168. クロスボウ
エーレアたちが自分たち弓を持ち、いくらか練習して、弓の弦の引き方も弦の引き手の肩までに慣れたら、自分たちも狩をしてみたいと言い出した。
ナーリアがディフィーに相談している。
「ディフィー、どう思う。 エーレアたちの弓で狩が出来るかな?」
「うーん、どうかな。 でも、やってみないと本当のところは分からないよね。
たぶん5人でやれば、鹿の一匹くらいなら獲れそうだと思うのだけど」
「鹿なら失敗しても、そんなに危なくない。 経験させることも必要。
そうでないと自分たちの実力も分からないし、課題も見えてこない」
セカンも話に加わった。
その翌日の午前中は鹿狩りをすることになった。
僕たちはまた二人ペアで、三匹を一度に狙い、エーレアたちは5人で一匹を狙う。
今回はエーレアが射ったら、それを合図に全員が射ることにした。
正直、エーレアたちは気配を消すのも上手ではないので、あまり鹿に近づけないし、僕たちに比べると矢の飛距離も命中率も低いから、かなり心配なのだ。
ディフィーの割り振った鹿にそれぞれ近づき、エーレアが射るのを待つ。
するとエーレアたちが鹿に気づかれたようで、鹿に緊張が走った。
エーレアが慌てて弓を射った。
僕たちもそれぞれの鹿に向かって射った。
僕たちの射った鹿は、いつも通りに倒れたが、エーレアたちに射られた鹿は矢が刺さってはいたが逃げようとしている。
僕がどうしようかと迷っていると、見かねたレンスが射ったみたいだ、首の急所に矢が別方向から飛んできて、それが貫いたと思ったら倒れた。
後から見てみると、エーレアとエレオの矢は当たっていたが急所を外し、エレド、エーレファは矢を外してしまっていた。 エーレルの矢は当たってはいたが、昔のディフィーと同じで、弱過ぎて軽く刺さっただけだった。
「こんなにも差があるの。 こんなにも私たちダメなの」
エレドがショックを受けた声を出す。
エーレアたちはそれ以外、沈黙に沈んでいる。
「近づくのに工夫が足りない。 あれでは鹿に気づかれる」
「射る時に慌て過ぎ、もっと落ち着いて射れば、こんなに外さない」
「一番遠くから射れるエーレアが急所を外したらダメだろう。
特に今回はエーレアの好きなタイミングで射つことができたのだから」
「エーレル、やっぱりあなたも私と同じで、その普通の弓だと戦力にならないわ」
「大丈夫、少し頑張って練習すれば、すぐに私たちと同じように矢を射ることができるようになるよ。
本番の狩はちょっと時期が早過ぎたかな。
もう少し練習してから、また挑戦しよう」
レンス、セカン、サーブ、ディフィーは厳しい指摘をして、それを聞いていたナーリアが元気付ける感じになっている。
「ディフィー、あなたの弓って、同じの作れるかな?」
エーレルがディフィーに尋ねている。
「私の弓はアレクが作った物だけど、構造や作り方は分かっているから私でも作れるよ。 一緒に作ろう、私が教えるわ」
「ナーリア、気配の消し方教えて。
レンスとセカンだと高度過ぎてついていけないから、ナーリアが教えて」
エレオ、エレドの言葉に、ちょっと複雑な顔をしたナーリアだが、了承している。
「サーブ、私に弓を教えてくれ。 姉妹一不器用なサーブに教わるのは変な気分なのだが、サーブが私よりもずっと弓が上手いのは事実だ。 そのコツを教えてくれ」
「コツなどないのだが、それなら一緒に練習しよう。」
サーブもエーレアに教えることになった。
「レンス、他のみんなが自分の姉妹に教わることになっているところ悪いのだけど、私に速射を教えてくれない? セカンは他人にモノを教えるのは壊滅的に下手だから、頼めないの」
「最近はそんなでもないと私は思うけど、了解した」
レンスが答えた通り、最近セカンは火を点けるのを多くのラミアに教えていて、その教え方は上手になっているから、エーレファの認識はもう違っていると僕も思う。
でも、エーレファ にとっては幼い頃からイメージが染み付いてしまっているのかな。
セカンが本気で凹んでいる。
「セカンが余ったな。 ちょうど良かった。 セカンは僕を手伝ってくれ。」
