172. ハーピーと共に
ラミアの冬籠りが済んで、すぐに僕はデイヴとキースと共にラーリア様たちと打ち合わせをした。
ハーピーをラミアの里に呼んで、同盟を正式な物にする為だ。
ラーリア様も当然だが気になっていたらしく、すぐにまずは僕たちに、もういつでも都合の良い時を知らせて欲しいと伝える様に言われた。
また3人でハーピーの里に行くことになった。
季節は冬に完全に近づいたので、かなり寒くなっている。
今までの格好ではもう寒くなってきているので、僕はセカンに頼んで鹿の毛皮で防寒着を作ってもらった。
ラミアは人間より寒さに弱いので、僕の防寒着を見ると、即座にみんな同じ形の防寒着をセカンに教わったり、手伝ってもらったりして、作った。
ただまあラミアの場合、上半身は人間と同じに防寒できるのだが、尻尾はちょっとどうしようもない。
上半身に近い部分だけは毛皮を巻いたりできるけど、地に接している部分はどうにもできない。
覆ってしまったら、動くことがままならなくなってしまうからだ。
なんとか上面だけでも覆う工夫を考えないと。
僕たち3人はいつもの様に旗を掲げて、山道を登っている。
デイヴとキースも、僕と同じ様な格好をしている。 ラーリア様たちの誰が作ったのだろうか。
「なんだか、こうやってハーピーの里に行くのも慣れたなぁ」
デイヴがのんびりした口調で歩きながらそんなことを言う。
「そうだな。 デイヴも今日はまだへばってないもんな」
僕がそう返すとキースが吹き出した。
「確かに今日はまだ旗を杖にしないで、振っている」
「俺は最初の時から、ちゃんと旗を振っていたぞ」
デイヴの弁解にキースとまた笑った。
そうこうしているとすぐにいつものハーピーが飛んで来た。
「お前たち、変な獣が現れたのかと思ったぞ」
僕らの毛皮を着た姿を見て、そんな風にからかってきた。
何度かハーピーの里に行っているうちに、特にこの3人とは気安くなり、普通にこんな冗談が交わせる様になった。
「お前らは自前の羽毛があるから暖かいのかもしれないけど、俺たちには羽毛はないから、こうしないと寒くてしょうがないんだよ。 特に飛んでいる時には」
キースが答えている。
キースも最初の時にはハーピーと全くしゃべらなかったが、今ではこうして普通に話している。
ハーピーは笑って言った。
「ま、とりあえずはいつもの通り、ここからは空の旅だ」
「エレオン、長たちは今行って、会ってくれるかな?」
「ああ、爺さんたちも気にしていて、お前たちが来るのを待っていたから、そんなに待たされずに会えると思うぞ」
「そうか、それはありがたいな」
僕たちは気安くなったこの3人のハーピーと、世話をしてくれた女性ハーピーとは、普通に名前で呼び合う仲になっていた。
ちなみにこの3人のリーダー格で長のハルオンの孫がエレオン、あとの2人がアライムとハライトだ。
デイヴと最初からなんとなくウマがあったのがアライムで、僕は打ち合わせの都合があるのでエレオンと話すことが多い。
そんな訳でなんとなくキースはハライトと話すことが多いという風になっている。
女性ハーピーはウスベニメと言うのだが、本当はウスベニカラメらしい。 みんなから略されてウスベニメと言われているらしい。
「女性ハーピーは名前の最初に内側の羽の色が付くのですけど、私の薄紅色は珍しくて、それだけでOKという感じなんです。
最後に『メ』が付くのは女性ハーピーの伝統ですね」
と、前にその内側の羽を色を見せられながら教えてもらった。
飛んでいった小さな広場でほとんど待つこともなく、長たちのいる岩室に案内された。
初回は空を飛んで腰を抜かして、回復の時間を貰わねばならなかったが、今ではそのまま普通でいられるまでに慣れた。 キースも固まってはいない。
「人間たち、待ちかねたぞ。
ラミアたちはもう冬籠りに入ったのか?」
長は挨拶する間もなく、本題に入った。
「はい、これからのことに立ち会う者と人間を残し、その他のラミアは眠りにつきました」
「そうか、それではこれからはお前たちを介さずに、直接ラミアと話し合いが持てるという訳だな」
