174. 会談の後
ラミアとハーピーの同盟締結の会談は、とてもあっさりと簡単に終わった。
ハーピーが3名で臨んできたので、ラミアも基本はラーリア様、ラーリオ様、ラーリド様の3名で臨み、その後ろに立ち会う形でイクス様とミーリア様が控えた。
ナーリアたちと、デイヴとキース、そして案内役の3人と立場がわからないが付いて来たウスベニメは脇に離れた位置でただ見守った。
ラーリア様がまず今までのことをハルオンにラミア全体として正式に謝罪し、ハルオンはハーピー全体として、過去のことは水に流し、新しい未来を共に築こうと応え、同盟締結の調印となった。
僕は互いの自己紹介までは、ハーピーとラミアの間に入って、顔つなぎをしたが、すぐにその場からナーリアたちの所に戻っていた。
デイヴが小声で僕をからかってきた。
「アレク、なかなか緊張した、良い格好だったぞ」
「だから、ああいうことはデイヴの方が得意なんじゃないか。 俺じゃなくて、お前の方が良かったのに」
「ま、なかなか見れない姿だったな。 緊張して足が震えていたろ。
みんなに話してやらないとな」
キースまでそんなことを言ってきた。
「おい、静かにしてろ。 今、ミーリア様の目が光ったぞ」
サーブの注意で、僕たち3人は途端に沈黙した。
僕だけじゃなく、デイヴとキースも真剣な顔で取り繕っている。
ミーリア様の怒りが怖いのは、何もラミアに限らない。
締結が終わり、くだけた歓談に移る前に、僕はもう一度ラーリア様に呼ばれた。
「ハルオン殿、改めて私から今回の同盟の一番の功労者を紹介しよう。
もちろんそれはこのアレクなのだが、今回の同盟を私に提案してきたのも、あなた方との交渉も全て担ってくれた。
私はこの者がいなければ、ラミアとハーピーの間の同盟は、少なくとも数年先にならねば締結できなかったのではないかと思う。
ま、もし、そうなればゴブのことがあるから、同盟締結という状況があるとも思えないのだが」
「全くその通りじゃな。
ハーピーとラミアの同盟は、今、この時点だから出来るし、それに大きな意味がある。 今を逃したら、同盟締結の機会は得られなかったろう。
その意味でもアレクの功績は我も大きいと思う」
僕は照れ臭く感じたが、ちょっと言葉を発しさせてもらった。
「いえ、この機会が出来たのは、ミーレア様が命を捨てて、ラミアは約束を違えないと証明してくれたからですし、締結出来たのはエルシム様がラミアは信頼に足ると強く主張してくれたからです。
それから比べれば僕の功績など小さなことです」
ハルオンの横にいたエルシムが僕に続いた。
「確かに元をただせば、ハーピーとラミアの信頼が崩れかけた時、ミーレア殿が命をもって、それを修復されたからと言える。
私などは、ハーピーにそのミーレア殿の真心を伝えただけに過ぎない」
ラーリア様がしみじみとした声で言った。
「今回の同盟の締結を、ミーレアもきっと心から喜んでいることであろう」
ハーピーの3人は普通に立っていると肩近くにある両手の右手を胸に持っていくと、右足を引き、お辞儀をした。
その動作で羽が動き、揃った行動がとても美しい。
ああ、これはきっとハーピーが敬意を表す動きなのだな、と僕は思った。
「ところで、ラミアの使者として人間がハーピーの里にやって来たことには、ちょっと我らも意表を突かれた。
このアレクはラミアの里ではどの様な立場にいるのだろうか」
ハルオンはちょっと好奇心を見せてラーリア様に尋ねた。
「アレクはこのラミアの里では人間ではあるが、上位という立場にある。
また、一緒に行ったデイヴとキースを含めたその他10人の人間も、皆上位に準じた立場に立っている。
今ラミアの里は正確にはラミア200名余りと人間11名の里と言えるだろう」
「なるほど、人間もラミアの里に正式に加わったということか、それはハーピーとしては羨ましい事柄だな。
ハーピーは今現在は鳥型のみの150名余りとなってしまったからな」
「私は、この間案内役の3人に会ってから、ハーピーには鳥型から人型までの幅があるということを知ったのだが、ハーピーにも人との関わりが必要なのかな」
「ハーピーはラミアと違い、ハーピーのみでも両性が揃うので子を成すことが出来るが、ハーピーのみでは姿形が鳥型に偏ってしまう。
それはハーピーにとって大きな問題だと考えている。
昔の様に、ハーピーももっと人とも関わりたいものだ。
それにしてもラミアの里に人が正式に関わるのは随分と久しぶりなことよ」
話がだんだんと弾んできたが、同盟締結の式からは外れ出したので、とりあえず場を替えて、歓談の席とすることにした。
歓談の席は家の作業場に敷き皮を敷き詰めて作った。
テーブルもラミアは基本的には床に座って使う形式なのだが、ハーピーは椅子さえ座るのは苦手とするので、立食の場とするためにいつも使うテーブルをバンジに頼んで脚を付け替えて、背の高い物に改造してもらった。
ちょっとした飲食ということで、マール茶を出して、それと一緒に干し柿と大鳥の肝の燻製を用意した。
ハルオン、シロシュウメ 、エルシムの3人はマール茶を喜んだ。
「ウスベニメ、あなたのお祖母様が亡くなって、火を使うハーピーがいなくなってからは、このお茶を飲むこともなくなりましたね。
あなたはこのお茶の味を覚えていますか」
「はい、シロシュウメ様、私も懐かしいです」
そんな話を聞いていたハルオンが言った。
「この様に、人との交流が絶え、人型のハーピーがいなくなると、生活さえも偏りを生んでしまっているのだ」
