170. 麦踏みと
「はい、若い子たちはもうやったことあるよね。
だから今日はお姉さんとして、小さい子に麦踏みの仕方をちゃんと教えてあげてね。
麦踏みは競争じゃないからね、丁寧に優しく踏んであげてね。
それじゃあ始め」
麦踏みはヤーレンの号令で始まった。
若い子たちはヤーレンの指導の下に、ヤーレアたちと一緒にもう以前に一回麦踏みを体験している。
だから今回は若い子たちが、子供たちを指導して麦踏みを行なっているのだ。
間をおいて要所にヤーレアたちが配置されているが、ヤーレアたちが口出しする必要もなく、麦踏みは順調に進んでいる。
若い子たちは自分より年上に教えることはちょくちょくあったけど、自分たちより小さい子に教えるというのは初めてのことで、ちょっと戸惑いを最初見せていたけど、すぐに慣れたのかいつもの調子を取り戻して楽しそうに作業を進めている。
子供たちも、若い子たちの調子に誘われて徐々に笑顔が弾けてきた。 良かった。
今回僕たちは麦踏みには参加しないで、昼食の準備をしている。
友たちは今回はヤーレン以外来ていない、他は禁足地の奥で仕事をしている。
ナーリアたちの姉妹グループはヤーレアたちだけでなく、みんな手伝ってくれている。
とりあえず今回は人数が多いので、みんなで昼食の準備を進めている。
季節がもう晩秋となってしまっているので、大きな葉に食材を包むなどということが出来ないので、今回は食器を運ぶことだけでも大変なのだ。
それと今回、僕はもう一つ秘密兵器を用意している。
麦踏みが終わった若い子と子供たちは、みんな僕たちの方に向かってやって来た。
ナーリアがやって来た若い子たちと子供たちを並べて順番に配っている。
「みんな、ちゃんと布は持って来たよね。 それを持って並んで待っていてね」
そう言うとナーリアは火で炙って熱くした石を、竹を曲げて作った大きなピンセットみたいなモノで挟むと、水桶の中に入れた。
水桶からは水蒸気が上がり、大きな音も出している。
適当なところで石を水から出すと、ナーリアは
「はい、どうぞ。 布にしっかり包んでね。 熱いから気をつけてね」
と言って、その熱い石を次々と若い子と子供たちに配った。
「あったか〜い」
「お腹のところに当てたりしてると身体中暖かくなる」
「暖かくて気持ちいい」
火で温めた石は若い子や子供たちに大ウケだった。
適当な石を集めたり、薪を集めたりはターリア、ワーリアが主にしてくれたのだが、ウケて良かった。
イクス様も喜んでいる。
「布を全員に持って来させるなんて何をするのかと思ったけど、温石ね。
確かにもう暖かさが嬉しいわね」
さすがイクス様、温石なんて言葉まで知っている。
昼食は、大鳥の肉を茹でて、それを僕たちとエーレアで適当に毟って小さくした物と、命の実、今回は米にした。
米は前に人間用に炊いた米を若い子たちが喜んで食べたので、今回は最初から炊いた米も少しづつ全員に出してあげた。
もちろん僕とヤーレンだけは炊いた米だけだけど。
昼食の後は僕が全体の指示を引き受けた。
「よーし、みんな静まれ〜っ。
昼メシの後は、お待ちかね、競争の時間だ!!」
僕の言葉に一斉に若い子たちが歓声をあげた。 子供たちは訳が分からずにきょとんとしている。
「今日の競争は何かの仕事の競争じゃない、本当の競争だ。
何をするかというと、力比べだ。 みんなで力比べをするぞ。
だけど、ただの力くらべじゃない、一人一人で力比べをしても面白くない。
集団での力比べだ。 だから子供たちも勝てるかもしれないぞ。
何をするかというと、まずはターリア、持って来てくれ」
ターリアたちがわざわざ蔓を叩いて柔らかくして編んだロープを持って来た。
「みんな、前に出てきた物は見たな。 このロープを引っ張りあっての力くらべだ。
子供達は全員で1チーム、若い子たちは2つに分かれて2チーム、ナーリア・エーレア・ターリア・ワーリア・ヤーレアのお姉さんたちも2チームになっての競争だ。
まずは若い子たちと、お姉さんチームの戦いだ」
若い子たちは15人に対してナーリアの姉妹は9人の戦いだ。
それぞれが交代して二試合したが、勝ったり負けたりだ。
「よし、次は勝ったチームと、子供たちとの戦いだ。
子供たち、頑張れるか?」
子供たちも大騒ぎになってきた。
子供たちは姉妹チームには勝ったが、若い子チームには負けてしまった。
そんな大騒ぎをしていると
「お前たち、誰かを忘れていないか?」
サーブが不敵な感じで大声を上げた。
若い子たちから歓声が上がった。
サーブもだいぶノリノリになっている。
「そう、私たちパワーシスターズが、まだこの勝負には登場していないのだ」
ジャーン、という感じで、サーブの姉妹7人が出てきた。
エーレアとヤーレアはとても恥ずかしそうなのだが、他は結構ノリノリだ。