今回は最初を除き、鹿の解体をエーレアたちに任せ、3匹目、4匹目の鹿の運搬は僕たちが行い、それもエーレアたちに任せた。
食事の準備も、もう家に来ていたミーレナさんに任せてしまい、ミーレナさんは獲れたばかり鹿の肉で何を作ろうかと考えているみたいだ。
何だか楽になったなぁ、なんて思いながら僕はセカンと一緒に別のことを始める。
何をするのかというと、クロスボウ作りだ。
ワーリアに頼まれているのだが、機構をどうするかで行き詰まっていて、作れないでいるのだ。
セカンに図を描いたりしながら、僕が考えている構造を説明していく。
流石にセカンは飲み込みが早く、すぐに理解してくれた。
「つまりアレクは、軽くするためになるべくシンプルな構造にしたいのだけど、弦を引くのに使った機構を、矢を放つ時に邪魔にならない位置に戻す方法に困っている訳ね」
「そうなんだ、弦を引くのはラミアは尻尾の力が強いから、紐を尻尾で引いて機構を動かす形にすれば、複雑なことをする必要がなくて楽だと思うのだけど、それで使った機構を邪魔じゃない場所に移動するのをどうするかなんだ。
手でやってしまえば良いことなのだけど、僕は速射性も持たせたいと思っているから、それだと時間が掛かってしまうと思うんだ。
かといって何らかの方法で元の場所に戻そうとすると、機構が複雑になるし、重くなってしまう。
何か簡単に位置を変えられる方法があればいいのだけど」
「アレク、私は何を悩んでいるのか理解できないわ。
この機構は紐を尻尾で引っ張るのよね。 そして引っ張るのには、硬い弦を引かねばならないから力がいるけど、元の位置に戻すのには力はいらないわよね。
だったら反対側にも紐を付けて、その先に小石でも結わえ付けて重りにすれば、尻尾で引くの止めれば勝手に元の場所に戻るんじゃない」
えっ、僕には目から鱗だった。
確かにそれなら簡単に出来るし、何も困らない。
僕は一生懸命に頭の中で竹をバネにして作れないかとか、色々な方法を考えていたのだけど、複雑になり過ぎたり、重くなったりで諦めていたのだ。
こんな簡単な解決法は全く思い浮かばなかった。
僕は何日も悩んでいたのに、セカンに相談したら解決まで30分も掛からなかった。
それもほとんどはクロスボウがどういう物かをセカンに説明していた時間で、問題の機構についてなんて、5分も掛からないくらいだった。
これでクロスボウは簡単に作ることが出来た。
一番の問題は弦とそれを尻尾で引く紐の強度で、今までの麻の糸を撚ったものでは強度的に心配なので、動物の筋を撚ってそれに糊を塗って乾かし、タールを塗って防水した物を作った。
それはセカンが担当してくれて、僕はクロスボウ本体とそれに取り付ける強力な弓を作った。
弓は小型なのだが、とても強力に作ったので、弦を張るのに苦労したが、クロスボウは意外にあっさりと完成した。
セカンに試してもらうと、クロスボウは威力はあるから、飛距離もあるのだが、矢が短いためか、射る瞬間にブレるのか、命中率は練習した弓の射手より落ちる感じだ。
速射性もそこそこで、サーブが射る速度よりももしかしたら速いかもしれない。
「うーん、どうなんだろう。 評価に迷うな、これは」
「なんていうのかしら、特徴がないというか、速射ができるわけではないけど、そこそこいけるし、飛距離はあるけど、命中率があまり良くないから、遠くの敵を狙えないし、なんていうか中途半端」
「重さがあるから、運ぶのが大変になるし、急な動きに対処できそうにない」
サーブ、ディフィー、レンスの評価は芳しくない。
「アレクは、これを使って何か普通の弓と違うことを考えているんじゃないの。
じゃなきゃ、これを作らないよね」
ナーリアは、いつものごとく、僕への信頼を口にする。
「うん、これはさ、普通の弓と違って、誰が使っても同じように使えるだろ。
例えば、サーブの弓はサーブにしか上手く使えないし、その実力を発揮できない。矢もサーブ用の特別な物になってしまう。
サーブに限らず僕らはみんなそれぞれに合わせた弓だし、矢もそれぞれに合わしている。
