカンはちょっと驚いたみたいだったが、しばし考えこんだ。
「ミーレナさんは左手が使えないといっても、左の指が動かないだけで、腕も手首も使えますから、たぶん可能だと思います。
何よりミーレナさんは私よりも器用ですから、どうにかしちゃうんじゃないかと思います」
「セカン、それはあなたの買い被りよ。 いくらなんでも器用さであなたには勝てないわ。
でも、あなたが私にも可能と思うなら、私もその技に一緒に挑戦してみても良いかしら。 流石に私も右手一本だと、今までの様に剣では戦えないから、違った戦い方を覚えたいのよ」
「ミーレナ、弓で私に勝ち、その上近距離戦闘もこなす気でいるのか。 それならミーレアに復帰だな」
「ラーリア様、私はそんなことは考えていません。
ただ、子供を産んだ後で、子供を守ることもできない様な母親でいたくない、と思っただけなんです」
ラーリア様は納得したという顔をした。
「復帰だとかはまあ後の話だ。 それならセカンとミーレナはその武芸を練習してみろ」
それにしてもミーレナさんて、戦いの時に1人でゴブを相手にして戦線を支えていたんだよね、それも片手になってから。
元はどれほど強かったんだよ、と僕は思った。
とにかく、セカンも決まった。
残りはディフィー1人なのだが、ディフィーこそは全くアテがない感じで途方にくれていた。
「ラーリア様、私、最近でこそ、少しは体が大きくなり、弓も特殊な物を使って戦力になっていますが、剣は小さな剣がやっと振れる程度のことしか出来ません。
私にも出来ることがあるでしょうか」
ディフィーはちょっと泣きそうな感じで、ラーリア様にそう正直に訴えた。
ディフィーは体格や力がないことにコンプレックスを持っているから、それを自ら認めて正直に話すことはほとんどない。
何とか何かしらの工夫で、そのハンディキャップを乗り越えられないかと1人で悶々と考えているのだ。
そのディフィーがここまで赤裸々に言うのは珍しい。
「ディフィー、あなたは私と同じ武器にしなさい」
ラリト様が助け舟を出した。
「私もあなたと同じ様に小さいでしょ。
私が使っている武器なら、あなたも使えるわ。 それにこの武器は、私はあなたの母君に習ったのだから。 絶対に使えるわ」
「ラリト様が使う武器は、私の母が教えたのですか?」
「そうよ。 ラーリアだったあなたの母君が、上位になったばかりの私に教えてくれたのよ。
私はあの当時、近接戦闘は出来ないし、弓もあまり飛ばないしで、上位を辞退しようかと迷っていたの。 そうしたらあなたの母君が、それを見かねて私に武器をくれて、その上稽古をつけてくれたの。
そのお陰で私は上位に残れて、今こうしてラーリアにまでなっている。
私はあなたでその恩をいくらかでも返すわ」
ディフィーは本当に今にも泣き出しそうな顔をして言った。
「はい、ラリト様、よろしくお願いします」
ディフィーの武器も決まった。 ディフィーは薙刀だ。
「まずは基礎の基礎の木剣振りだ。
全員毎日欠かさずに素振りを行う様に」
厳しい修行が始まった。