「よし、次はパワーシスターズとの戦いだ。
まずは一番勝った、若い子たちからだ」
そんな風にして、何度も力比べをした。
若い子たちも、子供たちも自分たちの番でない時には大きな声で応援している。
そしてなんだかんだと言いながらも、サーブの姉妹グループは一度も負けなかった。
「私は、じゃなかった、パワーシスターズは誰の挑戦でも受ける!!」
「出た〜っ。 サーブの、じゃなかった、パワーシスターズの誰の挑戦でも受ける宣言が出た〜っ!!」
サーブと僕のこの言葉は若い子には大ウケで大爆笑になった。子供たちも若い子に釣られて笑っている。
若い子たちがまたサーブコールをしている。
すると隠れて出番を待っていたミーリア様たちが現れた。
ミーリア様がサーブをピシッと指差して言った。
「その言葉、嘘じゃないわね。
それなら私たちの挑戦を受けてもらいましょう。」
サーブは焦ったかの様に演じて、(おい本当に演じているんだろうなぁ)
「私は、じゃなかった、パワーシスターズは誰の挑戦でも受ける。
それがたとえミーリア様たちだとしても」
サーブの姉妹7人とミーリア様たち5人の勝負はなかなかつかず、大声援になった。
サーブコールも凄かったが、「ミーリア様頑張って」の声も凄かった。
両方とも一歩も引かずという感じでロープを引っ張っていたら、とうとうロープが切れて、サーブたちもミーリア様たちも後ろに転んでしまった。
「この勝負、引き分け。」
またまた、大歓声だった。
イクス様は大笑いしていた。
この後全員に干し柿を配って、今回の遊びをお終いにした。
もちろん干し柿も全員が喜んでいた。
若い子たちと子供たちが集落に去ってから、僕たちは後片付けをしている。
僕はイクス様に話しかけた。
「こんな感じで良かったのでしょうか」
「ええ、十分よ。 子供たちも若い子たちも本当に楽しそうだったわ。
これで冬籠りで寝ている時は、きっと今日のことを思い出して楽しい夢を見ることができるわ」
「本当にそうですね。 これで子供たちが寝ている時に怖い夢や、嫌な夢を見ないで済むと私も思います」
ミーリア様が話に加わってきた。
「アレクくん、ミーリアと何か話していると思ったら、こんなこと考えていたのね。
私もミーリアたちが出てきた時にはちょっと驚いたわ」
「私も少し何かしたいと言ったら、アレクがこんな茶番を考えてくれたんです。
少しは私も役に立ったのでしょうか」
「ミーリア、役に立ったも何も、子供たちや若い子たちが今日のことを思い出す時、最後はきっとあなたの尻餅よ」
「えっ、私そんな思い出され方するんですか」
「いいじゃない。 子供たちや若い子たちはあなたのことを、きっと誰も『氷のミーリア様だ』とは言わないわ。 サーブたちと力比べして、最後は引き分けて尻餅をついたミーリア様だ、っていう風に覚えているわ」
ミーリア様は複雑な顔をして言った。
「なんだかその覚えられ方もあまり嬉しくない気がするのですが」
「あら、いいじゃない。 少なくとも私は『氷のミーリア』よりもずっと好きだし、あなたに似合っていると思うわ」
「サーブも今日はノリノリだったな」
「いや、今日はそういう役だっただけで、ノリノリだったという訳ではない」
「そんなことない。 サーブの姉妹はエーレアとヤーレアを除いてみんなノリノリだった」
「なんでエーレアとヤーレアだけ恥ずかしがっていたのかな?」
「その二人だけ、前の溝掘り競争の時、出てなくて初めてだったからじゃない」
「そうなのかな、それとも一応グループのリーダーという肩書きだからかもしれない」
「それは関係ないんじゃないか」
ヤーレンが話に加わってきた。
「ノリノリと言えば、今日はアレクもノリノリだったなぁ。
なんだか最近、こんな風に若い子たちを煽ったりして楽しませたりするのが好きになったんじゃないか」
「え、そんな風に見えた?」
「うん、見えたよ。 アレクもすごく楽しそうだった」
「うん、まあ、なんていうか。
だって、若い子たちや子供たち、可愛いじゃんか。 なあ、ヤーレン」
「ま、俺もそれは否定しないよ」
それから冬籠りに入るまでの少しの間、上位ラミアはしばしば自分の目を疑う光景を見ることがあった。
氷のミーリア様が子供たちや若い子たちに囲まれて、なんだかんだと話しかけられているのだ。
「ミーリア様、あのね、聞いて聞いて」
「え、なあに」
ミーリア様も時間が許す限りその言葉に反応してあげていて、立ち去るときも「忙しくて、あまり聞いてあげられなくて、ごめんなさいね」と子供たちや若い子に謝って立ち去っている。
一瞬誰なのだろうと、もう一度見てしまう。
ま、そんな光景を見ても、ミーリア様の前に出れば、緊張で固くなってしまうことに変わりはないのだけど。