「はい、大丈夫です。 ハーピーの方々にラミアの里に来ていただいても、もう混乱する様な事はありません。
お待たせして申し訳ありませんでした」
「いや、あのミーレアという武人はきっとラミアの中で慕われていたのだろう。
ハーピーが行けば混乱するという事も、十分に理解できる。
頭で理解しても、心がどうしてもそれについていかないのは仕方ない」
横にいたエルシムが口を出した。
「はい、ラミアはエルシム殿が十分過ぎる程の敬意と温情を持ってミーレア様に接してくれたことを理解し、また感謝もしています。
それでもどうしても、失った悲しみが、そういった理解を押し流してしまうのです」
「これは逆説的な言い方になってしまうのだが、その様に慕われる優れた武人が、最後をこの私に託してくれた事は、私の一生の誇りである」
「ラミアがエルシム殿を知れば、私たちと同様に、『ミーレア様が最後を託した方がエルシム殿で良かった』と感じると思います」
デイヴとキースも頷いた。
「光栄だ。 大変光栄な言葉だ」
ハルオンが1つ咳払いをして話を戻した。
「それで、我らはいつ頃そちらに向かえば良いかな?」
「はい、いつでも都合の良い時を指定していただきたい、と言付かっています」
「そうか、我らとしても早く互いに直接会って、積年のわだかまりを水に流したいと思う。
三日後の昼過ぎに、まずは一度訪れよう。
それで構わないか?」
「はい、大丈夫です。 その様に伝えます。
それで何人ほどでお越しになりますか?」
「最初から多人数で行っても仕方ないであろう。
ここの3人と、案内にいつもそなたたちを運んでいる3人を付けて、6人で行こうか。
具体的な場所などは、その3人に教えておいてくれれば良い」
「はい、分かりました」
ハーピーの長との会見はあっさりと終わった。
小さな広場に戻って、いつもの3人に少し今の会見の話をする。
「3日後に長たちにラミアの里に来てもらうことになったのだけど、お前たちが案内役に指名されたぞ」
「我々が長たちを案内して、ラミアの里に行く訳か」
「そういうことになる。 だからとりあえず一度今からでもラミアの里に3人で来いよ」
「構わないのか」
「ああ、構わない。 俺たちがラミアの里に戻るくらいの時間が経ったら、いつもの旗を立てておくから、その場所に来てくれれば良いから。
お前たちの目なら、そのくらいは簡単だろ」
「ああ、そのくらいは何でもないが、どうせお前たちを運ぶのだから、そのままラミアの里まで飛んでしまおう。 その方が早い」
「え、ここからラミアの里に飛ぶのか?」
キースが食いついてきた。
「なんだキース、まだお前空を行くのが怖いのか? 大丈夫だ、俺を信頼しろ」
「ハライト、お前を信頼していない訳じゃないし、怖いなんて言ってないだろ。
確認しただけだ」
「じゃあ、まあ、飛んでいくか。 ラミアはほとんどが寝ているから、俺の空飛ぶ勇姿が見せれないのが残念だなぁ」
僕は、ただぶら下げてもらっているだけの姿のどこが勇姿なんだと思ったけど、このデイヴの言葉で、このままラミアの里に飛んで行くことが決まった。
僕らの足で歩くとかなりの時間がかかる距離も、空を飛べばあっという間だ。
僕たちはあっさりといつも3人と待ち合わせる場所を越えてラミアの里に近づいていく。
「俺たちは普通はこっちには今までの約定があるから入らないからなぁ。 あまり細かい事は知らないんだ」
「空を来ればこんなに近いのに、なんだかそれも変だな」
「まあ、鳥でもそれぞれ自分たちの縄張りはあるからな」
僕は家に直接に向かうことにした、ナーリアたちをちょっと驚かせてやろうと思ったんだ。
エレオンに行き先を指示していて、ふと気になるモノが目に入った。
「エレオン、あそこに白い煙の様に見えるのは、もしかして湯気か?」
「ああ、そうだな。 小さいけど、あそこにも温泉がある様だな」
「すぐ近くに見える家が俺の今住んでいる家なんだけど、こんなすぐ近くに温泉があるとは思わなかったよ」
「そうだな。 下からだとあの湯気はたぶん見えないな」
僕は頭の中に温泉の位置をしっかりと刻み込んだ。
「おお〜い、ナーリア、セカン、ディフィー」