だからこそ、飛距離も命中率も良い訳なのだけど、一人一人に合う武器を作ったり、考えたりは大変だし、使えるのはその人限定になっちゃう。
でも、これなら、ほぼ誰でも使えるし、使える人の技量で飛距離が違ったりはしない。
獣を獲るなら、一人一人に合った弓矢の方が有利だけど、この前の戦のような場所なら、例えばこれを20人か30人くらい並べて、一斉に射てばどうなるだろう。
今までの弓矢で射っているのとは違って、それだけの人数が同じ飛距離で同じ方向を射てば、狙った場所はそれで制圧出来ちゃうんじゃないか。
それに、これを射るのは普通の弓を射るよりは全然簡単だから、誰でも使えるという利点もある」
僕がそういうとセカンが、
「なるほど、狩の道具ではなく、戦いの道具としてだけに絞って考えたという訳ね」
というと、ディフィーが続けた
「確かに戦いの道具だと考えると、とても有効な道具だわ。
この前のゴブとの戦いの時の本陣の弓攻撃を、これの数を揃えてしたら、どうなるかということよね」
エレドが聞いてきた
「ねえアレク、これって体格が小さかった時の私たちでも使えるかしら。
もしそうなら、とても戦力になると思うわ。
私たちはあの時、何よりも弓の飛距離がなくて怖い思いをしたから、これを使って飛距離が出れば、命中率は二の次よ」
「ああ、それを目指して作ったつもりだ」
エーレルがセカンからクロスボウを借りて、尻尾で弦を引いてみた。
簡単に引くことができた。
「今、この中で一番力がない私でも簡単に引く事が出来たから、きっと脱皮前でも引けたと思うわ。
もしかすると若い子たちなら使えるかもしれない」
うん、嫌だけど、もしもの時のことを考えて、それも意識して僕はこのクロスボウを作ったつもりだ。
ワーリアに約束していた物が出来上がったことを知らせると、どう時間を作ったのだろう、すぐにワーリアたちがやって来た。
それもワーリアたちだけでなく、ヤーレアたちもやって来た。
ワーリアたちも、ヤーレアたちもクロスボウの実演を見ると、すぐに自分たちも欲しいと言い出した。
僕たちはクロスボウの良い点だけでなく、悪い点もしっかりと伝えたのだが、二つのグループとも欲しいということになった。
「私たちはゴブとの戦いの時に後ろからナーリアの奮戦を見てたからね。
あそこまで出来るようになるには、道具だけでなく練習もかなり必要だと思うのだけど、私たちのグループは作物の事があるからそこまでの時間は取れない。
あまり練習が必要でなくて、そこそこに使えて、集団で使えば役に立つ武器ならば、今の私たちには丁度願ったりかなったりよ」
ヤーレドの言葉にヤーレアたちはみな頷いている。
「私たちには、そこまでの考えはないのだけど、もう置いてきぼりは嫌なのよね。
ナーリアたちはともかく、エーレアも上位となってナーリアに合流しているし、ヤーレアはヤーレンにくっ付いて農作業に特化しちゃった。
ここに今来ていないターリアたちはケンとバンジに教わって、森の木の利用とか手入れに特化しているでしょ。
なんか私たちだけ置いてきぼりなんだよね。
だから戦うための道具くらい私たちも持っていたいじゃん」
ワリファがそう言ったら、他のワーリアたちが
「そうそう、私たちまだどうなるか分からないから、出来ること、教われることはなんでもやってみるの」
と言った。
結局、ワーリアとヤーレアの両グループはクロスボウを作ることになり、暇な時間を見つけては、僕たちの家に来るようになった。
丁度、農作業も冬に向けてのことが終わり、ヤーレアはかなり時間にゆとりがあり、ワーリアも奥の家作りの前ほど、いろいろな作業を手伝わされていない。
かなり頻繁に僕たちの家に来ていることになり、クロスボウ作りはどんどん進んだ。
謹慎が解けて、また家に来ているミーリア様は、
「私は誰にも邪魔されない静かな場所を求めているのに、なんでこんなに人が居るの?」
と、文句を言っていた割には、エーレアたちだけでなく、ワーリアたちやヤーレアたちにまで冗談を言ったりして気軽に話して楽しそうだ。