イクス様がハルオンに口を開いた。
「先ほど、ハルオン様は『ラミアの里に人が正式に関わるのは久しぶり』とおっしゃっていましたが、以前に人がラミアの里に正式に関わっていた時を知っていらっしゃるのですか」
「ああ、私はこの家に最初に住んだ者とは友人であったからな。
彼は若くしてこの世を去ってしまったが、我はまだこの世に未練がましく残っているという訳だ」
ラミア全員が驚いて動きが止まった。
「イクス様、ハルオン殿は父祖様と友人であったと言われているのですか?!」
「そうね、ラーリア、どうもそういう事だと思うわ。
失礼ですが、ハルオン様はとてもご長寿でいらっしゃるのですか」
「ああ、見ての通りの老いぼれだ。 大火の前から生きておる。
この家の最初の主人とは、ほぼ歳が一緒であったからな、種族の違いを越えて仲は良かったぞ。
だが、そもそも大火の前には種族の違いを越えて仲が良いなどというのは珍しくもなかったから、我らが特別ということはないのじゃ。
お前たち今のラミア族は、元を正せば皆、奴の血を引いている。
だから、ラミアとハーピーの争いは、我の心中としては悲しいことであった」
「長よ。 その様な話は、ちっとも知りませんでしたし、ラミアとの争いをその様な気持ちで見ておられたなどとは思ってもいませんでした」
エルシムがそう言った。
「語っても、詮無きことであろう。
しかし、だから今回の同盟は嬉しきことであった」
ナーリアがおずおずとした感じでハルオンに尋ねた。
「あの、父祖様、この家の最初の主人とはどの様なお方だったのですか?」
「なかなか難しい質問じゃな。
彼奴もなかなか苦労していたし、体もあまり丈夫ではなかったから、色々と複雑な男であったからな。
ただまあ言えるのは、ラミアのことをとても大事に思っていたという事と、どうにかして大火の前の様に、人とラミアやハーピーといった亜人種族が仲良く暮らせないかと考えていたということかな」
ハルオンは遥か昔を懐かしむ様にそう言って、一言つけ加えた。
「人と亜人種族が仲良く暮らすというのは、彼奴だけの願いではない。
我も今でもそれを願っているのじゃ」
場にいた者は、ラミア、ハーピー、人間の種族を問わず、みんなハルオンの言葉に耳を傾けて、静かになってしまっていた。
ハルオンは自分だけがしゃべって、場が静かになってしまっているのに気がつき、ちょっと照れくさそうに咳払いをすると、話題を変える感じでイクス様に向かって言った。
「そう言えば、そなたはラミアの長のラーリア殿に様付けで呼ばれていて、そなたは逆に呼び捨てておったが、どの様な立場なのじゃ」
イクス様は少ししまったという顔をされ、なんて言おうか迷っているみたいだ、ラーリア様が助け舟を出した。
「イクス様は、歳こそ私と大きくは違いませんが、ずっと以前からラミアの一番上の立場に立たれていたのです。
今は、その立場を後輩の私に譲って、一歩退いた形でラミア全体を見ていただいています」
「はい、私はもう半分引退した様なものですが、今回はとても重要な事柄なので同席させていただきました」
「もう半分引退といっても、そなたはまだまだ若いであろう。
我の見るにどこも衰えたところも見えないが、何故に一線を退いたのじゃ」
「1つにはこのラーリアがいますから、私が退いても何の問題もないこと。
次に1人があまり長く上に立つのは、その者が余程卓越した者で無ければ、あまり良いことではないのではないかと私自身は考えるからです。
そして私は卓越した者ではないですから」
「これは私には耳の痛い意見じゃな。
エルシム、見よ、この年若い者も、この様に考えて後輩に席を譲るのじゃ。
もうお前がハーピーの長となるべき時なのじゃ」
「長よ、何をおっしゃる。
イクス殿の言われることは理解できるが、我らハーピーの長は長しかおりません」
イクス様も言葉を付け加えた。
「もしこの家の最初の主人、父祖様がハルオン様のように生きておられたら、やはりこのラミアの里の一番上に今でも立っていたことでしょう。
私にもハルオン様は例外の卓越した者に見えます」
この父祖様に関する話題をピークに歓談も恙無く時間が過ぎていった。
歓談の中でも実務的な話もいくらか進んでいき、今後も定期的に会談を行うこと、普段のやりとりには今後も4人の(何故かウスベニメも含まれていた)ハーピーが連絡係となって行う事となった。
ハーピーはシロシュウメが干し柿をすごく気に入り、干し柿をお土産に持って、ハーピーの里に帰って行った。
「父祖様なんて、私にとっては伝説のお方だったのだけど、実際に父祖様と会ったり話したりした人がいるのだな」
サーブがそんなことをハーピーが帰ってから言った。
「うん、私も驚いたけど、考えてみればちょっと長寿の人なら、父祖様の年齢で確かに生きていてもおかしくない」
「ラミアも本当はもっと長寿の者がいても良いはずなのよね。
少なくとも昔の記録だと、ラミアも人間も変らないのだから」
セカンとディフィーがそんなことを言う。
「本当にここは父祖様の家だったんだね。
信じてなかった訳じゃないけど、なんかしみじみ実感した」
レンスが言う。
「あー、私、何で声を掛けて質問するなんてことしちゃったんだろう。
私なんかが声を掛けて良い様な人じゃなかったじゃん。
あー、もう、私どうしよう」
ナーリア、もう今更だ。
僕も何だか色々考えさせられることを聞いた気がした。