僕は家の外にいた3人が見えた時点で呼び掛けた。
3人は呼びかけられたことに気がついたが、キョロキョロしている。
ディフィーでも分からないことがあるんだ、とちょっと嬉しかった。
セカンが気がついた。
「アレク、空から帰ってきたの!!」
すぐに僕たちは3人の側に着地した。
僕とデイヴとキースは声をあげて笑った。 3人のびっくりした顔がちょっとおかしくて、いたずらが成功した気分だったのだ。
ナーリアたちが後ろのハーピーを見ていることに気がついて、慌てて紹介した。
「みんな聞いてくれ。
こっちはいつも僕たちを運んでくれるエレオンとアライムとハライトだ。
えーと、こっちのラミアは僕のグループで、同じ家で過ごしている。
こちらがリーダーのナーリアで、セカン、ディフィー、そして遅れて家から出て来た2人がサーブとレンスだ」
「えーと、私、ハーピーとまともに接するの初めてなんだけど、なんて呼べば良いのかしら」
ナーリアが聞いてきた。
「僕らは普通に名前を呼びあっているから、ナーリアたちもそれで良いんじゃないか。
エレオンたちもそれで良いだろ」
「ああ、俺たちもラミアとまともに接するの初めてだから、アレクの思う通りでいいぞ。
そのラミアたちはアレクのことを普通に呼んでいるみたいだから、俺たちもそれで構わない。 俺たちも普通に呼ばせてもらって良いのかな」
「ナーリアもそれで良いよね」
「ええ、構わないわ」
「ま、とりあえず中でお茶でもみんなで飲まない?
デイヴとキースも飲んで行くでしょ」
ディフィーがそう言って、場所を変えようとした。
「そうだな、キース、空飛んで体が冷えたから飲んでいこうぜ」
「ああ、そうだな」
家の中に入り、みんなでお茶を飲む。
人間とラミアは椅子に腰掛けたり、段差に腰を下ろしたりしているのだが、ハーピーの3人は立ったままでいる。
そういえばハーピーが座っている姿って見ないな。
「お前ら座らないのか?」
「ハーピーは座るという姿勢が苦手なんだ。
座ると立っている時以上に羽の動きに気を使わなくてはならないだろ。
それだから鳥型に近いハーピーは座ることをほとんどしないのさ」
アライムが答えてくれた。
「今、鳥型に近いハーピーは、って言ったけど、ハーピーって鳥に近い姿をしているものではないの?」
セカンがアライムの言葉に疑問を持った様だ。
「ハーピーは鳥に近い姿の者だけじゃなくて、人に近い姿の者もいるそうだぞ。
ラミアと違って、人と交わると一方の姿だけでなくて、両方と、その間とか色々な姿で生まれるらしいんだ」
僕はセカンに説明してやる。
「そうなの、それでハーピーは男性だけの種族なの?」
「いや、今日は僕らを掴んで飛んで来てくれたから男だけだったんで、ハーピーには女性もいたよ」
「そうなんだ。 男性だけの種族かと思った」
レンスまでそんなことを言う。
「逆に俺たちは、ラミアって本当に女性ばっかりの種族だったんだって、そっちにびっくりだよ」
ハライトがそう言った。
「争いはしてたみたいだけど、お互いのことを本当に知らないな」
サーブがそう言った。
「してたみたいだけどという言い方は変じゃないか」
僕がそう言うとディフィーが
「だって私たちは話に聞くだけで、直接ハーピーと争ったことなんてないもの。
今、こうやって一緒にいても、ハーピーの男ってこんな感じなんだ、としか思わないもの」
「あ、俺もそれ分かる。
俺もラミアに会ったの初めてだから、ラミアってこんななんだ、なんだ足が蛇の尻尾みたいになっているだけで普通じゃん、て思ってた」
ハライトがそう言うと、アライムは確かにという顔をして、エレオンは呆れた顔をした。
「それを言うなら、俺から見れば、ハーピーは鳥の羽根と足を持ってるけど普通じゃんだし、ラミアは下半身が違うだけで普通じゃん、だぜ」
デイヴの言葉にみんなで笑った。
なんとなく、ラミアとハーピーを会わすことに身構えていたけど、なんだ大したことないや、と思った。
「でもやっぱり、私たちが座っていて、お客さんが立っているのは、ちょっと落ち着かないよ」
ナーリアが気になるのはそこか。




